観潮楼に参加の作品です。
秋彦(あきひこ)は家に帰ると真っ先に風呂に入った。
部活動をしているわけではないし、誠一(せいいち)と一緒に帰ってくるためほとんど寄り道もないから、帰宅時間はほぼ決まっている。
いつも家にいる母親が風呂の準備はしてくれていた。
制服から私服に着替える間に、必ず入浴があったのだ。
「いまから誠ちゃんちにいって一緒に勉強してくる」
風呂から出た秋彦は、タオルで髪を拭きながらキッチンにいる母親に告げた。
高校3年生の秋、受験勉強は佳境を迎えている。
秋彦と同じ大学を希望している誠一を知った時は、心の底から喜んだ。
小さい時からずっとそばにいてくれたのは誠一だった。
中学に入ったばかりの頃、厭らしい大人に虐められた時も一緒に泣いてくれた。
「もう二度と秋ちゃんをあんな酷い目に合わせることはしない」と外を歩くときはいつも隣にいてくれた。
『あき』とトクベツな呼び方で秋彦を呼び始めたのは高校に進学したころだっただろうか。
誠一も何の部活もしていなかったけど、体育の成績は良かった。
秋彦とは違って、どんどんと逞しくなる誠一に自然と目が向いてしまう。
何人もの女の子からたくさんのラブレターをもらっているのも知っていた。
いつか離れてしまうのだろうという恐怖心も常に持っていた。
その最初が大学への進学だと思っていた。
秋彦が通いたかった学部は、どうしても実家からは遠い。
当然一人暮らしとなる。
それは誠一とも、いままでのように付き合ってはいけないことを表していた。
いつの頃からか、将来やってくる生活にも慣れるために、誠一と距離を置くべきかと思ったこともある。
だけど帰り道はやっぱり足が竦んでしまって、つい「誠ちゃん」と声をかけてしまった。
誠一は嫌がる素振りを一度も見せたことがないのに安心してしまって、また期待もしてずっと甘えてきた。
金魚のフンみたいに誠一の後をついていく秋彦を級友がからかうこともある。
冗談で『あき』と声にされると、『トクベツ』が奪われるようで秋彦は嫌な気分を持った。
誠一も露骨に嫌悪を表し、それはいつの間にか、『あき』と呼べるのは誠一だけなのだという雰囲気を周りにまき散らすことになる。
秋彦の家と誠一の家は隣同士だった。
家の門扉を出れば秋彦はたった僅かな距離でもかけ足になる。
出迎えた誠一が、秋彦を家の中に入れると、ふんわりと漂ったシャンプーのにおいにクンと鼻を鳴らすのが分かった。
さりげなく反らされてしまうが、小さな反応でも秋彦には興味を持たれているのではないかと思えて嬉しかった。
同じ大学に通えるかもしれない、と分かった時、秋彦が最初に思ったことは、『一緒に住めるかもしれない』ということだった。
もちろん誠一の意思を聞いてからのことになるが、秋彦は少年のような恋心をもって想像を膨らませていた。
朝は一緒にキッチンに立ったりするのだろうか…。
同じ部屋にベッドを並べて一緒に寝たりすることもできるだろうか…。
小さい頃から同じ布団で寝たことはいくらだってあったけれど、今では『一緒に寝る』意味合いが違っている。
時には多少強引にでも秋彦を組み敷いてくれないだろうか、という卑猥な妄想も湧いた。
chobon様より絵をお借りしました。
お持ち帰りはご遠慮ください。
過去、中年の男に公園で襲われた時の恐怖がありはするものの、その相手が誠一だったら…と思うと自然と股間が熱くなった。
あの時は脅えて何の反応も示さなかった性器に酷い言葉を投げ捨てられたが、きちんと反応するのだ、と覆ったことに喜んだくらいだ。
問題は、そんな秋彦を誠一が受け入れてくれるかどうかである。
『過去』を武器に誠一にしがみつこうとするのは卑怯なことかもしれない。
秋彦は幼馴染という立場を利用して、過度なスキンシップを幼いころと変わらずに幾度も繰り返した。
『あき』という呼び名が定着した時には声をあげて跳ねあがりたいくらいだった。
たまに困ったように照れを纏う誠一にどうしても期待してしまう。
誠一の部屋で、テーブルの上にそれぞれの問題集などを広げて、向かい合って座っていた位置もわざと横に並ぶように動いていく。
「あき、髪まだ湿っているんじゃない?もう涼しくなってきたんだし、きちんと乾かさないと風邪ひくぞ」
秋彦の髪に触れてきた誠一の手が不自然に止まる。
トクンと心臓が跳ねた。
今度は誠一がわざとらしく「ドライヤー、取ってくる」と立ち上がった。
誠一の好きにしていいのに…と、途中で止められる手に悲しさが募る。
そのために、いつも、身体は綺麗にしているのに…と秋彦は胸を押さえた。
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よかったらぽちってください。
続きにする気はなかったんですけど、一部望まれる方がいるようなので書いてみました。
続きものになったということでタイトルもちょっと変えてみました。
