「や、やだっ、ソコは…」
どれだけ他の部分を気持ち良く拭かれたとしても、下着の下だけは勘弁だった。
いくら人に肌を晒し慣れたとはいえ、情交のない人間にみせるのはさすがの海斗でも抵抗がある。
それは理解しているといった有馬の態度も、いささか気の強さを見せる部分は変化がなかった。
「でもこのままでは蒸れて痒くなりますよ」
「じゃあ、自分でやる…」
「膝すら自力で持ち上げられない人間が何を言っているんですか。どうしてもしたいのなら拭き残しがないか見学させてもらいますけど」
「…」
今の海斗は有馬にとって、『ただの病人』でしかない。
使命感に燃えてもらうのは結構だが、病院に入院しているわけでもない人間に対してなにもそこまでしなくても…という思いもあった。
『膝すら自力で持ち上げられない』とはいうけれど、歩いてくるまでの道で立っている体力がなかっただけで、ベッドに横にされてしまえば、膝を曲げるくらいはできることだった。
「大丈夫。ケット、貸して…」
身体を覆い隠す物を強請れば、有馬も強引な手段には出なかった。
「それよりも」と、「肌を冷やす前に着て」と、ぶる下がっていた洗濯物のシャツを着せられた。
いくら下半身に使い慣れたタオルケットをかぶせられたところで、人が見ている前で膝を立てたり腰を動かしてパンツを脱ぐのは恥ずかしさしか浮かばなかった。
しかもその後には、手探りでぬぐいとる作業がある。
確かに汗にまみれた股間を拭きとることはさっぱりする感覚があった。
それだけで終了し、汚らしいものを渡すようで羞恥はあったのだが、タオルを「はい…」と差し出せば小さな溜め息が聞こえた。
「だから…。…まったくお尻も腰も拭いていないでしょ。前見られるのが嫌ならうつ伏せになって」
動きで海斗のさわった拭い所はわかるのだろう。
有馬が言うが早いか、彼の力でころんとされるのが早いか。
下半身にかけたはずのタオルケットはすでに隠す意味を成していない。
「うわっ」
「すぐ終わりますから」
言われたように、その作業は手っ取り早く確実に終了した。
海斗がもそもそやっていた時間の半分も経っていない。
部屋にあった洗濯物を見れば、普段どんな格好で家の中にいるのかが分かるのか、うつぶせのまま下着と着なれたハーフパンツを穿かされて、海斗は再び天井を見た。
「気持ち悪い…って言ってたけど、何か食べられます?水分は?触れた感じでは体温は平熱っぽいですから大丈夫だとは思いますけど。夏バテ?」
日頃どんな生活を送っていたのか知りたそうだった。
身体は横になれたことでだいぶ楽になったと思う。
だが食欲は全く湧いてこない。
「もういいよ…」
掠れるような声でこれ以上迷惑はかけられないと海斗が伝えれば、「何も口にしないとどんどんと体力がなくなるんですよ」と諭されてしまった。
今の状況では自力で海斗が食べ物を口にすることはない。
「ゼリー飲料がうちにあるから持ってきますね」
そう言いながら、汗で汚れた衣類や今使ったタオルなどをまとめて手にしながら有馬は玄関を出ていってしまった。
一人になったことで「はぁ…」と小さな吐息が漏れたが、まったく緊張感もない自分に気付く。
それよりも何から何まで世話をしてくれる人間がいるというのはいいものだな…とすら思っていた。
病気になんて何年もかかっていない。
いいところ、風邪をひくくらいで、それも薬を飲んで一晩も寝れば治ってしまった。
だが、振り返れば、その『たった一晩』がすごく心細かったのを思い出す。
もしかしたら自分は、このまま誰にも発見されずに腐乱死体になっているのではないか…などと思ったり…。
しばらくすると有馬がいろいろなものをおぼんに乗せて戻ってきた。
「昨日作ったもので悪いんですけど、酢の物があったので刻んできました。あと、梅干し」
他に栄養ドリンクと錠剤があった。
「無理して全部じゃなくていいですよ。最後にこれ飲んで」
有馬はおぼんの上にあったプラスチックケースに入った錠剤を指で示した。
「なに?」
「睡眠導入剤です。とにかくよく眠って」
私生活をバラしたつもりはないのに、全て見透かされているような気がする。
家事に不慣れで仕事で疲れて食欲もなくし、最終的には人の世話…。
海斗は情けなかった…。
海斗はベッドヘッドにもたれかかるように起こされてから、それぞれを手渡される。
きゅうりの酢の物は細かく刻まれてもずくと和えてあったからつるっと喉の奥に潜り込んでいった。
