10分なんて経たなかった。
玄関のチャイムがけたたましく鳴り響くのと同時に、鍵の掛かっていなかった玄関扉が開いた。
「雅臣さんっ!!」
形相を変えて飛び込んできた鹿沼が、雅臣と向かい合って立ちっぱなしだった北本を視界に入れると、奪うように雅臣に近づいた。
「何、しにきたんですかっ?!」
走ってきたのだと分かる息の切れ方。
北本に対してキツイ視線が向けられるのを見て、雅臣は無意識に鹿沼に触れた。
たった数分の間、雅臣と北本が交わした会話はただの思い出話だった。
それだけでも充分なほど、雅臣の感情は揺れ動いていたけど、改めて鹿沼の顔を見たら鹿沼を傷つけたくない一心だった。
そして一緒に訪れた安堵…。
「な、んにもないから…、何もないから…」
蚊の鳴くような声で呟いた雅臣をぎゅっと腕の中へと招き入れる。
治まらない心臓の音や乱れた呼吸が、肌や耳を通じて雅臣の中に入ってくる。
鹿沼は北本の視界から遮るように雅臣を手にすると北本に背を向けた。
「なんでこの人と会ってんの?俺、何…?雅臣さんにとってなんなの…?」
耳元で囁かれる不安の声に、雅臣は申し訳なさでいっぱいになると共に恐怖に埋め尽くされた。
…捨てられる…、また捨てられる…っ…
「りゅ…た…、違うから…、違うの…」
「何が違うんだよっ」
雅臣の声に反応したのは北本でイライラしているという感情を隠してもいなかった。
「雅、俺、言えって言ったよな?同情と愛情を間違えんなよ。こいつにはっきりとしたことが言えないのか?」
心の底がズンと重くなる。
雅臣を求めていると伝えられた言葉にも動揺していたが、それよりもすでに北本と雅臣で話が済んでいるような、誤解を招きかねない発言の方が鹿沼を裏切るようで脅えた。
自分がいつまでたっても明確な答えを出さないことで、鹿沼にどれほどの負担をかけ続けていたのだろう…。
『信じている』と鹿沼は言ってくれた。『いつまでも待つから』とも。
北本の言葉に背を押された。
北本の行動のおかげで何を大事にするべきなのかを気付かされたような気がする。
昔からこういう人間だった。
雅臣が判断がつけられないでいるところを辛口な言葉を使ってでも道に標を立ててくれる。
昨日、北本を見た時に動揺した雅臣を知っていたから、今日こうして鹿沼を呼んだのだろう。
たまたまな偶然が重なった今だったけど、過去を捨て切れずにいる雅臣を知れば、一つの賭けにでたかったのかもしれない。
雅臣が北本を選べば彼はそれなりの対応を家族に施す覚悟ができていたのだとも思う。
だが雅臣が寄り添いたかったのは『過去』ではなかった。
北本にも今の家族を守ってもらいたかった。
「りゅ…、龍太といる。…龍太がいい…」
小さな声だったけど、確実に鹿沼の耳には届いていた。
愛情なのか同情なのかなど分からない。
ただ、自分を必要としてくれて、自分が休める場所が欲しい…。
もう疲れた…と、ただ甘える、それだけなのかもしれない…。
だけど雅臣には鹿沼にそばにいてほしいと切に願う気持ちが今はある。
「雅臣さ…ん…」
掠れた声。
今踏んだ勇気は、北本からもらう、最後のものであってほしい。
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40話くらいで終わるかな~???(願望)
36← →38
玄関のチャイムがけたたましく鳴り響くのと同時に、鍵の掛かっていなかった玄関扉が開いた。
「雅臣さんっ!!」
形相を変えて飛び込んできた鹿沼が、雅臣と向かい合って立ちっぱなしだった北本を視界に入れると、奪うように雅臣に近づいた。
「何、しにきたんですかっ?!」
走ってきたのだと分かる息の切れ方。
北本に対してキツイ視線が向けられるのを見て、雅臣は無意識に鹿沼に触れた。
たった数分の間、雅臣と北本が交わした会話はただの思い出話だった。
それだけでも充分なほど、雅臣の感情は揺れ動いていたけど、改めて鹿沼の顔を見たら鹿沼を傷つけたくない一心だった。
そして一緒に訪れた安堵…。
「な、んにもないから…、何もないから…」
蚊の鳴くような声で呟いた雅臣をぎゅっと腕の中へと招き入れる。
治まらない心臓の音や乱れた呼吸が、肌や耳を通じて雅臣の中に入ってくる。
鹿沼は北本の視界から遮るように雅臣を手にすると北本に背を向けた。
「なんでこの人と会ってんの?俺、何…?雅臣さんにとってなんなの…?」
耳元で囁かれる不安の声に、雅臣は申し訳なさでいっぱいになると共に恐怖に埋め尽くされた。
…捨てられる…、また捨てられる…っ…
「りゅ…た…、違うから…、違うの…」
「何が違うんだよっ」
雅臣の声に反応したのは北本でイライラしているという感情を隠してもいなかった。
「雅、俺、言えって言ったよな?同情と愛情を間違えんなよ。こいつにはっきりとしたことが言えないのか?」
心の底がズンと重くなる。
雅臣を求めていると伝えられた言葉にも動揺していたが、それよりもすでに北本と雅臣で話が済んでいるような、誤解を招きかねない発言の方が鹿沼を裏切るようで脅えた。
自分がいつまでたっても明確な答えを出さないことで、鹿沼にどれほどの負担をかけ続けていたのだろう…。
『信じている』と鹿沼は言ってくれた。『いつまでも待つから』とも。
