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BLの丘
珍客の土産 7(最終話)
2013-07-21-Sun  CATEGORY: 珍客
世の中が動き出す時間。
それぞれにシャワーを浴びて身支度を整えて、ダイニングテーブルでモーニングセットの食事を口にする。
今日ばかりは、いつもの朝のように、二人でキッチンに立つこともなかったので、その分余裕が出来ていた。
この"甘い部屋"を出れば、また二人とも"戦士"になる。
束の間の時間でありながら充分なほど堪能したと、充足感でどちらも満たされている。

ロビー階に下りては、フロントでチェックアウトの手続きをとる佳史の隣に並んだ。
明細書は一切佳史の前に出てくることはなかった。
そのことにまた佳史は肩をすくめていた。
三隅という男と、このホテル側でどのようなやりとりがされていたのか、確実に耳に届いてくることはないと肌で感じた。
職業上の"守秘"とはどこにも存在する。

「タダより高いものはない…かもね」
イタズラに笑う瞳は、しかし嫌がっていないことを伝えてくる。
いつでも飛び込んでくればいいと相手に教えてもいる。
目の前で起こることを決して他人事にしない優しさは、いつしか、望と何かを天秤にかける日が来るだろうか…。
そんなことを考えてしまう自分を不埒だと戒め、隣に立てることを誇りに思おうと頭を切り替えた。
たとえ何があっても、佳史を選んだのは自分であり、信じるべき人物なのだから。

旅行客だけでなく、多くのビジネスマンの姿も視界に入ってくる。
自分たちと同じような境遇の人間がどれほどいるのかは分からないが、一日の始まりに相応しい清々しさがあちこちに漂っていた。
ほとんどは出ていく人間だ。
そんな中、佳史と総支配人が挨拶程度の言葉を交わし終わるのを待つように、離れた位置に立った男がいた。
小柄できっちりとスーツを着こなし、いかにも仕事ができる人間だと立ち振る舞いだけで判断できる。
気を留めたのは彼が松葉杖姿だったからなのだが、その脇にいる背の高い男は、ジャケットすら腕に持った軽装だった。
他にその服装には似合わないビジネスバッグ(見るからに松葉杖男の荷物だろう)を持ち、今にもため息をこぼしそうな表情でいた。
感情を繕うことなく表現できる姿勢は、30歳を少し過ぎたくらいかと予想する。
用事があるのは、佳史なのか総支配人なのかと一瞬悩める構図が人目すら引きそうだった。
佳史はスッと身を引こうとしたし、総支配人が恭しく頭を下げたことで関係性が見えてくる。
佳史が忙しい朝にこれ以上手を煩わせる気はないと、望を促し顎をしゃくった。
足をエントランスに向けた望たちの背後で痴話喧嘩が始まったことには驚き、思わず振り返ってしまったが。
「社長が代役用意してくれるって言ったじゃんっ」
「座っているだけの仕事なら私でもできます」
「個展の受付案内なんて、ホテルの人だってしてくれるよっ。何もわざわざ…っ」
このホテル内で開かれている個展のことだとは望たちでも理解できたし、そこで勤務する人物としてやってきたのだと読みとることもできた。
予定していた人間ではないことを、報告する必要があるのは当然のこととも言える。
若い男が渋ったのは、代役が怪我をしていたからなのだろう。
その光景を見てクスリと笑ったのは佳史だった。
「無理をしそうな人だけれど、付き人がいるなら安心じゃないかな」
「『付き人』?単なる会社員そうなのに?」
「まぁ、俺にとっての望みたいな人だろうね」
あの二人がどんな立場にあり、どんな絆があるのかは知らないが、意味深な言葉は望の胸に響いた。

『無理をしそうな…』とは佳史を表し、セーブをかけるのが望、ということなのだろうか。
お互いを拘束したり監視したりするものとは違う。
気遣えるから文句も愚痴も飛び出すし、放っておくこともできる。
言い合えるということの大事さが詰め込まれていた。
どちらにせよ、視界に映った二人がそれぞれの立ち位置を理解してうまくやっていけている状況にあるのだとは察知できた。
自分たちも同じように見られたなら嬉しいに違いない。

監視するつもりはないけれど…と望は胸に宿った想いを反芻した。
佳史が病院を持ち、自宅すら離れたがらないのはもう知ったことだ。
それなら、望がその敷地内に、ただ『出入り』するだけの人間ではなく、『居座りたい』と申し出たらどう反応するのだろうか。
二人ともこれまでの生活を大事にして、大きな変化を求めてこなかった。
それは明らかに変化が大きいのは望のほうだから、と佳史が危惧していたからだ。
望に引っ越しを"させる"、思いが強かったからなのだろう。

一緒に出かける時間が多く取れないのなら、一緒に居られる時間を少しでも多く作っていけばいい。

別々に乗っていくタクシーを待つ列の中で、望がそっと「引っ越す…かな…」とつぶやいた言葉は、しっかり佳史の耳に届いていたようだ。
フッと笑った顔が喜びを隠すことなく望に向けられた。
返事は酷く甘い。
「病院の隣に事務所でも開設するか?」
…どこかの友人のように…。

