千城に負担ばかりかけていると英人は追い込まれていった。
嫌われたくないと思うから余計な心配をかけたくないし我が儘を言って困らせたくない。ジョージとの一件をジョージから話を聞いてそれを信じている千城に語ったところで「英人の思い違いだ」と言われたらどうしようかという不安も襲ってくる。
「全ては俺が悪かった。英人のことをもっと理解してやらなければならない時に英人を一人にしてしまって…、不安にさせてしまって申し訳なかったと思う。どうか許してほしい」
ぎゅうっと抱き締められる腕が痛いくらいだった。珍しく自分の落ち度をさらりと口にし、余裕を無くした千城のようで、英人は燻っていた不安の一つが取り除かれた気分になった。
「…きらいになんないで…」
かろうじて漏れた言葉は真実でも言い訳でもなく、ただ千城に嫌われ重荷になりたくないと伝える言葉だけで…。
千城が驚いたように視線を伏せる英人の顔を覗いた。
「なるわけないだろう。嫌うことは絶対にないから不安に思うな。俺に不満があるならいつでも言えばいい。英人が何も言わなければ俺はどんどんと間違った方向に進んでしまう。そのたびに英人を泣かせることになる。そんなことはしたくない。俺を導くのは英人なんだ。英人の上で俺が成り立っている。英人がいなければ俺もいない」
トクンと胸の奥が鳴ったような気がした。以前にも似たようなことを言われたことがあると脳裏の中を色々なことが巡った。
…あぁ、そうだ…、千城のお父さんに会った時…
千城は何もかもを捨てると言った。何の迷いもなく、英人のためなら家も名もこれまで築き上げた地位も全てを投げ打って英人だけの為に生きるとそう言い切った。その覚悟を耳にして千城の父は英人の存在を認めてくれたのだ。
その言葉をどうして忘れてしまったのだろう…。
「英人が思うことは甘えや我が儘ではなく素直な心の表れだ。それを我慢することはない。昨日、日野にも言われた。『話し合わなければだめだ』と。俺はいつでも英人を従わせてばかりだったな…」
そうやって英人の意思を取り上げてしまったと千城は後悔しているようだった。
「俺の為に英人はいつだって我慢してきてくれた。そんなことにも気付かず、昨日は最初単純に英人が嫉妬してくれたことが嬉しかった。英人はいつも感情を抑えてばかりだったから俺に対して想ってくれる気持ちを感じただけで、英人の心に巣食うものまで思いが及ばなかった。英人の中ではそんな単純なことではなかったんだろう?思えば、喧嘩をしたのだって昨日が初めてだった。あのように感情を剥き出しにしたおまえをもう一度見たい。臆することなく何でも言い合えるような仲になりたい。今度こそ英人の思うこと全てに耳を傾け聞き入れたい。今のように黙られるのは俺にとっては苦痛だが、英人が俺に与える罰だと言うなら素直に受けよう。いつか英人が心を開いてくれる日を永遠と待つ。今言えることは、英人を手放すことは絶対にないし嫌うこともない。むしろこんな勝手な男を嫌いにならないでくれと跪きたいのは俺の方だ」
千城の声は染み透るようにゆっくりと英人の心の中に響いていった。ここまで自分を晒した千城を見たこともなく、それが誠の答えなのだと英人は信じたかった。
「…ジョージが…」
恐怖と脅えの渦中をまだ彷徨いながらも、英人は泣き声の中から元凶の人物の名を出した。
どうしてもこれだけは伝えたかった。英人が意味もなく手を上げたのではないのだと…。
千城は全ての話を聞き終えた時、表情を僅かに歪めた。英人を咎めるような言葉を発してしまったことに対してなのかジョージが取った行動に対してなのかは英人には判断が付かなかったが、千城が自身を責めていることだけは分かった。
「済まなかった…」
千城がぽつりと零した言葉だけで英人を信じてくれたのだと思える。そしてこの全身を守るように纏われる逞しい両腕に抱えられて英人は自らも離したくないと両の手を千城の体に這わせた。
「英人には申し訳ないと思うが、ジョージを問い詰めなくても良いか?俺は今告げられたことを全て信じる。これ以上英人の名前をジョージから出してほしくないし、彼から言い訳じみたことを耳にしたくない。聖とのことまで必要以上に疑っていたが、それについてももう聞きたくない」
一旦は落ち付いたはずの心臓が早鐘を打つのを英人は止められなかった。
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短くてすみません…m(__)m
本日はこの長さが限界でした。
番外なだけに15話くらいで切り上げる予定だったのになかなか進まずこの分じゃ20話越え?!
