居心地が悪いわけではない。
ただ、多少の違和感を感じるというだけ…。
それは確実に宮原に伝わっていたようだった。
彼にとってこれほど屈辱的なことはないだろう。
どこまでも引きずられる過去はいい影響を及ぼさない。
宮原が辞めなければいいのに…と野崎は危惧した。
「じゃ、俺たち帰りますんで…」
気付いたように日野と神戸が、たった一杯のカクテルを飲みほしただけで席を立った。
日野の洞察力は以前にも増したようだ。
「ちょっと安心したんです。水谷さん、このバー、半分やる気無くしていたからどうなったかなぁって。でもちゃんと新しい人入れてくれたし。なんだか継がれたようで嬉しかったです。あ、なんか、すみません。年下の俺がこんなこと言っちゃって…」
日野は水谷と宮原を交互に眺めながら、去りゆくのは惜しいと言った感じを隠さなかった。
それでも今、守るべき場所があるという強みなのか、彼の態度は以前よりも堂々としているような気がした。
ただでさえ、実年齢以上の風格を持つ日野は、6つも離れた神戸と並んでも何の遜色もない。
「潰すかよ。俺が長年手を加えてきた店だぞ」
「ですよね。まだまだ現役で、今後の活躍も期待していますよ」
「年寄り扱いしやがって」
苦笑する水谷に爽やかな笑顔を向けた日野と神戸がカウベルの小さな音を鳴らして姿を消した。
客足はそう多くはないが、着実に売り上げは戻してきている。
定着する人間がいるというのが、この店の顔になるのだろう。
宮原に期待を込めた言葉は彼にも伝わっているはずだった。
「美琴は?もう帰るのか?こんなところまできてウーロン茶って味気ない奴だなぁ」
「明日も業務があると言ったはずです」
「はいはい」
たいして取り合う気もない水谷が奥の事務所へと引っ込んでいく。
野崎はこのまま帰ろうとしていた。
今日するべきことは終えているし、水谷一人でも充分であるほどの処理しか残されていない。
宮原が入って余裕すらあっていいはずだ。
それなのになぜ付き合っているのか、野崎自身不思議に思う所さえあった。
「それでは私も…」
宮原に一度挨拶をして立ち去ろうと腰を上げた野崎に、宮原が立ちふさがった。
水谷が『タチ』だと豪語するだけに認めるような体格がある。
ボディーガードとしても使えそうな強靭な体つきに野崎は一瞬怯んだ。
それでもまだ店の中だ…。
「美琴さんて、オーナーに可愛がられているの?」
囁きにも等しい台詞にかぁぁぁっと頬が火照るのが分かるくらいだった。
そんな立場に落された自身が情けない。
「馬鹿なっ…っ!」
「でもさっき事務所で…」
「それ以上言わないでください。けしかけられただけです。見境がない水谷さんのことは貴方も御存知でしょう?」
「ま、ね…」
見られたことを否定し、何もないと暗に伝えた。
小さく肩を竦めた宮原には、日野同様年下とは思えない潔さがあった。
本当に認めたかどうかに疑問があっても信じるしかないのだろう。
この男も1カ月という期間でどこまで知ったのだろう…。
頭を抱えたくなる現実を思い浮かべながら、野崎は「帰ります」と呟いた。
「簡単にキスとかしちゃうんだ。それを『見境ない』っていうんだよ」
宮原の声が野崎を引き止めた。
にほんブログ村
ただ、多少の違和感を感じるというだけ…。
それは確実に宮原に伝わっていたようだった。
彼にとってこれほど屈辱的なことはないだろう。
どこまでも引きずられる過去はいい影響を及ぼさない。
宮原が辞めなければいいのに…と野崎は危惧した。
「じゃ、俺たち帰りますんで…」
気付いたように日野と神戸が、たった一杯のカクテルを飲みほしただけで席を立った。
日野の洞察力は以前にも増したようだ。
「ちょっと安心したんです。水谷さん、このバー、半分やる気無くしていたからどうなったかなぁって。でもちゃんと新しい人入れてくれたし。なんだか継がれたようで嬉しかったです。あ、なんか、すみません。年下の俺がこんなこと言っちゃって…」
日野は水谷と宮原を交互に眺めながら、去りゆくのは惜しいと言った感じを隠さなかった。
それでも今、守るべき場所があるという強みなのか、彼の態度は以前よりも堂々としているような気がした。
