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BLの丘
待っていたから 18
2013-11-06-Wed  CATEGORY: 待っていたから
【嘉穂視点】

「なぁ、鞍手と付き合っているんだろ?」
 嘉穂が柳川に声をかけられたのは、部活に行く前の時間だった。香春はクラブの探索ですでに校外に出てしまっている。二時間もしないで戻ってくることが分かっていたから、香春についての心配は特にしていなかったが、他人から口にされる名前には訝しさを浮かべてしまう。
 小学校からの付き合いで、決して知らない人間ではないが、良く話をする間柄でもなかった。
 何を言いたいのだろうか…と首を傾げた。
「なんで?」
 嘉穂は短い言葉で問い返す。
 付き合っている真実が知りたいのか、付き合っていたら何が悪いのか、まだ特別な何かではないと確証が得たいのか、何が聞きたいのか…。
 柳川は「怖い顔、すんなよ」とたしなめてくる。肩を竦められて余計にイラッときた。
 嘉穂が明らかに不機嫌になった表情を見て、やっぱり…と柳川は納得したようだ。分かって離れてくれるのならありがたいが、からかわれるのは良しとしない。
 ただでさえ、香春は周りの影響を受けやすい性格をしている。
 アレコレ言われて気を病ませることだけは避けたかった。一番心配したのは、香春の成績だ。
 昔から筑穂が勉強は見てくれていたが、飲み込みの遅さは充分なほど承知している。一緒の高校に行くのは無理だ。嘉穂が高校のレベルを落とすのは簡単だったが、筑穂は絶対に認めないだろう。少しでも香春が頑張ってくれたなら、多少の差は埋められるかもしれない。
 だから支障がないくらいに、あからさまな態度はとってこなかった。
 人の噂が怖いことは、親を失って世間の冷たさを肌で感じてきたからこそ知っている。噂の対象にはされたくない。しかし、隠しようもない雰囲気は、自然と零れていく。それがどんな悪循環に陥らせるのかも…。
 嘉穂がここまで頑張ってきたのは、ただ香春の為しかなかった。
 本当だったら公然と打ち明けてしまいたいところもある。だがそれをしたら、香春は一層、身が引き締まらなくなるだろう。

「鞍手のやつ、イイ具合になってきたじゃん」
「だから、なにが?」
 とぼけたかった。
「おまえたち、ヤっているんだろ? そのコツが知りたかっただけ」
 単なる好奇心で目を向けてほしくない。柳川の言い方にますます嘉穂は顔を強張らせた。あわよくば、香春を手にかけようという気持ちも混じっているのだろうか。
「ふざけんなっ」
 色恋に目覚める年頃だとは、自分を思っても理解できる。先に"味"を知ったなら、それを聞きたいことも…。不慣れな人間より、経験のあるものに委ねたい何かというものも持ち合わせていてもおかしくない。
 しかし嘉穂には言いふらす気はこれっぽっちもない。先輩などが自慢げにすでに童貞から卒業したとか、どこのオンナを組み敷いたとか話すのも聞いていたから、そんな安い人間になりたくはなかった。
 何でもペラペラと話すと思われていたなら心外もいいところだ。
 思わず手が出て、胸倉を掴みかかったところで、「待てよ」と一瞬脅えた表情を見せた。嘉穂の体格からして、喧嘩になったとき、勝ち目はないと悟るのだろうか。
「おまえ、上陽をウザったがっていただろう? 引き受けてもいいってこと」
 柳川の言うことが理解できなくて、眉間に皺が寄る。柳川は嘉穂と香春の間をどうこうする気がないのが脅えの内に感じられた。
 はっきりと意思表示してくる八女については、確かに手をこまねいた部分があるかもしれないが、あくまでも友人だ。待ち受ける事柄が"遊び相手"にされることは許せるはずがない。
 それなりに八女の魅力も知るから、狙われていることも察知していた。嘉穂が突き放さなかったのは、危険性が及ぶことを漠然と感じていたから…。
 狙われるんだ、こういう輩に…。
 香春に似た部分があるからこそ…。だから香春には一刻を争っていたのかもしれない。

