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BLの丘
七色の虹 7
2012-09-19-Wed  CATEGORY: 七色の虹
初めて出会ってから三年の月日が経過している。
ついこの前まで、由利と余所余所しい態度を取っていたせいで高畠とも距離があったが、今では他部署では一番近い存在になっていた。
もちろんそこは、由良自身から近付いていった意図もある。
由利に恋人ができたことが、何よりのきっかけになったのだが、周りを取り囲む人も分かったように受けとめてくれたことがより居心地の良さを生んだ。

三本目の缶ビールが終わる頃にはだいぶ時間が経っていた。
家の中でこれだけの量を飲むことはまずない。家の中という気安さも酔いの回りを早めるのだろうか。
ソファの前で足を伸ばした格好で座った由良は、天井を仰いで「ふーっ」と大きな息を吐き出した。
その様子を隣で見ていた高畠の手が伸びてくる。
「飲み過ぎて、誰かさんみたいにいきなり意識を飛ばすのは勘弁してよ」
火照った頬に触れた高畠の掌は冷たくて、もっと触れたいと思ってしまう。
「う…ん…」
“誰かさん”は、ここまで送ってこられた由利のことだろう。
まぁ、自宅にいることを考えれば、たとえここで眠ってしまっても、由利ほどの迷惑にはならないはずだ。
無意識のようにそのひんやりとした肌に縋ってしまいそうになる。
微妙な動きにも高畠は気付くのだろうか。
「由良?」
覗きこむようにしてくる高畠の表情が灯りに遮られて陰りができる。
手がかかる、迷惑な存在だとは思われたくなくて、気力だけで奮い立たせる。
「平気、平気っ。…あー、でも、もうお酒はいいや」
無駄に明るい声を出した由良を、少しばかり心配そうに見つめてくる。
溜め息ともとれる小さな吐息の後、頬から離れた手は頭上を撫でた。
「もう寝るか?俺は帰るから戸締りはちゃんとしとけよ」
グラスに残っていたビールを一気に飲み干しては、すくっと立ち上がって、グラスや空き缶、すでに空になってしまった野菜チップスの乗っていた皿を片付け始めた。
そんなことは自分でやるのに…と慌てて由良も後を追う。
「高畠さん、いいよ、置いておいて…」
それから、これだけ飲んで、ちゃんと自宅に帰ろうとする精神力にも感心してしまった。
「ひとつやふたつの食器を洗うのに、何分かかるっていうんだよ。ごちそうになったお礼ってことでいいから」
全く気にした様子もなく、手早く片付け終えてしまう。

由良は一つの疑問をぶつけてみた。
そんな台詞が零れたのは、やはり酔っ払っていたからなのだろうか。
「泊まっていかないの…?」
ピクッと一瞬高畠の動きが止まる。
徐に振り返られては困惑と動揺の表情を向けられた。
「由良~ぁ。ユーリの無防備さも心臓に悪いけれど、おまえも充分”危険発言”しているって自覚しろ。…やっぱり兄弟だな、おまえら…」
最後は盛大な溜め息に送り出された台詞のようだった。
もちろん、他の人間にこんなことは言ったりしない。
その影に潜む危険度は由利よりも良く知っていると自負しているし、そんな軽い人間ではない。
高畠だからこそ、この返答だったのだろう。他の人間だったらどう返されるのか…。
そんな印象を高畠に植えてしまったのは逆効果だっただろうか…。
咄嗟にうまく回らない頭をどうにか回転させながら、由利と同レベルに落とされた悔しさのようなものがまた湧いた。
「別に…」
再び唇を尖らせてしまった由良の頭上を、濡れた手をタオルで拭いた高畠が撫でてきた。
「心配してくれてありがとう。でも俺はその辺で寝こけていたりしないから安心して。由良こそ一人で眠れるのか心配になるけれど」
最後は完全に茶化した態度だった。
でもその奥には一人にさせることの不安も垣間見える。
そんなに由利と一心同体のように捉えられているのか…。

…寝られない…って言ったら、そばにいてくれるのか…?

とろけたような脳みそは不埒なことを考え始めてしまった。
たぶん、今、過ごしている由利の時間が見えてくるから…。
わずかに残った理性だけが、その発言を避けてくれる。

「平気に決まっているじゃんっ。幾つの子供だよっ」
尖った口調にクスクスといつもの笑みが注がれてくる。
「うん。ほら、おいで」
高畠は由良の手首を取ると引っ張っていき、リビングに放り投げていた上着や荷物を手にした。
そのまま一緒に玄関に向かう。
高畠が靴をはいている後ろ姿を黙って見つめているしかなかった。
振り返った高畠は、由良に釘を刺してくる。
「由良、俺、帰るからな。ちゃんと鍵、閉めろよ」
ここまで連れてきたのは戸締りの音を聞くためだろう。

鍵を閉めて、ここで転がって眠ってしまったらどうするつもりなのか…。
それはもちろん自己責任の範囲になるのだけれど…。
そこまで付き合いきれないと突き放されたような気分にも陥らせてくれた。
だけどやっぱり迷惑はかけたくなくて、頷くにとどまる。
「今日は…、ありがと…」
「こちらこそ。メシ美味かったよ。次は奢ってやるからな」
ふわっと笑った高畠に、「そんなのいいから…」と断りながら、次の約束を取りつけられたようで沈んだ気持ちが少し浮き上がる。
去り際、また高畠はいつものように髪を撫でてくれた。
この道を閉ざしたくはないけれど…。
鍵を締めるのは玄関ドアなのか、…自分の心なのか…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-09-19-Wed 08:30 [編集]
思わぬ切欠で 自宅に招いて食事をし お酒まで♪

高畠と 親しくなれなばなる程、優しくされればされる程、
2人の距離間や 抱く感情の違いが歯痒い...でしょ、由良?

焦っちゃダメ!
慌てな~い、慌てな~い、一休さ~ん、てね♪
v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-09-19-Wed 12:49 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 思わぬ切欠で 自宅に招いて食事をし お酒まで♪
>
> 高畠と 親しくなれなばなる程、優しくされればされる程、
> 2人の距離間や 抱く感情の違いが歯痒い...でしょ、由良?

自宅まで来たのはいいですが…。
もっと近づけた感じはあるのに、どこか突き放されるような…。
由良はもどかしいでしょうね。
まぁ、高畠は紳士だったということで。襲うことはしませんでした。
淋しい心だけ癒して帰って行きましたね。

> 焦っちゃダメ!
> 慌てな~い、慌てな~い、一休さ~ん、てね♪
> v(`ゝω・´)キャピィ☆...byebye☆

由良は焦れ焦れでいるでしょうが。
その焦れ焦れ感を読者様、どうか楽しんでください(作者、書ききれる自信ないし…コラ)
今後どう動くでしょうか。
『はしをわたらない』っぽい由良ですが…。
コメントありがとうございました。

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