事務室の中での羽生は実に紳士だった。
事務機械が並ぶ部屋。向かいあって座るような形で、特に孝朗に触れてくることもなく、ただ会話だけをこなす。
物足りなさもどこかで感じていた。
「映画とか見る?ドライブの方がいい?」
誘われ文句はずっと続いてくる。その先にあることの方が孝朗の興味を惹いていた。
完全に性欲を満たす為の、浅ましい人間に成り下がったと、ひどく落ち込んでくる。
ただ、その『違い』を知りたいだけなのだとはっきりと感じた。
圭吾に満足していないわけではない。
一緒に住み、時折肌を合わせて、お互いが必要であるのだと感じる瞬間は嬉しいし満たされる。
何も知らないから片隅で求めてしまう、ちょっとの刺激なのだとは理解している。
それが、いかに危険なことなのか…。
「越谷さん…」
「まだ、そう呼ぶんだね」
「ごめんなさい…」
だけど呼び方などすぐには変えられない。同時に、『特別』になったのだと周りに知らせるような危機感が生まれていた。
圭吾にだけは知られたくない…、あまりにも図々しいこと。
「まぁ、孝朗君の好きに任せるけれど。どこか他人行儀みたいであまり嬉しくないな」
フッと笑みを浮かべた羽生の手が孝朗の頬を撫でる。
羽生の中では、手の中に入れたも同然なのだと漠然と悟った。
掌の温かみも圭吾とは全然違う。嫌うことではなかったが、違和感がついてまわった。
なにより、圭吾を相手には抱かない緊張感がここにはある。
『安心』という言葉は程遠い。
この瞬間、好奇心で人を求めてはいけないのだと気付いた。
周りの何人もの人を傷つけるだけになるのだと…。
曖昧に濁した返事は羽生に期待を持たせるだけであり、圭吾に不安をいだかせる。
願望と欲望は似ているようで違う。
羽生に求めたものは、後者であり、一時的な『刺激』でしかない。
これを圭吾に知られた時に、どれだけ侮蔑されるのだろうか…。
言わなければいけない言葉は幾つもあった。
晒すことが怖かったけれど、羽生ならば理解してくれると言う自惚れもある。
圭吾との関係を口にしても、認めてくれるだろう。軽蔑はしないでくれるだろうという、密かな期待。
「越谷さん…」
「なに?」
自分で隠したいと言いながら、孝朗から関係をばらしたと知ったら圭吾は怒るだろうか…。それとも喜ぶのだろうか。
彼の立場を考えたらせっかく得た職場で、居辛さをあたえることになってしまうのかもしれない。
孝朗の中で葛藤するものが渦巻いていく。
…辞めるのであれば、自分だけでいい…。
一言…、圭吾の力が欲しかった。
今だから分かる。自分を引っ張り上げてくれた力…。
彼がいるから、自分が居るのだと…。
「ごめんなさい。…少し、時間をください…」
孝朗がこの場で答えられた精一杯の返事だった。
これ以上にも進まない、肯定でも否定でもない、あまりにも曖昧すぎる言葉で今の時を終わらせる。
笑みを浮かべたままの羽生が、やはり慌てもせずに、「うん、孝朗君の気持ちの整理もね」と先を急がせなかった。
そんな一言も圭吾とは違って新鮮ではあったが、もう迷う気持ちは湧かなかった。
事務室を出た孝朗はまっすぐに圭吾の傍に寄った。
心配そうに見つめてくれる瞳が温かい。
全ての後ろ姿がもう答えを出していたのだとは孝朗は知らない。
そっと背に当てられた掌のぬくもりも、先程羽生が触れた時とは異なっている。
孝朗は、いつ、入ったばかり、覚えたばかりのこの職場を去ろうかと考えを巡らせ始めた。
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事務機械が並ぶ部屋。向かいあって座るような形で、特に孝朗に触れてくることもなく、ただ会話だけをこなす。
物足りなさもどこかで感じていた。
「映画とか見る?ドライブの方がいい?」
誘われ文句はずっと続いてくる。その先にあることの方が孝朗の興味を惹いていた。
完全に性欲を満たす為の、浅ましい人間に成り下がったと、ひどく落ち込んでくる。
ただ、その『違い』を知りたいだけなのだとはっきりと感じた。
圭吾に満足していないわけではない。
一緒に住み、時折肌を合わせて、お互いが必要であるのだと感じる瞬間は嬉しいし満たされる。
何も知らないから片隅で求めてしまう、ちょっとの刺激なのだとは理解している。
それが、いかに危険なことなのか…。
「越谷さん…」
「まだ、そう呼ぶんだね」
「ごめんなさい…」
だけど呼び方などすぐには変えられない。同時に、『特別』になったのだと周りに知らせるような危機感が生まれていた。
圭吾にだけは知られたくない…、あまりにも図々しいこと。
「まぁ、孝朗君の好きに任せるけれど。どこか他人行儀みたいであまり嬉しくないな」
フッと笑みを浮かべた羽生の手が孝朗の頬を撫でる。
羽生の中では、手の中に入れたも同然なのだと漠然と悟った。
掌の温かみも圭吾とは全然違う。嫌うことではなかったが、違和感がついてまわった。
なにより、圭吾を相手には抱かない緊張感がここにはある。
『安心』という言葉は程遠い。
