たとえ長い月日が流れて部屋の様子が変わっていたとしても、この部屋に北本は何度も訪れていた過去がある。
腕を引かれてリビングに入れられ、雅臣は咄嗟にこたつの上に投げ出してあった携帯電話を掴んだ。
自分の不甲斐なさを掬いあげてくれるのは鹿沼しかいないと思ったからだ。
このままではまた北本に振り回される。
弱い心が情けなかった。
雅臣の行動を見て、北本が携帯電話を奪った。
「あいつの名前、なんて言うの?呼べよ。そんで俺の前で雅の想いを雅が全部言え。俺を諦めさせろ」
再会してしまったことで悩んだのは北本も同じだったということなのだろうか。
僅かな会話の中で戸惑っている雅臣に気付いたような北本の言葉が突き刺さってきた。
改めて突き付けられた北本の要求に、雅臣の方から『振れ』と言いだされたことで、激しい動揺が渦巻く。
揺れ動いている自分を知ってしまったことで、鹿沼への思いに自信まで失ってしまった。
あんなに熱い夜を過ごして睦言を交わしたはずなのに、夢の中を泳いでいたようにも思えてくる。
もう何が本音なのか、自分が分からなかった。
電話機を勝手に操作していた北本が着信と発信の履歴の多さから「鹿沼?こいつ?そういえばそんな風に呼んでたっけ…」と目的の人間を探し当てた。
「やめろって!あいつ、今仕事中!!」
「ここに来る途中で見かけたぜ。まだそんなに時間経っていないから戻ってくるだろう」
「っ…っ!!」
雅臣の中では鹿沼を撒きこみたくない思いがあった。
さっきは自分から連絡をしようとしていたというのに…。
鹿沼が北本に対してどんな思いを持っているのかを知っているから…。
雅臣を許してくれないのではないかという不安も追い打ちをかけた。
そして鹿沼に対してどうふるまっていいのかが分からない自分がいる…。
こんな姿を見られたくない…。
雅臣がはっきりと答えなくても、言葉を聞けば認めたようなもので、悩んでいる隙に電話が繋がった。ワンコールで出たといっていい。
『どうしました?』
柔らかな口調が、機械越しに雅臣にも届いた。
冷や汗が背筋を伝わった。
答えたのは北本だ。
「雅のことが心配だったらすぐに部屋に来いよ」
『…っ?!!!あなたっ!!』
悲鳴に近い声は鹿沼の動揺を充分に表していた。
「ちが…っ!ちがうからっ!!」
咄嗟に叫んだ思いはなんだったのだろう…。
「30分は待ってやるよ。その間に俺は雅を口説くけどな」
『10分で行きますからっ!!』
ブツッと通話が切れる音を雅臣まで聞いた。
鹿沼の思いは充分なほど受け止めている。承知している。
鹿沼を愛してやりたいという願望さえ心にある。
…そう、『願望』…。
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書き忘れていますが、30000Hit記念、何かやろうかと思っていました。
っていいながら、これまで頂いたリクエスト、全く消化できていないんですけどね…(冷汗)
35← →37
腕を引かれてリビングに入れられ、雅臣は咄嗟にこたつの上に投げ出してあった携帯電話を掴んだ。
自分の不甲斐なさを掬いあげてくれるのは鹿沼しかいないと思ったからだ。
このままではまた北本に振り回される。
弱い心が情けなかった。
雅臣の行動を見て、北本が携帯電話を奪った。
「あいつの名前、なんて言うの?呼べよ。そんで俺の前で雅の想いを雅が全部言え。俺を諦めさせろ」
再会してしまったことで悩んだのは北本も同じだったということなのだろうか。
僅かな会話の中で戸惑っている雅臣に気付いたような北本の言葉が突き刺さってきた。
改めて突き付けられた北本の要求に、雅臣の方から『振れ』と言いだされたことで、激しい動揺が渦巻く。
揺れ動いている自分を知ってしまったことで、鹿沼への思いに自信まで失ってしまった。
あんなに熱い夜を過ごして睦言を交わしたはずなのに、夢の中を泳いでいたようにも思えてくる。
もう何が本音なのか、自分が分からなかった。
