父と話をするときはいつも隣どうしに並んで座った。
今日も御多分に洩れずテーブルにお茶を置くと、父は海斗の隣に腰を下ろしてきた。
「ご飯を頂きに行ったり話を良くするとは聞いたけれど、添い寝とまでなると、『近所付き合い』の域をこえるんじゃないのか?」
海斗は、二人に囲まれて寝ることがある仲、とまでは言葉にしていなかった。
父の話し方は静かだったが、はっきりと質問をぶつけてきた。
父は海斗に、「人を見る目だけは間違わないように」と厳しく教えてきた。
海斗を護りたいから故の行動であったことは充分なくらい承知している。
だから最初はどうしても一歩下がった視点で人柄を見ようとして冷たい印象を与えてしまう。
簡単に人を信用して、傷つけられないようにと何度も言われてきた。
海斗が性に関して奔放だったことがより父を心配させたのだろう。
それに海斗はしつこい関係を求めてはこなかったから…。
父は「心配して様子を見に来た」と言ってはいたが、たぶんこれは、海斗の現状の『確認』だろう。
到着と同時に現実を知ったのだ。
今の父の質問の中には「それだけ信頼できる人間として海斗の中で確立されているのか?」という意味も含まれていた。
深い感情がこもっているのか、と暗に問われているようだった。
『ただの近所付き合い』ではないことをすでに感じ取っているのだ。
幼い頃から隣近所で過ごしてきた仲であれば、幼馴染として互いの家に入ることも、泊まることもあるだろうが、大人になってから引っ越してきた人間と共に寝るだろうか。
海斗の何気ない、心の変化やこれまでと違う行動も引っかかっているのだろう。
海斗は父をこれ以上誤魔化せないことを知った。
例の事件で酷い目にあったこと、隣の二人がどういった人間で、どれだけ海斗を救ってきてくれたか、今思う複雑な気持ち。
どうしても素直に鳥羽に頼れない、代わりに必要な時だけ慰めてくれる有馬の存在。
海斗がどういう人間を求めるのか、知る父だから話せたことのようだ。
脅迫紛いの事件があったと耳にした時には、父はただ驚いて海斗を胸に抱いた。
父の深い愛情を感じた…。
涙がポロポロと零れて止まらなくなった。
こんなに辛かったことを、父の耳に入れたくなかった。
余計な心配をかけるだけだったから…。
「ごめんなさい…」
「少しでも嫌だと思ったのなら、深入りしないこと。相手はどんどんとエスカレートするだけなんだから。自分は自分でしか守れないんだよ」
「…ん…」
「それと、気になる人がいると思うのなら、その人以外に身を投げ出すのはダメだから。相談をするのはもちろん良しとしても、一歩踏み込めば誤解を生むだけになる。自分の信用度を下げて相手に蔑まれるだけになる。その時にはもっと海斗は傷つく」
「でも…、俺が入ったら、有馬と鳥羽の関係が崩れるようで怖いんだ。それに、鳥羽に知られてうとましいって思われるのも嫌だ…」
「そうだね。鳥羽君がどんな気持ちで海斗の傍にいるのかはっきりしたことは分からないけど。好意のない人間に、これほどまでのことはできないはずだよ」
「い、一度言われたんだ…。俺みたいな人間、見ていて放っておけないって…。彼のいろんなところを見ていると誰にでも同じでただの親切なんだって思う…」
父の腕に包まれていて、海斗の心はどんどんと弱くなっていくように感じた。
鳥羽に過去に言われた台詞を口に乗せれば、僅かに父が硬くなった。
頭を、背を、撫でていた掌がぴくりとした。
父にしてみれば海斗の言葉だけで判断するのは難しかったが、そのような言葉を投げつけた人は許せないものだった。
言葉のあやだったとしても、恋心を抱いた自分の息子に聞かせたくない。
その後に海斗はきちんと謝罪されているものの、最初の言葉のほうがショックで頭にこびりついていた。
海斗が完全に鳥羽に気持ちを許せないでいるのは、そこに原因があるといってもいいくらいだ。
「苦しむ恋などさせたくないけれど…。今日、確かめてみようか」
「や、やだよっ」
「海斗のことを言うわけじゃない。私が少し、聞いてみたいだけだ」
父は海斗の負になることはしないだろうが、心の中には津波のような不安が襲ってきた。
加えて、海斗が心情を吐露したことで、父の『子離れ』が始まるのである…。
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今日も御多分に洩れずテーブルにお茶を置くと、父は海斗の隣に腰を下ろしてきた。
「ご飯を頂きに行ったり話を良くするとは聞いたけれど、添い寝とまでなると、『近所付き合い』の域をこえるんじゃないのか?」
海斗は、二人に囲まれて寝ることがある仲、とまでは言葉にしていなかった。
父の話し方は静かだったが、はっきりと質問をぶつけてきた。
父は海斗に、「人を見る目だけは間違わないように」と厳しく教えてきた。
