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BLの丘
春がきてくれるなら 16
2013-05-05-Sun  CATEGORY: 春が来てくれるなら
結局、勝沼と会うのは金曜の夜、仕事が終わったあと、という話になった。
少しでも早く・・・という気分が伝わってくるところもあったので、ロビーで待ち合わせをすることにする。
前回の大月が連れたような豪華な店は無理だけど、今回は勝沼がおごるから、と誘ってくれた。
大月だって、いつも敷居の高い店ばかりを利用しているわけではない。

ただでさえ一目置かれている大月と、勝沼が親しくなっている、とは誰の耳にも入る出来事になっており、それは周りの人間の興味も持たせていた。
それでなくても韮崎が必要以上に大月に手をかけている事実があるのに。
明野を通して昔からの付き合いがあることは知られた話でもあるだろう。
だが、わざわざ目が届く範囲に置いている現実は、良からぬ噂も運んでくる。
韮崎も明野も表立って自分たちの深い関係を晒したりしていなかったが、それとなく気付いている者はいるだろう。
そこに入りこんだ大月の存在。

今日は早く帰るのだという雰囲気を隠しもせず、パソコンの電源を落として事務室を後にした大月を、同じ総務部の上野原禾生(うえのはら かせい)が追って来た。
小柄なほうに入るだろう上野原は、4つ年上だったはずだが、なんとなく幼さを残している風貌だった。
線の細さが余計にそう見せるのだろう。
ロビーに降りたところで目的の人物が見当たらず、早かったか・・・と急いていた自分に苦笑もしたのだけれど。
ソファセットがある方へと歩きかけ、呼びとめられては立ち止まらないわけにもいかない。
「御坂くん」
「・・・はい?」
この状況で話しかけられて迷惑だ、といった態度を大月は隠しもしなかった。
「随分、急いでいるみたいじゃない。営業の子と約束してたっけ」
どこかで耳にした話なのだろうが、それを改めて問われる意味合いも答える義務もないと思う。
訝しい視線を投げかけるだけで、大月は黙ったままでいた。
「気になる人ができたなら、さっさと、そっちと一緒になっちゃえばいいのに」
「はぁ?!」
どういった繋がりでそんな話になるのだと、ますます眉間に皺が寄る。
「韮崎さんは『社長の息子さんだから』っていうだけで気にかけてくれているだけなんだし。その気になって周りをウロチョロされたら迷惑だっていうの」

明らかな嫉妬が含まれていることに気付かないほど鈍感でもバカでもない。
韮崎を狙っている一人か・・・と内心でほくそ笑んだ。
遊び歩いた数がある分、本気になられるというパターンは良くある話でもある。
会社内でうまく渡り歩いているはずの韮崎が、こんなふうに思いこませてしまったとは肉体関係があったのだと教えているようなものだった。
上野原が誘って韮崎が応じた展開だったのだろうということも。
きっと明野とは『友人止まり』と信じ切っているのだろうが。
明野の立場もある。
本人たちとは関係のないところで、大月がバラしていいはずがないとも理解しているから、もう少し夢を見させてやろうと、自分と韮崎の誤解を解くだけにした。
「あの男にうろつかれて迷惑しているのはこっちだっての。聞いて知っているでしょ。小言ばっか」
「なっ?!そんな言い方っ!!」
どこまで崇拝されているのか、呆れてしまう。
本性を暴いても、この男なら、まず信じることはないのではないか。
一歩前に踏み出されて、今にも掴みかからんばかりの勢いに、イライラが増殖する。
そこには今更ながらに、韮崎に対する不信感と、明野に向けた同情が交錯したことも混じった。
できることなら、全員の前で宣言してやりたいくらいだ。
「とにかくそういうことだから。上野原さんも年上なんだし、雰囲気で事実関係くらい判断できるでしょ。それとも、"目利き"できるほどの思考力や洞察力使うような"駆け引き"とは無縁でしたか?」
恋愛経験の少なさを匂わせると、充分なほどの皮肉と捉えた上野原は頬を紅潮させてもう一歩近づいてきた。
「言わせておけば・・・っ!!」
いきなり胸倉を掴まれて、ネクタイの結び目が乱れる。
体格差はほとんどないが、喧嘩慣れしている大月でもなく、バランスを崩すのと同時に上野原の肩を押し返していた。
「なにすんだよっ!!」
ここが人の往来のある、まだ社内だということが、すっかり抜け落ちていた。
「おまえなんかっ!」
上野原の黒い目が睨みをきかせてくるが、彼の童顔の作りは迫力まで備えていなかった。

ざわめき始めるロビーに一際大きな声が響いた。
「大月っ」
駆け寄ってきたのは勝沼で、逞しい身体が二人の間に割り込むと、上野原は唇を噛む。
勝沼が相手ではどうしたって分が悪い。
ようやく、大人げない行動を取ったと理解したのか。
「大月、どうしたの?」
「べつに。イチャモン付けられただけ。勝手な勘違いするヤツっているんだよ。双葉、いい、行こう。言いたいことあるヤツは好きに言わせておけばいい」
これ以上渦中の人になるのも嫌で、大月は勝沼を促した。
ある意味、この場では大月のほうが凄味があったというべきか。

スタスタと出ていこうとする大月を慌てたように勝沼が追った。
高揚していた気分が一気に急降下した。

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