怖い…。
鹿沼と一緒にいる時間が増えてから、心のどこかに常にある感情だった。
以前から持ち合わせてはいたが、最近は特に強くなった。
いつの時か、これまで優しくしてくれた態度が一変して、「もう用済み」と言われるのではないかと脅えた。
「今、何か馬鹿なことを考えていますよね?」
傷つくのが嫌だから「別れたい」と思うことは馬鹿なことなのだろうか…。
雅臣は不安を体中に纏わせながら、ぎゅっと抱きしめてくれる腕にしがみつきたかった。
心を痛めたくないと防御する感情と、甘え縋りたいという、相反する感情に交互に襲われる。
鹿沼の心が変わらないうちに自分から離れれば傷むことはない…。そう思うのに…。
鹿沼は優しすぎる…。
「あの人が羨ましいですよ」
鹿沼から吐き出された言葉は全くもって予想もしていないものだった。
鹿沼の腕に強く抱きしめられた雅臣は、驚きに目を瞬かせた。
「な…?」
「羨ましいです。雅臣さんが何も隠すことなく素直な自分をさらけ出していたんだと思うと嫉妬する。何で俺には思うことも感じることも全部話してくれないんだろうって…。何で俺の知らないことをあの人は知っているんだろうって思うと、すごく悔しい」
鹿沼が雅臣に望むものは何なのだろうか…。
「かぬ…ま…」
「龍太」
苗字で呼ぶたびに訂正される。
「りゅ…た…」
名前で呼ぶたびに一つずつ想いが増えるような気がする。
鹿沼は北本が発した『淫乱』という言葉をそのままの意味で捉えてはいないようだった。
「自分の本心を出すことの何が悪いこと?素直で可愛いじゃないですか。俺はそんな雅臣さんになってほしいし、他の誰にも知られたくない」
雅臣の額に唇を寄せ、更に上向かせられると唇を塞がれた。軽いキスだった。
「これ以上すると、夕ご飯が朝ごはんになっちゃうから。俺も風呂に入ってきます」
鹿沼は名残惜しいように雅臣の身体を離した。そしてバスルームに消えていった。
「俺はいつでも感情、剥き出しですから…」という言葉を置いて。
鍋をつつきながら、鹿沼と交わした会話は他愛のないものだった。
いつもと変わらない雰囲気。
「なんで玉ねぎが入ってんの?」
「だって葱がなかったから…」
「普通、鍋に入れなくない?」
「具材が少ないよりいいでしょ」
居心地がいい…。とてもいい…。
あんなことの後なのに、何も変わらない優しい鹿沼に嬉しさが募るのに、何一つ喜びを表して上げられない自分を情けないと思いながら甘えた。
北本から発された言葉に脅えたのは自分だけで、鹿沼は雅臣をいまだに知りきれないでいることを悔しがった。
そこまで想ってもらえる身がありがたかった。
自分は鹿沼を好きになるのだろうか…。
その選択は間違わないだろうか…。
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鹿沼と一緒にいる時間が増えてから、心のどこかに常にある感情だった。
以前から持ち合わせてはいたが、最近は特に強くなった。
いつの時か、これまで優しくしてくれた態度が一変して、「もう用済み」と言われるのではないかと脅えた。
「今、何か馬鹿なことを考えていますよね?」
傷つくのが嫌だから「別れたい」と思うことは馬鹿なことなのだろうか…。
雅臣は不安を体中に纏わせながら、ぎゅっと抱きしめてくれる腕にしがみつきたかった。
心を痛めたくないと防御する感情と、甘え縋りたいという、相反する感情に交互に襲われる。
鹿沼の心が変わらないうちに自分から離れれば傷むことはない…。そう思うのに…。
鹿沼は優しすぎる…。
「あの人が羨ましいですよ」
鹿沼から吐き出された言葉は全くもって予想もしていないものだった。
鹿沼の腕に強く抱きしめられた雅臣は、驚きに目を瞬かせた。
「な…?」
「羨ましいです。雅臣さんが何も隠すことなく素直な自分をさらけ出していたんだと思うと嫉妬する。何で俺には思うことも感じることも全部話してくれないんだろうって…。何で俺の知らないことをあの人は知っているんだろうって思うと、すごく悔しい」
鹿沼が雅臣に望むものは何なのだろうか…。
「かぬ…ま…」
「龍太」
苗字で呼ぶたびに訂正される。
「りゅ…た…」
名前で呼ぶたびに一つずつ想いが増えるような気がする。
鹿沼は北本が発した『淫乱』という言葉をそのままの意味で捉えてはいないようだった。
「自分の本心を出すことの何が悪いこと?素直で可愛いじゃないですか。俺はそんな雅臣さんになってほしいし、他の誰にも知られたくない」
雅臣の額に唇を寄せ、更に上向かせられると唇を塞がれた。軽いキスだった。
「これ以上すると、夕ご飯が朝ごはんになっちゃうから。俺も風呂に入ってきます」
鹿沼は名残惜しいように雅臣の身体を離した。そしてバスルームに消えていった。
「俺はいつでも感情、剥き出しですから…」という言葉を置いて。
鍋をつつきながら、鹿沼と交わした会話は他愛のないものだった。
いつもと変わらない雰囲気。
「なんで玉ねぎが入ってんの?」
「だって葱がなかったから…」
「普通、鍋に入れなくない?」
「具材が少ないよりいいでしょ」
居心地がいい…。とてもいい…。
あんなことの後なのに、何も変わらない優しい鹿沼に嬉しさが募るのに、何一つ喜びを表して上げられない自分を情けないと思いながら甘えた。
北本から発された言葉に脅えたのは自分だけで、鹿沼は雅臣をいまだに知りきれないでいることを悔しがった。
そこまで想ってもらえる身がありがたかった。
自分は鹿沼を好きになるのだろうか…。
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