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BLの丘
ふたり 33
2012-05-13-Sun  CATEGORY: ふたり
旭は走った。一刻も早く信楽の顔を見たかった。
この手紙を信楽に渡してもいいものだろうか。
信楽はこの手紙の中ですら、自分の感情を隠した。
伊吹を求めて…、欲していたのに、伊吹のためを思って送りだしている。
気持ちを押さえて、人のために生きる人…。
そんなふうに我慢しなくてもいい、と…。何でも言ってくれる人になってほしい。
その相手が旭であると強請りたい。
渡してくれと言われても、これを読んで信楽がまた伊吹を思い出すのも嫌だ。

息を切らして辿り着いた信楽の家で、出迎えるなり信楽はどうしたのかと首を傾げた。
「旭?」
「信楽さんっ」
胸に飛び込み、信楽の体をぎゅっと抱きしめる。
「走ってくるなんて何かあったの?時間を決めて待ち合わせているわけじゃないんだから、そんなに慌てなくても…。怪我でもされたら心配になるよ」
旭を落ち着けるように、背中をトントンと叩いて宥めてくれる。
まだ激しく全身で息をする旭は、言葉を紡ぎだすことができなかった。
「ほら。走って膝がガクガクでしょう。まぁ、走れるだけ若いよね」
いつまでも玄関先にいられないといった感じで信楽は、ひょいっと旭を抱き上げてしまった。
「え?」
「まだ夕ご飯を作っている最中なんだ。少し待ってて」
成人男性である旭を簡単に抱き上げられる信楽も衰えはないだろう…。
廊下を歩いてリビングのソファに下ろされた。作りかけだという料理の、美味しそうな香りが充満している。
誰もいない部屋に帰るのとは全く違う光景、人の温かさだった。
ようやく手に入ったもの…。失いたくないと思わせるもの…。
「し…っ」
「何か飲む?汗もかいて…。上着脱いで。ネクタイも…」
言いながら信楽の手が旭の衣類を弛め、脱がしていく。
その時、上着のポケットに押し込んだままの手紙が、カサっと音を立てた。
「あぁ、ごめん。何か入っていたかな」
重要なものなのかと気遣われて隠したい後ろめたさが浮かぶ。
仕事に関わるものなのだろうと勘違いした信楽の動きは慎重になる。
旭としてはクシャクシャにして丸めて捨ててしまいたかったが、信楽が書いたもの、となると雑には扱えない。
「別に、そんな…」

見せるべきだろうか…。伊吹が言っていたことを信楽に伝えるべきだろうか…。
改めて確認したい気持ちが渦巻いて、旭はその場から去ろうとする信楽の腕をつかまえた。
「信楽さんっ、俺には何でも言ってくれるよね?俺のこと、ちゃんと見てくれるよね?」
「旭?どうしたの?…大事にするって言っただろう?…旭の気持ちも考えて、あの部屋のベッドは今日、処分しておいたから。…旭の部屋として使えばいい」
旭の不安を感じ取るのだろうか。宥めてくれる口調は崩れない。
一瞬何のことかと思考がまわらなかった。
頭上をぽんぽんと撫でられて、屈んだ信楽が額にくちづけをおとしていく。
また面倒な部屋の模様替えなどしなくていいと願ったはずなのに、信楽が真っ先にとった行動は、旭の機嫌を汲み取ってくれるものだった。
しかも信楽が購入したものだろう。旭が口走った一言の大きさを感じる。
…それを、『捨てろ』と言い放ってしまった…。
そのとおりに信楽は動いた…。
「処分…て…」
呆然とする旭にふわりと微笑みを向けられる。
「旭の言うとおりだよ。人が使っていたものがここにあって、旭の気分が良いわけがないんだ。旭が満足できる環境を整えてあげるから」
「信楽さん…、それって…、無理してない?俺のこと、我が儘な奴だとか、そういうこと思わないの?人の欲求ばっかり全部受けとめて、自分の我が儘、言わないの?」

