バスタオルを巻いただけ…という格好でもいられなくて…。
持参した着替えを身につけて戻れば、すっかり居座るつもりだった態度を苦笑される。
今でこそ、受け入れてくれた信楽の存在があるけれど。
それでも嫌うこともなく、自然な形で、その場にいることを認めてくれた。
信楽は『簡単』と言ったが、味をつけて漬けこまれた焼き肉と野菜炒め、味噌汁やご飯、小鉢の漬物、なにをとっても食欲旺盛な旭には満足できるものだった。
食べっぷりを見ては「若さだね」と、また褒めてくれる。
信楽が作ってくれた料理を残すなどもったいなくてできないことだ。
「こんなに美味しいご飯、いくらでも、何杯でもっ」
「うちの台所事情が火の車だよ」
クスクスと笑って、だけど誰かと食を共にできる温かさを含んでいた。
一人で食べる食事より、会話ができる相手がいたほうがいい。
さらに、自分で作った料理を味わって感想も言ってくれて…。
憧れなのだろうか。忙しかった伊吹とは持てなかった、すれ違いの時間。
「ちゃんとご飯費(そこは『食費』というのだけれど…。旭の突発的な口では…。)いれるしっ。…で、できるだけ、家事も手伝うからっ」
もっとそばにいたい…。その願望は確実に信楽に届いているはずだった。
伊吹は家の中のことを何もしなかったらしいが、自分はちがう。
できないかもしれないが、努力だけはする。
部屋を一巡して、自分の住む空間とは明らかに違う綺麗さ…。
『一人分、二人分、作ることはさほど変わらない』と信楽は旭の食事分を簡単に引き受けてくれた。
夕食を食べるだけではなく、引っ越しをしてきたいという欲求も、「そうだね」と笑ってくれる。
“恋人”となって、そばにいることは、不自然なものではない。
受け入れてくれる全てで、旭は信楽が自分のものになったのだと、改めて実感した。
心の中にふわふわと浮いてくる喜ばしさは、悩み続けた一日の出来事を、何もかも払拭してくれた。
夕食を食べ終わって、まだ仕事が残っているという信楽の後を旭も追った。
リビングと寝室くらいしか足を踏み入れたことがなかったが、その反対側に仕事部屋と思われる部屋があった。
壁側に二台のパソコンが置かれた机と、大量の本が詰められた本棚。
そしてなぜか、ここにもシングルベッドがあった。寝具こそなかったが、布団の一枚でもかぶれば眠れる状態だ。
様々な資料なのだろう。開かれたままの姿を見れば、突然の訪問に信楽の邪魔をしてしまったのだと気付く。
家で仕事をする…、とは、常に邪魔になりかねないのだ。
一緒に住む、となったときに、口から零れ落ちるような旭の存在は、鬱陶しいと思われないだろうか…。
言葉を慎んだ伊吹の存在が、なんだか分かるようでもあった。
勝手についてきてしまったけれど…。
「旭。暇だったら本でも読んでいる?寝ていてもいいよ」
嫌がっていない信楽の態度にホッとしてしまう。
「うん…。…ねぇ、どうして、ここにもベッドがあるの?」
腰を落ち着ける場所がそこしか見当たらなかった旭は、座ってみたのだが、『寝室』を持つのに、ある存在は違和感でしかない。
少し、口を濁らせた信楽がいた。
「それは…。伊吹が使っていたんだ…。伊吹が越してくるのでこの部屋を空けたのだけれど…。今は元に戻して仕事と分けたんだ…」
信楽が呼びこんだとは聞いた話だ。以前と同じスタイルに戻したのだろう。
だが伊吹は引っ越しをした。
持って出なかったことも疑問だったが、まだ残している信楽にも不思議感が湧く。
「なんでっ?捨てちゃえばいいじゃないっ。置いていったこんなのっ」
伊吹を思い出させるものなど、この家のどこにも置きたくない。
ましてや『寝た』…とは…。ここでふたりの交わりもあったのだろうか…。
旭にしてみたらまさに『こんなもの』…である。
旭の心情を悟るのか、苦笑いを浮かべた信楽が、また「そうだね…」と静かに返事をしてきた。
旭は伊吹を嫌っている。でも信楽の中では、違う思いが渦巻いている。
悔しい…。割り切った大人になれないようなもどかしさすら浮かんだ。
「信楽さん…」
咄嗟に抱きついてしまった体を、そっと引き剥がされた。
宥めるようにくちづけが落とされる。
「不安にさせないようにする…。甘えてくれるのは嬉しいんだけれど…。少しだけ俺の時間をくれ…」
気分の切り替えだけではない。
旭の大事な部分を捧げた時点で、信楽は旭のものだ。
今言う、時間は、仕事のこと。信楽の”勤務時間”は終わっていない。
聞き分けの良い子になるためにも、旭は頷いた。
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持参した着替えを身につけて戻れば、すっかり居座るつもりだった態度を苦笑される。