 嘉穂は何が正しかったのか分からなくなる。八女を気遣ったから、八女がどんな感情を嘉穂に抱いたのかもそれとなく知っていた。少しでも香春の嫉妬が感じられるのなら…と浅はかな考えがなかったわけでもない。
 香春が積極的になればなるほど、どこかで安心もしていた。
 反対につけ上がらせたのは八女だったが…。
 香春と深い関係になって、その存在は確かに邪魔になっていた。友人としての付き合いに留まらせたいと思うのは傲慢なのだろうか。
「引き受ける、って? なに、ソレ?」
 柳川の言い分が何を意味するのか、知りたくはないが聞いてみたい。それこそ、"あわよくば…"の考えが多少なりとも過ったことは否めなかった。
 嘉穂と同じように、八女を大事にしてくれる存在になってくれるのなら…。
"引き受ける"とは、嘉穂が担っていた役目を受け継いでくれることだろうか、という淡い期待が問う。
「アイツも鞍手のようになるのかな…って。正直、不安と期待が入り乱れている」
 伏せ目がちにポロッとこぼれた。
 それこそ、柳川の本音だったのだろう。
 守りたいけれど守れない。一番手っ取り早く体を重ねることで"自分のものにする"行為は許されないが、色を増すことで特別な存在がいることを撒き散らす。
 それを香春の"色"で感じたのだろう。
 独占欲とは、格好良くもみっともないものでもある。
 重ねて夢見たのだ。自分のものになる八女を…。だから香春を見る目も変わってきた。

 強引に推し進めて、いい結果だけは生まないが、嘉穂は柳川の本音を聞いて少なからず安堵していた。
…好きなんだな…。
 体から堕とそうという状態は絶対に褒められない。しかしセックスに味をしめたと少なからず香春が発していた雰囲気は、周りまでも刺激していた。そこに食らいつく若いオスはいる。

 香春に危害はない…。
 分かったら嘉穂も笑えた。
 ついでに釘も刺した。
「ジョウの気持ち、確かめてからな。興味だけで突っ走るなよ。相手がどんだけ苦しんで、辛い思いをするのかその責任っていうのを負うんだ」
「楽しくないってこと?」
「楽しいなんてないよ。殺人行為かと思った…」
 経験者だ。
 嘉穂の言葉に一瞬目を剥いた柳川だったが、快楽だけを求めるバカ共とは違って、相手を気遣うことを悟ったようだ。

 一生引きずる…とは嘉穂の胸の内に秘められた。
 そんな人間なんて、ほんの一握りだろう。
 柳川がどれだけの脅えを纏っても良い。今後軽はずみな先輩となって後輩を焚きつけてほしくなかった思いは、同級生だったからなのか…。
 もしふたりが短い期間で別れてしまっても、気持ちが込められていたのなら受け止め方は違うはずだ。
「恋愛を語るのはまだ早い」と筑穂は良く言うけれど。何事も経験しなければ進歩がない。

「上陽、今度の大会、絶対に見に行くはずなんだ。鞍手だって来るだろ?」
「こっちは一家ぐるみで、だよ」
「誰も入り込む隙間がないって分かったら、上陽、おまえのこと、諦めるんじゃない?」
 暗に公にしないことを咎められているようだった。はっきりと宣告しなくても、伝われば一番良いのだが、八女に対して曖昧さは通用しない。自棄になられて香春に何かをされるのも怖かった。
 しかし、守ってくれるものがいるとなれば…。
 考えこむように黙ってしまった嘉穂に、柳川は「俺も行くから…」とだけ告げて、踵を返していった。
 大会の日に、何かをしろというのだろうか…。そばに柳川がいれば心の隙間につけ込むことができる…。