こんなのでもいいからまだ続き…とか思う方がいたらポチってしてくれると励みになります。
秋彦(あきひこ)は家に帰ると真っ先に風呂に入った。
部活動をしているわけではないし、誠一(せいいち)と一緒に帰ってくるためほとんど寄り道もないから、帰宅時間はほぼ決まっている。
いつも家にいる母親が風呂の準備はしてくれていた。
制服から私服に着替える間に、必ず入浴があったのだ。
「いまから誠ちゃんちにいって一緒に勉強してくる」
風呂から出た秋彦は、タオルで髪を拭きながらキッチンにいる母親に告げた。
高校3年生の秋、受験勉強は佳境を迎えている。
秋彦と同じ大学を希望している誠一を知った時は、心の底から喜んだ。
小さい時からずっとそばにいてくれたのは誠一だった。
中学に入ったばかりの頃、厭らしい大人に虐められた時も一緒に泣いてくれた。
「もう二度と秋ちゃんをあんな酷い目に合わせることはしない」と外を歩くときはいつも隣にいてくれた。
『あき』とトクベツな呼び方で秋彦を呼び始めたのは高校に進学したころだっただろうか。
誠一も何の部活もしていなかったけど、体育の成績は良かった。
秋彦とは違って、どんどんと逞しくなる誠一に自然と目が向いてしまう。
何人もの女の子からたくさんのラブレターをもらっているのも知っていた。
いつか離れてしまうのだろうという恐怖心も常に持っていた。
その最初が大学への進学だと思っていた。
秋彦が通いたかった学部は、どうしても実家からは遠い。
当然一人暮らしとなる。
それは誠一とも、いままでのように付き合ってはいけないことを表していた。
いつの頃からか、将来やってくる生活にも慣れるために、誠一と距離を置くべきかと思ったこともある。
だけど帰り道はやっぱり足が竦んでしまって、つい「誠ちゃん」と声をかけてしまった。
誠一は嫌がる素振りを一度も見せたことがないのに安心してしまって、また期待もしてずっと甘えてきた。
金魚のフンみたいに誠一の後をついていく秋彦を級友がからかうこともある。
冗談で『あき』と声にされると、『トクベツ』が奪われるようで秋彦は嫌な気分を持った。
誠一も露骨に嫌悪を表し、それはいつの間にか、『あき』と呼べるのは誠一だけなのだという雰囲気を周りにまき散らすことになる。
秋彦の家と誠一の家は隣同士だった。
家の門扉を出れば秋彦はたった僅かな距離でもかけ足になる。
出迎えた誠一が、秋彦を家の中に入れると、ふんわりと漂ったシャンプーのにおいにクンと鼻を鳴らすのが分かった。
さりげなく反らされてしまうが、小さな反応でも秋彦には興味を持たれているのではないかと思えて嬉しかった。
同じ大学に通えるかもしれない、と分かった時、秋彦が最初に思ったことは、『一緒に住めるかもしれない』ということだった。
もちろん誠一の意思を聞いてからのことになるが、秋彦は少年のような恋心をもって想像を膨らませていた。
朝は一緒にキッチンに立ったりするのだろうか…。
同じ部屋にベッドを並べて一緒に寝たりすることもできるだろうか…。
小さい頃から同じ布団で寝たことはいくらだってあったけれど、今では『一緒に寝る』意味合いが違っている。
時には多少強引にでも秋彦を組み敷いてくれないだろうか、という卑猥な妄想も湧いた。
chobon様より絵をお借りしました。
お持ち帰りはご遠慮ください。
過去、中年の男に公園で襲われた時の恐怖がありはするものの、その相手が誠一だったら…と思うと自然と股間が熱くなった。
あの時は脅えて何の反応も示さなかった性器に酷い言葉を投げ捨てられたが、きちんと反応するのだ、と覆ったことに喜んだくらいだ。
問題は、そんな秋彦を誠一が受け入れてくれるかどうかである。
『過去』を武器に誠一にしがみつこうとするのは卑怯なことかもしれない。
秋彦は幼馴染という立場を利用して、過度なスキンシップを幼いころと変わらずに幾度も繰り返した。
『あき』という呼び名が定着した時には声をあげて跳ねあがりたいくらいだった。
たまに困ったように照れを纏う誠一にどうしても期待してしまう。
誠一の部屋で、テーブルの上にそれぞれの問題集などを広げて、向かい合って座っていた位置もわざと横に並ぶように動いていく。
「あき、髪まだ湿っているんじゃない?もう涼しくなってきたんだし、きちんと乾かさないと風邪ひくぞ」
秋彦の髪に触れてきた誠一の手が不自然に止まる。
トクンと心臓が跳ねた。
今度は誠一がわざとらしく「ドライヤー、取ってくる」と立ち上がった。
誠一の好きにしていいのに…と、途中で止められる手に悲しさが募る。
そのために、いつも、身体は綺麗にしているのに…と秋彦は胸を押さえた。
にほんブログ村
よかったらぽちってください。
続きにする気はなかったんですけど、一部望まれる方がいるようなので書いてみました。
続きものになったということでタイトルもちょっと変えてみました。
