定番のメニューはあったが、新しく生み出されていく数は非常に多い。
羽生はすぐに統計を取り、出数やアンケートを調べつくしていた。
客の要望で即座に違った料理に作り変えていけるところは、さすが「料理人」と言えるだけある。
すでに味が決まってしまっているファミレスとは、抱いている感覚が全く異なっていた。
新メニューが決まるまでには数多くの試食会が繰り返された。
見た目はもちろん、味に至るまで、従業員全員でコメントを言い合う。
特に月替わりのコース料理には力が入れられた。店の看板でもあるのだから当然の話。
大概は昼の休憩中の、食事代わりに出された。
数種の料理はそれぞれに取り分けられていく。
「タカ、こっちは?」
孝朗の口元に圭吾が、孝朗が食べていたのとは違うソースを絡めたステーキを、フォークに刺して持ってきた。
圭吾がさりげなく(?)関係をバラしてしまってから、孝朗の気負いはなくなった。
普段通りに話もするようになったし、自然と近付いたりもする。
それはいつもの行動のようでもあった。
孝朗は大人しく目の前に来たステーキ肉を口に入れた。
「どう?」
「お―――い」
先程食べていたものとの違いを尋ねられる言葉と、隣から掛けられる言葉が重なる。
「場所考えてくださ―――い」
茶化される声で我に返った。
本気で咎めたいわけではなく、からかいたいだけなのが、クスクスと笑われている姿で知れる。
先程自分が取ってしまった行動に、孝朗は瞬時に真っ赤になった。
少なくとも、皆が見ている前では、皿にでも乗せてもらうべきだったのだと気付くが後の祭りだ。
「タカくん、これは?」
更に隣にいたスタッフが違うものを差し出してくる。
馴染んでくれば、堅苦しく名字で呼びあっていた間もいつの間にか変わり、孝朗を名前で呼ぶ人も増えた。
その親しみは嬉しかったが、今は状況が違う。
明らかに圭吾と共に調子に乗った連中だった。
逆の意味では、これくらいのことは普通にしてしまうことなのだ、という抵抗を持たせない動きなのか…。
恋愛ごとに疎いのはすでに知られた話で、過剰なくらいのスキンシップを皆が謀ってくる。
もちろん、圭吾を不機嫌にさせるようなことはなく、その辺はきちんとわきまえていた。
「ダメですよ。タカに食べさせるの、俺なんだから」
「圭吾っ!!」
「今は半分お仕事中。独り占めは帰ってからでいいだろ」
「あ、俺も食べさせてあげたい」
「孝朗君、今の表情、可愛かったよね」
口々に飛んでくる台詞にますます顔が火照っていく。
こういったことに免疫がないのだから勘弁してほしい、とも言えないことだったが…。
ジロリと目の前の圭吾を睨み上げるが、全く意に介していない。
それどころか、二人の関係を見せつけてやれた、くらいの余裕を持っている。
今更スタッフたちに隠すことはないけれど、それでも孝朗にはすべてのハードルが高いのだ。
「おいおい。しっかり味を見ているんだろうな」
からかう声が飛び交う中を、どっしりとした風格で越谷がたしなめる。
孝朗を救いだしてくれる温かみがあった。
休憩時間中でもあるのだから、気安く接していていいのだが、ただ現在は今後の店の行方を語る時でもある。
こんなことで孝朗の口を閉ざしたくないという意思も見えた。
二人を温かな目で見守ってくれながら、居やすい環境を提供してくれる主。
自分が上手く対処できるようになれば、この場の雰囲気ももっと良いものに変わるのだろうか…。
すぐに羞恥を纏う自分の不甲斐なさを時々思う。
だからって到底圭吾のように、堂々とした態度をとれる神経は持てないだろうけど…。
でも居心地がいい。
圭吾の腕の中にいるのと同じくらい、この店の全てが自然で素直で、孝朗を解放してくれる。
照れてはいたけれど、心の中で圭吾に、いく度目か分からない感謝の言葉を呟いていた。
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ぼちぼち最終回に向かいます。
