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BLの丘
春がきてくれるなら 17
2013-05-06-Mon  CATEGORY: 春が来てくれるなら
不機嫌全開で歩く大月の後を勝沼は黙ってついてきた。
社屋から離れた場所で、ただの八つ当たりをしていることに気付いて、大月は歩をゆるめる。
そして振り返っては、「ごめん・・・」と謝罪した。
考えてみれば、大きな揉め事になる前に止めてくれたことになる。

たったそれだけの態度なのに、勝沼のほうが安心したように緊張から解放されていた。
大月の機嫌を損ねたくない、という考えでいたのだろうか。

「俺はいいけど・・・。何があったの?と聞くべきじゃないよね?」
相手を気遣える思いやりのようなものは、営業という職業も関係するのだろうか。
それとも自分に対してだけの控え目さなのだろうか。
『会社』という組織が関係する存在なだけに、慎重になる人間は山ほどいる。
ただ、勝沼は最初から堂々と切りこんできていたから、単純に大月をいたわってくれているような気がする。
「あー、うん、色々と・・・。飲みながら少し話すよ。・・・あ、どこに行くつもりだったの?俺、勝手に歩いてきちゃったけど」
どこまでを語れるかは難しいが、きっと『噂』のことまで耳に入れているであろう勝沼になら、多少の愚痴をこぼしても許されるように思えた。
話題を変えれば、素直に、大月が約束を守ろうとする態度に安堵を浮かべる。
機嫌の悪さから考えたら、反故にされてもおかしくないと考えるのが普通の人間か・・・。

「こっち方面で大丈夫」と笑顔で答えられて、隣に並ぶ。
近くに寄れば身長差があることを確かめさせられるようだったが、大月の趣味からしてみれば、この感覚は嫌いではない。
何より自分と並んでも見劣りすることのない顔の作りは好みのうちに入っている。
じっくりと時間をかけて接触をはかっているのは、韮崎に言われているからだけではなく、勝沼という人間に興味があるからだろう。
はっきり言ってしまえばその場限りなら、多少の見た目には、目を潰れた。

連れていかれた店は、大月でも利用したことのある、和の趣を施した居酒屋である。
リーズナブルな価格で飲食ができたし、何より全ての客席が個室というのが良い。
騒げば聞こえてしまうかもしれない襖一枚だが、プライベート空間を保てるところは居心地が良かった。
週末で混んでいるかと思いきや、まだ時間が早いせいか、"これから"といったところのようだ。
畳の間は4名用だったが、部屋の作り自体が広くないため、少しの圧迫感を感じる。
ここに4名が入ったら、さぞ窮屈なのではないかと、いらぬ心配が湧いていたが。
勝沼とふたりでは、一層距離が縮まっているような錯覚があった。

「まずはビール」と注文して、お通しと一緒に運ばれてきた中ジョッキをグビグビと煽った。
それから遠慮もしないで、食べたいものをポイポイと注文していく。勝沼も同様だ。
お互い慣れた店だけに、メニューを決めるのが恐ろしく早くて、次々と運ばれてくる料理に、すぐ『ふたりだけの空間』に落ちついてしまった。
しばらく、店員も近づかない。

思いつめたように大月が口を開くと、察した勝沼が黙って先を促した。
「実はさ、さっきの人、総務部の人なんだけど。・・・まぁ、なんつーか、俺が入ったことでちょっと空気が悪いっていうか・・・」
咄嗟に脚色して物事を伝える精神には、時々大月も自身で呆れることがあった。
「空気悪い・・・って、・・・あぁ、韮崎さん?」
勝沼には最初に出会った時にも『韮崎』という名前を出してきたくらいで、当然、関係性を理解している。
誤魔化しているが、お互い納得済みの付き合い方など、公表する人間がバカだというものだ。
「そう。何かと押しつけてくるぶん、他の人の立場がないっていうかさー」
「でもそれって、仕事を教えていることになるんじゃないの?」
「そうかもしれないけれど、やっぱ手のひら返された、みたいな人たちには面白くない話じゃん」
「えーっ、それって完璧な逆恨み?」
「俺のせいかよ、ってなるよなぁ」
ため息に苦笑が混じる。
あまり重い話にはしたくない気持ちもあるから、上辺だけの状況説明で納得してほしかった。
仕事ができる人間か、できない人間かなどというのは、韮崎の方が当然詳しい。
自分たちに与えられていたもの、今までの業務が手を離れるのは、ラクをできると考えるか、信頼を失ったと捉えるか。
新人ながら、大月と比較されていることも不快感を生む原因にもなった。
一度、減給処分にあった上司に襲われる事件にまで発展したのも、根底は"逆恨み"だ。
表向きは業務上の話だが、上野原とはもう少し根深いものがある。
しかし、そのことを勝沼に話すのは、自分の墓穴を掘るようで避けたかった。
開き直っているとはいえ、韮崎と秘密裏な関係がある以上、すべてを否定できない状況に陥るかもしれないと危惧してのこと。

