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BLの丘
白い色 10
2010-10-28-Thu  CATEGORY: 白い色
グラスに注がれていた日本酒を大翔は一気に飲み干した。
「ちょっと、そんなに勢いよく飲んで…」
「美祢はムカつかねーのかよっ?!こんな終わり方されてっ!!」
大翔の隣にいた美祢が、大翔を咎めれば返ってくるのは怒鳴り声だった。
それから腕を伸ばされて、厚い胸板の中へと誘い込まれる。
「なんでもっと早く『別れろ』って言ってやれなかったんだろ…」
「大翔が気にすることじゃないじゃん…」
「本当にもう、吹っ切れてるの?泣くんだったら泣いていいから」
「うん。いつ話を切り出されるかって心配しながら付き合っていたから、はっきりして清々した気分」
『忙しくなった』と初めて聞かされたのはもう1年以上も前のことだ。
駆と同じ年と思えば、それも納得できた。
定期的に会ってはくれたけど、ぎこちなさは薄々感づいていた。
「そんなこと思いながら過ごしてきたのか?!」
日常のあれこれを聞かせることはあっても、奥底にあった本心を大翔に告げたことはなかった。
改めて過ぎてきた日々の、美祢の心の葛藤を耳にすれば、大翔の腕に力が籠った。
「馬鹿美祢っ!!苦しかったんなら言えば良かっただろ!見せかけの恋愛ごっこの話聞いて満足してた俺が情けねーだろーがっ!!」
「だから、大翔が怒ることじゃないから…」
護ってくれようとする態度がとても嬉しい。
常に不安に晒されていたかもしれないけれど、やっぱり過ごした日を怨むことなどできない。
誰に何を言われようが、付き合っていた間の北野は、美祢のことを想ってくれたと思えて仕方がなかった。

最初に声をかけてきたのは北野だった。
以前から大翔と北野はお互いのことを知っていた。
北野が男女どちらでも相手に出来る人間だというのも、嗅覚のようなもので嗅ぎとっていた大翔だ。
国分寺家に出入りしている美祢に北野が気を取られることに時間はかからなかった。
歳を追うごとに、美祢には幼さと伸びあがるような大人の色香が混ざり始め、不思議な魅力を醸し出していた。
憎まれ口を叩いても大翔は駆を『兄』として慕っている。その友人だと思えば安心感もあった。
大翔は全く警戒していなかった。
美祢が幸せになれる、とそれだけを信じていた。
その心を知っていたから、尚更美祢は大翔に本心を打ち明けられなかったのかもしれない。
大翔に北野を嫌ってほしくもなかったから。

「ごめんね、大翔…」
「なんで美祢が謝るんだよっ?!」
「うん…。こんなに思われているのに、相談もできなかったから…」
「もう、絶対、隠し事なんかするなっ!!美祢のことならいつだって何だって聞いてやるからっ」
「ありがと…」
大翔の背中に腕を回して縋りつく。
トクントクンと心臓の音が聞こえた。
安心できる肌の温もりを感じるのも久し振りだ。
大翔の腕はいつでも温かい。
他の人間では味わえない、独特の安心感がここにはあった。

駆が持ってきた話題を一切口にすることはなく、夕食と酒に舌鼓をうち、アルコールも回ってほろ酔い気分でいた頃、着替えた駆が再び顔を出した。
ちょうどその時、美祢は甘えたい気持ちを隠しもせず自ら抱っこをせがむ子供のように大翔に両手を伸ばしているところだった。
駆から盛大な溜め息がこぼれる。
「お、まえら…、まぁいいけどなぁ…。家の中だし…」
「何の用だよ?兄貴と話すことなんか、今ないから」
会社内で繰り広げられているあれやこれは当然のように駆の耳にも入っている。
幼い頃からの二人の仲を知っていた駆は、これと言って咎めることもしなかったのだが、人目を憚らない二人にどう言い聞かせようか悩みの種でもあった。
抱きつく感覚が一般人とは全く異なるのである。

大翔の言葉など聞きもしないといった様子で駆はここまできた理由を述べた。
「おまえたちの態度があまりにも変だから秀樹に直接聞いたんだ。かなり言い渋っていたが理由は聞いたぞ」
酔っていた身体の熱が一気に冷めていく気分だった。
美祢の身体は強張り、大翔の全身から怒気が滾るのが分かる。
「いちいち報告しに来たのかよっ?!!!」
「あいつのことはそれなりに知っているからな。美祢ちゃんが絡んでいるとは思いもよらなかったが」
駆の台詞で美祢の性癖がバレたことを知る。
そして駆自身、そういった人間に対して寛容であることも認識した。
駆は部屋の中につかつかと入ってくると、未だに”抱っこ”をされている二人の前に腰を下ろした。
「まぁ、いい。ちょっと飲もう」
テーブルの脇に置かれた一升瓶を持ち上げて、空いたグラスに注いでいる姿に大翔が怒鳴り声を上げる。
「出て行けよっ!!話すことなんかねーって言ってんだろっ!!」
美祢を腕に抱えていなかったら、間違いなく飛びかかっていただろう。
「その短気な性格はなんとかしろって何度言わせるんだ!!俺が話したいのはおまえじゃないっ!美祢ちゃんのほうだっ!」
「蒸し返してどうするってんだ!!」
「言い分はどっちもあるんだよ」
核心に迫る物言いに北野が美祢に何を伝えたかったのかが隠れていた。
大翔と駆の二人で交わされる無言の会話。
駆が何を言いたいのか、美祢には想像もつかなかった。

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お兄さん…\(◎o◎)/!
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コメント

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No title
コメントきえ | URL | 2010-10-28-Thu 14:05 [編集]
MO様
こんにちは。

>大翔の怒りは、なかなか静まりませんね~。駆は、どんな北野の言い分を伝えるのでしょう?更新を楽しみに、お待ちしています♪

怒ってますね~(笑)
よほど気に入らなかったんでしょう。それか美祢のことを気に入りすぎか。
兄ちゃん、北野とお話してきました。
さて、何が言いたいんでしょうかね。
コメントありがとうございました。
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