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羽生はすぐに統計を取り、出数やアンケートを調べつくしていた。
客の要望で即座に違った料理に作り変えていけるところは、さすが「料理人」と言えるだけある。
すでに味が決まってしまっているファミレスとは、抱いている感覚が全く異なっていた。
新メニューが決まるまでには数多くの試食会が繰り返された。
見た目はもちろん、味に至るまで、従業員全員でコメントを言い合う。
特に月替わりのコース料理には力が入れられた。店の看板でもあるのだから当然の話。
大概は昼の休憩中の、食事代わりに出された。
数種の料理はそれぞれに取り分けられていく。
「タカ、こっちは?」
孝朗の口元に圭吾が、孝朗が食べていたのとは違うソースを絡めたステーキを、フォークに刺して持ってきた。
圭吾がさりげなく(?)関係をバラしてしまってから、孝朗の気負いはなくなった。
普段通りに話もするようになったし、自然と近付いたりもする。
それはいつもの行動のようでもあった。
孝朗は大人しく目の前に来たステーキ肉を口に入れた。
「どう?」
「お―――い」
先程食べていたものとの違いを尋ねられる言葉と、隣から掛けられる言葉が重なる。
「場所考えてくださ―――い」
茶化される声で我に返った。
本気で咎めたいわけではなく、からかいたいだけなのが、クスクスと笑われている姿で知れる。
先程自分が取ってしまった行動に、孝朗は瞬時に真っ赤になった。
少なくとも、皆が見ている前では、皿にでも乗せてもらうべきだったのだと気付くが後の祭りだ。
「タカくん、これは?」
更に隣にいたスタッフが違うものを差し出してくる。
馴染んでくれば、堅苦しく名字で呼びあっていた間もいつの間にか変わり、孝朗を名前で呼ぶ人も増えた。
その親しみは嬉しかったが、今は状況が違う。
明らかに圭吾と共に調子に乗った連中だった。
逆の意味では、これくらいのことは普通にしてしまうことなのだ、という抵抗を持たせない動きなのか…。
恋愛ごとに疎いのはすでに知られた話で、過剰なくらいのスキンシップを皆が謀ってくる。
もちろん、圭吾を不機嫌にさせるようなことはなく、その辺はきちんとわきまえていた。
「ダメですよ。タカに食べさせるの、俺なんだから」
「圭吾っ!!」
「今は半分お仕事中。独り占めは帰ってからでいいだろ」
「あ、俺も食べさせてあげたい」
「孝朗君、今の表情、可愛かったよね」
口々に飛んでくる台詞にますます顔が火照っていく。
こういったことに免疫がないのだから勘弁してほしい、とも言えないことだったが…。
ジロリと目の前の圭吾を睨み上げるが、全く意に介していない。
それどころか、二人の関係を見せつけてやれた、くらいの余裕を持っている。
今更スタッフたちに隠すことはないけれど、それでも孝朗にはすべてのハードルが高いのだ。
「おいおい。しっかり味を見ているんだろうな」
からかう声が飛び交う中を、どっしりとした風格で越谷がたしなめる。
孝朗を救いだしてくれる温かみがあった。
休憩時間中でもあるのだから、気安く接していていいのだが、ただ現在は今後の店の行方を語る時でもある。
こんなことで孝朗の口を閉ざしたくないという意思も見えた。
二人を温かな目で見守ってくれながら、居やすい環境を提供してくれる主。
自分が上手く対処できるようになれば、この場の雰囲気ももっと良いものに変わるのだろうか…。
すぐに羞恥を纏う自分の不甲斐なさを時々思う。
だからって到底圭吾のように、堂々とした態度をとれる神経は持てないだろうけど…。
でも居心地がいい。
圭吾の腕の中にいるのと同じくらい、この店の全てが自然で素直で、孝朗を解放してくれる。
照れてはいたけれど、心の中で圭吾に、いく度目か分からない感謝の言葉を呟いていた。
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