途中喉を潤しながらポツポツと話が進む。
「でもさぁ、大月って韮崎さんのこと、ボロクソ言うじゃん。そういう態度とかも目に余られているんじゃない?」
さすがにみんなの前ではあらためているつもりだが、同じ室内にいれば嫌でも聞こえてくる会話がある。
その端々に、うるさいハエを追い払うようなものが混じっていることは否めない。
勝沼としては同じ『新人』目線で物を言ってくれているのが分かる。
とはいえ、直球で責められたらやはり気分は良くないというもの。
「分かっているけどさ・・・」
納得しつつ、唇を尖らせると、苦笑した勝沼が、「ま、うまくやれればいいな」と話を切り上げてくれた。

それからしばらく、世間話や逆に勝沼の"ふざけた感"のある愚痴で会話を進めていると、大月の携帯が鳴った。
勝沼が「出れば」と顎をしゃくってくる。
相手が韮崎だと分かれば、先ほどのこともあって、また不機嫌さが戻った大月だった。
「もしもし」
『おまえ、今、どこにいる?』
韮崎の声がいつもより低いことを感じ取れば、相手も機嫌が悪いのだと悟るのはたやすかった。
だが今は下手に出る気はない。
「飲んでるけど」
『上野原と揉めたんだって?あれほど波風たてるなと言っておいただろう』
やはり説教か・・・とため息がこぼれそうだった。
しかしそこは大月の性格上、黙って頷くことなどしない。
「向こうが勝手につっかかってきたんだろっ。第一、原因、アンタじゃないかっ」
そこまで言ってから、ハッとあることに気付いた。
思わず口角が上がる。
韮崎にとって、今更弱みにもならないだろうが、その口を閉じさせることくらいは可能ではないか・・・。
『何が?』
「"会社内で問題を起こすな"って再三言われてるけど、経験談からかよ。そうですよね~、揉め事は大変な問題だ。だけど俺に何か言いたいなら、自分が見本になってからにしとけよ。迂闊に手を出すからこういうことになるんだろうっ」
『仮にも目上の人間に対してどんな態度を取ったんだ。気が強いのもほどほどにしろ。明野の立場も考えてやれ』
「そのセリフ、アンタが言う?兄貴のこと、考えろっていうなら、自分の行動、改めろよっ」
最後には「クソッ」という悪態までついて、大月は通話を終わりにした。
これ以上かかってこないように電源を落とすことも忘れなかった。

良くなりかけた気分もまた急降下だ。

たぶん耳を傾けていたであろう勝沼は半ば呆然と大月を見ていた。
勢いよくのど奥に飲み物を流し込んでいる大月に、戸惑いがちに「えーと、・・・噂の韮崎さん?」と確認を求めてきた。
今更隠すことでもなく、首を縦にふる。
「うるせーんだよ、あのオヤジっ」
「そういえば、お兄さんの同級生とか言ってたっけ」
その話題、適当に取り繕うことは簡単だろう。
しかし、また面倒な話題の登場になったことだけは確かだった。

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コメント

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GWも 今日で終わり~ルン♪ (≧▽≦) ルン♪
コメントけいったん | URL | 2013-05-06-Mon 09:29 [編集]
大月のお目付け役としての 韮崎も 褒められたものじゃない行いをしてた訳ですか...
私にすりゃぁ どっちもどっちっだよねぇ~って感じだな…┐ε-(´・_・`:)┌


ふと気になるのは 明野という人物
恋人の韮崎に 弟の大月に 裏切られているのを 本当に気付いてないのかしら?
疑いの目を 少しも持ってないの!?┃ドア┃_ー) 疑いの目


さえさんは 写真を撮るのが上手だなぁ~ それに マメだし!
きえちんの作品に 花を添えていて 素敵です(*・ω・*)ポッ
けいったんさま こんにちは
コメントたつみきえ | URL | 2013-05-06-Mon 10:56 [編集]
アチコチで イケナイことばかりしている人たちですね。
大月は特定の恋人がいないからまだ許されるとしても、韮崎はちょっと・・・

明野は二人の遍歴を良く知る人であります。
まぁ、そこには、『過去のことはどうでもいいけれど』という気持ちもあるでしょうが。
まだ 明野、ちょびっとしか出ていないので そのうちきちんと登場するはずです
もうちょっと御辛抱ください

さえちゃんにはいつも感謝です
創作意欲をもらっているのだぁ。
またね(^.^)/~~~
丸聞こえだね~
コメントさえ | URL | 2013-05-06-Mon 11:17 [編集]
大月ぶっちゃけすぎだよ ~。
勝沼に丸聞こえだね~(>_<)
でも韮崎はモテモテだね~。
さぁ、ここから修羅場!?

きえちんが写メ使ってくれるからいっぱい撮っちゃうよ~(*^^*)
誉められて(*/□\*)テレテレ
さえちゃん こっちにもこんにちは
コメントたつみきえ | URL | 2013-05-06-Mon 13:55 [編集]
大月、ヤケになって、ここの場所では後先考えない発言になってしまっていますね。
困った子だ
そりゃ、勝沼も食いつくというものです。

さあ、どんな修羅場がやってくることでしょう。
兄弟間なのか会社内のことなのか。
いや、全てにからんできていることは間違いなしですね。
またね(^.^)/~~~
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