それにしても、この店のトイレには他の客は来ないんだろうか…
嫌われたくないと思うから余計な心配をかけたくないし我が儘を言って困らせたくない。ジョージとの一件をジョージから話を聞いてそれを信じている千城に語ったところで「英人の思い違いだ」と言われたらどうしようかという不安も襲ってくる。
「全ては俺が悪かった。英人のことをもっと理解してやらなければならない時に英人を一人にしてしまって…、不安にさせてしまって申し訳なかったと思う。どうか許してほしい」
ぎゅうっと抱き締められる腕が痛いくらいだった。珍しく自分の落ち度をさらりと口にし、余裕を無くした千城のようで、英人は燻っていた不安の一つが取り除かれた気分になった。
「…きらいになんないで…」
かろうじて漏れた言葉は真実でも言い訳でもなく、ただ千城に嫌われ重荷になりたくないと伝える言葉だけで…。
千城が驚いたように視線を伏せる英人の顔を覗いた。
「なるわけないだろう。嫌うことは絶対にないから不安に思うな。俺に不満があるならいつでも言えばいい。英人が何も言わなければ俺はどんどんと間違った方向に進んでしまう。そのたびに英人を泣かせることになる。そんなことはしたくない。俺を導くのは英人なんだ。英人の上で俺が成り立っている。英人がいなければ俺もいない」
トクンと胸の奥が鳴ったような気がした。以前にも似たようなことを言われたことがあると脳裏の中を色々なことが巡った。
…あぁ、そうだ…、千城のお父さんに会った時…
千城は何もかもを捨てると言った。何の迷いもなく、英人のためなら家も名もこれまで築き上げた地位も全てを投げ打って英人だけの為に生きるとそう言い切った。その覚悟を耳にして千城の父は英人の存在を認めてくれたのだ。
その言葉をどうして忘れてしまったのだろう…。
「英人が思うことは甘えや我が儘ではなく素直な心の表れだ。それを我慢することはない。昨日、日野にも言われた。『話し合わなければだめだ』と。俺はいつでも英人を従わせてばかりだったな…」
そうやって英人の意思を取り上げてしまったと千城は後悔しているようだった。
「俺の為に英人はいつだって我慢してきてくれた。そんなことにも気付かず、昨日は最初単純に英人が嫉妬してくれたことが嬉しかった。英人はいつも感情を抑えてばかりだったから俺に対して想ってくれる気持ちを感じただけで、英人の心に巣食うものまで思いが及ばなかった。英人の中ではそんな単純なことではなかったんだろう?思えば、喧嘩をしたのだって昨日が初めてだった。あのように感情を剥き出しにしたおまえをもう一度見たい。臆することなく何でも言い合えるような仲になりたい。今度こそ英人の思うこと全てに耳を傾け聞き入れたい。今のように黙られるのは俺にとっては苦痛だが、英人が俺に与える罰だと言うなら素直に受けよう。いつか英人が心を開いてくれる日を永遠と待つ。今言えることは、英人を手放すことは絶対にないし嫌うこともない。むしろこんな勝手な男を嫌いにならないでくれと跪きたいのは俺の方だ」
千城の声は染み透るようにゆっくりと英人の心の中に響いていった。ここまで自分を晒した千城を見たこともなく、それが誠の答えなのだと英人は信じたかった。
「…ジョージが…」
恐怖と脅えの渦中をまだ彷徨いながらも、英人は泣き声の中から元凶の人物の名を出した。
どうしてもこれだけは伝えたかった。英人が意味もなく手を上げたのではないのだと…。
千城は全ての話を聞き終えた時、表情を僅かに歪めた。英人を咎めるような言葉を発してしまったことに対してなのかジョージが取った行動に対してなのかは英人には判断が付かなかったが、千城が自身を責めていることだけは分かった。
「済まなかった…」
千城がぽつりと零した言葉だけで英人を信じてくれたのだと思える。そしてこの全身を守るように纏われる逞しい両腕に抱えられて英人は自らも離したくないと両の手を千城の体に這わせた。
「英人には申し訳ないと思うが、ジョージを問い詰めなくても良いか?俺は今告げられたことを全て信じる。これ以上英人の名前をジョージから出してほしくないし、彼から言い訳じみたことを耳にしたくない。聖とのことまで必要以上に疑っていたが、それについてももう聞きたくない」
一旦は落ち付いたはずの心臓が早鐘を打つのを英人は止められなかった。
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短くてすみません…m(__)m
本日はこの長さが限界でした。
番外なだけに15話くらいで切り上げる予定だったのになかなか進まずこの分じゃ20話越え?!