今でこそ、受け入れてくれた信楽の存在があるけれど。
それでも嫌うこともなく、自然な形で、その場にいることを認めてくれた。
信楽は『簡単』と言ったが、味をつけて漬けこまれた焼き肉と野菜炒め、味噌汁やご飯、小鉢の漬物、なにをとっても食欲旺盛な旭には満足できるものだった。
食べっぷりを見ては「若さだね」と、また褒めてくれる。
信楽が作ってくれた料理を残すなどもったいなくてできないことだ。
「こんなに美味しいご飯、いくらでも、何杯でもっ」
「うちの台所事情が火の車だよ」
クスクスと笑って、だけど誰かと食を共にできる温かさを含んでいた。
一人で食べる食事より、会話ができる相手がいたほうがいい。
さらに、自分で作った料理を味わって感想も言ってくれて…。
憧れなのだろうか。忙しかった伊吹とは持てなかった、すれ違いの時間。
「ちゃんとご飯費(そこは『食費』というのだけれど…。旭の突発的な口では…。)いれるしっ。…で、できるだけ、家事も手伝うからっ」
もっとそばにいたい…。その願望は確実に信楽に届いているはずだった。
伊吹は家の中のことを何もしなかったらしいが、自分はちがう。
できないかもしれないが、努力だけはする。
部屋を一巡して、自分の住む空間とは明らかに違う綺麗さ…。
『一人分、二人分、作ることはさほど変わらない』と信楽は旭の食事分を簡単に引き受けてくれた。
夕食を食べるだけではなく、引っ越しをしてきたいという欲求も、「そうだね」と笑ってくれる。
“恋人”となって、そばにいることは、不自然なものではない。
受け入れてくれる全てで、旭は信楽が自分のものになったのだと、改めて実感した。
心の中にふわふわと浮いてくる喜ばしさは、悩み続けた一日の出来事を、何もかも払拭してくれた。
夕食を食べ終わって、まだ仕事が残っているという信楽の後を旭も追った。
リビングと寝室くらいしか足を踏み入れたことがなかったが、その反対側に仕事部屋と思われる部屋があった。
壁側に二台のパソコンが置かれた机と、大量の本が詰められた本棚。
そしてなぜか、ここにもシングルベッドがあった。寝具こそなかったが、布団の一枚でもかぶれば眠れる状態だ。
様々な資料なのだろう。開かれたままの姿を見れば、突然の訪問に信楽の邪魔をしてしまったのだと気付く。
家で仕事をする…、とは、常に邪魔になりかねないのだ。
一緒に住む、となったときに、口から零れ落ちるような旭の存在は、鬱陶しいと思われないだろうか…。
言葉を慎んだ伊吹の存在が、なんだか分かるようでもあった。
勝手についてきてしまったけれど…。
「旭。暇だったら本でも読んでいる?寝ていてもいいよ」
嫌がっていない信楽の態度にホッとしてしまう。
「うん…。…ねぇ、どうして、ここにもベッドがあるの?」
腰を落ち着ける場所がそこしか見当たらなかった旭は、座ってみたのだが、『寝室』を持つのに、ある存在は違和感でしかない。
少し、口を濁らせた信楽がいた。
「それは…。伊吹が使っていたんだ…。伊吹が越してくるのでこの部屋を空けたのだけれど…。今は元に戻して仕事と分けたんだ…」
信楽が呼びこんだとは聞いた話だ。以前と同じスタイルに戻したのだろう。
だが伊吹は引っ越しをした。
持って出なかったことも疑問だったが、まだ残している信楽にも不思議感が湧く。
「なんでっ?捨てちゃえばいいじゃないっ。置いていったこんなのっ」
伊吹を思い出させるものなど、この家のどこにも置きたくない。
ましてや『寝た』…とは…。ここでふたりの交わりもあったのだろうか…。
旭にしてみたらまさに『こんなもの』…である。
旭の心情を悟るのか、苦笑いを浮かべた信楽が、また「そうだね…」と静かに返事をしてきた。
旭は伊吹を嫌っている。でも信楽の中では、違う思いが渦巻いている。
悔しい…。割り切った大人になれないようなもどかしさすら浮かんだ。
「信楽さん…」
咄嗟に抱きついてしまった体を、そっと引き剥がされた。
宥めるようにくちづけが落とされる。
「不安にさせないようにする…。甘えてくれるのは嬉しいんだけれど…。少しだけ俺の時間をくれ…」
気分の切り替えだけではない。
旭の大事な部分を捧げた時点で、信楽は旭のものだ。
今言う、時間は、仕事のこと。信楽の”勤務時間”は終わっていない。
聞き分けの良い子になるためにも、旭は頷いた。
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- 関連記事
信楽から この部屋から感じる伊吹の名残り
分かっていても 如何しても駄々っ子みたいになっちゃうんだね、旭。
でもね、伊吹と信楽が過ごした年月を考えれば 仕方ない事でしょ?
