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BLの丘
Present 4
2010-01-15-Fri  CATEGORY: Present
「はあぁぁぁ???」
素っ頓狂な声を上げたのは雅臣の方だった。
帰る素振りを何一つ見せずに、いや、帰らないと言い切るかのように鍵としっかりチェーンロックまでかけられる。
「ちょっ、ちょっと待って、ナニコレっ?!」
廊下と言えるようなものはない。狭い上がり口の先にドアがあってそれをくぐればリビングだった。
この部屋の良くも悪くもある点がこの玄関の狭さだった。玄関を入った真横に土間続きのウォークインクローゼットが備え付けてあり、確かに収納力には優れている。だが人が来た時に玄関口で話をする…というわけにはいかず、嫌でも部屋に上がってもらうことになる。ましてや、玄関ドアを閉められてしまった現在では鹿沼が立つ位置は非常に窮屈そうだった。

慌てふためいた雅臣を鹿沼が人差し指を振りながら見つめ返した。
「ナニコレじゃないですよ。休暇中、二人で食材を片付けましょうねって今日約束したじゃないですか。大丈夫です。俺、料理は出来ますし、一人暮らしで片付けとかも苦手じゃないですから。全部を常陸さんに任せたりするようなことはしません」
そういう問題じゃない。話の論点がズレている気がする…。
約束なんてしたかぁ?したか?と一日の流れを思い返せば、確かに朝一番で企画部に出向いた時に話した会話の中に「休みの間に二人で消化する…」と言っていたと振り返った。
『休みの間』と言う言葉をすっかり聞き落としていたようだが、雅臣と鹿沼の間で『期間』が大きく異なっていたのだと今頃になって知らされる。
雅臣には『年末年始』と言われた言葉のほうが印象強く31日と元旦という意味だったし、鹿沼は今日告げた『休暇期間中”ずっと”』と捉えていたようだ。
一晩くらいなら(もちろんただのお食事だけ)…と腹を括ったところはあったとしても、休みの期間中ともなれば話はずっと変わってくる。
なんの感情もない「友人」や「後輩」としてだったらまだ受け入れられるだろうが、明らかに好意を寄せる鹿沼を知っているだけに躊躇するものがあった。
それに、雅臣としては予定していた一夜に、全てを打ち明けようとしていた。
鹿沼に感情を寄せることはないこと。別れることになったときにお互いが気まずい思いをすること。だから忘れてくれ…と。
3年近くも曖昧にしてきてしまったことに罪悪感があったから、荷物が届いても突き返すことができなかったのだと思う。

これまで、社内の付き合いで酒席などを共にしたことはあったが、個人的な付き合いは一切断ってきた。時折、「送る」といってマンションのエントランスまで着いてきてくれたことくらいはある。
無理強いだけは絶対にしなかった鹿沼なのに、何かどこかが変わり始めているのを雅臣もはっきりと感じ取っていたが、それが心底嫌なものでもなかったし、むしろこうやってズカズカと入ってこられることに喜びと恐怖の二つの感情が入り混じった。
これまで付き合った男たちは皆優しかった。腫れものを扱うように雅臣を抱いてくれた。心の傷に触れないようにオブラートに包んで「今の君がいい」と囁いてくれた。
思い出したくない一番深いところにまで誰も近づいていない。
包まれたからこそ、感情を寄せられない罪悪感にどんどんと蝕まれていって、結局は「好きになれない」ことを相手に気付かれ、また雅臣も相手を手放した。『優しさ』が物足りなかったのかもしれない。
最後に別れた男は2カ月前だ。それも身体だけの付き合いといっていい。雅臣の心の傷を理解してくれたが、癒すところまではたどりつかなかった。雅臣がのめり込めなかったのか相手が深みにはまろうとしなかったのかは分からないが、お互い安全パイを選んだことだけは確かだ。
心の傷を抉るくらい強く踏み込まれたら…。傾きそうな自分がいる。それが分かるから余計に怖いのだ。
今の鹿沼がまさにそんな感じだった。

「なんだよ、その荷物はっ!まさか泊まり込む気でいるの?」
「はいっ!」
「気易く返事してないのっ!だめに決まってんだろっ」
「もう夜は遅いんです。夜道を一人で歩いていたら襲われます。追い出さないでください」
こんな巨体を襲う馬鹿がどこにいるんだよ…。
雅臣が絶句していると「ほら、早く」と言うように鹿沼は靴を脱ぎ出し、部屋へと雅臣を追いたてる。
重い箱を両手に抱えてしまった今、鹿沼を阻止しようにも身体は自由が利かなかった。