海斗を護りたいから故の行動であったことは充分なくらい承知している。
だから最初はどうしても一歩下がった視点で人柄を見ようとして冷たい印象を与えてしまう。
簡単に人を信用して、傷つけられないようにと何度も言われてきた。
海斗が性に関して奔放だったことがより父を心配させたのだろう。
それに海斗はしつこい関係を求めてはこなかったから…。
父は「心配して様子を見に来た」と言ってはいたが、たぶんこれは、海斗の現状の『確認』だろう。
到着と同時に現実を知ったのだ。
今の父の質問の中には「それだけ信頼できる人間として海斗の中で確立されているのか?」という意味も含まれていた。
深い感情がこもっているのか、と暗に問われているようだった。
『ただの近所付き合い』ではないことをすでに感じ取っているのだ。
幼い頃から隣近所で過ごしてきた仲であれば、幼馴染として互いの家に入ることも、泊まることもあるだろうが、大人になってから引っ越してきた人間と共に寝るだろうか。
海斗の何気ない、心の変化やこれまでと違う行動も引っかかっているのだろう。
海斗は父をこれ以上誤魔化せないことを知った。
例の事件で酷い目にあったこと、隣の二人がどういった人間で、どれだけ海斗を救ってきてくれたか、今思う複雑な気持ち。
どうしても素直に鳥羽に頼れない、代わりに必要な時だけ慰めてくれる有馬の存在。
海斗がどういう人間を求めるのか、知る父だから話せたことのようだ。
脅迫紛いの事件があったと耳にした時には、父はただ驚いて海斗を胸に抱いた。
父の深い愛情を感じた…。
涙がポロポロと零れて止まらなくなった。
こんなに辛かったことを、父の耳に入れたくなかった。
余計な心配をかけるだけだったから…。
「ごめんなさい…」
「少しでも嫌だと思ったのなら、深入りしないこと。相手はどんどんとエスカレートするだけなんだから。自分は自分でしか守れないんだよ」
「…ん…」
「それと、気になる人がいると思うのなら、その人以外に身を投げ出すのはダメだから。相談をするのはもちろん良しとしても、一歩踏み込めば誤解を生むだけになる。自分の信用度を下げて相手に蔑まれるだけになる。その時にはもっと海斗は傷つく」
「でも…、俺が入ったら、有馬と鳥羽の関係が崩れるようで怖いんだ。それに、鳥羽に知られてうとましいって思われるのも嫌だ…」
「そうだね。鳥羽君がどんな気持ちで海斗の傍にいるのかはっきりしたことは分からないけど。好意のない人間に、これほどまでのことはできないはずだよ」
「い、一度言われたんだ…。俺みたいな人間、見ていて放っておけないって…。彼のいろんなところを見ていると誰にでも同じでただの親切なんだって思う…」
父の腕に包まれていて、海斗の心はどんどんと弱くなっていくように感じた。
鳥羽に過去に言われた台詞を口に乗せれば、僅かに父が硬くなった。
頭を、背を、撫でていた掌がぴくりとした。
父にしてみれば海斗の言葉だけで判断するのは難しかったが、そのような言葉を投げつけた人は許せないものだった。
言葉のあやだったとしても、恋心を抱いた自分の息子に聞かせたくない。
その後に海斗はきちんと謝罪されているものの、最初の言葉のほうがショックで頭にこびりついていた。
海斗が完全に鳥羽に気持ちを許せないでいるのは、そこに原因があるといってもいいくらいだ。
「苦しむ恋などさせたくないけれど…。今日、確かめてみようか」
「や、やだよっ」
「海斗のことを言うわけじゃない。私が少し、聞いてみたいだけだ」
父は海斗の負になることはしないだろうが、心の中には津波のような不安が襲ってきた。
加えて、海斗が心情を吐露したことで、父の『子離れ』が始まるのである…。
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- 関連記事
お父さんはやっぱりお父さんなんですね。
息子の葛藤や悩みを察して
実家では口にできない思いがあると感じて
なんとかしてあげたいって思って追いかけてくれたんだ。
血のつながりじゃなくて身体のつながりがあるという
特殊な父子関係ですが
いいお父さんですね。
このままこう着状態
あるいは、安易な方向に流されるかと心配していましたが
新たな展開が期待できそうです。
息子の葛藤や悩みを察して
実家では口にできない思いがあると感じて
なんとかしてあげたいって思って追いかけてくれたんだ。
血のつながりじゃなくて身体のつながりがあるという
特殊な父子関係ですが
いいお父さんですね。
このままこう着状態
あるいは、安易な方向に流されるかと心配していましたが
新たな展開が期待できそうです。
ほんとに 海斗を 深身+親身に 考えてくれてるのねー
パパが 鳥羽に 海斗について 確かめてくれるのは 海斗にとっても 鳥羽にとっても いい時期で いい結果を 生むんじゃないかな?
