帰る時間となって、見送る前にトイレに行くという英人にジョージも「一緒に」と付いてきた。
ジョージは現在建築学について学ぶ大学生でまだ20歳になったばかりだそうだ。昨日も最初気兼ねなく話していたくらいだから英人はこのまま嫌われるのはなんとなく嫌だなと感じていた。
千城との関係はディビス夫妻も歓迎してくれたし、千城とは仕事のこともあって、色々な意味でまだ繋がりは増えそうだ。トイレに入るなり、英人を睨むようにジョージが詰め寄ってきた。
「アナタ、ハルナノヒトジャナイ」
「え?」
言われたことの意味が良く理解できずに振り返りジョージを正面から見る体勢を取らされるとさらに近づいたジョージの顔が英人を威嚇していた。今日初めて感じる剣呑とした空気。
「アナタ、ナニモデキナイ。チシロソウイウ。キノウノオトコモウワキシタ。チシロカワイソウ」
片言の日本語だって、告げたいことは伝わった。
千城が英人のことを『何もできない人』と言っているとは信じられなかったが身に覚えはある。昨日のパーティー会場でも今日の食事の席でも、英人は自分の行動に自信がなかったからおどおどしてばかりだった。こんな人間に『榛名』と名乗る資格などないと言いたいのだろう。
浮気したという相手が聖を指しているのだとも感づいた。聖と交わしてしまったキスが思い出され、一瞬怯んだ隙をジョージは見逃してもいなかった。
英人の動揺を嗅ぎつけ、「ホントウニ?」と目を見開かれた時、カマをかけられたのだと悟った。
「す、するわけないじゃんっ!何いきなりっ…」
失礼だと言わんばかりの態度で応じてはみても、すでに時は遅いのだと変な焦りがあった。
「チシロニオシエテアゲル。アナタヒドイ、アナタサイテイ」
そのままトイレを出ようとするジョージを思わず捕まえた。
自分が見せてしまった動揺を千城に知られるわけにはいかないし、なんとかジョージの誤解を解かなければいけない。
うまく回らない頭をどうにか動かして言い訳を考える英人をさらに追い詰めるかのように、ジョージは感情を英語で表した。当然英人に理解などできるはずがなく、余計にパニックに陥り現在の彼の思う気持ちを肌で感じるだけだ。
どうやったって、千城に英人を嫌わせようとしているのが伺える。
ジョージは何かを叫びながらいきなり英人の左手を掴み上げた。
見目の細さからは想像もつかないほど力強い握力だった。
「Shit!!」
英人は自らの力が込められない勢いに咄嗟に指輪が引き抜かれる恐怖を味わった。
「やめてっ!!」
拒絶したつもりの右手がジョージの頬にまともなビンタを見舞った。体勢を崩したのはむしろ英人の方で、怒りの中から沸き上がるようなジョージの態度に全身が竦んだ。
背中が壁に押し付けられるように抑え込まれた。見慣れない人種に心臓が鷲掴みにされそうで逃げたい英人は離れようと何度もジョージの体を叩いた。
腕を振り上げた勢いでもう一度ジョージの頬を叩いてしまった時、トイレの扉が開いた。英人とジョージのやりとりを気にした千城が追いかけてきたのだった。
ジョージは泣き崩れるかのように千城に縋った。
出遅れたのは英人のほうで、必死で何かを訴えかけるジョージの言葉などもちろん理解できず、千城の神経質そうな眉がピクンと動くのを見つめるだけだった。
ジョージを宥めるかのように背中をさすってやりながら千城から零れた言葉は英人を咎めるものだった。
「英人、指輪くらい見せてやればいいだろう。何故そんなに怒って叩いたりするんだ」
英人はジョージが事実とは異なる発言をしていたのだと今頃になって知ることとなる。
「そんな…」
すでにジョージに占拠された千城に近寄ることも出来ず、唇を噛みしめながら英人はその場から動けなかった。
この上聖との過ちまでもっともらしく聞かせるのだろうか…。
ジョージのわざとらしい泣き方を気に止めるようでもなく、悪者にされた英人に「見送りをするから早目に戻れ」と言い残して千城はジョージを連れ先にトイレを出て行った。
