いつものように狭い場所に二人、隣に座って、酔いのまわる雅臣の肩を抱かれる。
「きっと、あの人も悔しかったんでしょうね」
「はぁ?」
耳元で囁かれるように呟かれた言葉は全く理解できなかった。
酔いがまわっているとはいっても自分の力で何かをするのが嫌になってきたという程度で、意識まで判断が付かなくなっているわけではない。
もともと酒に弱いタイプの雅臣でもない。…それ以上に鹿沼はしっかりしていたが…。
何を今更…と、北本の話題が出てくるのかと訝しさに眉間を寄せれば、鹿沼が悪戯っ子のように笑った。
「雅臣さんをとられちゃった…って思ったんじゃないですか?自惚れじゃないけど、まだ想っていてくれているっていう期待があったんじゃないですかね。そこに俺が出て行っちゃったから、悔し紛れにあんなことを言いだしたような気がするんです。…どんな嫌なやつか分からないですけど、たぶん、本気で雅臣さんを取り戻したかったんだと思います」
「龍太?」
鹿沼は淡々と話していたが、明け渡されそうな恐怖が一気に襲ってくる。
物と扱われるような言い回しを何よりも嫌った。そして脅えた。
元の鞘に戻れと言われているような気すらした。
雅臣の不安を感じたのか、鹿沼が小さく首を振った。
「あぁ、ごめんなさい。俺、絶対に雅臣さんを手放しませんよ。ただ、それくらいの魅力があるって言いたかっただけなんです。別れたりなんかしたら絶対に後悔する。…っていうかね…。不安なのは俺の方なんですよ。ずっと忘れられなかった人なんでしょ?縛られた人なんでしょ?このままあの人の元にまた心が傾かれたらどうしようって…」
「ないからっ!」
もたれかかった肩から勢いよく雅臣が頭を上げた。
こんな風に弱気になる鹿沼は見たことがない。
それ以上に、今更北本に雅臣が揺れることなどないとはっきりと伝えたかった。
憂いを帯びた瞳が目の前にあった。
話や思いはどんどんと別の方向へと変化を遂げている。
雅臣が鹿沼に嫌われるのではないかと脅えたことから、鹿沼には再会した二人が再び恋に落ちるのではないかというところまで…。
…ない…。絶対にあり得ない。
あの男にもらったのは、恋をすることの恐怖だけだ。
今日だって、なんの躊躇いもなく『愛人になれ』と図々しく発したような男だ。
雅臣の心よりも身体を求めた男…。
どうやったらこの心を信じてもらえるのだろうかと、初めて鹿沼に対して思いを告げたいと湧いた感情があった。
雅臣はこの瞬間、もう鹿沼からは離れられないのだと感じた。
「あいつのことなんかもうなんとも思わないし、今は…」
言いかけながら口ごもった。
『今は…』??? 続く言葉は…???
「もう一回言って」
雅臣の瞳を正面から見つめ返した瞳が復唱してくれと訴えてくる。
雅臣が告げた言葉は『好き』と言っているのと同じようなことと思えた。
改めて気付いたことに雅臣は頬を染め、鹿沼の胸元に額を押し付けた。
鹿沼が言えといったことは、雅臣のストレートな感情だろう…。
誘導尋問…。
「ばか…」
「すっげー可愛い人」
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「きっと、あの人も悔しかったんでしょうね」
「はぁ?」
耳元で囁かれるように呟かれた言葉は全く理解できなかった。
酔いがまわっているとはいっても自分の力で何かをするのが嫌になってきたという程度で、意識まで判断が付かなくなっているわけではない。
もともと酒に弱いタイプの雅臣でもない。…それ以上に鹿沼はしっかりしていたが…。
何を今更…と、北本の話題が出てくるのかと訝しさに眉間を寄せれば、鹿沼が悪戯っ子のように笑った。
「雅臣さんをとられちゃった…って思ったんじゃないですか?自惚れじゃないけど、まだ想っていてくれているっていう期待があったんじゃないですかね。そこに俺が出て行っちゃったから、悔し紛れにあんなことを言いだしたような気がするんです。…どんな嫌なやつか分からないですけど、たぶん、本気で雅臣さんを取り戻したかったんだと思います」
「龍太?」
鹿沼は淡々と話していたが、明け渡されそうな恐怖が一気に襲ってくる。
物と扱われるような言い回しを何よりも嫌った。そして脅えた。
元の鞘に戻れと言われているような気すらした。
雅臣の不安を感じたのか、鹿沼が小さく首を振った。
「あぁ、ごめんなさい。俺、絶対に雅臣さんを手放しませんよ。ただ、それくらいの魅力があるって言いたかっただけなんです。別れたりなんかしたら絶対に後悔する。…っていうかね…。不安なのは俺の方なんですよ。ずっと忘れられなかった人なんでしょ?縛られた人なんでしょ?このままあの人の元にまた心が傾かれたらどうしようって…」
「ないからっ!」
もたれかかった肩から勢いよく雅臣が頭を上げた。
こんな風に弱気になる鹿沼は見たことがない。
それ以上に、今更北本に雅臣が揺れることなどないとはっきりと伝えたかった。
憂いを帯びた瞳が目の前にあった。
話や思いはどんどんと別の方向へと変化を遂げている。
雅臣が鹿沼に嫌われるのではないかと脅えたことから、鹿沼には再会した二人が再び恋に落ちるのではないかというところまで…。
…ない…。絶対にあり得ない。
あの男にもらったのは、恋をすることの恐怖だけだ。
今日だって、なんの躊躇いもなく『愛人になれ』と図々しく発したような男だ。
雅臣の心よりも身体を求めた男…。
どうやったらこの心を信じてもらえるのだろうかと、初めて鹿沼に対して思いを告げたいと湧いた感情があった。
雅臣はこの瞬間、もう鹿沼からは離れられないのだと感じた。
「あいつのことなんかもうなんとも思わないし、今は…」
言いかけながら口ごもった。
『今は…』??? 続く言葉は…???
「もう一回言って」
雅臣の瞳を正面から見つめ返した瞳が復唱してくれと訴えてくる。
雅臣が告げた言葉は『好き』と言っているのと同じようなことと思えた。
改めて気付いたことに雅臣は頬を染め、鹿沼の胸元に額を押し付けた。
鹿沼が言えといったことは、雅臣のストレートな感情だろう…。
誘導尋問…。
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