きっと今度乗るタクシーは同じもので、目指すところも一緒になることだろう。
確かな約束はなにもないけれど、信頼した気持ちだけは存在している。

「望だと、どれだけの慰謝料と財産を持って行かれるか分からないからな…」
笑顔は『別れ話』がないことを表していた。
誓ったはずの愛が、全くの戯言に変わった人たちばかりを望は見てきた。
それも望を不安に陥らせた原因の一つかもしれない。
からかうような声を、望は聞こえないことにした。
…あぁ、根こそぎ奪ってやるよ…と胸の内にしまいこんで、やはり佳史を見上げて微笑んだ。
佳史の全ては自分のものなのだと、お互いに言い聞かせるように。



今日も暑くなりそうだ。
こんなプレゼントがあるのなら、こちらも歓迎なのに。
もちろん、その声も、誰にも聞こえることはない。
何もないことが一番の贈り物だと知っているから…。

―完―

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番外の番外の余談までお付き合いくださいましてありがとうございました~。
同居していなかったんですよね、このふたり。
それに気付いて、こんなところでまとめてみました。
新婚(晩婚)生活は、ご想像にお任せしま~す(笑)
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コメント

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またしても
コメントちー | URL | 2013-07-21-Sun 07:48 [編集]
野崎さんとえーすけさん。
きえちん、ひーくんと千城さんじゃなかったの?
ファンは待ってたんじゃ?ふふふ。
佳史さん達も、同居するのかあ。
望さんのマンションは貸せば良いし、事務所はそのままにしといたら良いんじゃないかな?
あんまり、近くにいすぎるとケンカした時の逃げ場がないから(笑)
佳史さん望さんの幸せを本当に願ってます。
きえちん、ありがとう。
毎日、楽しくて嬉しかったです。


ホテルのロビーにて

師匠『あー、眠い、痒い、お腹いっぱい』
さえ『美容に悪いじゃないの~』
にっ『まあまあ、良いもの見れたし』
ちー『すーさん!』
すー『ちーさん!』
三人『あの二人は何を見つけたの?』
さえ『野崎さんと~瑛佑さん!』
にっ『みこっちゃん?』
師匠『じゃ、英人と千城もいるんじゃ?』
ちー『ちょっとみんな、まだ帰れないよ』
すー『もしかしたら、保育園勢揃い!』

腐レンジャーは今日も行く・・・
ゲスト出演は…?
コメントけいったん | URL | 2013-07-21-Sun 09:52 [編集]
美琴と瑛佑だったのかぁ~~Σ(=゚ω゚=;ノ)ノおぉぉ
思いっきり予想がハズレてましたね(苦笑)

今回の周防さまのサプライズ・プレゼントは、
佳史には 息抜きと 際限無い望への愛情を
望には 自信と 新たな佳史の一面を 
知れる 良い機会でしたね。

住居を共にすると また違う一面が 知られるかもよー(*゜ー^*)v

しかし、やはり 我が愛しき周防さまは、やる事が素敵ですわぁ~(* ̄ω ̄*) ポッ

腐レンジャーも 素敵な新メンバー「すーさん」の加入(←強制?)で 
今まで以上の活動が出来て とっても楽しかった!о(ж>▽<)y ☆

腐レンジャーは、随時新規募集 を しております! 
皆勤出勤は無理!と、思ってる そこの (@^□^)σキミ!!
無理の無い 自由出勤でOK♪ですから
「入ってもいいよ~♪(*^ω^*)ノ ハーイ」と思われる方は、名乗りを上げて下さいませ。(時々 強制加入ありかも!?)

それでは 今日で ひとまず「腐レンジャー」は お休みです。
(ちーさん&すーさんは、まだ活動中のようだけどね♪)

次回は いつ出勤になるか!?
どんなコスプレをするか!?
楽しみだねー♪((O(〃⌒▼⌒〃)O))♪わくわく
師匠
コメントちー | URL | 2013-07-21-Sun 10:05 [編集]
休む?腐レンジャーに休みは許されません。
今日は、きっと夕方から園児やら保護者が勢揃い♪

私は、すーさんに任せてホテルの一室で一休み一休み。
あ、選挙も行ってきたからね。

ちー「ふふっ。遠隔操作はラクラク~」
泣かないで~♪
ちー「隊長?どうしたんですか?師匠?帰ったはずだけ どなあ?知らないよー、浮気?浮気ねえ」

師匠、ヒナパパも良いけど隊長もたまにはかまってね。

みなさま こんにちは~
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-21-Sun 16:18 [編集]
ゲスト出演、どちらの方かおわかりいただけたでしょうか。
(またコイツ?! えぇ、そうですよね)
あっちもこっちも患者ばかりで、佳史も落ち付かないですね。
お家にかえってゆっくり…も今日がスタートした今では無理か…。

佳史と望の生活に喧嘩とかあるのかなぁ。

腐レンジャー、熱い仲お疲れさまでした~。
あ、暑い中だね。
当てつけられ続けたかもしれないけれど。
是非次の出動、お待ちしております。
ゲスト出演、大歓迎です。
[壁]゚×゚)\チラッ

みなさん、いつも楽しい話題ありがとうございます~♪
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