英人からは信じてもらえなかった悔しさで涙が溢れた。
何故英人の言うことを真っ先に聞いてくれないのだろう。そして英人の言い分など一つも聞かないまま行ってしまった。
今朝愛を確かめあったばかりだというのに、もう脆くも心は折れかかっていた。
ジョージが英人に告げた言葉は深い傷にしかならなかった。
『英人は何もできない。英人は浮気者』
払拭されたはずの不甲斐なさと、たとえ一瞬でも感じてしまった聖に対しての気持ち良さを改めて突き付けられたようで英人は未来が怖かった。
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やっと戻った世界です。
ジョージは現在建築学について学ぶ大学生でまだ20歳になったばかりだそうだ。昨日も最初気兼ねなく話していたくらいだから英人はこのまま嫌われるのはなんとなく嫌だなと感じていた。
千城との関係はディビス夫妻も歓迎してくれたし、千城とは仕事のこともあって、色々な意味でまだ繋がりは増えそうだ。トイレに入るなり、英人を睨むようにジョージが詰め寄ってきた。
「アナタ、ハルナノヒトジャナイ」
「え?」
言われたことの意味が良く理解できずに振り返りジョージを正面から見る体勢を取らされるとさらに近づいたジョージの顔が英人を威嚇していた。今日初めて感じる剣呑とした空気。
「アナタ、ナニモデキナイ。チシロソウイウ。キノウノオトコモウワキシタ。チシロカワイソウ」
片言の日本語だって、告げたいことは伝わった。
千城が英人のことを『何もできない人』と言っているとは信じられなかったが身に覚えはある。昨日のパーティー会場でも今日の食事の席でも、英人は自分の行動に自信がなかったからおどおどしてばかりだった。こんな人間に『榛名』と名乗る資格などないと言いたいのだろう。
浮気したという相手が聖を指しているのだとも感づいた。聖と交わしてしまったキスが思い出され、一瞬怯んだ隙をジョージは見逃してもいなかった。
英人の動揺を嗅ぎつけ、「ホントウニ?」と目を見開かれた時、カマをかけられたのだと悟った。
「す、するわけないじゃんっ!何いきなりっ…」
失礼だと言わんばかりの態度で応じてはみても、すでに時は遅いのだと変な焦りがあった。
「チシロニオシエテアゲル。アナタヒドイ、アナタサイテイ」
そのままトイレを出ようとするジョージを思わず捕まえた。
自分が見せてしまった動揺を千城に知られるわけにはいかないし、なんとかジョージの誤解を解かなければいけない。
うまく回らない頭をどうにか動かして言い訳を考える英人をさらに追い詰めるかのように、ジョージは感情を英語で表した。当然英人に理解などできるはずがなく、余計にパニックに陥り現在の彼の思う気持ちを肌で感じるだけだ。
どうやったって、千城に英人を嫌わせようとしているのが伺える。
ジョージは何かを叫びながらいきなり英人の左手を掴み上げた。
見目の細さからは想像もつかないほど力強い握力だった。
「Shit!!」
英人は自らの力が込められない勢いに咄嗟に指輪が引き抜かれる恐怖を味わった。
「やめてっ!!」
拒絶したつもりの右手がジョージの頬にまともなビンタを見舞った。体勢を崩したのはむしろ英人の方で、怒りの中から沸き上がるようなジョージの態度に全身が竦んだ。
背中が壁に押し付けられるように抑え込まれた。見慣れない人種に心臓が鷲掴みにされそうで逃げたい英人は離れようと何度もジョージの体を叩いた。
腕を振り上げた勢いでもう一度ジョージの頬を叩いてしまった時、トイレの扉が開いた。英人とジョージのやりとりを気にした千城が追いかけてきたのだった。
ジョージは泣き崩れるかのように千城に縋った。
出遅れたのは英人のほうで、必死で何かを訴えかけるジョージの言葉などもちろん理解できず、千城の神経質そうな眉がピクンと動くのを見つめるだけだった。
ジョージを宥めるかのように背中をさすってやりながら千城から零れた言葉は英人を咎めるものだった。