旭が これから 全て消せばいい事なんだからd(`ゝω・´)キャピィ☆
ジェットコースター・ラブな旭に 信楽が振り落とされそうで もう少し スピードダウンを してあげて!
信楽は、もう旭のものなんだから♪
(*゚Д゚)/ ダ( ノ゚Д゚)ヨd(´∀`*)ネ!!...byebye☆
分かっていても 如何しても駄々っ子みたいになっちゃうんだね、旭。
でもね、伊吹と信楽が過ごした年月を考えれば 仕方ない事でしょ?
旭が これから 全て消せばいい事なんだからd(`ゝω・´)キャピィ☆
ジェットコースター・ラブな旭に 信楽が振り落とされそうで もう少し スピードダウンを してあげて!
信楽は、もう旭のものなんだから♪
(*゚Д゚)/ ダ( ノ゚Д゚)ヨd(´∀`*)ネ!!...byebye☆
けいったんさんの言う通り。
とりあえず(え?)旭の信楽さんになったんだし。
良い子にしてなさい、旭。
伊吹とも仲直りしてね。
仲直り?じゃないか。
何か、今日は得したなあ。
二つも読めた\(^o^)/
とりあえず(え?)旭の信楽さんになったんだし。
良い子にしてなさい、旭。
伊吹とも仲直りしてね。
仲直り?じゃないか。
何か、今日は得したなあ。
二つも読めた\(^o^)/
けいったん様
おはようございます。
> 信楽から この部屋から感じる伊吹の名残り
> 分かっていても 如何しても駄々っ子みたいになっちゃうんだね、旭。
>
> でもね、伊吹と信楽が過ごした年月を考えれば 仕方ない事でしょ?
> 旭が これから 全て消せばいい事なんだからd(`ゝω・´)キャピィ☆
過去のことは知ってはいてもね~。
人物を知るだけに、そして恨んでいるだけに、雰囲気だけも嫌なんですよね~。
割り切れないお子ちゃまです。
信楽に包んでもらいましょう。
自信がつけばどうでもよくなっちゃうことでしょう。
> ジェットコースター・ラブな旭に 信楽が振り落とされそうで もう少し スピードダウンを してあげて!
> 信楽は、もう旭のものなんだから♪
> (*゚Д゚)/ ダ( ノ゚Д゚)ヨd(´∀`*)ネ!!...byebye☆
ジェットコースターラブ(爆)
ほんとですよね~。
若い子の勢いについていけないと言われちゃいますよ。
伊吹と比べたら静と動の違いですからね。(伊吹も『静』とは言えない動きだったけど…)
その勢いがあってこその旭なんだろうけれど。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 信楽から この部屋から感じる伊吹の名残り
> 分かっていても 如何しても駄々っ子みたいになっちゃうんだね、旭。
>
> でもね、伊吹と信楽が過ごした年月を考えれば 仕方ない事でしょ?
> 旭が これから 全て消せばいい事なんだからd(`ゝω・´)キャピィ☆
過去のことは知ってはいてもね~。
人物を知るだけに、そして恨んでいるだけに、雰囲気だけも嫌なんですよね~。
割り切れないお子ちゃまです。
信楽に包んでもらいましょう。
自信がつけばどうでもよくなっちゃうことでしょう。
> ジェットコースター・ラブな旭に 信楽が振り落とされそうで もう少し スピードダウンを してあげて!
> 信楽は、もう旭のものなんだから♪
> (*゚Д゚)/ ダ( ノ゚Д゚)ヨd(´∀`*)ネ!!...byebye☆
ジェットコースターラブ(爆)
ほんとですよね~。
若い子の勢いについていけないと言われちゃいますよ。
伊吹と比べたら静と動の違いですからね。(伊吹も『静』とは言えない動きだったけど…)
その勢いがあってこその旭なんだろうけれど。
コメントありがとうございました。
ちー様
こちらにもありがとうです。
> けいったんさんの言う通り。
> とりあえず(え?)旭の信楽さんになったんだし。
> 良い子にしてなさい、旭。
>
> 伊吹とも仲直りしてね。
> 仲直り?じゃないか。
良い子になる旭です。
信楽の言うことは大人しく聞くから~。
まだまだ伊吹に対しての憎しみは消えないですね。
信楽の気持ちを信じてあげましょう。
> 何か、今日は得したなあ。
> 二つも読めた\(^o^)/
勢いだけで書いてます(汗)
でも喜んでいただけて良かったです。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうです。
> けいったんさんの言う通り。
> とりあえず(え?)旭の信楽さんになったんだし。
> 良い子にしてなさい、旭。
>
> 伊吹とも仲直りしてね。
> 仲直り?じゃないか。
良い子になる旭です。
信楽の言うことは大人しく聞くから~。
まだまだ伊吹に対しての憎しみは消えないですね。
信楽の気持ちを信じてあげましょう。
> 何か、今日は得したなあ。
> 二つも読めた\(^o^)/
勢いだけで書いてます(汗)
でも喜んでいただけて良かったです。
コメントありがとうございました。
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