噂話が広がるのはあっというまのことで、翌朝、雅臣の出社を待つ鹿沼から電話が入った。
鹿沼と雅臣の出社時間には多少のズレがあった。
雅臣自身が交替勤務で出社時間も曜日もマチマチだったし、ほとんどは夜遅くまで残りたくない女性陣が先に出社している。
雅臣が出掛けようと家の鍵を手にした直後のことで、外で話したくない内容に部屋に留まってしまった。
『三角関係って言われているんですけどどういうことなんですか?!』
そんなことはこちらが聞きたいと雅臣は溜め息をつく。
同時に鹿沼に嫌われるのではないかという不安も雅臣を襲った。
鹿沼という存在を得ながら他の人間とも噂をされるような状況になってしまうなど、隙があり過ぎだ…。
それに鹿沼を怒らせている…。
「心配しなくても…。なんだかよく分からないけどこの前のアイツと奥さんの間で誤解があったみたいで…」
『あの人、また来たの?!』
社内で繰り広げられている噂話がどのように飛んでいるのかは推測の域でしかない。
何気なく告げてしまった内容に鹿沼が飛び付いたのは、彼女に叩かれたというよりも北本の存在のほうだったようだ。
核心を突かれたような気がした…。
一気にせり上がってきた過去の思い出がある。
昨日、別れ際に北本が見せた彼女に対する優しさを目の当たりにして動揺したのは雅臣のほうだった。
ひどい別れ方をしたという現実で、楽しかった日々を覆い隠してきた。
美化された思い出にしがみつく気はないが、ふと思い出したことで、また過去に囚われる自分がいた。
昨夜はまったく眠れなかった。
目を瞑るたびに脳裏に映るのは、かつての『幸せ』だったときの自分だった。
鹿沼と共にいることで綺麗に拭い去ったつもりだったのに、北本の慈悲が込められた顔を見たら自分が浴びた優しさを振り返らずにはいられなかった。
鹿沼と一緒にいることだって充分『幸せ』だ。
分かっている…。理解している…。
頭も身体も完全に鹿沼を受け入れているのに、脳裏の隅のほうにこびりついているものを落とすことができない。
合わせる顔がない…。
「雅臣さん、今日は出社しないでください」
「はぁ?!何言ってんのっ」
鹿沼から突然告げられる内容に、到底納得などできない雅臣は反論の言葉を投げた。
誰の許可を得てそんなことが言えるというのだろう…。
「とにかくだめっ」
「馬鹿なこと、言ってんなっ!勝手に休めるわけないだろっ」
「風邪ひいたって言ってください。今流行りのインフルエンザでいいですから。しばらく外出禁止ってことで」
「龍太っ!!」
「絶対にダメっ。あの人、今日絶対に来るからっ」
焦っているような鹿沼の声が耳に響いてきた。
その瞬間、雅臣の中に巣食うものがあることに気付く。
…まだ忘れていない…。
「龍太…」
「何が何でも絶対に来ちゃダメっ!会っちゃダメっ!!ダメだってっ、絶対にだめっ!!」
鹿沼はまるで駄々をこねる子供のようだった。
にほんブログ村
31← →33
鹿沼と雅臣の出社時間には多少のズレがあった。
雅臣自身が交替勤務で出社時間も曜日もマチマチだったし、ほとんどは夜遅くまで残りたくない女性陣が先に出社している。
雅臣が出掛けようと家の鍵を手にした直後のことで、外で話したくない内容に部屋に留まってしまった。
『三角関係って言われているんですけどどういうことなんですか?!』
そんなことはこちらが聞きたいと雅臣は溜め息をつく。
同時に鹿沼に嫌われるのではないかという不安も雅臣を襲った。
鹿沼という存在を得ながら他の人間とも噂をされるような状況になってしまうなど、隙があり過ぎだ…。
それに鹿沼を怒らせている…。
「心配しなくても…。なんだかよく分からないけどこの前のアイツと奥さんの間で誤解があったみたいで…」
『あの人、また来たの?!』
社内で繰り広げられている噂話がどのように飛んでいるのかは推測の域でしかない。
何気なく告げてしまった内容に鹿沼が飛び付いたのは、彼女に叩かれたというよりも北本の存在のほうだったようだ。
核心を突かれたような気がした…。
一気にせり上がってきた過去の思い出がある。
昨日、別れ際に北本が見せた彼女に対する優しさを目の当たりにして動揺したのは雅臣のほうだった。
ひどい別れ方をしたという現実で、楽しかった日々を覆い隠してきた。
美化された思い出にしがみつく気はないが、ふと思い出したことで、また過去に囚われる自分がいた。
昨夜はまったく眠れなかった。
目を瞑るたびに脳裏に映るのは、かつての『幸せ』だったときの自分だった。
鹿沼と共にいることで綺麗に拭い去ったつもりだったのに、北本の慈悲が込められた顔を見たら自分が浴びた優しさを振り返らずにはいられなかった。
鹿沼と一緒にいることだって充分『幸せ』だ。