(*^o^*)...パパが 愛のキューピット♪...byebye☆
パパが 鳥羽に 海斗について 確かめてくれるのは 海斗にとっても 鳥羽にとっても いい時期で いい結果を 生むんじゃないかな?
(*^o^*)...パパが 愛のキューピット♪...byebye☆
甲斐様
こんにちは。
> お父さんはやっぱりお父さんなんですね。
あの夜、抱きながらいっぱいいろーんなことを考えて感じて知ったのだと思います。
そんな中で腕からスルッと消えちゃったような息子だったから…。
> いいお父さんですね。
たぶん、すごく『親子』を越えた愛情があるんだと思います。
長年可愛がってくれた数々の『お父さん』は決して海斗に手出しをしなかったけど。
今となっては、一番いい『父』に巡り合えたかな…と思う海斗でした(←現実は知らないけどね)
> このままこう着状態
> あるいは、安易な方向に流されるかと心配していましたが
> 新たな展開が期待できそうです。
私自身がどうしても『定番』なコースを追い求めてしまいます。
だから展開もなにもない、つまんない作品のような気がします。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> お父さんはやっぱりお父さんなんですね。
あの夜、抱きながらいっぱいいろーんなことを考えて感じて知ったのだと思います。
そんな中で腕からスルッと消えちゃったような息子だったから…。
> いいお父さんですね。
たぶん、すごく『親子』を越えた愛情があるんだと思います。
長年可愛がってくれた数々の『お父さん』は決して海斗に手出しをしなかったけど。
今となっては、一番いい『父』に巡り合えたかな…と思う海斗でした(←現実は知らないけどね)
> このままこう着状態
> あるいは、安易な方向に流されるかと心配していましたが
> 新たな展開が期待できそうです。
私自身がどうしても『定番』なコースを追い求めてしまいます。
だから展開もなにもない、つまんない作品のような気がします。
コメントありがとうございました。
きえったん様
こんにちは~。ご一緒でしたね~。びっくりでした。
> ほんとに 海斗を 深身+親身に 考えてくれてるのねー
>
> パパが 鳥羽に 海斗について 確かめてくれるのは 海斗にとっても 鳥羽にとっても いい時期で いい結果を 生むんじゃないかな?
>
> (*^o^*)...パパが 愛のキューピット♪...byebye☆
パパの協力がなければ、一歩進めなかった海斗なのか?!
ってか、パパはどこまで首を突っ込んでくる気でしょうか。
『愛のキューピット』???
果たしてパパの真意はいかに?!
コメントありがとうございました。
こんにちは~。ご一緒でしたね~。びっくりでした。
> ほんとに 海斗を 深身+親身に 考えてくれてるのねー
>
> パパが 鳥羽に 海斗について 確かめてくれるのは 海斗にとっても 鳥羽にとっても いい時期で いい結果を 生むんじゃないかな?
>
> (*^o^*)...パパが 愛のキューピット♪...byebye☆
パパの協力がなければ、一歩進めなかった海斗なのか?!
ってか、パパはどこまで首を突っ込んでくる気でしょうか。
『愛のキューピット』???
果たしてパパの真意はいかに?!
コメントありがとうございました。
けいったん様
すんません、自分の名前、打ちこんでました…m(__)m
この場で訂正を…。
すんません、自分の名前、打ちこんでました…m(__)m
この場で訂正を…。
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