「英人、指輪くらい見せてやればいいだろう。何故そんなに怒って叩いたりするんだ」
英人はジョージが事実とは異なる発言をしていたのだと今頃になって知ることとなる。
「そんな…」
すでにジョージに占拠された千城に近寄ることも出来ず、唇を噛みしめながら英人はその場から動けなかった。
この上聖との過ちまでもっともらしく聞かせるのだろうか…。
ジョージのわざとらしい泣き方を気に止めるようでもなく、悪者にされた英人に「見送りをするから早目に戻れ」と言い残して千城はジョージを連れ先にトイレを出て行った。
英人からは信じてもらえなかった悔しさで涙が溢れた。
何故英人の言うことを真っ先に聞いてくれないのだろう。そして英人の言い分など一つも聞かないまま行ってしまった。
今朝愛を確かめあったばかりだというのに、もう脆くも心は折れかかっていた。
ジョージが英人に告げた言葉は深い傷にしかならなかった。
『英人は何もできない。英人は浮気者』
払拭されたはずの不甲斐なさと、たとえ一瞬でも感じてしまった聖に対しての気持ち良さを改めて突き付けられたようで英人は未来が怖かった。
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- 関連記事
ほーらね、あんなふうになし崩しに身体で仲直りしたって根本的な問題が解決していないってことなんだと思いますよ。
千城さんがの言ったという『英人は何もできない。英人は浮気者』の真偽はおいておくとして、あの場面で泣き崩れるジョージを抱きとめて、”指輪を見せてもあげない意地悪な英人”と決め付けてなじるなんて千城はとことん学習能力のない人なのでと思います。
お客様でもあるかわいい弟が泣いているからなんて言い訳は聞きませんからねー。
指輪を取られるイコール別れさせられるという哀しく辛いトラウマがそうさせたとなぜ分ってあげられないのでしょう。
おねーさんも悲しいです。
一緒に泣いてあげますね、英人くん。
千城さんがの言ったという『英人は何もできない。英人は浮気者』の真偽はおいておくとして、あの場面で泣き崩れるジョージを抱きとめて、”指輪を見せてもあげない意地悪な英人”と決め付けてなじるなんて千城はとことん学習能力のない人なのでと思います。
お客様でもあるかわいい弟が泣いているからなんて言い訳は聞きませんからねー。
指輪を取られるイコール別れさせられるという哀しく辛いトラウマがそうさせたとなぜ分ってあげられないのでしょう。
おねーさんも悲しいです。
一緒に泣いてあげますね、英人くん。
甲斐様
こんにちは。
パソコンを開いていたらすごくタイミングよく甲斐様が登場いたしました。
> ほーらね、あんなふうになし崩しに身体で仲直りしたって根本的な問題が解決していないってことなんだと思いますよ。
> 千城さんがの言ったという『英人は何もできない。英人は浮気者』の真偽はおいておくとして、あの場面で泣き崩れるジョージを抱きとめて、”指輪を見せてもあげない意地悪な英人”と決め付けてなじるなんて千城はとことん学習能力のない人なのでと思います。
> お客様でもあるかわいい弟が泣いているからなんて言い訳は聞きませんからねー。
今回は完全に誤解が生んだ結果です。
まぁ千城がジョージに言われたことを鵜呑みにしちゃったのがそもそもの間違いです。
そしてそれを確認もせず英人に言っちゃうなんて…。
「人の話をきちんと聞きなさい、千城さん」って私も思っております。
ジョージの行動の素早さとなかなか行動を起こせない英人の違いももっと把握しないとなりませんね。
> 指輪を取られるイコール別れさせられるという哀しく辛いトラウマがそうさせたとなぜ分ってあげられないのでしょう。
現場を見ていないので、千城はまさか『取られる場面』だったとは思っていませんでした。
でも普段大人しい英人が手をあげることなんてないんだから、何かあったんだって気付くべきですよね~。