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暇なお方がいたら、復習してみてください→5
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待っていたから 17
2013-11-05-Tue  CATEGORY: 待っていたから
 笑っちゃいけない…。
 香春のことを心配されているところなのに…。

 ほどなくして、穂波と浮羽が津屋崎家に辿りついた時には、香春のほうが焦った。なにせ、服も着ていない状態で、味わった痛みをどうにかやりすごしていたのだから…。
 もう、全てにおいて、何があったのか知られる状況。それでも母親に伝えられていないようなのでまだ良しとするところなのだろうか。暗かった部屋には朝の光が当たり始めた。早朝過ぎるこの時間帯に、嘉穂が咄嗟に穂波を呼んだのは、起きていることを承知していたからかもしれない。
…パン屋さんは、今日は営業しているのだろうか…。

 香春は体がだるくて、とても身動きが出来なかった。
 何より、肛門周辺が痛くて仕方ない。
 嘉穂は下着とTシャツを着ただけの状態で兄たちを迎え入れる。布団にくるまった状態の香春を見て、真っ先にため息をついたのは、穂波だったのか、浮羽だったのか…。
 ゴミ箱に山積みになったティッシュと、裸の状態は、言い訳のしようがない。
 恥ずかしいのに、痛みの具合が、全てを曖昧にしてしまった。
「香春?」
 穂波に話しかけられて「大丈夫…」と言ってはみたものの、あっさりと無視された。
「無理するなよ…。嘉穂、俺も、ここまでするとは思わなかった…」
 それはどこかで境界線を引いた甘えだったのだろうか。筑穂という兄がいない夜。後悔があったようだ。
 反論するように嘉穂が「だって、福智さんが…っ」と言い訳めいたことを口にする。同時に視界に入った小道具に穂波も気付いて食いついていった。目をぎょろりとさせる。
「はぁっ? 嘉穂っ? 何、コレッ? どっから手に入れたわけっ??」
「だから、福智さんが…」
 じっくり見てしまった美容液似の容器に視線を走らせたのは、何も穂波だけではない…。
 浮羽も顔を赤く染めながら「媚薬入り…?」と何かの文字を読んだ。
 子供では手に入れられない何かを悟ったらしい。
 そして浮羽は香春に向き合ってくる。
「変な気分になんなかった?」
 香春も今更な状態だ。浮羽はともかく、おちんちんも見せ合って入浴を繰り返した過去は、誰にでも正直に過程を暴露してしまう。
「かゆかった…。だからもう、わかんなくなっちゃったの…っ」
 浅ましさゆえ、嘉穂を求めた…などとは口にできない。

 穂波が盛大に眉をひそめながらもため息をついた。嘉穂は何がまずかったのかと、こちらで不安そうになる。浮羽は「ちょっとふたり、出てくれない?」と兄弟を促す。
 なんだろう…と訝しく思う三人だが、一番年上の浮羽に逆らえる人はいなかった。
 ふたりきりになって、浮羽が「痛いところ、見てもいい?」と聞く。それがどこなのかはすぐに理解できる。
 香春は顔を真っ赤にしながら、躊躇ったが、「このままじゃ、もっと辛いよ」と言われて大人しくなった。
 布団をまくり上げられて、小さな尻の狭間を浮羽の目が眺めていた。
 羞恥に耐え抜く香春を見ては、「薬だけ塗っておいてあげるね」という。腫れが早くひく、と説明されて、何故か浮羽も同じ苦しむ時があるのだと教えられたようだった。
 チューブの薬は浮羽が持ってきてくれたものだ。優しい指使いで恥部を撫でられた。
 年上の人から「香春くんはえらいね」と褒められた時、大人でも味わう苦痛があるのかと思ったら、耐え抜けた自分を褒めてやりたくなった。
 ぷくりと膨れた涙を、細い、甘い匂いの手が拭ってくれる。
「嘉穂くんが、熱いって言ってた…。熱、でちゃうかもね。お母さんには正直に言おうか…」
「え?」
 穏やかな笑みは何を含んでいるのだろうか。
 筑穂がいない時に、危険行為をしたら、迷惑がかかると思うから、その提案だけはすぐにでも拒絶できた。
 なにより、恥ずかしい行為を説明できるはずがない。
「やだっ」と首をふると、「それもそうだよね」と苦笑いをされる。
「じゃあさ。『ホナと僕はここに帰って来た。香春くんは薄着で部屋にいて風邪をひいちゃった。この家には4人がいた…』そういうことにしよう」
 ニッコリと笑った人は、『ふたりきり』の時間を作らなかった。
 母親はそれを聞いて安心するだろうか。嘆くだろうか…。
 でも自分の不注意で風邪を引いたということなら、嘉穂も責められることはないと思うと、納得できるものでもあった。
 香春は大人の意見にしっかりと頷く。