ただでさえ、実年齢以上の風格を持つ日野は、6つも離れた神戸と並んでも何の遜色もない。
「潰すかよ。俺が長年手を加えてきた店だぞ」
「ですよね。まだまだ現役で、今後の活躍も期待していますよ」
「年寄り扱いしやがって」
苦笑する水谷に爽やかな笑顔を向けた日野と神戸がカウベルの小さな音を鳴らして姿を消した。
客足はそう多くはないが、着実に売り上げは戻してきている。
定着する人間がいるというのが、この店の顔になるのだろう。
宮原に期待を込めた言葉は彼にも伝わっているはずだった。
「美琴は?もう帰るのか?こんなところまできてウーロン茶って味気ない奴だなぁ」
「明日も業務があると言ったはずです」
「はいはい」
たいして取り合う気もない水谷が奥の事務所へと引っ込んでいく。
野崎はこのまま帰ろうとしていた。
今日するべきことは終えているし、水谷一人でも充分であるほどの処理しか残されていない。
宮原が入って余裕すらあっていいはずだ。
それなのになぜ付き合っているのか、野崎自身不思議に思う所さえあった。
「それでは私も…」
宮原に一度挨拶をして立ち去ろうと腰を上げた野崎に、宮原が立ちふさがった。
水谷が『タチ』だと豪語するだけに認めるような体格がある。
ボディーガードとしても使えそうな強靭な体つきに野崎は一瞬怯んだ。
それでもまだ店の中だ…。
「美琴さんて、オーナーに可愛がられているの?」
囁きにも等しい台詞にかぁぁぁっと頬が火照るのが分かるくらいだった。
そんな立場に落された自身が情けない。
「馬鹿なっ…っ!」
「でもさっき事務所で…」
「それ以上言わないでください。けしかけられただけです。見境がない水谷さんのことは貴方も御存知でしょう?」
「ま、ね…」
見られたことを否定し、何もないと暗に伝えた。
小さく肩を竦めた宮原には、日野同様年下とは思えない潔さがあった。
本当に認めたかどうかに疑問があっても信じるしかないのだろう。
この男も1カ月という期間でどこまで知ったのだろう…。
頭を抱えたくなる現実を思い浮かべながら、野崎は「帰ります」と呟いた。
「簡単にキスとかしちゃうんだ。それを『見境ない』っていうんだよ」
宮原の声が野崎を引き止めた。
にほんブログ村
- 関連記事
あ、日野ちゃんにもわかりましたね。微妙な関係。
愛されている自信が溢れてるのでしょうか。
苦労人の日野ちゃんなだけあって、大人びている外見と精神年齢。
その上年上の恋人にイロイロ(エロエロ)教えてもらって、また一段と大人になったって訳ね。
突っかかるなー宮原。
なんだよー、文句があるのかあ~、だから何!!
愛されている自信が溢れてるのでしょうか。
苦労人の日野ちゃんなだけあって、大人びている外見と精神年齢。
その上年上の恋人にイロイロ(エロエロ)教えてもらって、また一段と大人になったって訳ね。
突っかかるなー宮原。
なんだよー、文句があるのかあ~、だから何!!
甲斐様
こんばんは。
> あ、日野ちゃんにもわかりましたね。微妙な関係。
日野ちゃん、何気に人間観察している人なので分かっちゃったみたいです。
いっぱいオトコのアレコレ教えられたし。
> 突っかかるなー宮原。
> なんだよー、文句があるのかあ~、だから何!!
お、おこってる…。
大人の関係の水谷VS野崎に、少々言いたいことがあったみたいです。
せ、静観してやってください。
(オドオドオド…オロオロオロオロ…)
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> あ、日野ちゃんにもわかりましたね。微妙な関係。
日野ちゃん、何気に人間観察している人なので分かっちゃったみたいです。
いっぱいオトコのアレコレ教えられたし。
> 突っかかるなー宮原。
> なんだよー、文句があるのかあ~、だから何!!
お、おこってる…。
大人の関係の水谷VS野崎に、少々言いたいことがあったみたいです。
せ、静観してやってください。
(オドオドオド…オロオロオロオロ…)
コメントありがとうございました。
| ホーム |