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BLの丘
【観潮楼企画】 小麦色のかなた 4
2010-09-05-Sun  CATEGORY: 観潮楼
こちらは【観潮楼 秋の企画】の参加作品です。


自分の勝手な思い込みと我が儘を改めて知れば、尚更自分が成長していない子供のように感じる。
安里は責めもせず、受け止めてくれるばかりだ。

「ごめん…」
さっきまでの剣幕で安里に向かえるわけもなく、今度は睦が謝罪の言葉を口にする。
だけどやっぱり陸の服を身に着けられるのは気に入らなかったし、来るなら来ると一言、あの後にだって言えただろうとも思ってしまう。
睦の怒る理由が分かるからなのか、安里はそれ以上睦に声を荒げたりしなかった。

「陸の服にしても睦のでもおっきいのは変わらないよ。汚れるから、って陸が貸してくれたけどさ。着替えくらい持ってるし」
服の一着でこんな騒動になるとも思っていなかったという感じだ。
ふてくされたように口を尖らせた。
さすがに田植えのときほど泥んこになることはないが、田んぼの作業なんてしたことのない安里がどんな姿になるか、睦でも簡単に想像できてしまう。
やりかければ、真剣に取り組むし、手も抜かないだろう。
安里の自前の服で”農作業”をするのか?という違和感のある光景も頭に浮かんだ。

「今日なんか暑いし、汗かいてドロドロになっちゃうよ。それと同じやつで一回り小さいのがどこかに押し込まれているはずだからそっちに着替えなよ。そのほうが動きやすいし」
「同じの?何で?」
「昔、陸んちのおばさんが買って来たんだけど、陸が成長するのが早すぎてあっという間に着られなくなってうちに回ってきたやつ。素材がいいらしくて同じものを続けて買ったらしいよ」
古着があちこちの家に貰われていったり、兄弟のいる家ではまた戻ってきたりすることは珍しい話ではなかった。
ただ、動きが激しすぎる子ばかりで、遊びに行った先の家で『とりあえずこれにでも着替えておきなさい』くらいの感覚で譲り渡されるものばかりだったけど…。

中途半端に脱がされていた服を引きずり上げながら、安里は家の中へと進んでいく睦を追いかけてきた。
大学に入って一人暮らしを始めた睦にとって、今では実家は『物置』に匹敵する有様になっている。
今の生活には必要のない服の山が詰め込まれた箪笥から目的のものを出してきた。

「あーあ、もう行く気なんかなくなっちゃったよ。もう少し涼んでからにしよ」
何の抵抗もなく、目の前で脱ぎ始めた安里に思わず目を奪われ、まさか陸の前でもこんな無防備になっていたのか、と疑問が湧く。
素早く着替えられたから露出していた時間は僅かだったが、そんなものを見てしまえば尚のこと、やる気なんて失せた。
「そんなことしてたら夕方になっちゃうよ。それでなくったって、あんなこと、陸に言っちゃってさ…」
勢いで言ってしまった睦を咎めている、というよりは、照れている…といった感じだ。
「いんじゃね?安里、隠し過ぎだよ。俺は言いふらしたいくらいだけどな」
「この村に来られなくなっちゃうよ…」
陸に借りたつなぎを綺麗に畳み終えて、「ほら、行くよ」とケツを叩かれる。
切り替えの早さは『教師』ならではなのか…。

ぶかぶかの格好よりは確かに動きやすくなった、と安里は結果オーライではしゃいでいるようにも見える。
体験は結構だが、今夜あたり、泣くことにならなければいいけど…と思わず体の心配をしてしまう睦だった。

…まぁ、マッサージをしてあげる、という口実もいいかも…。


今年の稲刈りは天気にも恵まれているせいか、順調に進んでいるようだった。
思いの外、先の方まで進んでいることに感心しながら歩いていくと、隣近所の分も手伝うという村人の集団があちこちに見られた。
あちこちで機械音がブーブーと響いている。
「睦―ぃ、おっせーぞぉ!!…って、あさ、服なんか変わってねぇじゃん」
近付いた途端、陸の通る声が耳に刺さってきた。
何のための痴話げんかだったのだ…と言いたげだ。
物分かりの良さはこの男もだ…と思った。
突然の告白にびっくりはしているのだろうが、これまでのあれこれを振り返れば納得もしているのだろう。

「着替えさせたよ、ちゃんと。今回は安里の面子もあるから許しとくけどさ。陸には全部話した以上、余計なことすんなよ」
「睦っ!!何言って…っ!!」
「おまえ、昔っから独占欲強かったけど、こんなところにもしっかり表れているんだな。安里も変なのにつかまったよな」
「変なのってなんだよ?!」

「いつまで話してんだっ!!!日が暮れちまうだろーっ!!!」
遠くで睦の父の怒声が響く。
クスリと三人が顔を合わせて思わず笑った。
「まぁいいや。詳しいことは今夜にでもゆっくり聞くよ」
「夜は夜で忙しいんですけど」
「睦ぃぃぃっ!!!!」

風になびかれた金の穂が揺れる。
機械の音に消されて、またそれどころではない村人は農作業に精を出していて3人の会話なんて聞いていないが…。
先程までの剣呑とした雰囲気を吹っ切れる早さも、この村ならではなのか…。

秋企画

絵は 「カロリーハーフ」様より お借りしているものです。無断転写はおやめください。
秋企画カロリーハーフ様

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あと1話かな~。
今更ですが、睦と陸って漢字が良く似ていましたね~。分かりづらい名前をつけちゃったな~と随分前から思っていました…。
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コメント

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睦と陸
コメント甲斐 | URL | 2010-09-05-Sun 23:09 [編集]
ですよね
『睦』『陸』偏がちがうけど 
ぱっと見同じに見えてしまうのって私だけじゃなかった?

睦くんの子供っぽい独占欲や嫉妬もかわいいけど
男として庇われたり守られたりばかりじゃ安里くんもプライドが許さないもんね
それに何より一緒に何かしたいって思うじゃないですか
けど、年下でいつでも置いて行かれちゃう気分の睦くんの気持ちもわかるな
Re: 睦と陸
コメントきえ | URL | 2010-09-06-Mon 08:10 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 『睦』『陸』偏がちがうけど 
> ぱっと見同じに見えてしまうのって私だけじゃなかった?

いや~ぁ。随分前から気づいてはいたんですけどね…。
今更名前、変えられないや…ってとこまでいってからで…(←遅い)

> 睦くんの子供っぽい独占欲や嫉妬もかわいいけど
> 男として庇われたり守られたりばかりじゃ安里くんもプライドが許さないもんね
> それに何より一緒に何かしたいって思うじゃないですか
> けど、年下でいつでも置いて行かれちゃう気分の睦くんの気持ちもわかるな

睦には年下としてのやるせなさと、安里には年上としてのプライドがあって、
ここの部分はまだすれ違っている模様です。
『安里にはできない』って頭ごなしに言われたこともカチンときていたんでしょう。
ま、確かに一緒に何かやりたい心理はあるでしょうけど。
きちんと年齢を書いていなかったのでなんですが、
睦が高校一年の時に安里は大学生になってて、陸はその一つ上ですからね。
やっぱ、差をかんじるのだと思います。
コメントありがとうございました。
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