> おねーさんも悲しいです。
> 一緒に泣いてあげますね、英人くん。
ありがとうございます。
英人はこのまま甲斐様の胸の中に埋まっちゃったほうが幸せになれますよ。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
パソコンを開いていたらすごくタイミングよく甲斐様が登場いたしました。
> ほーらね、あんなふうになし崩しに身体で仲直りしたって根本的な問題が解決していないってことなんだと思いますよ。
> 千城さんがの言ったという『英人は何もできない。英人は浮気者』の真偽はおいておくとして、あの場面で泣き崩れるジョージを抱きとめて、”指輪を見せてもあげない意地悪な英人”と決め付けてなじるなんて千城はとことん学習能力のない人なのでと思います。
> お客様でもあるかわいい弟が泣いているからなんて言い訳は聞きませんからねー。
今回は完全に誤解が生んだ結果です。
まぁ千城がジョージに言われたことを鵜呑みにしちゃったのがそもそもの間違いです。
そしてそれを確認もせず英人に言っちゃうなんて…。
「人の話をきちんと聞きなさい、千城さん」って私も思っております。
ジョージの行動の素早さとなかなか行動を起こせない英人の違いももっと把握しないとなりませんね。
> 指輪を取られるイコール別れさせられるという哀しく辛いトラウマがそうさせたとなぜ分ってあげられないのでしょう。
現場を見ていないので、千城はまさか『取られる場面』だったとは思っていませんでした。
でも普段大人しい英人が手をあげることなんてないんだから、何かあったんだって気付くべきですよね~。
> おねーさんも悲しいです。
> 一緒に泣いてあげますね、英人くん。
ありがとうございます。
英人はこのまま甲斐様の胸の中に埋まっちゃったほうが幸せになれますよ。
コメントありがとうございました。
MO様
こんにちは。
>てっきり英人のピンチを救うナイト登場かと思いきや、ふだん千城びいきの私も、この態度と言動は、許せませんね~!日野の助言は、まったく届いてなかったんでしょうか?英人に嫌われることを一番恐れてる千城なのに、なぜこんなことに?
何故こんなことになってしまったのでしょう!!
全て千城が悪いです。
真っ先に千城に飛びついたジョージの言い分しか聞かないからこういうことになっちゃうんです。
いくらジョージの演技力がうまくても騙されずに確認するべきでした。
あとは英人視点で書いているせいで千城の感情がイマイチ伝わりづらいところもあるんですかね。
英人も二人の会話内容が分からないので何を言われているのかと出遅れちゃったし。
日野に言われようが長い間続いた『弟気分』は早々消えないです。
英人の性格をもっともっと知るべきの千城です。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
>てっきり英人のピンチを救うナイト登場かと思いきや、ふだん千城びいきの私も、この態度と言動は、許せませんね~!日野の助言は、まったく届いてなかったんでしょうか?英人に嫌われることを一番恐れてる千城なのに、なぜこんなことに?
何故こんなことになってしまったのでしょう!!
全て千城が悪いです。
真っ先に千城に飛びついたジョージの言い分しか聞かないからこういうことになっちゃうんです。
いくらジョージの演技力がうまくても騙されずに確認するべきでした。
あとは英人視点で書いているせいで千城の感情がイマイチ伝わりづらいところもあるんですかね。
英人も二人の会話内容が分からないので何を言われているのかと出遅れちゃったし。
日野に言われようが長い間続いた『弟気分』は早々消えないです。
英人の性格をもっともっと知るべきの千城です。
コメントありがとうございました。
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