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BLの丘
チョキチョキ 9
2011-06-09-Thu  CATEGORY: チョキチョキ
その後、羽生と会う機会は何度もあった。
どうにか引き抜きたい意思の表れでもあるかのように、連絡を密に取ってくる。
熊谷からは、羽生に話を聞いたと思われるそばから、誘いの言葉がかかってきた。
もしかしたら羽生に言われてのことなのか、と一瞬疑いはしたが、今の春日の立場などを良く知るからこそ、心配してくれている気持ちが伝わってくるものばかりだった。

条件はこの上なくいい。
何よりかつて信頼を置いた熊谷と、今一度同じ土俵に立てることの嬉しさがあった。
他のスタッフとどう触れあえるかの心配はありはしても、熊谷がいてくれればすべてが丸く収まるような安心感がある。
そこに加えて、羽生の人柄の良さだ。
店を思う気持ちが一緒であるから、諍いなども起こらないのだろう。
常に人が入れ替わるばかりのファミレスで働くのとは、違ってくるのだという意気込みも芽生えてくる。
本庄の部屋で、最後に皆で一緒に飲んだ日、本庄が語った『自分の力を試す』夢が、春日の中でも理解できた。

ただ、問題が一つあった。
春日は実家暮らしだ。羽生の店まで通うにしても、車で片道1時間以上の時間がかかる。
移動時間と交通費を考えたら、近くに引っ越した方が良いと思えた。
レストランは繁華街の中に建っていた。
近く、とはいっても、安い物件を探せば、かなり老朽化したものか、距離が離れてしまうものばかりだ。
今後をずっと…と考えれば、一時しのぎの部屋は避けたくもある。
そんな悩みを熊谷に相談すれば、必然的に羽生に話が行きわたり、地元に馴染んだ伝手で幾つもの物件案内を持ってきてくれた。
緊張感もなく話ができるようになった頃、見せられた物件のコピーを手にしながら、やはり春日は唸ってしまう。
待ち合わせた喫茶店でコーヒーをすすりながら、羽生が「まだ高い?」と問いかけてくる。
羽生は店からの距離を一番に気にしていた。離れてしまえば引っ越す意味がないということらしい。
熊谷たちが徒歩圏内に住んでいることもあるのだろうか。
家賃、築年数、間取り、設備…。あれこれと書かれている紙を見つめるが、実家にも微々たる金額しか入れてこなかった春日にとっては、高額な金額にしか見えなかった。
だからといって、給料が上がるわけでもない。

そんな時、羽生が一つの提案を持ち出した。
「ねぇ。もし良かったらうちに住む?」
「はい?!」
突然の言葉は理解するまでに相当な時間を要している。
「俺、一人暮らしだし、マンションに部屋は余っている。引っ越しするとなれば、家具や電化製品とか生活に必要なものを揃えるだけでもかなりの出費があるよ。それも痛手じゃないかな。住む場所はこの後ゆっくり探すとして、とにかくうちの店に来ない?」
すでに時期が迫っていることを表していた。
そして決断させたがっていた。
今、春日の中で一番問題視されているのが『住処』であることを、充分なくらいに羽生は承知している。
それさえクリアしてしまえば、戦力として引き込めるわけだ。
「で、でも、羽生さんに御迷惑じゃ…」
「全然。全く。寧ろ、春日君みたいな子なら大歓迎だけど」
店にとって、なのか、羽生にとって、なのか、かなり微妙な発言ではあったが、自分から言い出すのも気が引けてそれ以上は問えなかった。
いつぞや、皆野と呼ばれた男と羽生が小競り合いをしていたことが頭を掠めたが、その場だけの冗談だったと聞き流す。
羽生にとって、経営していく以上、取り込みたい人間でしかない、のだと…。

結局羽生に背を押され、ファミレスを退社し、羽生のマンションに強引に連れ去られた形になった。
3LDKという間取りのマンションはすでに買い上げで、あとはローンを残しているだけらしい。
一室は羽生の寝室であり、一室は仕事に関する書斎となっていた。
ほとんど物置と化していた部屋を空けてくれて、そこに春日は押し込まれる。
ご丁寧に部屋に鍵まで付けてくれたくらいで、共有スペースとなったリビングやキッチンは、「好きに使っていいから」と、さらりと流されて終わった。
「ローン返済が楽になりそうだ」と羽生は笑っていたが…。
実家に入れていた金額とほぼ同額の、家賃とはとても言えないものを支払うことと、駐車スペースを自分で確保すること、それだけの条件での引っ越しとなる。

そこまでして必要と思われるような人間じゃないんだけどな~…と春日は内心で呟くが、紹介された店の雰囲気はとても体に馴染むもので…。
一刻も早くこの場に収まりたいと思わせるものを纏っていた。
そのことが、物件を探すよりも、とりあえず引っ越し、と春日を急かせたのかもしれない。

こうして、羽生との同居生活が始まった。

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羽生さ――――んΣ( ̄□ ̄|||)

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-06-09-Thu 17:50 [編集]
羽生さん
着々と計画を進めているように見えるのは私だけでしょうか
春日クンがじわじわと絡めとられていく~~
え?いいのか?
気がついたときにはもう逃げられない・・・みたいな
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-06-10-Fri 08:56 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 羽生さん
> 着々と計画を進めているように見えるのは私だけでしょうか
> 春日クンがじわじわと絡めとられていく~~
> え?いいのか?
> 気がついたときにはもう逃げられない・・・みたいな

ヽ(゚∀゚)ノそのとおりです!!!
計画性高いですね~羽生~。
きっと今までいっぱい会ってきた中で春日の性格、ほとんど見抜いちゃっているんですよ~。
大丈夫かな~春日…。
気付いた時には、もう…(゚∀゚)ニパッ
コメントありがとうございました。
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