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BLの丘
Present 39
2010-03-20-Sat  CATEGORY: Present
午前中、仕事を放棄してしまったような鹿沼は、その日の午後、こってりと部長に絞られたらしい。
特に忙しい出向などもなかったから良かったようなものの、企画書の提出は急務で、『夜また来ます』と置いていった鹿沼の言葉は実現しなかった。
全ては自分に迷いがあったからだと承知している雅臣には何一つ返す言葉がない。
唯一送られてきたメールに『一生信じ続けてほしい』の文字を見た時、込み上げるものは心臓を破りそうだった。
決して離そうとしない鹿沼の強い意志が嬉しかった。
なんと返したらよいのかと散々迷って、結局「わかった」と一言だけ返信した。
いつも喜ばれるような言葉を返してあげられなくて、雅臣は申し訳ないなと思っていたが、恋愛に関する言葉を並べるのは照れも交じって得意な方ではない。
これもまた鹿沼に甘えている一つだろう。

北本が帰ったあと、雅臣は事の成り行きを鹿沼に語った。
北本の素行の悪さから始まったとばっちり、鹿沼にたくさん心配や迷惑をかけたことへの詫び、今自分が思うこと。
正直に素直に全てを曝け出した。
「龍太と一緒にいたいと思う。だけど、あいつに言われて、同情なのか愛情なのかって分からなくなっちゃった…。龍太に甘えているだけなのかも…?…ズルイよな、自分の気持ちもわからないだなんて…。こんなこと言うのは卑怯かもしれないけど、…今捨てられたらたぶん死んじゃう。それくらい龍太に汚染されているのはホント」
「充分です。俺のそばにいてくれればいいですから。浄化装置なんて絶対につけてあげないですからね。このまま汚染されつづければいいです。他の人が近づかないように超高濃度の汚染物質を浴びて俺仕様になってください」
「それっておまえが汚染源ってことだよな…」
「そうですよ。今更なんですか、自分で言い出したくせに」
しれっと答えられてどう返したらいいのやら…。
鹿沼の匂いをぷんぷん漂わせていろということか…?!
まぁ、実生活、社内に関してはすでに鹿沼が作った池に両足を突っ込んでいるようなものだが…。

その日、鹿沼が雅臣を送っていったとは窓口業務の人間から社内に通達が走ったのも同然で。
午前中いっぱい戻ってこなかった鹿沼に、あらゆる疑惑がかけられていた。
たとえ部長からお小言を頂こうが、それでもにこにことしていた鹿沼に、これまで表向きブーブー文句を言いながら拒み続けていた雅臣が堕ちたとは誰もが気付くこととなる。
まぁ温泉旅行でほとんど認めていたようなものだったのかもしれないけど…。


寒いと思っていた冬が通り過ぎた。
温泉旅行から1カ月以上が経とうとしている。
北風は静かになり、陽も伸びて、夕刻が長く感じられるようになった。
時は3月の半ばで、今年も新入社員が前倒しの研修などに訪れていた。
雅臣はこの時期、何かと物入用でデパートに出向いていた。
気分の問題なのだろうが、新年度を迎えるたびに、これまで使っていた衣類を一新するくせがある。
新入社員同様に気分を切り替えたいのかどうなのかは自分でも判断がつかないが、なんとなく、『新しいもの』を求めた。
スーツだって毎日着ているだけにいくつあったところでくたびれているし、どこかで切り替えたいと思う心理なのかもしれない。
紳士服売り場で手頃な物を幾つか見繕いながら、展示されているネクタイにもふと目がいった。
色違いでパターン化されたネクタイを鹿沼と一緒に揃えようなどという勇気は到底なかったが、一つくらいプレゼントをしてあげるのもいいかなと思った。
これまで、鹿沼には色々貰うばかりだ。
あちこち出掛ける鹿沼からはたくさんのお土産ももらった。
最近は「気持ち」…かなぁ…。

半ば照れくさくなりながらも、展示された品を色々と眺めながら、寄ってくる店員にさりげなく「自分用ではないから」と断りをいれて鹿沼に合いそうなものを手にする。
派手な顔の造りの彼であれば、多少の華やかさがある品でも違和感はないだろうと、それでも控え目にエンジ色の生地に小紋のあるものを選んでみた。
「贈り物にしたいから」といって丁寧に包んでもらう。
雅臣自身、誰かにプレゼントを贈るなどはじめてのことだった。

今週末は休みが重なったから、間違いなく鹿沼は雅臣の家にくるか、鹿沼の家に招待されるかどちらかだろう。
その時に渡せばいいや…と雅臣は鹿沼がどんな反応をしてくれるだろうかと期待に胸を膨らませていた。

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コメント

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コメントきえ | URL | 2010-03-20-Sat 12:46 [編集]
MO様
こちらにもどうもです。

>雅臣は、やっと自分の居場所を見つけたようですね。暖かかくて、優しい穏やかな日々が訪れそうですね。

やっと自分に何が必要かを見極められたようです。
いつまでも過去に縋っていても、何も得られないことも感じたんでしょう。
そして鹿沼の揺るがない愛も受け止めた様子。
初めて(?)『記念』を作ることに喜びも感じています。
人に何かをしてあげられることの喜びをこうして覚えていってくれたらいいです。
40話で切りたいと思っていましたが、あと一話では済まないので、もうしばらくお付き合いくださると嬉しいです。
コメントありがとうございました。
お幸せに・・・
コメント甲斐 | URL | 2010-03-20-Sat 19:01 [編集]
ついに両思いを確認できて幸せの極み!!
ってところでしたが、鹿沼くんたら雅臣さんのことしか見ていないってわけですね。
気持ちはわかりますけど。
Re: お幸せに・・・
コメントきえ | URL | 2010-03-20-Sat 23:00 [編集]
甲斐様
こんばんは。
あと数話で完結に向かうことができそうです。
(まだ書いていないのでなんとも言えませんが)

> ついに両思いを確認できて幸せの極み!!
> ってところでしたが、鹿沼くんたら雅臣さんのことしか見ていないってわけですね。
> 気持ちはわかりますけど。

イノシシみたいな鹿沼です。
雅臣に気付かれないように、雅臣の背中に『鹿沼のもの』とか書いた張り紙がありそうです。
やっと手に入れたっていう点で、会社でもらぶらぶモード全開だと思います。
努力が報われて、すごーくハイテンションなんじゃないでしょうか。
コメントありがとうございました。
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