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BLの丘
Present 2
2010-01-13-Wed  CATEGORY: Present
鹿沼が強引な手段に出たのは今回が初めてだった。「自宅に寄るための口実」と言い切って送り届けてくるなんて…。
今まで言葉で幾度か想いを告げられてはいても、食事や飲みに誘われたり(行ったことはないけど)、ちょっとしたお土産を買ってきてくれたりとそんな程度の付き合い方だった。
そんな雅臣の態度にも痺れを切らすことなく、根気よく雰囲気の良い社員関係を続けてきてくれた。
鹿沼に答えるということはその良い関係が壊れてしまうように思える。同じ職場とは付き合っている時は良いかもしれないが別れた時にどうしたってぎくしゃくしてしまうものだ。それにまだ自分には感情を入れ込むことができそうにない。鹿沼を傷つけることになる。

年末年始とはいっても、当社で旅行契約をしてくれた客は多数いるわけだし、客と共に各地を飛び回っている添乗員もいる。
窓口業務は休業に入っても、事務所には常に待機する人間がいた。
もともと週末も営業していて、カレンダーなど関係なく交替休み制を採用する会社だったし、1週間以上の休暇願もすんなりと下りてしまうから、正月や盆に働くことに苦はなかった。
とはいえ、持ち場が休みとなってしまえば頼まれない限り『緊急連絡先』の人員に当てられることはない。

発泡スチロールが届いた翌日が仕事納めで、30日から3日まで雅臣も鹿沼も休暇に入った。
荷物の中身を確認してみれば、休暇中は買い物に出かけなくて済むくらいの食品が詰め込まれていた。
一人暮らしをしている雅臣にしてみれば、この数年まともなおせち料理も食べたことがなかったが、一通り、いやそれ以上の品が揃っている。
どうみたって一人や二人で食べきれる量ではなかった。
やはり会社に持って行って多少分けた方が無駄にならないのではないだろうか…。
そんなことを思い、鹿沼に提案してみようともう一度かけた電話はもう繋がらなかった。

荷物を送ってもらったことを会社の人間には内緒にしてくれと頼まれては、勝手に持って行くわけにもいかない。
量の多さに冷蔵庫が壊れないだろうかと心配するくらい綺麗に整理して押し込んだ。大量の氷で覆われていた海産物はそのまま蓋を閉じて寒いベランダに出しておいた。
今の季節なら、冷蔵庫と変わらない気温だろう。3階にある部屋だから盗まれるということはないと思うが少し心配してしまう。散々悩んで、一番大きなゴミ袋で包むことにした。

出勤してすぐに鹿沼を訪ねた。普段雅臣が企画部に足を踏み入れることなどないのだから、事務所にいた人間は誰もが驚いていた。さすがに仕事収めの今日はほとんどの人間が事務処理に追われている。
「常陸さんじゃないですか。どうしちゃったんですか?」
一番手前に座っていた年若い女の子が雅臣の姿を視界に入れた途端、キンキンとした甲高い声をあげて迎い入れた。
「こんな企画は売れない」という商品でも売りさばいてしまったりする雅臣の力はどこの部でも話題にされることだったし、一番目立つ所で勤務しているせいか、誰が見ても顔と名前は一致する。
「あのさー、…鹿沼いる?」
女子社員に一度視線を向けて微笑んで挨拶をした後、さりげなくフロア内をくるりと見回したが目的の人物を探せられない。
鹿沼からのアプローチには慣れていた雅臣でも、自分からたずねるのはなんとなく気が引けた。鹿沼が雅臣を追っていることもそれに答えない雅臣のことも周知の事実で有名な話にまでなっている。まぁ、誰も本気には捉えていないようだが、話題性としては火に油を注ぐようで余計に気恥ずかしさが生まれてしまった。
「鹿沼さんですか?…あっれー、さっきまでそこらへんに…、あ、もしかしたらコーヒーでも淹れに行ったのかも。鹿沼さんてば朝から眠い眠いって連発してましたから」
小声で話しかけてはみたものの、帰ってきた声ははっきりと鹿沼の名前を口にしていて、一瞬にしてざわついていたフロアが静まり返ったようだった。誰もが自分たちの会話に耳をピクンとさせたのが分かったくらいで、居辛さに「じゃあ…」と逃げ腰になる。
電話が繋がらなかったことに少しの苛立ちを覚えながら退散したほうが良いと判断すると同時に「常陸さん?」と背後からコーヒーの香りと共に聞きなれた声がした。
こんなところでお目にかかったことなどないと鹿沼の表情がパァっと明るくなるのを誰もが認めた。傍まで寄られて雅臣は振り返りながら鹿沼を見上げた。短めにカットされた髪形といい、清々しく人の良さそうな笑みを浮かべる容姿はやはり人を惹きつける魅力がある。
「どうしたんですか?こんなところまで」
「あ…、電話繋がらないから…。…、あの、ちょっと昨日のことで…」
ここで返事をしないのも周りに変に思われるだけだと思いつつ、内緒にしてと頼まれた言葉が引っかかって言葉尻を濁せば、自分を尋ねてきたと分かった鹿沼が手にしていたコーヒーカップを女子社員のデスクの上に預けた。
「開店までまだ時間ありますね」
雅臣が戻らなければならない時間を確認してからニッコリと笑みをたたえ、そそくさと腕を引っ張られ企画部から連れ出された。直後、背後で「鹿沼さんの寝不足の原因って常陸さんだったんですか~?!」と話しあう女子社員の声が響いて来て、なんてタイミングが悪いんだろうと後悔した雅臣だった。

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コメント甲斐 | URL | 2010-01-13-Wed 08:59 [編集]
鹿沼もここいらで一方的なアプローチばかりじゃ先がない!みたいに思ったんでしょうかね。
流れを変える(自分の思う方向に)為の布石かな。

『余計に細かい描写をしなくていいのではないのかしら』とおっしゃっていますが、細かな説明のような描写は人物像が固定化されてしまうので、いまのような会話や行動の中からいろいろ想像できるような書かれ方が好きです。
そして、第一印象どおりのキャラとは違ったり、お話が進むごとに見方(見せ方)が変わって来ていろんな面が見えてくというのが魅力なんです。
まさにストーリーの中で生きているみたいで。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-13-Wed 11:40 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 鹿沼もここいらで一方的なアプローチばかりじゃ先がない!みたいに思ったんでしょうかね。
> 流れを変える(自分の思う方向に)為の布石かな。

なーんか考えちゃった模様です。
今までためこんでいたものが一気に爆発?!

> 『余計に細かい描写をしなくていいのではないのかしら』とおっしゃっていますが、細かな説明のような描写は人物像が固定化されてしまうので、いまのような会話や行動の中からいろいろ想像できるような書かれ方が好きです。
> そして、第一印象どおりのキャラとは違ったり、お話が進むごとに見方(見せ方)が変わって来ていろんな面が見えてくというのが魅力なんです。
> まさにストーリーの中で生きているみたいで。

想像力…という言葉をものすごく噛みしめます。
私も色々想像しながら読み進めて、後から、「こうだったんだー、あーだったんだーっ」って読み返すのが好きな人です。
イメージと違ったと後から嫌がられる方でなくて良かったです。

コメントありがとうございました。
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