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BLの丘
淋しい夜に泣く声 1
2009-08-27-Thu  CATEGORY: 淋しい夜

夢は見るものだと、誰かに言われた。
それが、一夜だけを共に過ごした相手の置き土産だったのか、母子家庭で育った母親の言葉だったのは定かでない。

美術大学を卒業し、一時は企業広告を扱う会社に勤めたものの、わずか1年たらずのうちにクライアントの倒産が相次ぎ、連鎖的に自分の勤める会社も倒産という形に追い込まれて失業するはめになった。
20代半ばだというのに、アルバイトの収入で賄う日々。共に大学を卒業した仲間はトップ企業のデザイン部門で名を馳せている者もいる。若くして有名画廊の弟子に転がり込み、絵画展を開いている者もいた。自分同様に職にあぶれ、海外のとある公園で似顔絵を描いている者の噂も聞いた。
デザインという部類を理解せず、「絵描き」という言葉でくくった母親は、美術大学を志願した時点でいい顔をしていなかった。生き別れた父親がフリーのカメラマンで、世界中を駆け巡り家庭を顧みない人だったから、いつの頃からか、母親は『美』や『芸術』に対して嫌悪を示すようにすらなっていた。それでも、美大に行かせてくれたのは、まだ心のどこかで思っている父の面影を自分に見出していたからなのだろう。

今宵も暮田英人(くれた ひでと)は、行きつけのバーで声を掛けられた人物についていった。
男にしては丸顔で二重の瞳はぱっちりと開き、被さる睫毛は女子高生と見紛うばかりに長い。170センチに足るか足りないかの身長とほとんど日に焼けることのない素肌には目立った男らしい筋肉は見受けられなかった。薄茶のフニャっとした髪が更に彼を幼く見せている。
高校、大学と、美術を専攻し、体育会系の運動とは程遠い生活をしていたから当然かもしれないが、誰が見ても「華奢」という言葉を生ませる体つきを英人自身は良く思っていなかった。
それでもこうして毎夜のごとく客が取れるのは、この身体があってなのだろう。

初めて男を覚えたのは高校1年の時だった。
小学校に上がる頃には、父はいなかった。何かの枷がはずれたかのように、母は家に男を連れ込んでいた。部屋の片隅に蹲って、母とその相手が果てるのをひたすら待った。
母は、英人には、連れ込んだ相手が会うと気が逸れるからと、安アパートの2LDKのふすまで仕切られた奥の部屋から出してはくれなかったが、英人は時折相手の男の雄を眺めては興奮を覚えていた。今更ながら、母の『女』という肉体には何の興奮も抱かなかった。

幼い頃から、男と女の混じり合いがどんなものであるのかを知っていた英人は、自分の整った体を目当てに寄ってくる女共に興味を持つことはなかった。母親の肉体は綺麗だった。年齢を感じさせない肌のハリと無駄な脂肪のない引き締まった体。授業の合間などで見る女子生徒の若々しい体つきと同じように思えた。だから、母親と同じに思えて女の体に興味などなかったのだ。
むしろ、英人の体中を熱い血液が巡ったのは、体育の授業などで男同士が着替える時。自然と目に留まるのは、自分とは違って鍛えられた肉体美と、鎮まる下着の中身。
当然、そんなことを微塵にも他人に感じさせるわけにはいかない。
腰の奥にズンズンと感じる衝撃を受けたのはいつの頃だったろう。
それが決して他人には気付かれてはならないものだと感じたのも、同じころだ。

高校は男子校だった。表向き共学ではあったが、同じ敷地内に建物が二つ。男子棟と女子棟に分かれており、生活は『共学』とはとてもいいがたいものだった。
同じ敷地内といえども、文化祭や球技祭などを除けば、勝手な出入りができないように真ん中には申し訳程度の柵が取り付けてある。
『申し訳程度』というのは、その柵は簡単に越えることができるからだ。教師もその近辺での出来事は大目に見ている。
たとえば、柵を越えて5メートルくらいの範囲で行われていることは、『クラブ活動で飛び出したボールを拾いに行った』くらいにしか思われない。多少の時間が経過しても誰もとがめたりしない。
そんな公認の逢瀬場所ですら、英人には興味のないものだった。

高校に入ってしばらくすると、自分の周りに男の人だかりがいるのに気づいた。同級生で単に席が近かったから話し始め仲良くなった木村元樹(きむら もとき)がなんとなくその意味を知らせてくれる。
「英人ってば、今年入学の中で一番の綺麗どこっていうか…さぁ。女子棟にも英人ほどの別嬪さんがいなかったから、それで注目をあびているんだよね」
元樹はスプリンターだった。高校もスポーツ特待で、中学では全国大会で記録を出しているほどの実力者だった。スポーツなど特にこなしていなかった英人とは違って、鍛えられた肉体に鼻筋の通った顔立ちは女子高生からも人気が高い。英人よりも頭一つ分ほど身長も高く、飄々としてはいるものの、鋭い視線はあまり人を近づけようとしない。伸びた手足には無駄のない筋肉がついていて、一見は上級生にも見られる。
そんな人気の高い元樹に『綺麗』などと言われて喜べるはずもない。元樹に限らず、誰に言われても…だ。
「男どうしで?バカバカしい」
心にもないことが思わず口を突いた。そう言い放った後で、ふと寂しそうに顔を歪めた元樹の表情が見えたが、一瞬のことで消え去る。
「…だよ、ね…」
今にも消えてしまいそうな小さな言葉が元樹から漏れた。
そんな元樹が、男しか相手にできない性癖だと聞かされたのは数か月後のことだった。

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