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BLの丘
チョキチョキ 10
2011-06-10-Fri  CATEGORY: チョキチョキ
入店に際しては当然緊張感を持ったが、慣れた熊谷と羽生のおかげもあってみんなの中にもすんなりと入っていける。
他のスタッフの人たちも気さくで春日が馴染むのもすぐだった。もともと接客慣れしていることもあるから、スタッフとの会話にも抵抗はあまりない。
熊谷が堅苦しく気を使わずに、自然な姿で存在している理由が、なんとなく知れるようだった。そして、変われた理由も。
本庄も明るかった。好きなことができる喜びが、そのまま表情と動きに表れているようだ。
本庄がいたからこそ、今の熊谷がある。生まれ変わったと言えそうな二人と再会し、また共に働けることは、春日にとっても新しい刺激だった。

閉店後、春日は羽生の終わりを待っていた。
羽生のマンションは徒歩で20分くらいの場所にある。
朝は他の従業員よりも早く、店に顔を出す羽生だったから別行動だったが、夜は「何かあったら困るから」と言われて、一緒に帰ることになっていた。
いい年をした大人の男に『何か』があるとはとても思えなかったが、熊谷にまで「それがいい」と言われてしまえば、従う気にもなる。
確かに繁華街という場所にあり、夜ともなれば酔っ払いや集団でたむろしている人間も多く見かけたから、羽生の存在はありがたかった。

覚えることはたくさんあり、目まぐるしい日々を送る。
労働を終えた後の更衣室には、同じように本庄の終わりを待つ熊谷の姿があった。
「どう?慣れた?」
「はい…、と言えるのかな。まだまだですけど」
「昔から所沢君は人当たりがいいものね」
「そんなことないです~」
長椅子に座って一頻り雑談を交わしていると、本庄が入ってくる。
定番の「お疲れ様」の挨拶をしたあと、春日を気遣ってくれるのか、二人とも残ってくれた。
これでも羽生の上がりが早くなったのだという。閉店前から前倒しで事務仕事を片付けているから、らしい。
昔話や今の状況を語れる時間は楽しくもあった。
しばらくすると羽生が顔を出してくる。
「お待たせ。孝朗君たち、今日もありがとう」
「いえ。いいんですよ。じゃあ、圭吾、帰ろっかー」
役目を終えた、と言った感じで熊谷と本庄が出て行く後姿を見送る。
本当は付き合って待たせてしまうことに引け目はあるのだが、熊谷のことだからどう言っても春日の言い分など聞き入れないだろう。
それに、春日を一人にするようなことはしないとは、昔からの付き合いで良く知ることだったから、こちらからも特に口にはしなかった。

「さあ、俺たちも帰ろう」
羽生に促されて春日も腰を上げる。
当然のことだが、プライベートを含めて、今一番会話が多いのが羽生だった。
仕事のことはもちろん、生活の面でも色々と気遣ってくれている。ただ、昔の熊谷のように、明らかに分かる硬さではなく、全てがスマートな対応で、後から気付かされることも多い。
そんなところに人を見る観察眼の良さを感じる。だからこそ、店内をくまなく仕切れる統率力を持つのだろう。
「春日君。明日、休みだし、たまには一緒に飲む?」
歩き出した道の途中で羽生が問いかけてくる。
マンションに帰れば、それぞれ風呂に入り、リビングで少しばかり寛いだ後、自室にこもってしまうのが常だった。
最初の頃こそ、羽生の手前、どう振舞っていいのかと困惑していたが、あくまでも『ルームシェア』と言い切り、後から入り込んだ、のではなく、羽生が呼んだのだ、と言い聞かせられた。
顔を合わせていれば気が休まらないかと思って自室に引っ込んでいたのだが、たまにこうして声をかけてきて、リビングも春日が自由に使っていい場所だと教えてくる。
そのさりげなさが、余計に春日の気を惹いていた。

春日が頷くと羽生が嬉しそうに笑みを浮かべる。
「この前、いいワインを貰ったんだ。あぁ、つまみを何か買っていこうか」
羽生は深夜までやっているスーパーへと足の向きを変えた。
翌日の食材を買う目的もあるらしく、春日も大人しく付き合う。
冷蔵庫や乾物庫のスペースも春日が使いやすいようにと空けてくれて、自由に開閉できるようにしてくれた。
基本的に食材は許可なく使っていいことになっている。とはいえ、自炊するほど家事に慣れていない春日だったが…。

羽生の部屋に収まれて良かったな、と思う。
仮に一人で住める場所を見つけられたとしても、右も左も分からない場所で、しかも慣れない仕事に追われて毎日はキツキツだっただろう。
少しでも安心させてくれようとする人が近くにいることのありがたさ。懐の大きさがしっとりと春日を包んでくれる。
だけど、いつか、出て行かなければならない…という思いは、常に春日の中にあった。

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羽生さん、堀のように固めてますね…。


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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-06-10-Fri 16:58 [編集]
羽生さん、やっぱり大人ですよね
きっちり計画たてて気づかぬうちに絡め取るっていうのは、気の長い話じゃないですか
若さで一気に押しまくるとか
速効気持を伝えて・・・じゃないところが
大人の余裕と自信!?かな
いい香りに誘われて近づいたらぱっくり食べちゃう”食虫植物”羽生さん
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-06-11-Sat 07:38 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 羽生さん、やっぱり大人ですよね
> きっちり計画たてて気づかぬうちに絡め取るっていうのは、気の長い話じゃないですか
> 若さで一気に押しまくるとか
> 速効気持を伝えて・・・じゃないところが
> 大人の余裕と自信!?かな
> いい香りに誘われて近づいたらぱっくり食べちゃう”食虫植物”羽生さん

いや~、すごい人ですね~。こんなに回りくどいやり方しちゃって~(笑)
でもちゃんと肝心なところは押さえている。
嫌われないように、そこはもう…。
不慣れな土地でホームシックにでもなりそうな春日をしっかり支えてます。
いい香り、撒きまくってますね~。
コメントありがとうございました。
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