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BLの丘
Present 1
2010-01-12-Tue  CATEGORY: Present
年末の差し迫った頃に、一つ年下の鹿沼龍太(かぬま りゅうた)が、北海道の道東へと出張に出かけることになった。
関東圏の雪とは無縁の地に住む自分たちだったので、出張の話を聞いた時、鹿沼はその逞しい身体に似合わず「寒いのは嫌いだ~っ!」と想像できない寒さに背中を丸めていた。
だからといってもこれが仕事なのだから仕方がない。

常陸雅臣(ひたち まさおみ)の勤める企業は旅行業だった。雅臣は企画された旅行プランを客に紹介する窓口業務の仕事に就いていたが、たまぁに添乗員として客に連れ添うこともあった。
数多く存在する旅行プランは季節ごとに変わるため、商品を把握するのはとても大変だ。おまけに扱っている商品は提携する航空会社のものや鉄道会社、観光バス会社のものまであったりして膨大だった。
だが添乗員として客に同行するたびに想像以上の神経を使い、どちらの仕事がいいかと言われればやはり窓口がいいと思っていたりする。旅行慣れした添乗員は、空き期間に窓口業務を手伝ってくれる者もいたが、大概は「窓口なんて無理」とぼやかれてしまうのだから向き不向きなのだろう。
鹿沼は雅臣たちが販売する商品を企画する部門にいた。だからいつも交渉や下調べなどで外に出ていて、会社に居ることは少なかったが、「今一番のお勧め」が出来上がった時には真っ先に雅臣の所へと大量のチラシを持ってやってくる。
雅臣は今年28歳になった。主任という肩書きももらった。
窓口業務に携わる人はほとんどが女性だったが、さわやかな風貌と物腰の柔らかさ、知識の豊富さで客の人気は高く、詳しい説明を求めたい人ほど雅臣を指名してきた。
雅臣は記憶力がとても良かった。一度しか聞かなかった話でもその頭の中から消えていくことはあまりない。
よく鹿沼が「小柄な身体の上にちょこんと乗った小さい頭部は全部が脳味噌」とからかった。鹿沼と比べれば一回りどころか二回りくらい小さく感じる雅臣なのに、どこにこれだけの知識が詰め込まれているのか不思議だったようだ。
少し神経質気味なところがある雅臣とは対照的に、鹿沼は非常に大雑把で朗らかな性格をしていた。体育会系で育ったという鹿沼はとても礼儀正しい一面を持ちながら、相手が気を許してくれば親しみを込めて寄り添っていく。だから営業先でも好印象の連続だった。

すでに出発までも済ませている「冬の北海道」を売り込んだプランが現地でトラブルを起こした。30名から40名ほどを募り一台のバスに乗せて各地を回るツアーだった。特にこの時期は一日に何台も観光バスを手配することがある人気商品だ。
企画の中で一番の売りである、海鮮問屋へのお立ち寄りプランだったのだが、年末商戦に絡んだせいで混雑と時間の無さに客が「買い物もできない」と苦情を寄せたことから始まった。これには問屋側からも文句が出て予定していた『おまけ』を提供しないと言い出した。
問屋側と客との双方の意見もあるから一概には言えないが、悪い噂でもたってしまえば共に良くない結果となる。
そこで人当たりの良さと顔の良さでどうにかしてこいと上司から白羽の矢を立てられたのが鹿沼だった。

鹿沼は人懐っこいと雅臣はいつも思っていた。
社内でも慕われ色々な人に声をかけられ、特に女子社員からは年齢を関係なく誰からでも可愛がられていた。『人気者』という言葉は鹿沼の為にあるのではないかと言いたくなる。
雅臣も『可愛い』と良く褒められたが、それは見た目の姿だけで性格ではないと卑下していた。
誰の輪の中にでも入っていける鹿沼に羨望の眼差しをむけつつ、妬ましさも少しだけ持っていたりする。
そんな鹿沼に告白をされてからすでに3年近い月日が流れていた。
だからといって鹿沼の気持ちに答えたことは一度もない。普段、他の社員がいる前でも平気でアプローチを繰り返す鹿沼の口調はいつもと変わらないし、からかわれているのだと雅臣は自分に言い聞かせていた。
これまで雅臣だって幾つかの恋愛はやり過ごしてきた。付き合ったのは全て男だったが一人を除いてはとても大事にしてくれたと思う。
大学を卒業するまで付き合っていた同い年の男は、就職した途端に雅臣を振った。
「この先は生きていく世界観が変わるしいつまでもこんなことをつづけていられない」と言われた。
本気だったのは雅臣だけであの男にとって将来の中に雅臣の姿などなかったのだ。
それ以降も幾人かと付き合うことはあった。だけど心を許すことまではできなかった。過去に脅え、あの時の胸の痛みをまた味わいたくない。
だから鹿沼が人前でおちゃらけて言葉にしようが、二人きりになった時に真剣な目で告げようが、雅臣はひたすら首を振り続けてきた。

