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BLの丘
真っ赤なトマト 36
2011-05-19-Thu  CATEGORY: 真っ赤なトマト
仕事の終わりを待った。
接客中の羽生の態度は何も変わることがないが、微妙な空気の変化に圭吾は気付いている。
あえて言わないでくれているのは、ここが『職場』という場所だからなのか…。
勤務時間を終えて、更衣室にある椅子に座り、この先を考えていた時に、扉が開いた。
ふと顔を上げると羽生が立っている。
「あ…」
なんと声をかけたらいいのかと悩む孝朗に、羽生が微笑んできた。
「孝朗君、もしかして、何か勘違いしているかな、と思って」
突然話しかけられたことの意味が分からず、思わず首を傾げてしまう。
羽生は孝朗が座っていた長椅子の隣に並んで腰をおろしてきた。
「俺の誘いを断ったからって、気まずくなって、『辞めよう』なんていう考えは持たないでほしいんだけれど」
自分の思いを見透かされていたことにも驚く。
羽生は、私的なことと仕事は全く異なるもの、と区分けしていた。
感情の在り方の違いは、孝朗の心をさりげなく緩ませるものでもあった。
軽く、声をかけてみた…程度の存在だったのか。
やはり、自分はこういったことに慣れていない。痛感させられる。
だが、職を失う云々は、羽生の存在があるから、だけにとどまらない。

「圭吾君とは、本当は…?」
その確信をつかれる。
優しく語りかけられる口調と重なって、伸ばされた掌が俯く孝朗の前髪をかき上げた。
はっとして羽生を見つめ返すと、穏やかに微笑む姿があった。
「今日の昼間の雰囲気は、ただの同僚じゃなかったよね?」
もう隠すことはないのだと言われている気分だった。
孝朗では気付くことのない、些細な仕草や向ける視線、その他もろもろが他人の目に映る時には『特別』を見せる。
不慣れだから余計に誤魔化すこともできないのかと、不甲斐なさを感じた。
どう答えたらいいのだろう。
仕事を辞める気でいたから今更自分のことはいいが、圭吾の今後のことを考えると口が開かない。

羽生よりも先に、圭吾と話をしたかった。
せっかく連れてきてもらったこの場所…。今の環境…。手放したくないとは思うものの、何よりも大事にしたいのは圭吾だと気付いては、全てを手中に入れるのはおこがましいと思う。
ふぅと羽生から溜め息が零れた。
「何に脅えているのかな?」
その質問の意味すら、孝朗は理解できなかった。
彷徨う視線を追いかけるように羽生の顔が近付く。
「孝朗君が、圭吾君とはなんの関係もない、そう言うから俺は声をかけた。俺の事が恋愛の意味をもって受け入れられないのであれば当然断ってくれて構わないし、孝朗君が後ろめたく、この店を去る必要もない。これは圭吾君に対しても同じ意味を持っているんだよ。二人の関係がどうであれ、故意的に隠す必要はないし、そのことを咎めるような従業員たちではない。逆に気を使われるほど悪い影響を及ぼす。俺としては今まで通りの働きをしてくれればそれでいい」

孝朗の中に巣食っていた感情を羽生は鷲掴みするように告げてくる。
自分が思っていたことは、間違っていた、と言い聞かせるように…。
自然な姿で過ごしてくれる方が、かえって接しやすいと羽生はまとめた。
隠すことがあるからこそ、人との隔たりが増えて上手くいかなくなるのだと。
羽生の気持ちは伝わってきたが、果たして他の従業員は本当にそう受け止めてくれるのだろうか。
今となって、バレてしまった羽生に、これ以上の言い訳は思いつかなかったが、やはり、人の反応は気になる。
自分でも気を使いつつ職場にいることは、苦痛のような気がしていた。
羽生が言うように、自然な姿でいることなど、孝朗にはまだ無理がある…と思う。