まだ思いを隠すのだろうか…。
いつかの『ふたり』のように、隔たりを作られたくないと強く思う。
甘やかしてくれるのは確かに嬉しいけれど、家事をするのでもセックスをするのでも、気持ちを封じ込めた上での無理だけはさせたくなかった。
…そう…、旭の剃毛を望んでくれた時のように、心の内側を正直に聞きたい…。
「旭が喜んでくれるなら、それで満足だけれど。俺も、一つの気持ちの整理がついた…ってところかな」
信楽はさらりと言ってくれる。
信楽は旭を叱らない。『叱って』と言った時ですら、『できるかな』と曖昧にされた。『注意はする』と甘い言葉で濁された。
それも信楽の優しさなのだろう。
「信楽さん…」
自分のために動いてくれることに、泣きたくなる。もちろん感動が混じっているのだけれど。
旭の悩んでいたモヤモヤがはがれおちた。
疑った自分が悪かったと…。
旭は上着のポケットから、少し皺になってしまった、先程預かったばかりの手紙を取りだした。
最初信楽は、なんだろうと首を傾げていたが、見覚えのあるものに笑みを消す。
「あ、さひ…?」
「さっき…、多賀さんに会った…。もう一回読んで…って。信楽さんが多賀さんに伝えたことを、信楽さんも実行して…って…」
…もしも…、もしかしたら…、本能のままに気持ちを表した時、信楽は伊吹を追いかけてしまうかもしれない不安はまだ残るが、『旭のため』にいる信楽を、信じたい…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-05-13-Sun 01:01 [編集]
信楽からの手紙を旭に託す伊吹の気持ちを考えると...

大人は、 信楽は、 ずるい。
自分の気持ちを包み隠して 真の姿を見せないで繕うんだから

伊吹の前で 大人であり続けた信楽には 素になって あるがままを旭に見せてもいいんじゃないの?
旭なら そんな信楽を しっかり受け止めてくれるよ♪
((★・∀-)乂(・∀-★))ネ♪...byebye☆
もう、平気ね。
コメントちー | URL | 2012-05-13-Sun 06:07 [編集]
旭と出逢ってまだそんなに経ってないんですよね?そう言えば。
旭で良かったね、信楽さん。

例えば、なっちゃんとか成俊くんならまず進まないだろうし(だからあ、例えばの話。殺気を感じた。保護者の)

旭は、きっと何を言われても消化出来る人だから。信楽さんも素直になってね。
で、たまにどS信楽を見せて(笑)
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-13-Sun 12:08 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 信楽からの手紙を旭に託す伊吹の気持ちを考えると...
>
> 大人は、 信楽は、 ずるい。
> 自分の気持ちを包み隠して 真の姿を見せないで繕うんだから
>
> 伊吹の前で 大人であり続けた信楽には 素になって あるがままを旭に見せてもいいんじゃないの?
> 旭なら そんな信楽を しっかり受け止めてくれるよ♪
> ((★・∀-)乂(・∀-★))ネ♪...byebye☆

伊吹も信楽の幸せを願っていますからね。
旭のことも知っているし、同じことを繰り返させたくなかったのでしょうね。
旭だったら、無口になるたびに攻撃していきそうです。
そして気付かされて、信楽も本音を言えるようになるのではないでしょうか。
本当のことを言ってもらって、旭は喜びますからね。たとえ喧嘩でも。
コメントありがとうございました。

Re: もう、平気ね。
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-13-Sun 12:13 [編集]
ちー様
こんにちは。

> 旭と出逢ってまだそんなに経ってないんですよね?そう言えば。
> 旭で良かったね、信楽さん。

まだそんなに経っていないですね~。
メールでのやりとりは少々続いていましたが、家に訪れて3日目です(なんとっ)
なのに、あんなことしたり、コンナコトされたりしています。

> 例えば、なっちゃんとか成俊くんならまず進まないだろうし(だからあ、例えばの話。殺気を感じた。保護者の)
>
> 旭は、きっと何を言われても消化出来る人だから。信楽さんも素直になってね。
> で、たまにどS信楽を見せて(笑)

相手も言ってくれる環境で育っているから、旭は自分もガンガン進んでいけるんでしょうね。
それが人付き合いとして、普通だったのだと思います。
信楽がフォロー入れれば、けろっと立ち直りそうです。
コメントありがとうございました。

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