場所は一等地の中に立つ、庭園の美しい料亭だった。
迎える人間は世界に君臨していく人間だけに、おもてなしの心はどこまでも行き届かさせようとする。
一部でも不満が生まれれば、公然と文句を言ったし、次回の利用も考えさせられた。
相手側の立場も分かるから、店も万全の準備をしてくれる。
先に到着していた野崎美琴は、「社長、こちらへ…」と石畳の回廊を促していく。
榛名千城も、人を迎える重要性を身につけているだけに、粗相をすることはなかった。
予定時間通りに現れたイタリア人の人物に、次へと進められる、今後の付き合い方はサクサクと話が通っていく。
共に損にはならない繋がりが分かるから千城も時間の無駄とは思わない。
話は日本語でない言葉で進められた。
互いに英語に精通していたから困ることもなかったのだろう。
万一のために通訳も用意されていたが、微妙なニュアンスは身近にいた美琴がフォローしていた。
一番、近くて確かなもの…。
懐石料理を全て食べ尽したあと、満場一致の取引契約をとって別れの時間を迎えた。
料亭の外で深々と頭を下げて見送った、美琴と千城だったのだが…。
消えていく車の明りを見送れば、千城が「使っておけ」と、その料亭の奥にある部屋のカードキーを渡してきた。
まさに、普通の人間では近付けない場所である。
先程別れたイタリア人も、知らない、隠れ家だろう。
「社長…」
大きく戸惑って意味を知っては突き返す。
どんな意味があってか…。たぶん、明日の休みのことなのだろうが…。
忙しい用事もない。今夜の話で、一段落した、ともいえる。
全ては、千城の摂りこなしてくれた結果とは分かっても…。
「あぁ、捨ててもいいぞ。だけどアイツはもう部屋で待っているからな。いくか行かないかは野崎の自由だ」
『自由』の意味がどこか違うだろう…。
行くように仕向けている計画性はどうなのだろうか…。
普段、どこにも連れていってあげていない存在。
美琴の仕事に理解を示して、我が儘も言わない年下のバーテンダー…。
美琴の仕事上がりの、一番近い場所で待たれることとは…。
常に待っていてくれている人に、また待たせることは、美琴にはできなかった。
渋いものを胸の内に感じながらも、気使ってくれることに喜びも過る。
「こちらのお支払いは…」
社長の奢りに、一応の抵抗を見せ、しかし、美琴が受け入れたと分かれば、千城から漏れるものは、「料亭の食事代と一緒だ」と経費扱いにされる。
今更千城にとって、一泊の代金は雀のナントカと変わらないのだろうか…。
もっとも、断られるとは思っていない先見の目があるのだろう。
冷静を装う振りをして、千城を見送った。
姿が見えなくなれば急いたように、奥の和室へと歩を進める。
石畳で繋がれ、離れとなったその場所は、呼ばない限り誰も近付かない、隠れ蓑のようなところだった。
各界の要人が利用する、いわば、庶民の自分たちではまず、利用できるような場所ではない場所だろう。
秋になればもみじが彩り、都会でありながら静けさに癒される。
都内とは思えない場所。
この場で丁寧な態度を取る必要などないと分かりながら、万が一を考える頭が、最後の姿を見るまで、緊張感を持たせてくれた。
扉を開ける前の、廊下で三つ指をつき、「失礼いたします」と声がかけられる。
スーッと開けられた襖に、ひとりきり、浴衣を身につけた瑛佑が、「なにしているの?」と声をかけてきた。
その姿を見た途端、仕事からの解放を知ったのかもしれない。
「え…ぃ…」
声が喉の奥に詰まる。
抱き上げられるように脇の下に腕を入れられて、奥の間に連れ込まれた。
すでに敷かれた二人分の布団が、意味を確かめるように鎮座している。
「社長に言われた。ここ一泊70万円なんだって。その価値、満足しないで、帰ってくるなって…」
もちろん目を見開いたのは美琴の方だ。
どんな満足具合かは人それぞれだろうが…。
絶句する美琴に被さってくる体がある。
「美琴さんの体、そんなに安くないけれどさ…」
有無もなく、翌日を『休日』にした千城らしい言い分だと脳裏を掠めていった。
呆れつつも、溜め息一つで受け入れようとしている自分に、それこそ呆れる。
言い訳の素がそこにあるのだから、いいのだろうか…。
共犯になっていく…。
「瑛佑…」
囁くと、嬉しそうな笑顔と体の熱さが襲ってきた。
秋の旅行…。今度こそ邪魔をされない何か考えてあげようかと思った時だった。
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秋の旅行…。全く思い浮かびませんでした。
で、こんなものでご勘弁を。
迎える人間は世界に君臨していく人間だけに、おもてなしの心はどこまでも行き届かさせようとする。
一部でも不満が生まれれば、公然と文句を言ったし、次回の利用も考えさせられた。
相手側の立場も分かるから、店も万全の準備をしてくれる。
先に到着していた野崎美琴は、「社長、こちらへ…」と石畳の回廊を促していく。
榛名千城も、人を迎える重要性を身につけているだけに、粗相をすることはなかった。