電話機を勝手に操作していた北本が着信と発信の履歴の多さから「鹿沼?こいつ?そういえばそんな風に呼んでたっけ…」と目的の人間を探し当てた。
「やめろって!あいつ、今仕事中!!」
「ここに来る途中で見かけたぜ。まだそんなに時間経っていないから戻ってくるだろう」
「っ…っ!!」
雅臣の中では鹿沼を撒きこみたくない思いがあった。
さっきは自分から連絡をしようとしていたというのに…。
鹿沼が北本に対してどんな思いを持っているのかを知っているから…。
雅臣を許してくれないのではないかという不安も追い打ちをかけた。
そして鹿沼に対してどうふるまっていいのかが分からない自分がいる…。
こんな姿を見られたくない…。
雅臣がはっきりと答えなくても、言葉を聞けば認めたようなもので、悩んでいる隙に電話が繋がった。ワンコールで出たといっていい。
『どうしました?』
柔らかな口調が、機械越しに雅臣にも届いた。
冷や汗が背筋を伝わった。
答えたのは北本だ。
「雅のことが心配だったらすぐに部屋に来いよ」
『…っ?!!!あなたっ!!』
悲鳴に近い声は鹿沼の動揺を充分に表していた。
「ちが…っ!ちがうからっ!!」
咄嗟に叫んだ思いはなんだったのだろう…。
「30分は待ってやるよ。その間に俺は雅を口説くけどな」
『10分で行きますからっ!!』
ブツッと通話が切れる音を雅臣まで聞いた。
鹿沼の思いは充分なほど受け止めている。承知している。
鹿沼を愛してやりたいという願望さえ心にある。
…そう、『願望』…。
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書き忘れていますが、30000Hit記念、何かやろうかと思っていました。
っていいながら、これまで頂いたリクエスト、全く消化できていないんですけどね…(冷汗)
35← →37
どこまでも卑怯な男で
「自分で吹っ切れないからけじめつけて欲しい」
よりも
過去と昨日のお詫びに「きっちり振られてあげるからオレのことなんか忘れて幸せになってくれ」って言って欲しい気がするんですけど、そんないい人じゃないのかな。
次回を楽しみにします。
「自分で吹っ切れないからけじめつけて欲しい」
よりも
過去と昨日のお詫びに「きっちり振られてあげるからオレのことなんか忘れて幸せになってくれ」って言って欲しい気がするんですけど、そんないい人じゃないのかな。
次回を楽しみにします。
甲斐様
どーもです!
> どこまでも卑怯な男で
> 「自分で吹っ切れないからけじめつけて欲しい」
> よりも
> 過去と昨日のお詫びに「きっちり振られてあげるからオレのことなんか忘れて幸せになってくれ」って言って欲しい気がするんですけど、そんないい人じゃないのかな。
> 次回を楽しみにします。
恩着せがましい男ですよね~。
けど、まだどこかで雅臣に期待しているところがあるのかなぁ。
揺れ動いている雅臣に気付いちゃっているんですね。
自分から振るには惜しすぎている模様です。
だから雅臣から言わせたいんだと思います。
鹿沼、元体育会系の根性が一気に爆発?!
いつもありがとうございます。
どーもです!
> どこまでも卑怯な男で
> 「自分で吹っ切れないからけじめつけて欲しい」
> よりも
> 過去と昨日のお詫びに「きっちり振られてあげるからオレのことなんか忘れて幸せになってくれ」って言って欲しい気がするんですけど、そんないい人じゃないのかな。
> 次回を楽しみにします。
恩着せがましい男ですよね~。
けど、まだどこかで雅臣に期待しているところがあるのかなぁ。
揺れ動いている雅臣に気付いちゃっているんですね。
自分から振るには惜しすぎている模様です。
だから雅臣から言わせたいんだと思います。
鹿沼、元体育会系の根性が一気に爆発?!
いつもありがとうございます。
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