梅干しの酸味に口をとがらせればクスリと笑われる。
ずっと食欲がなかったのに、『おなかがすいた』とちょっと思えた。
薬を飲んで横にされて、海斗は、なんだか人肌が恋しいと思った。
人肌…というよりは、『安らぎ』だったのか…。
有馬が去って、すぐに眠りに落ちた。
ただ、海斗は、有馬に渡した部屋の鍵を返してもらっていないことに全く気付いていなかった。
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どれだけ他の部分を気持ち良く拭かれたとしても、下着の下だけは勘弁だった。
いくら人に肌を晒し慣れたとはいえ、情交のない人間にみせるのはさすがの海斗でも抵抗がある。
それは理解しているといった有馬の態度も、いささか気の強さを見せる部分は変化がなかった。
「でもこのままでは蒸れて痒くなりますよ」
「じゃあ、自分でやる…」
「膝すら自力で持ち上げられない人間が何を言っているんですか。どうしてもしたいのなら拭き残しがないか見学させてもらいますけど」
「…」
今の海斗は有馬にとって、『ただの病人』でしかない。
使命感に燃えてもらうのは結構だが、病院に入院しているわけでもない人間に対してなにもそこまでしなくても…という思いもあった。
『膝すら自力で持ち上げられない』とはいうけれど、歩いてくるまでの道で立っている体力がなかっただけで、ベッドに横にされてしまえば、膝を曲げるくらいはできることだった。
「大丈夫。ケット、貸して…」
身体を覆い隠す物を強請れば、有馬も強引な手段には出なかった。
「それよりも」と、「肌を冷やす前に着て」と、ぶる下がっていた洗濯物のシャツを着せられた。
いくら下半身に使い慣れたタオルケットをかぶせられたところで、人が見ている前で膝を立てたり腰を動かしてパンツを脱ぐのは恥ずかしさしか浮かばなかった。
しかもその後には、手探りでぬぐいとる作業がある。
確かに汗にまみれた股間を拭きとることはさっぱりする感覚があった。
それだけで終了し、汚らしいものを渡すようで羞恥はあったのだが、タオルを「はい…」と差し出せば小さな溜め息が聞こえた。
「だから…。…まったくお尻も腰も拭いていないでしょ。前見られるのが嫌ならうつ伏せになって」
動きで海斗のさわった拭い所はわかるのだろう。
有馬が言うが早いか、彼の力でころんとされるのが早いか。
下半身にかけたはずのタオルケットはすでに隠す意味を成していない。
「うわっ」
「すぐ終わりますから」
言われたように、その作業は手っ取り早く確実に終了した。
海斗がもそもそやっていた時間の半分も経っていない。
部屋にあった洗濯物を見れば、普段どんな格好で家の中にいるのかが分かるのか、うつぶせのまま下着と着なれたハーフパンツを穿かされて、海斗は再び天井を見た。
「気持ち悪い…って言ってたけど、何か食べられます?水分は?触れた感じでは体温は平熱っぽいですから大丈夫だとは思いますけど。夏バテ?」
日頃どんな生活を送っていたのか知りたそうだった。
身体は横になれたことでだいぶ楽になったと思う。
だが食欲は全く湧いてこない。
「もういいよ…」
掠れるような声でこれ以上迷惑はかけられないと海斗が伝えれば、「何も口にしないとどんどんと体力がなくなるんですよ」と諭されてしまった。
今の状況では自力で海斗が食べ物を口にすることはない。
「ゼリー飲料がうちにあるから持ってきますね」
そう言いながら、汗で汚れた衣類や今使ったタオルなどをまとめて手にしながら有馬は玄関を出ていってしまった。
一人になったことで「はぁ…」と小さな吐息が漏れたが、まったく緊張感もない自分に気付く。
それよりも何から何まで世話をしてくれる人間がいるというのはいいものだな…とすら思っていた。
病気になんて何年もかかっていない。
いいところ、風邪をひくくらいで、それも薬を飲んで一晩も寝れば治ってしまった。
だが、振り返れば、その『たった一晩』がすごく心細かったのを思い出す。
もしかしたら自分は、このまま誰にも発見されずに腐乱死体になっているのではないか…などと思ったり…。
しばらくすると有馬がいろいろなものをおぼんに乗せて戻ってきた。
「昨日作ったもので悪いんですけど、酢の物があったので刻んできました。あと、梅干し」
他に栄養ドリンクと錠剤があった。