それにしても、この店のトイレには他の客は来ないんだろうか…
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千城さんのなんと単純なこと。
英人がジョージに意地悪したのは嫉妬したからって喜んでたんですかー。。。。呆れた。
英人はいままでずーーーっと誰にも愛されていない必要とされていないと思って思って生きてきたのだから、何度千城さんが心も身体も求めて愛を語ってもそう簡単に意識を変えることはできませんよ。
毎日のようにどれほど必要としていて自分こそがそばにいたいのだと言い聞かせて添って生きていかない。それも、出会うまでの不幸だった年月と同じ位。それほど頑固でしつこーく身に染み付いているのですから。
英人君が信じられないのは、千城さんじゃなくて、千城さんに愛されている自分。本当に僕でいいのって。こんな自分が誰かに必要とされるなんてっていつもいつも不安に思っているんだと思います。
英人がジョージに意地悪したのは嫉妬したからって喜んでたんですかー。。。。呆れた。
英人はいままでずーーーっと誰にも愛されていない必要とされていないと思って思って生きてきたのだから、何度千城さんが心も身体も求めて愛を語ってもそう簡単に意識を変えることはできませんよ。
毎日のようにどれほど必要としていて自分こそがそばにいたいのだと言い聞かせて添って生きていかない。それも、出会うまでの不幸だった年月と同じ位。それほど頑固でしつこーく身に染み付いているのですから。
英人君が信じられないのは、千城さんじゃなくて、千城さんに愛されている自分。本当に僕でいいのって。こんな自分が誰かに必要とされるなんてっていつもいつも不安に思っているんだと思います。
甲斐様
こんにちは。
> 千城さんのなんと単純なこと。
> 英人がジョージに意地悪したのは嫉妬したからって喜んでたんですかー。。。。呆れた。
私の書き方がまた悪かったようでごめんなさい。
パーティー会場で英人が出て行ってしまったのは嫉妬したからで、その時の態度が嬉しかった…という意味だったんです。
> 英人はいままでずーーーっと誰にも愛されていない必要とされていないと思って思って生きてきたのだから、何度千城さんが心も身体も求めて愛を語ってもそう簡単に意識を変えることはできませんよ。
意識改革ってなかなか難しいですよね。
一時期はどっぷりと幸せに浸かっていたのに、榛名家で花嫁修業(?)を始めてこてんぱんにやっつけられちゃった直後だっただけに弱気になっていた英人です。
どんなことができるとかできないとかじゃなくて、千城はありのままの英人が好きなんだよってまさにしつこーく言い聞かせていかないとなりません。
> 英人君が信じられないのは、千城さんじゃなくて、千城さんに愛されている自分。本当に僕でいいのって。こんな自分が誰かに必要とされるなんてっていつもいつも不安に思っているんだと思います。
千城と比べると何もかもが見劣りすると思っていますからね…
なかなか自信が持てないようです。
だから千城を憎むよりも自分を責めちゃうんでしょうね。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 千城さんのなんと単純なこと。
> 英人がジョージに意地悪したのは嫉妬したからって喜んでたんですかー。。。。呆れた。
私の書き方がまた悪かったようでごめんなさい。
パーティー会場で英人が出て行ってしまったのは嫉妬したからで、その時の態度が嬉しかった…という意味だったんです。
> 英人はいままでずーーーっと誰にも愛されていない必要とされていないと思って思って生きてきたのだから、何度千城さんが心も身体も求めて愛を語ってもそう簡単に意識を変えることはできませんよ。
意識改革ってなかなか難しいですよね。
一時期はどっぷりと幸せに浸かっていたのに、榛名家で花嫁修業(?)を始めてこてんぱんにやっつけられちゃった直後だっただけに弱気になっていた英人です。
どんなことができるとかできないとかじゃなくて、千城はありのままの英人が好きなんだよってまさにしつこーく言い聞かせていかないとなりません。
> 英人君が信じられないのは、千城さんじゃなくて、千城さんに愛されている自分。本当に僕でいいのって。こんな自分が誰かに必要とされるなんてっていつもいつも不安に思っているんだと思います。
千城と比べると何もかもが見劣りすると思っていますからね…
なかなか自信が持てないようです。
だから千城を憎むよりも自分を責めちゃうんでしょうね。
コメントありがとうございました。
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