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BLの丘
ふたり 32
2012-05-12-Sat  CATEGORY: ふたり
無視、しようとした。
恨みや憎しみなどたくさんありはするけれど、少しでも傾いてしまったのは、信楽が旭を受け入れてくれたという自惚れがあるからだろうか。
そして、苦しんでいる伊吹と、何より信楽を知るから…。

「多賀さん…」
「ごめん…。俺、昨日、高島くんに会うべきじゃなかった…」
今更謝られたところで、傷ついた信楽のことを思えば、また酷い言葉を投げつけそうだった。
仕事上の何かを無視しても、二度と顔を合わせたくない人物に違いない。
だが、”信楽のことで”と要件も言わずに呼びつけたのは旭だ。
信楽に正直にぶつかって、今となっては、はっきりと過去を語ってくれた伊吹に感謝してもいいくらいなのだろうか…。
悔しさはもちろんある。
だからこそ、伊吹よりも一歩出たのだ、という自尊心が口を開いた。

「別に…。俺、信楽さんの家に引っ越すし、多賀さんが使っていた部屋も俺のものにする。信楽さん、それでいいって言ってくれた。もう、二度と信楽さんに関わらないでっ」
昨日の今日で発される言葉の数々は意外でもあるのだろう。
急展開だとは誰もが認めていることだ。
完全な嫉妬の表れを聞いても、その中で伊吹は、ホッとしたように、静かな笑みを浮かべた。
「そう…。信楽さんがそれでいいっていうのなら…」
言葉の端々から行動の全てを読みとっている。
一度は抱いた相手を、…抱けた相手を信楽が求めるのは不思議ではないといったところなのか。
相手の思いを読みとることが上手い伊吹ならでは、突っ込んで聞いてくることもなかった。
後ろめたさがある自分自身を隠すように、「信楽さんを幸せにしてあげて…」と小さな声が聞こえた。
自分ではできなかったこと。人に託す思い。…なにより、まだ気持ちを残している伊吹を感じて体が震える。
相手がいると分かっていても、見えないところで繋がったふたりに脅えた。
もしも、出会ってしまったなら…。
旭は捨てられるような恐怖に陥る。

「会わないで…。絶対に逢わないで…っ!!」
切羽詰まった旭の欲求に何か感じるところがあったのだろうか。
伊吹は悲しげに微笑んだ。
「会えないよ…。高島くんとの仲を、信楽さんから紹介されるまで、俺から何かを言うことなんてできないから…」

幸せへと向かっていく階段を昇っているのだと…。
信楽がはっきりと認めることで、苛まれたふたりの絆が、愛情から友情へと変わる。
その判断を信楽がすること。

伊吹は裏切ったかもしれないけれど、新しい道を歩いた。
それは何があっても、信楽に戻ることはないと言い切れるもの。
脅えている旭とはまた違う。
信じたものを持つという強さが、ある種の羨ましさだった。
自分もそうなりたい…。

伊吹は持っていたカバンの中から、一通の手紙を取りだした。
「信楽さんが書いたものだから、許可があれば高島くんが読んでもいいよ。でももう俺には必要ない。正直に心の中を打ち明ける勇気と意味を、信楽さんに教えられて、そして、信楽さんにも知ってほしい…」
まだ二の脚を踏んでいる信楽を知るのだろう。
隠した生活ではなく、お互いの気持ちを語りあって寄り添っていくこと。
書いた言葉だけではなく、自身で感じてほしいと…。
伊吹の思いが、なんとなく感じられた。
昨日の時点で、信楽が何を考えていたのか…。