こんなのでもいいからまだ続き…とか思う方がいたらポチってしてくれると励みになります。
お互い心のなかでは
求めあっているのに
口にできないもどかしさ…
こんなふうにしたい、されたいという妄想が
chobon様のイラストになって
きゃ~すてきです
アキの官能的なお顔とか
セイがアキの両手を頭の上で拘束するところとか
想いがかなうといいですよね
求めあっているのに
口にできないもどかしさ…
こんなふうにしたい、されたいという妄想が
chobon様のイラストになって
きゃ~すてきです
アキの官能的なお顔とか
セイがアキの両手を頭の上で拘束するところとか
想いがかなうといいですよね
甲斐様
こちらにもありがとうございます。
> お互い心のなかでは
> 求めあっているのに
> 口にできないもどかしさ…
> こんなふうにしたい、されたいという妄想が
> chobon様のイラストになって
> きゃ~すてきです
> アキの官能的なお顔とか
> セイがアキの両手を頭の上で拘束するところとか
>
> 想いがかなうといいですよね
イラストがあると本当に印象が変わりますよね。
こんな素敵な絵に毎度のこと、駄文を貼りつけていて申し訳なくなります。
お互いの心の中を映し出した『秋企画』になってしまいました。
あくまでもまだ『想像』という世界なんですけど…。
この先どう展開しようかなぁ。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございます。
> お互い心のなかでは
> 求めあっているのに
> 口にできないもどかしさ…
> こんなふうにしたい、されたいという妄想が
> chobon様のイラストになって
> きゃ~すてきです
> アキの官能的なお顔とか
> セイがアキの両手を頭の上で拘束するところとか
>
> 想いがかなうといいですよね
イラストがあると本当に印象が変わりますよね。
こんな素敵な絵に毎度のこと、駄文を貼りつけていて申し訳なくなります。
お互いの心の中を映し出した『秋企画』になってしまいました。
あくまでもまだ『想像』という世界なんですけど…。
この先どう展開しようかなぁ。
コメントありがとうございました。
きえ | URL | 2010-10-05-Tue 12:28 [編集]
MO様
お久し振りです。
>きえ様、お久しぶりです。新しいお話、ありがとうございます。ぜひ続きを、お願いします。素敵な大人たちのお話も好きですが、初々しい男の子たちのお話も、大好きです♪ 素敵な絵に描かれてるシーンの実現を、期待しながら更新を楽しみにしています♪
私にしては初の高校生でした。(ホントの絵は年齢層が高かったのに…汗)
なので想像ってことで将来に期待させています。
果たして、二人の運命はいかに?!を私も考えているところです。
お付き合いくださいまして心より感謝いたします。
コメントありがとうございました。
お久し振りです。
>きえ様、お久しぶりです。新しいお話、ありがとうございます。ぜひ続きを、お願いします。素敵な大人たちのお話も好きですが、初々しい男の子たちのお話も、大好きです♪ 素敵な絵に描かれてるシーンの実現を、期待しながら更新を楽しみにしています♪
私にしては初の高校生でした。(ホントの絵は年齢層が高かったのに…汗)
なので想像ってことで将来に期待させています。
果たして、二人の運命はいかに?!を私も考えているところです。
お付き合いくださいまして心より感謝いたします。
コメントありがとうございました。
a | URL | 2010-10-06-Wed 00:34 [編集]
ピュアで学生らしいお話にきゅんとしています。
それにしても秋彦、とっても可愛いですね!
続きが読むことが出来てハッピーです。
それにしても秋彦、とっても可愛いですね!
続きが読むことが出来てハッピーです。
a様
おはようございます。
> ピュアで学生らしいお話にきゅんとしています。
> それにしても秋彦、とっても可愛いですね!
> 続きが読むことが出来てハッピーです。
私が書く初の高校生でしたので初心な感じにしたかったのですが…。
伝わっていますでしょうか。
秋彦、可愛いんですけどちょっと小悪魔的ですね。
いろいろ算段しているし。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> ピュアで学生らしいお話にきゅんとしています。
> それにしても秋彦、とっても可愛いですね!
> 続きが読むことが出来てハッピーです。
私が書く初の高校生でしたので初心な感じにしたかったのですが…。
伝わっていますでしょうか。
秋彦、可愛いんですけどちょっと小悪魔的ですね。
いろいろ算段しているし。
コメントありがとうございました。
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