予定時間通りに現れたイタリア人の人物に、次へと進められる、今後の付き合い方はサクサクと話が通っていく。
共に損にはならない繋がりが分かるから千城も時間の無駄とは思わない。
話は日本語でない言葉で進められた。
互いに英語に精通していたから困ることもなかったのだろう。
万一のために通訳も用意されていたが、微妙なニュアンスは身近にいた美琴がフォローしていた。
一番、近くて確かなもの…。
懐石料理を全て食べ尽したあと、満場一致の取引契約をとって別れの時間を迎えた。
料亭の外で深々と頭を下げて見送った、美琴と千城だったのだが…。
消えていく車の明りを見送れば、千城が「使っておけ」と、その料亭の奥にある部屋のカードキーを渡してきた。
まさに、普通の人間では近付けない場所である。
先程別れたイタリア人も、知らない、隠れ家だろう。
「社長…」
大きく戸惑って意味を知っては突き返す。
どんな意味があってか…。たぶん、明日の休みのことなのだろうが…。
忙しい用事もない。今夜の話で、一段落した、ともいえる。
全ては、千城の摂りこなしてくれた結果とは分かっても…。
「あぁ、捨ててもいいぞ。だけどアイツはもう部屋で待っているからな。いくか行かないかは野崎の自由だ」
『自由』の意味がどこか違うだろう…。
行くように仕向けている計画性はどうなのだろうか…。
普段、どこにも連れていってあげていない存在。
美琴の仕事に理解を示して、我が儘も言わない年下のバーテンダー…。
美琴の仕事上がりの、一番近い場所で待たれることとは…。
常に待っていてくれている人に、また待たせることは、美琴にはできなかった。
渋いものを胸の内に感じながらも、気使ってくれることに喜びも過る。
「こちらのお支払いは…」
社長の奢りに、一応の抵抗を見せ、しかし、美琴が受け入れたと分かれば、千城から漏れるものは、「料亭の食事代と一緒だ」と経費扱いにされる。
今更千城にとって、一泊の代金は雀のナントカと変わらないのだろうか…。
もっとも、断られるとは思っていない先見の目があるのだろう。
冷静を装う振りをして、千城を見送った。
姿が見えなくなれば急いたように、奥の和室へと歩を進める。
石畳で繋がれ、離れとなったその場所は、呼ばない限り誰も近付かない、隠れ蓑のようなところだった。
各界の要人が利用する、いわば、庶民の自分たちではまず、利用できるような場所ではない場所だろう。
秋になればもみじが彩り、都会でありながら静けさに癒される。
都内とは思えない場所。
この場で丁寧な態度を取る必要などないと分かりながら、万が一を考える頭が、最後の姿を見るまで、緊張感を持たせてくれた。
扉を開ける前の、廊下で三つ指をつき、「失礼いたします」と声がかけられる。
スーッと開けられた襖に、ひとりきり、浴衣を身につけた瑛佑が、「なにしているの?」と声をかけてきた。
その姿を見た途端、仕事からの解放を知ったのかもしれない。
「え…ぃ…」
声が喉の奥に詰まる。
抱き上げられるように脇の下に腕を入れられて、奥の間に連れ込まれた。
すでに敷かれた二人分の布団が、意味を確かめるように鎮座している。
「社長に言われた。ここ一泊70万円なんだって。その価値、満足しないで、帰ってくるなって…」
もちろん目を見開いたのは美琴の方だ。
どんな満足具合かは人それぞれだろうが…。
絶句する美琴に被さってくる体がある。
「美琴さんの体、そんなに安くないけれどさ…」
有無もなく、翌日を『休日』にした千城らしい言い分だと脳裏を掠めていった。
呆れつつも、溜め息一つで受け入れようとしている自分に、それこそ呆れる。
言い訳の素がそこにあるのだから、いいのだろうか…。
共犯になっていく…。
「瑛佑…」
囁くと、嬉しそうな笑顔と体の熱さが襲ってきた。
秋の旅行…。今度こそ邪魔をされない何か考えてあげようかと思った時だった。
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秋の旅行…。全く思い浮かびませんでした。
で、こんなものでご勘弁を。
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拍手コメK様
こんばんは~。
>一泊70万円もするお部屋って、どうよ!!!わけわからん。庶民感覚ではついて行けぬ(笑。
そこは千城の選択ってことで~。
どんな豪華なお部屋かは、ご想像にお任せします。
何せ書いている作者がいい加減、適当極まりないものなので。
ある意味、いい、秋の旅ですね。
コメントありがとうございました。
こんばんは~。
>一泊70万円もするお部屋って、どうよ!!!わけわからん。庶民感覚ではついて行けぬ(笑。
そこは千城の選択ってことで~。
どんな豪華なお部屋かは、ご想像にお任せします。
何せ書いている作者がいい加減、適当極まりないものなので。
ある意味、いい、秋の旅ですね。
コメントありがとうございました。
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