分かっている…。理解している…。
頭も身体も完全に鹿沼を受け入れているのに、脳裏の隅のほうにこびりついているものを落とすことができない。
合わせる顔がない…。
「雅臣さん、今日は出社しないでください」
「はぁ?!何言ってんのっ」
鹿沼から突然告げられる内容に、到底納得などできない雅臣は反論の言葉を投げた。
誰の許可を得てそんなことが言えるというのだろう…。
「とにかくだめっ」
「馬鹿なこと、言ってんなっ!勝手に休めるわけないだろっ」
「風邪ひいたって言ってください。今流行りのインフルエンザでいいですから。しばらく外出禁止ってことで」
「龍太っ!!」
「絶対にダメっ。あの人、今日絶対に来るからっ」
焦っているような鹿沼の声が耳に響いてきた。
その瞬間、雅臣の中に巣食うものがあることに気付く。
…まだ忘れていない…。
「龍太…」
「何が何でも絶対に来ちゃダメっ!会っちゃダメっ!!ダメだってっ、絶対にだめっ!!」
鹿沼はまるで駄々をこねる子供のようだった。
にほんブログ村
31← →33
雅臣さんの語る断片では北本は、雅臣さんを都合よく扱う身勝手な野郎、男にも女にも他人に冷たいヤツなイメージでしたが、雅臣さんだってそんなDV男みたいなイヤなことばかりな人と付き合ってたわけないし、いい思い出も甘い記憶もあったんでしょうね。
それより馬鹿なのは、子供と結婚を武器に男を手に入れたと勘違いしていて、他の男に取られたと大騒ぎする北本妻だと思います。
でも、会っちゃダメっていう、駄々っ子みたいな鹿沼君の子供じみた我侭が雅臣さんを正気(?)に戻してくれるような気がする。
それより馬鹿なのは、子供と結婚を武器に男を手に入れたと勘違いしていて、他の男に取られたと大騒ぎする北本妻だと思います。
でも、会っちゃダメっていう、駄々っ子みたいな鹿沼君の子供じみた我侭が雅臣さんを正気(?)に戻してくれるような気がする。
甲斐様
こんにちは。こちらにもどうもです。
> 雅臣さんの語る断片では北本は、雅臣さんを都合よく扱う身勝手な野郎、男にも女にも他人に冷たいヤツなイメージでしたが、雅臣さんだってそんなDV男みたいなイヤなことばかりな人と付き合ってたわけないし、いい思い出も甘い記憶もあったんでしょうね。
辛い思い出で隠したいくらいの『幸せ』があったんだと思います。
そんでもってそれを忘れられずに(本人は意識していないようでしたが)過ごした年月もあって、改めて北本と、その愛情を受ける妻を見たときに何か思い浮かんでしまったんでしょう。
> それより馬鹿なのは、子供と結婚を武器に男を手に入れたと勘違いしていて、他の男に取られたと大騒ぎする北本妻だと思います。
北本が何を考えているのか分からなくなっちゃったんですかね~。
将来性のなさを理由に雅臣と別れた北本が、意味もなく結婚なんかしないんです。
当然愛情よりも現実性でしょうね。
> でも、会っちゃダメっていう、駄々っ子みたいな鹿沼君の子供じみた我侭が雅臣さんを正気(?)に戻してくれるような気がする。
鹿沼、ここにきてじたばたです。
せっかく手に入れたのに…っ!!みたいな感じ?!
雅臣、母性本能ならぬ父性本能でもくすぐられているんでしょうか。
正気に戻すのか引きとめるのか?!
コメントありがとうございました。
こんにちは。こちらにもどうもです。
> 雅臣さんの語る断片では北本は、雅臣さんを都合よく扱う身勝手な野郎、男にも女にも他人に冷たいヤツなイメージでしたが、雅臣さんだってそんなDV男みたいなイヤなことばかりな人と付き合ってたわけないし、いい思い出も甘い記憶もあったんでしょうね。
辛い思い出で隠したいくらいの『幸せ』があったんだと思います。
そんでもってそれを忘れられずに(本人は意識していないようでしたが)過ごした年月もあって、改めて北本と、その愛情を受ける妻を見たときに何か思い浮かんでしまったんでしょう。
> それより馬鹿なのは、子供と結婚を武器に男を手に入れたと勘違いしていて、他の男に取られたと大騒ぎする北本妻だと思います。
北本が何を考えているのか分からなくなっちゃったんですかね~。
将来性のなさを理由に雅臣と別れた北本が、意味もなく結婚なんかしないんです。
当然愛情よりも現実性でしょうね。
> でも、会っちゃダメっていう、駄々っ子みたいな鹿沼君の子供じみた我侭が雅臣さんを正気(?)に戻してくれるような気がする。
鹿沼、ここにきてじたばたです。
せっかく手に入れたのに…っ!!みたいな感じ?!
雅臣、母性本能ならぬ父性本能でもくすぐられているんでしょうか。
正気に戻すのか引きとめるのか?!
コメントありがとうございました。
| ホーム |