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BLの丘
真っ赤なトマト 37
2011-05-20-Fri  CATEGORY: 真っ赤なトマト
「『どういう意味』? うーん、食事したりドライブしたり、かな。孝朗君ともっと話をしたいのに、なかなか打ち解けてくれないし。あわよくばその先も…とも考えていないわけではないけど」
羽生はどこまで本気なのか、圭吾に答えつつ、孝朗から視線を反らさなかった。
もう、すでに孝朗と圭吾の関係を知ったはずの羽生なのに、何故こんなことを言い出しているのかが分からない。
羽生が言いたいことの意味など、圭吾は容易に理解することができる。
その誘いをはっきりと断っていないのも、孝朗の態度で知れた。

「タカ?」
圭吾の問いは『何故断らないのか?』という意味を充分に含んでいる。
自分たちのことを隠したとしても、羽生の気持ちに答えられないということは可能であるはずだ。
それをしない孝朗に苛立ちが募っているのが、さすがの孝朗も感じ取れた。
こんな時、どう返したらいいのかの言葉も態度も、孝朗は身につけていなかった。
圭吾には伝えるべきだった。羽生が知ってしまったこと。隠すことの意味がないこと。
ただそれをここで口にしてもいいものなのか、羽生の手前で悩んでしまう。
「圭吾、あのね…」
「一度のキスは許してくれたのに、それ以降はさっぱりだったからね。確かめていたんだ」
「なにっ?!」
「越谷さんっ!!」
一番知られたくないことを簡単に口にされる。
僅かな間でも圭吾とは違うものを持つ羽生に惹かれたこと、今日の事務室で二人きりになるまで、圭吾に抱く安堵感と羽生に対する信頼の違いに気付かなかったこと。
どう説明したらいいのか、…それより、圭吾にどう思われてしまうのか…。

いまにも羽生に掴みかかろうとする圭吾の姿があった。
孝朗よりも先に羽生に向かったのは、彼の人間性を知り、不意打ちをかけたのだと圭吾が理解していたからだった。
『一度のキス』に孝朗の意思はなく、羽生が仕掛けたことだったとは、孝朗の性格も羽生の行動も知る圭吾には簡単に思い浮かべることができた。
羽生なら、すでに孝朗の性格を把握しているはずだ。
そんな手口を使ったことが許せずにいる。
こんなところで問題など起こさせたくなく、孝朗は咄嗟に羽生の前に向かい出た。
「圭吾っ」
それが、羽生を庇う姿になっていたなどとは微塵も思わなかった。

「タカ…っ、なんだよ、これっ」
優先したのは羽生ではないが映り方は違う。
圭吾よりも大事にする者があるのかと、与えた不安。
孝朗は何がどうなっているのか、全く分からずに、激昂する圭吾を見つめるしかなかった。
「圭吾君」
孝朗の背後で、羽生が立ち上がる気配がある。
何も言えずにいる孝朗を守ろうとする態度に、圭吾の怒りは増していくばかりだった。

「タカが、靡いたってこと? じゃあ、今日のあれはなんだよ?」
一時的なことではあったにしても、否定できない言葉が次から次へと襲ってくる。
もう、今となっては羽生との関係は幻のようなものであったのに、一瞬の惑いを圭吾は察し責めてくる。
圭吾に返す言葉がなかった束の間でさえ、目の前の男は理解して更に怒りを込めた。
返事を曖昧にしたのは自分。
差し出される腕に甘えたいのも本心…。事務室から出た先で待ってくれていた人…。
「圭吾…」
「っざけんなよっ!!!!」
圭吾の中で誤解が膨らんでいく。
そうじゃない、違うのだ…と、何故言葉が出ないのだろう。
今はきちんと分かった、と、どうして言えないのだろう。
「期待だけ持たせて、裏でコレか?!いつ俺と切れようか、算段してたのか?!」
「圭吾君、落ち着いて。ちょっと俺がやり過ぎた」
反省の色を見せた羽生が圭吾を宥めにかかる。
真実を語らせようとしたことが、裏目に出ていると悟った羽生の態度はあくまでも冷静だった。
「羽生さんに言われたくないっ!!」
「君たちのことは薄々気付いていたんだ。ただ孝朗君からはっきりしたことを言われなかったからね。そこに俺がつけこんだだけなんだ。確かに孝朗君のことは個人的に気にはなりはしても、従業員として失えない部分の方が強い。自然と振舞えるようになれば、今より格段に緊張感を持たずに済む。客に対して砕け過ぎるのはもちろん問題だけれど、今の孝朗君はスタッフに対しても自ら壁を作っているような姿勢が気になっていて、その元は二人の関係のことだろう?」
変に隠そうとしたことがぎこちなさを生んでいた。
そのことを羽生は告げてくる。
逆にそれが、意思の疎通を妨げる要因になりかねない…と。
「私生活の全てを晒せ、と言っているんじゃない。ただ、無理して虚像を作らなくていいってことだよ。嘘を一つつくと、その嘘を守るためにまた次の嘘が出てくる。そんな風になってほしくないんだ」

『自然体』…。
その意味を深く考えさせられた。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-05-20-Fri 11:44 [編集]
孝朗の曖昧な言動が、
圭吾の誤解を生み 羽生を煽らせた原因!

奥ゆかしいと 優柔不断は 雲泥の差だよ!(p`・ω・´q)
やっぱ 孝朗は お仕置き決定だぁーー!

お引越しされるも どの様にされるのも 作者様の自由です。
きえ様が 決められたなら それで OK!(o^―^o)ゞ了解!
それこそ『自然体』でね~♪(○ゝз・)b⌒byebye☆
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-05-20-Fri 12:06 [編集]
羽生さん、いい人っぽいけどなんかむかつく
素直じゃなくて捻くれた性格してそう
気持と目的は分かったけど
純情孝ちゃんは、振り回されちゃんてかわいそー
こうなったら圭ちゃんバックヤードではうーんとイチャイチャして
見せびらかし&意思表示で仕返ししちゃいましょうよ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-05-21-Sat 10:20 [編集]
けいったん様
こんにちはー。

> 孝朗の曖昧な言動が、
> 圭吾の誤解を生み 羽生を煽らせた原因!
>
> 奥ゆかしいと 優柔不断は 雲泥の差だよ!(p`・ω・´q)
> やっぱ 孝朗は お仕置き決定だぁーー!

お仕置き決定です。
羽生もちょっとからかいすぎですけど…。
孝朗、いけない子だ~。
それを分からせる圭吾も大変ですね…。
理解してくれるのかな…、孝朗…。
コメントありがとうございました。

Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-05-21-Sat 10:24 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 羽生さん、いい人っぽいけどなんかむかつく
> 素直じゃなくて捻くれた性格してそう
> 気持と目的は分かったけど
> 純情孝ちゃんは、振り回されちゃんてかわいそー
> こうなったら圭ちゃんバックヤードではうーんとイチャイチャして
> 見せびらかし&意思表示で仕返ししちゃいましょうよ

羽生、もともといい人なんでしょうけど、今回はちょっとやりすぎですよね~。
はっきりしない孝朗も悪かったんですけど。
しっかり圭吾まで振り回されました。
イチャイチャして見せびらかすようなことをしたら、それこそ純情孝朗はいられないかも?!
それこそ、自然体ではいられない?!
圭吾はもちろん、そうするでしょうが(笑)
コメントありがとうございました。
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