「無理して全部じゃなくていいですよ。最後にこれ飲んで」
有馬はおぼんの上にあったプラスチックケースに入った錠剤を指で示した。
「なに?」
「睡眠導入剤です。とにかくよく眠って」
私生活をバラしたつもりはないのに、全て見透かされているような気がする。
家事に不慣れで仕事で疲れて食欲もなくし、最終的には人の世話…。
海斗は情けなかった…。
海斗はベッドヘッドにもたれかかるように起こされてから、それぞれを手渡される。
きゅうりの酢の物は細かく刻まれてもずくと和えてあったからつるっと喉の奥に潜り込んでいった。
梅干しの酸味に口をとがらせればクスリと笑われる。
ずっと食欲がなかったのに、『おなかがすいた』とちょっと思えた。
薬を飲んで横にされて、海斗は、なんだか人肌が恋しいと思った。
人肌…というよりは、『安らぎ』だったのか…。
有馬が去って、すぐに眠りに落ちた。
ただ、海斗は、有馬に渡した部屋の鍵を返してもらっていないことに全く気付いていなかった。
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R様
おはようございます。
いらっしゃいませ~。(というか、私が『お邪魔させていただいております』って感じでしょうか…)
> 看病シーン萌えますね。
> ホントみなさん文章上手過ぎです!
> 自分が書いてるのが恥ずかしくなります
お、恐れ多いです……(/_;)
よそ様に伺うたびに皆様の知識の高さに感心していますよ。
私、本当に無知なものでして…。
看病シーンというか、こんな有馬もアリ?!な部分を書きたかったってだけなんですけど…(汗)
> 是非お待ちしています!
お誘いは他の方からもいただいているんですが、レベル高すぎて足踏み状態です。
でも、秋くらいには…とか考えています。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
いらっしゃいませ~。(というか、私が『お邪魔させていただいております』って感じでしょうか…)
> 看病シーン萌えますね。
> ホントみなさん文章上手過ぎです!
> 自分が書いてるのが恥ずかしくなります
お、恐れ多いです……(/_;)
よそ様に伺うたびに皆様の知識の高さに感心していますよ。
私、本当に無知なものでして…。
看病シーンというか、こんな有馬もアリ?!な部分を書きたかったってだけなんですけど…(汗)
> 是非お待ちしています!
お誘いは他の方からもいただいているんですが、レベル高すぎて足踏み状態です。
でも、秋くらいには…とか考えています。
コメントありがとうございました。
こんな時って、縋りたくなったり甘えたくもなりますよね。
弱った身体に弱ったハート。
海斗くんてこんな状態じゃなくても
きっと見たらほっとけない子なんでしょうね。
かまいたくなったり
守ってあげたくなったり。
弱った身体に弱ったハート。
海斗くんてこんな状態じゃなくても
きっと見たらほっとけない子なんでしょうね。
かまいたくなったり
守ってあげたくなったり。
甲斐様
こんにちは~。
そんなとこまでやっちゃう?!…ですよね…。
> 海斗くんてこんな状態じゃなくても
> きっと見たらほっとけない子なんでしょうね。
> かまいたくなったり
> 守ってあげたくなったり。
鳥羽からも気を使われ、有馬に快方され…。
年上なのに頼りない、思わずかまってしまいたくなるような海斗です。
こうやって心も身体もボロボロになっちゃったとき、一番弱いんですかね、人間。
さりげなく入り込んでくる隣人さん。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
そんなとこまでやっちゃう?!…ですよね…。
> 海斗くんてこんな状態じゃなくても
> きっと見たらほっとけない子なんでしょうね。
> かまいたくなったり
> 守ってあげたくなったり。
鳥羽からも気を使われ、有馬に快方され…。
年上なのに頼りない、思わずかまってしまいたくなるような海斗です。
こうやって心も身体もボロボロになっちゃったとき、一番弱いんですかね、人間。
さりげなく入り込んでくる隣人さん。
コメントありがとうございました。
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