北本の言葉に背を押された。
北本の行動のおかげで何を大事にするべきなのかを気付かされたような気がする。
昔からこういう人間だった。
雅臣が判断がつけられないでいるところを辛口な言葉を使ってでも道に標を立ててくれる。
昨日、北本を見た時に動揺した雅臣を知っていたから、今日こうして鹿沼を呼んだのだろう。
たまたまな偶然が重なった今だったけど、過去を捨て切れずにいる雅臣を知れば、一つの賭けにでたかったのかもしれない。
雅臣が北本を選べば彼はそれなりの対応を家族に施す覚悟ができていたのだとも思う。
だが雅臣が寄り添いたかったのは『過去』ではなかった。
北本にも今の家族を守ってもらいたかった。
「りゅ…、龍太といる。…龍太がいい…」
小さな声だったけど、確実に鹿沼の耳には届いていた。
愛情なのか同情なのかなど分からない。
ただ、自分を必要としてくれて、自分が休める場所が欲しい…。
もう疲れた…と、ただ甘える、それだけなのかもしれない…。
だけど雅臣には鹿沼にそばにいてほしいと切に願う気持ちが今はある。
「雅臣さ…ん…」
掠れた声。
今踏んだ勇気は、北本からもらう、最後のものであってほしい。
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40話くらいで終わるかな~???(願望)
36← →38
ここで、だーいキライだと思ってた北本にもいいところがあるって言うか、雅臣のことを都合よく付き合って捨てたひどい男なだけじゃなくて、彼なりに情もあったし大切に思っていた部分があったんだなと感じてしまいました。
基本自分本位だし優しさは欠片くらいしか見えないけれど、そういう男なんでしょうね。そういう男と結婚して子供までいる妻っていうのもなんだかかわいそうな気がしなくもないけど、まあ、それはそれでいいっていうのだからよろしいのでしょう。けど信用できないし愛されてる実感がないってのも哀れですね。
基本自分本位だし優しさは欠片くらいしか見えないけれど、そういう男なんでしょうね。そういう男と結婚して子供までいる妻っていうのもなんだかかわいそうな気がしなくもないけど、まあ、それはそれでいいっていうのだからよろしいのでしょう。けど信用できないし愛されてる実感がないってのも哀れですね。
甲斐様
こちらにもどーもでーす♪
> ここで、だーいキライだと思ってた北本にもいいところがあるって言うか、雅臣のことを都合よく付き合って捨てたひどい男なだけじゃなくて、彼なりに情もあったし大切に思っていた部分があったんだなと感じてしまいました。
まぁ、あくまでも雅臣視点なので…。
きれいな淡い思い出がいっぱい詰まっている心の中をひっくり返していたところだったし。
鹿沼に言わせれば「ずーっと忘れられない超いい男」な感じなんでしょうね。
ライバル心、ムクムクしていますけど。
> 基本自分本位だし優しさは欠片くらいしか見えないけれど、そういう男なんでしょうね。そういう男と結婚して子供までいる妻っていうのもなんだかかわいそうな気がしなくもないけど、まあ、それはそれでいいっていうのだからよろしいのでしょう。けど信用できないし愛されてる実感がないってのも哀れですね。
優しさが欠片しか見えないところにほだされちゃった妻なんですかね…。
普段冷たいのに、私だけに見せる何か…に惹かれちゃったとか。(またテキトーなことを…汗)
素行を調べられてムカついてる北本もなんだし、そこまで愛しちゃったと思わせる妻もなんだか。
北本には恐怖心しかもらわなかったという雅臣が、初めてプラスの方向に動いた時でもあります。
いい糧にしてほしいです。
コメントありがとうございました。
こちらにもどーもでーす♪
> ここで、だーいキライだと思ってた北本にもいいところがあるって言うか、雅臣のことを都合よく付き合って捨てたひどい男なだけじゃなくて、彼なりに情もあったし大切に思っていた部分があったんだなと感じてしまいました。
まぁ、あくまでも雅臣視点なので…。
きれいな淡い思い出がいっぱい詰まっている心の中をひっくり返していたところだったし。
鹿沼に言わせれば「ずーっと忘れられない超いい男」な感じなんでしょうね。
ライバル心、ムクムクしていますけど。
> 基本自分本位だし優しさは欠片くらいしか見えないけれど、そういう男なんでしょうね。そういう男と結婚して子供までいる妻っていうのもなんだかかわいそうな気がしなくもないけど、まあ、それはそれでいいっていうのだからよろしいのでしょう。けど信用できないし愛されてる実感がないってのも哀れですね。
優しさが欠片しか見えないところにほだされちゃった妻なんですかね…。
普段冷たいのに、私だけに見せる何か…に惹かれちゃったとか。(またテキトーなことを…汗)
素行を調べられてムカついてる北本もなんだし、そこまで愛しちゃったと思わせる妻もなんだか。
北本には恐怖心しかもらわなかったという雅臣が、初めてプラスの方向に動いた時でもあります。
いい糧にしてほしいです。
コメントありがとうございました。
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