この瞬間、好奇心で人を求めてはいけないのだと気付いた。
周りの何人もの人を傷つけるだけになるのだと…。
曖昧に濁した返事は羽生に期待を持たせるだけであり、圭吾に不安をいだかせる。
願望と欲望は似ているようで違う。
羽生に求めたものは、後者であり、一時的な『刺激』でしかない。
これを圭吾に知られた時に、どれだけ侮蔑されるのだろうか…。
言わなければいけない言葉は幾つもあった。
晒すことが怖かったけれど、羽生ならば理解してくれると言う自惚れもある。
圭吾との関係を口にしても、認めてくれるだろう。軽蔑はしないでくれるだろうという、密かな期待。
「越谷さん…」
「なに?」
自分で隠したいと言いながら、孝朗から関係をばらしたと知ったら圭吾は怒るだろうか…。それとも喜ぶのだろうか。
彼の立場を考えたらせっかく得た職場で、居辛さをあたえることになってしまうのかもしれない。
孝朗の中で葛藤するものが渦巻いていく。
…辞めるのであれば、自分だけでいい…。
一言…、圭吾の力が欲しかった。
今だから分かる。自分を引っ張り上げてくれた力…。
彼がいるから、自分が居るのだと…。
「ごめんなさい。…少し、時間をください…」
孝朗がこの場で答えられた精一杯の返事だった。
これ以上にも進まない、肯定でも否定でもない、あまりにも曖昧すぎる言葉で今の時を終わらせる。
笑みを浮かべたままの羽生が、やはり慌てもせずに、「うん、孝朗君の気持ちの整理もね」と先を急がせなかった。
そんな一言も圭吾とは違って新鮮ではあったが、もう迷う気持ちは湧かなかった。
事務室を出た孝朗はまっすぐに圭吾の傍に寄った。
心配そうに見つめてくれる瞳が温かい。
全ての後ろ姿がもう答えを出していたのだとは孝朗は知らない。
そっと背に当てられた掌のぬくもりも、先程羽生が触れた時とは異なっている。
孝朗は、いつ、入ったばかり、覚えたばかりのこの職場を去ろうかと考えを巡らせ始めた。
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おっと 孝朗、ここで 留まることが 出来たのかぁーー!Σ(;。`゜ω゜。)お゙----ッ
圭吾とは 違うのは 当たり前なこと
でも 触れられて 初めて 気づくこともあるか。
薄々は 感じているだろう圭吾?
バカタレな孝朗には お仕置きが 必要だわ!
くすぐりの刑だっ!( ・`ω´・)⊃))))*^0))))キャ~止めて~ヒィヒィ♪
コレッテ?d(´・ω・`)...圭吾って 甘いよなぁ...byebye☆
圭吾とは 違うのは 当たり前なこと
でも 触れられて 初めて 気づくこともあるか。
薄々は 感じているだろう圭吾?
バカタレな孝朗には お仕置きが 必要だわ!
くすぐりの刑だっ!( ・`ω´・)⊃))))*^0))))キャ~止めて~ヒィヒィ♪
コレッテ?d(´・ω・`)...圭吾って 甘いよなぁ...byebye☆
けいったん様
こんにちはー。
> おっと 孝朗、ここで 留まることが 出来たのかぁーー!Σ(;。`゜ω゜。)お゙----ッ
>
> 圭吾とは 違うのは 当たり前なこと
> でも 触れられて 初めて 気づくこともあるか。
とどまりましたーーー。
好奇心に流されそうだったけど、いなくなっては困る存在に気付いた模様。
(いや、初のことだけに、不安もいっぱいなのかな――――と…)
> 薄々は 感じているだろう圭吾?
> バカタレな孝朗には お仕置きが 必要だわ!
> くすぐりの刑だっ!( ・`ω´・)⊃))))*^0))))キャ~止めて~ヒィヒィ♪
>
> コレッテ?d(´・ω・`)...圭吾って 甘いよなぁ...byebye☆
圭吾―――!!!!
どうするんだろう、圭吾。
バカタレな孝朗ヽ(゚∀゚)ノうん、お仕置きしないと…
くすぐりの刑、可愛かったです(///∇//)
ぜひ、そんなのを…(?!)
コメントありがとうございました。
こんにちはー。
> おっと 孝朗、ここで 留まることが 出来たのかぁーー!Σ(;。`゜ω゜。)お゙----ッ
>
> 圭吾とは 違うのは 当たり前なこと
> でも 触れられて 初めて 気づくこともあるか。
とどまりましたーーー。
好奇心に流されそうだったけど、いなくなっては困る存在に気付いた模様。
(いや、初のことだけに、不安もいっぱいなのかな――――と…)
> 薄々は 感じているだろう圭吾?
> バカタレな孝朗には お仕置きが 必要だわ!
> くすぐりの刑だっ!( ・`ω´・)⊃))))*^0))))キャ~止めて~ヒィヒィ♪
>
> コレッテ?d(´・ω・`)...圭吾って 甘いよなぁ...byebye☆
圭吾―――!!!!
どうするんだろう、圭吾。
バカタレな孝朗ヽ(゚∀゚)ノうん、お仕置きしないと…
くすぐりの刑、可愛かったです(///∇//)
ぜひ、そんなのを…(?!)
コメントありがとうございました。
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