部屋へと続くドアを鹿沼が開けてくれながら、「何が届きました?」と問われる。
たとえ幾晩泊まることになろうと、預かった食材くらい確認をさせるべきだと思った。それを持ちかえってもらうためにも…。
「冷蔵庫の中に入れたのと…、ベランダにもあるよ」
冷蔵庫に入りきらないくらい届いたんだって促せばまたもや喜びを表した鹿沼がいた。
「家から出なくていいってことっすねーっ!」
そういう意味じゃないだろ…
重い箱を部屋の隅に置きながら、勝手にのぞいていいからとキッチンへと鹿沼を招いた。
冷蔵庫を開ければ、びっちりと詰め込まれた食材に鹿沼が驚き言葉を失っている。
「なんすっか…これ…」
「だから食べ切れないって言ったじゃん」
「そうじゃなくて入れ方ですよ。大中小大きさも形も違うのに良くここまで入れられますね」
冷気の流れがなくて電力会社からは苦情がきそうだった。
感心したように覗き込みっぱなしの鹿沼が、上段下段とおせち料理とその他の食品が見事に分けられた庫内をじっくりとみている。
まるで体内でも見られるような恥ずかしさに雅臣が早く閉じろと言葉を荒げた。
「旅行の荷物を詰め込むのと一緒じゃない?どうにかコンパクトになるように考えるのと一緒でしょ」
「その発想の転換が素晴らしい。俺が持って行く荷物量も、常陸さんに荷造りしてもらったら半分のスペースで済みそう」
手伝う気はないけどね…と内心で悪態をつきながら、食べたいものがあったら出して、と鹿沼を促した。
鹿沼に帰ってもらうことはすでに諦めている。
…分からない。鹿沼が帰ることを望んでいない自分がいるのを認めたくなかった。
…付き合いだけだ…。食品があってそれを食べて…。自分に言い聞かせた。
過去の男とイベント事を過ごしたことはなかった。年末年始という時間を過ごすのは幼い頃の家族を除いては鹿沼が初めてだ。
突然訪れた男の存在が怖かったのに安堵感もある。
雅臣は先にこたつに入りながら、鹿沼を待った。
時早く、おせち料理を皿に並べた鹿沼が戻ってきた。食べ物に頓着はないらしい。
「さっさと食べないとね」
酒のつまみだと言わんばかりに無造作に盛りつけられた品は『おせち料理』には見えなかった。

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コメント

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これで数日引きこもってアンナとかコンナこととかできるわけですね
コメント甲斐 | URL | 2010-01-15-Fri 17:22 [編集]
年下くんの魅力は明るく元気で一本気なところ。
そして結構まめで尽くすタイプ多いかも。
鹿沼くんの性格はまだ未解明ですけど、『ズカズカと入ってこられることに喜びと恐怖』はまさに無意識に求めているものかもしれませんね。
優しく傷口に触れないように愛してくれるのは、傷を癒すというよりもひととき忘れさせてくれるだけで結局永久になくなるわけでも完治することもないんですもの。

確かに冷蔵庫の中身って他人に見せたくないかも。
他人じゃなくても友達とかも別の意味で。
日記帳とか家でぐだーっとしているすっぴんの姿とかを見られるのと同じ感じかな。
Re: これで数日引きこもってアンナとかコンナこととかできるわけですね
コメントたつみきえ | URL | 2010-01-15-Fri 18:12 [編集]
甲斐様
こんばんは。
パソコンを切る前にお会いできて良かったです。

> 年下くんの魅力は明るく元気で一本気なところ。
> そして結構まめで尽くすタイプ多いかも。

年下君って結構尽くしてくれますよね。
しかも元気がいいっ!
私の理想を押し付けているところはありますが…。

> 鹿沼くんの性格はまだ未解明ですけど、『ズカズカと入ってこられることに喜びと恐怖』はまさに無意識に求めているものかもしれませんね。
> 優しく傷口に触れないように愛してくれるのは、傷を癒すというよりもひととき忘れさせてくれるだけで結局永久になくなるわけでも完治することもないんですもの。

どうしても"受け"の子目線になっちゃうのでなんですが、鹿沼のズカズカを嫌がっていないことだけは確かです。それくらい強烈に踏み込まれたい、壊してほしい、そんな思いもあるかも。
甲斐様のおっしゃるとおり、傷口に触れない程度は『癒し』にはならないと思います。
鹿沼に必要なエネルギー(食品)はいっぱいあるので、ひきこもります。
なにをするかはまあ…。おはなしとか。テレビ見るとか。(えっ?!)

> 確かに冷蔵庫の中身って他人に見せたくないかも。
> 他人じゃなくても友達とかも別の意味で。
> 日記帳とか家でぐだーっとしているすっぴんの姿とかを見られるのと同じ感じかな。
冷蔵庫の中を見られるのは気持ち良くないですね。
生活の全てをのぞかれるみたいです。
でも見せちゃう雅臣君。きっと気を許したんだよ。

コメントありがとうございました。
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