羽生はもう、これ以上の迫り方はしてこないのだとも悟る。
何一つ答えられずにいたところに、再び扉が開いた。白いコックコートを汚した圭吾が訝しそうに孝朗と羽生を見据えた。
「お疲れ様。終わったの?」
先に声をかけたのは羽生だった。
静かに圭吾が頷いて返事をする。
「えぇ。タカ、待たせてるの知ってるから、先に、って…」
遠慮がちな声が狭い更衣室の中に響く。
こちらのほうこそ、仕事とプライベートを混同していた。
もっとも越谷の指示であれば、圭吾も坂戸も反論もないのだろうが…。
それに、まったくの放置状態であがってくる圭吾でもない。一通りの整理はついているはずだ。
羽生との話の流れから、そして圭吾から発された言葉尻に、すでに厨房では真実が打ち明けられているのではないかと頭を過る。
孝朗が待っているのはもう周知の事実で疑われる要素も何もなかったが、今は全てが『恋愛関係』に結びついてしまった。
「そう。孝朗君を誘っていたんだけど、なかなか良い返事がもらえなくてね」
「越谷さん?!」
悪戯を仕掛けた子供のように羽生が孝朗の頬をひと撫でした。
驚いた孝朗が声を発する。圭吾の眉が跳ねあがった。
「それ、どういう意味で…?」
圭吾の声が掠れた。言いようのない緊張感が漂う…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-05-19-Thu 10:42 [編集]
大人だぁ~羽生さんは、大人なんだぁ~。:゚:+:ポ(*´vωv) ッ:+:゚:。

羽生の誘い→断る→いづらい→辞める。と、短絡的な お子ちゃま思考の孝朗とは 雲泥の差?

はっきりさせよう、はっきり言おうよ、孝明~(´ェ`)ン-…
そんな風だから 羽生さんが、圭吾を煽るんでしょうが!

笑ってるよ~(ii=_=) ジィ→→→→→グサッ≧(´▽`:)≦アハハハ...byebye☆
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-05-19-Thu 12:29 [編集]
けいったんさま
こんにちはわーー

> 大人だぁ~羽生さんは、大人なんだぁ~。:゚:+:ポ(*´vωv) ッ:+:゚:。
>
> 羽生の誘い→断る→いづらい→辞める。と、短絡的な お子ちゃま思考の孝朗とは 雲泥の差?

短絡的だーー
はい、そこは、ちょっと差をつけて…。
そんなんだから孝朗、惹かれちゃったんだよ―――なぁぁぁぁ…(←間違いなくお仕置き)

> はっきりさせよう、はっきり言おうよ、孝明~(´ェ`)ン-…
> そんな風だから 羽生さんが、圭吾を煽るんでしょうが!
>
> 笑ってるよ~(ii=_=) ジィ→→→→→グサッ≧(´▽`:)≦アハハハ...byebye☆

笑ってるのは私だけでして…。(あと羽生さんかも?!)
圭吾、煽られましたね―――。
孝朗の煮えない態度にも一喝してやらないと。
どうするんだろーーー、孝朗、圭吾――。
コメントありがとうございました。
孝朗くん自爆!?
コメント甲斐 | URL | 2011-05-19-Thu 13:41 [編集]
久々っすぅー

最近読むばかりでご挨拶もなしに失礼しました。
それに一週間ぶりなので、まとめ読み&復習してきました。
「付き合って」に軽々しく「はい」何ていっちゃいけないじぇないですかねぇ。
羽生さんたら、孝朗くんと圭吾くんのこと半分くらいわかっていながら確証がなかったら誘ってみたって感じで、分かった今となってはちょっと遊んでるみたい。孝朗くんがほんとのこと言わなかった仕返しに。
けど、圭吾くんにしたら「俺というものがいながら…」って言いたいですよね。
明日はオフの日でしょうか・・・孝朗くん覚悟しなきゃね♪
いけない子にはお仕置きよ。
言ってわからなきゃ体に教えるのも有効かと…
Re: 孝朗くん自爆!?
コメントきえ | URL | 2011-05-20-Fri 07:08 [編集]
甲斐様
おはようございます。お久し振りです。

孝朗、自爆してます(´∀`;)
それに羽生も楽しんでます。

> 「付き合って」に軽々しく「はい」何ていっちゃいけないじぇないですかねぇ。
> 羽生さんたら、孝朗くんと圭吾くんのこと半分くらいわかっていながら確証がなかったら誘ってみたって感じで、分かった今となってはちょっと遊んでるみたい。孝朗くんがほんとのこと言わなかった仕返しに。
> けど、圭吾くんにしたら「俺というものがいながら…」って言いたいですよね。
> 明日はオフの日でしょうか・・・孝朗くん覚悟しなきゃね♪
> いけない子にはお仕置きよ。
> 言ってわからなきゃ体に教えるのも有効かと…

すっかりもてあそばれている孝朗ですね~。
もうはっきり分かった今、羽生は孝朗の口から言わせたいんでしょう。
それで孝朗がもうちょっと堂々としてくれたらいいのに…と思っているかどうか…。
控え目(?)な子ですから。
孝朗、覚悟?!
うん、圭吾もね、こんなのを相手にしていると大変です。
コメントありがとうございました。
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