旭と暮らしを共にすると言った今、無用なものにもなるのだろうか。
しかし、信楽に改めてはっきりと気付かせてくれるもの。

伊吹が黙って踵を返して行ったあと、旭は待てずに、封の切られた手紙を読んでしまった。
『多賀伊吹様
お元気ですか。荷物を送ると言いながら、伊吹がこちらへ越してきた時に運んできた物だけを送らせていただきます。俺を思い出すようなものは伊吹も彼も必要としないでしょう。伊吹には新たな出費をさせてしまうかもしれませんが、今の伊吹ならそれくらいのことは問題ないと思います。あの時の伊吹は心身共に疲弊しきっていたけれど、今は生きていく道標を知っているのですから。そのような人間は何にも益して強いものです。
長い間、伊吹を籠の中の鳥にしたのは俺ですね。俺が見て見ぬふりをしたから伊吹も何も言えなくなってしまったのではないでしょうか。
俺は伊吹に何かを伝えることが怖かった。嫌われて遠ざかってしまうのではないかと思うと、自然と口を閉じてしまったものです。そのことが重荷になってしまったのかな、と振り返っています。
彼のストレートさが俺には羨ましく感じられたけれどね。そこは若さなのかな。
きっと彼は伊吹が求めた一番の強さで、伊吹を守ってくれることと思います。彼を信じて、彼と言いたいことを言い合って、本当の伊吹を見せて生きていってください。
無理をさせてしまいましたね。今までそばにいてくれてありがとう。それから、ごめんね。
末永くお幸せに  浅井信楽』

手紙

何故信楽の部屋にベッドがあったのか、なんとなく知ってしまった。
あれは伊吹が持ってきたものではなくて、信楽が用意したものだったのだ。
さらに『言いたいことを言い合って』…という言葉。
伊吹が信楽に返した、返事である。

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コメント

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何となく
コメントちー | URL | 2012-05-12-Sat 07:59 [編集]
ふたり・・・と言うタイトルの意味。
もしかしたら、伊吹と信楽さん二人の関係もあるのでしょうか?
二人がそれぞれの道を本当に歩むようになると言う。

旭には悪いけど、二人が本当の意味で恋人だったならきっと違っていたと思う。
伊吹は、浮気しながらも信楽さんに止めて欲しかった。怒って欲しかった。求めて欲しかったんじゃないかな。
信楽さんも、止めろって言って、本当に愛してて、大事で必要な人なんだと伝えられたら良かったね。

でも、二人はお互いに良きパートナーを得て明日に進んで行くのですね。

それにしても旭。
ちっとは、我慢しない?
・・・しないか(笑)
しないのが旭だもんねえ。
Re: 何となく
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-12-Sat 09:49 [編集]
ちー様
こんにちは。

> ふたり・・・と言うタイトルの意味。
> もしかしたら、伊吹と信楽さん二人の関係もあるのでしょうか?
> 二人がそれぞれの道を本当に歩むようになると言う。

タイトルには、本当に悩まされます。
ちー様がおっしゃるように、『ふたり』は全てを繋げています。
伊吹と信楽、伊吹と甲賀、そして信楽と旭…。
『ふたり』が歩んでいく道…。
(読みとってくれる読者様、すごいです…汗。適当につけているのに←)

> 旭には悪いけど、二人が本当の意味で恋人だったならきっと違っていたと思う。
> 伊吹は、浮気しながらも信楽さんに止めて欲しかった。怒って欲しかった。求めて欲しかったんじゃないかな。
> 信楽さんも、止めろって言って、本当に愛してて、大事で必要な人なんだと伝えられたら良かったね。
>
> でも、二人はお互いに良きパートナーを得て明日に進んで行くのですね。
>
> それにしても旭。
> ちっとは、我慢しない?
> ・・・しないか(笑)
> しないのが旭だもんねえ。

言いたいことの一つも言えなかったら、恋人ではないと思ってしまうのは私だけでしょうか。
だけどね~、もともと体格の良さ、体の暖かさだけを求めた伊吹は、信楽に心は残していなかったのだと思います。
なにせ、体から堕ちていく伊吹…。
(いや、それは冗談で…)
言いたいこと言えてたら少しは違ったのかな~。
でも体の相性だけは誤魔化せないよね。

旭はジェットコースターです(`・ω・´)ノ
「我慢ってなんですか?」by旭

コメントありがとうございました。

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