北海道に出張に出向いたはずの鹿沼から大量の発砲スチロールが届いたのは、彼が戻ってきた日の翌日だった。
鹿沼とは会社で顔を合わせることもない一日だった。もともと部門が違うのだから働いているビルの階も違っていたし、鹿沼が窓口に顔を出すことはあっても雅臣から企画部に訪れることはまずない。
客に問われる不明な点は内線電話で確認ができたし、対応してくれるのは大概鹿沼よりも立場の上の人間ばかりだった。
夜になって帰宅した雅臣のマンションの郵便受けに宅配会社からの不在案内が入っていて何事かと連絡をしてみれば、海産物だと答えられ、早いうちに届けたいからこの後向かうと言われた。
すでに夜の9時に近いのに、寄ってくれるありがたさと、また明日二度手間をかけたくない気持ちから在宅していると返事をした。
この時になって、これまで一度として連絡をしたことのない鹿沼の携帯電話の番号を表示させた。

「あー、もう届くんっすかーっ?早いですねー。問屋の人が今後もよろしくって適当に詰めてくれたんですよ。会社に送っちゃうとみんなに取られちゃうしー。あっ、会社の人には内緒ですよ。たまにこうやって色々貰うんです。せっかくだから年末年始一緒に鍋でもしましょうよ。美味しいものが食べられる御礼ってことでいいですから、お邪魔させてくださいね」
「自宅に送ってもらえば良かったじゃないか。なんで僕の家なの?」
「そんなことしたら常陸さんちに行く口実がなくなっちゃうじゃないですか。それにうちにだって来てくれないでしょ。会社じゃないところで逢いたいっていう俺の気持ち、少しは受け取ってください」
電話越しの声は悪びれた様子もなく明るくはきはきとしていて、自分の感情をはっきりと口にしていた。
ずっと一線を引いてきた関係なのに、何かが崩れそうな予感がして、今まで以上に不安にさせられた雅臣だった。

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コメント

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はじめまして 雅臣さん龍太くん
コメント甲斐 | URL | 2010-01-12-Tue 17:33 [編集]
初めての年下攻めですか。
第一印象は、明るく元気で一直線に押していくタイプな感じに見えました。
雅臣さんのほうは過去のいやな恋愛の終局を引きずっていていまだに払拭できていないから、恋愛にも(その他の事も)一歩も二歩も引いちゃう感じ。
さあこれからどんなふうに動いていくのか、そして、どんな人たちなのか知り合っていくのが楽しみです。
Re: はじめまして 雅臣さん龍太くん
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-12-Tue 18:26 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> 初めての年下攻めですか。

はい。はじめての年下君です。
でもずぅと書きたかったから私の中ではあまり違和感がないのです。

> 第一印象は、明るく元気で一直線に押していくタイプな感じに見えました。
> 雅臣さんのほうは過去のいやな恋愛の終局を引きずっていていまだに払拭できていないから、恋愛にも(その他の事も)一歩も二歩も引いちゃう感じ。
> さあこれからどんなふうに動いていくのか、そして、どんな人たちなのか知り合っていくのが楽しみです。

おっしゃるとおりっ!!
いつも甲斐様は人物像を見通してくださるので、私は余計に細かい描写をしなくていいのではないのかしら???とあまえております。
一直線というか、強引に押していくタイプの龍太(でもこれまでは一応控え目)なのですが、3年目の浮気「じゃない『本気』」に雅臣、どんなふうに流れていくんでしょうか。
いつもコメント、本当にありがとうございますm(__)m
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