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BLの丘
ふたり 30
2012-05-10-Thu  CATEGORY: ふたり
信楽に宥められて、旭はまたベッドに腰を下ろした。
そこが伊吹と信楽が交わった場所かどうかまでは聞けないが、過去のふたりの関係を知る以上、受け止めなければならない事実でもあった。
信楽の仕事は夜遅くまで続いていた。
考え事をする信楽の邪魔にならないようにと、旭は差し出された本を黙って読み続けた。
『記事/浅井信楽』という名前を見つけては、こんなふうに情景を言葉で映しだしてしまうのかと感心した。
文字の奥に風景が広がっている。

セックスに溺れて疲れた体もあったのだろうか。美味しい食事に満たされて、自然と眠気が襲ってくる。
信楽がカタカタとパソコンのキーボードを叩く音が子守唄にも聞こえて…。
同じ空間にいられる安堵もあった。
嫌っても寝心地の良さそうな場所は旭を眠りの世界に導いてしまった。
どんな場所であれ、体の奥から湧きおこる欲求には従えてしまうのだから、現金なものである。

気付くとカーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。
一瞬そこがどこなのかと慌てはしたが、旭の隣で眠ってくれている信楽を見つけたとき、前日の出来事が一気に甦る。
最後の記憶にある、信楽の仕事部屋ではなくて、愛を語り合った寝室だった。
自分の脚で移動した記憶がないのだから、信楽が運んでくれたのだろう。
『伊吹のベッド』で寝てしまった自分の図々しさもなんだが、気を使ってくれた信楽の心情がなんとなく窺える。
旭の勝手な嫉妬を考慮してくれたらしい。
信楽と伊吹の過去を認めているけれど、改めて突き付けられたらやっぱり悔しい、の一言だ。
信楽が綺麗さっぱり洗い流した…、その確証がほしい。

旭がモゾモゾと動いたせいだろうか。
ふわっと信楽の瞼があがった。
「あ…」
「起きたの?出勤の時間かな…」
信楽は何時頃眠りについたのだろう。
“会社”という組織に縛られない信楽の生活時間とはどのようなものなのか。
伊吹の時でもそうだったのだろう。相手に合わせるもの…。
傍らの目覚まし時計を手繰り寄せた信楽が、旭にも見せて時間の確認を求めてくる。
昨日も同じ動きを取ったのだから、ある程度の判断はつくのだろうか。
「うん…、もう少し…」
まだ朝の余韻にひたりたかった旭は、信楽に抱きついた。
その態度も嫌がらずに抱きしめ返してくれてホッとする。
「旭はギリギリまでゴロゴロしていそうだね。メリハリつけないとダメだよ」
諭されては落ち込みかけるのだけれど、それすら温かく見守ってくれる態度を感じて甘えたさが増幅していく。
厳しいことを言われても、結局は包んでくれるのだ。
「が、…がんばるもん…」
嫌われない態度をとろうと、努力はしようと思う。
仕事中は仕事に集中したし、食事の栄養バランスも心配されたから、一応気を使ってきた。
ここに住めたら、信楽に促されるように、もっとテキパキと動けるようになるはずである。

昨日の約束は夢ではないだろうか…。
一つの不安を抱えて、旭は「本当に俺、越してきてもいい?」と確認を求めた。
事実であるなら、今日にでも住んでいるマンションの解約の手続きをとりたい。
伊吹の部屋だった所は信楽の仕事部屋に変えられているけれど…。
旭は今ここで寝られる場所さえもらえれば他はいらないと思った。
“個室”なんていらない。
別れて眠ることが怖い。毎日でも、旭の体を眺められて、信楽の安心する姿を見たかった。
信楽からしっとりとした声が響いてくる。
「いいよ。また家具、移動しなきゃだな…」
面倒をかけているようなのに、信楽は嫌な態度を見せない。気遣いなのか、本音なのか…。
「そんなことしなくていいよっ。俺、荷物すごく少なくしてくるし、寝るの、ここでいいしっ」
「でも、俺の仕事、不規則なのが分かるだろう?旭に迷惑はかけたくない」
「迷惑なんかないよっ。やだっ、一緒に寝たいっ」
旭の欲求に、信楽は静かな笑みを浮かべるにとどまった。
旭を抱き直しては額にくちづけをくれる。
それから何か宥めるように、背中をポンポンと叩かれた。

「さぁ、起きて。旭が支度をしている間に、ご飯を作ってあげるから。旭は洋食と和食、どっちが好みなのかな」
まだまだ知らないことはたくさんある。
少しずつでも知っていこうと歩み寄ってくれる信楽に、ますますホロリとした。
きちんとした朝ご飯なんて、家でまともに食べたことのない旭には、用意してもらえるだけで感動だ。
「なんでもいい。信楽さんが作ってくれるなら、残飯でも生ゴミでもたべるっ」
「まったく…」
旭の発言に呆れられるやら…。しかし喜ばれているのも確かなのだろう。
信楽は余韻も残さず、スッと体を離すとベッドから下りていった。
淋しさはあったけれど、今後を共にできると改めて口にされて、喜びが体中に広がっていく。
信楽はもう、旭のものなのだ。

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すみません、足踏みしてます…。
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コメント

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旭ってば
コメントちー | URL | 2012-05-10-Thu 04:15 [編集]
押しかけ女房か(笑)
あ、この子もきっと優秀なセールスマンなのね。
伊吹とも気が合ってたんだから。

信楽さんは、旭位、強引な子じゃないとダメなのね。
優し過ぎる(けど、ベッドじゃ意地悪)から、伊吹には言えなかった事も旭には言えることでしょう。

そして、信楽さんもアマアマな保護者に決定だなあ。
旭・・・一歩間違えると重くなるからほどほどに。もう、信楽さんはあなたのだから。
Re: 旭ってば
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-10-Thu 07:11 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 押しかけ女房か(笑)
> あ、この子もきっと優秀なセールスマンなのね。
> 伊吹とも気が合ってたんだから。

押しかけ女房です(`・ω・´)ノ
思ったように推し進める営業マン。
…いや、こんな我が儘な営業マンははた迷惑なだけですが…。

> 信楽さんは、旭位、強引な子じゃないとダメなのね。
> 優し過ぎる(けど、ベッドじゃ意地悪)から、伊吹には言えなかった事も旭には言えることでしょう。
>
> そして、信楽さんもアマアマな保護者に決定だなあ。
> 旭・・・一歩間違えると重くなるからほどほどに。もう、信楽さんはあなたのだから。

何を言われてもめげない子ですからね~。
信楽も本心を晒していけるのではないでしょうか。
そうやって寄ってきてくれる信楽を感じて、また気を良くして我が儘を言って、信楽に可愛がられるんでしょう。
ベッドの中で多少虐めても、怒ることなんてない信楽でしょうからね。
コメントありがとうございました。

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