 お昼も近くなった時、香春の母親が津屋崎家にやってきた。
 家の中に香ばしいパンの焼き立ての香りが漂っていて、眉間を寄せられたが、「やはり筑穂の言うことに逆らえなかった」と言い訳した穂波の言葉を信じてくれたようだった。
 しかし、『風邪をひいた』と嘉穂の部屋で横になる香春を見た時に、なにやら、剣呑な空気が流れた、と息子は感じとっていたが。
 とりあえず、この場で何も言わない母に感謝する。
 母親は食事の用意をしに来たようだが、浮羽と穂波が作るものを見ては、「お土産にもらっていくわね」と何もせずに帰ってしまった。
 すぐに消えてくれたことに安堵もした。顔を合わせていれば、アレコレと聞かれそうで怖かった。
 穂波たちは家に居座ってしまったが、それぞれの部屋にいるために、あまり気にはならない。

 夕刻前に筑穂たちが帰宅し、香春の事情を知っては、筑穂は嘉穂に対して激怒していた。それを福智は「まぁまぁ」と宥めている。
「『まぁまぁ』じゃないよっ。人んちの子を預かっていて体調、崩させちゃうなんてっ。昼間と違うんだから、夜はあったかい格好させなきゃなんないのにっ。嘉穂や穂波と同じで過ごして良いわけがないじゃんっ」
 体力のある二人は体感温度も違う、と言いたいのか、ひたすら香春を気遣ってくれて、反対に後ろめたさに香春はもっと布団に潜り込んでしまった。
 それを見て福智が「ほらほら、喚かれたら休めないだろう」と嘉穂の部屋から筑穂を連れだしていく。去り際、福智がニマニマと笑っていたことに、やっぱり知られているんだな…と羞恥に見舞われた。
 その後すぐ、筑穂は鞍手家に向かい、詫びを入れたそうだ。
 その隙に福智は、穂波が嘉穂から取り上げた"あるモノ"を見せられて、「あー…」と視線を泳がせたらしい。
「分かった。穂波の分も買ってやる。これ、相手がよがって、もっともっとって言いだすんだよ。おまえも内緒で使っておけ」
 快楽に遠慮がない子弟(←?) に薦めた品の存在が、長兄(筑穂)の耳に入ったのは、恐ろしく先の話だった。(その場は想像しないでおこう。)

 初体験の香春の苦痛を少しでも軽くして上げるために福智は選んだ品物であったようだが、その配慮を褒めてくれる人はどれだけいただろうか。
 かゆい…こすられて気持ちいい…、嘉穂のものが欲しい…。
 その快感を知った香春は、事あるごとに、秘密めいた行為を望むようになった。
『インラン』だといわれそうだが、嘉穂も満更ではなく答えてくれるからうれしくもなる。
 嘉穂は他では勃起しないと願いながら。
 独占するためにも。香春は嘉穂の欲望を香春に向けさせた。
 慣れれば慣れるほど。
 隠れた場所で嘉穂は香春を抱くようになった。
 香春は色香を増し、嘉穂は男らしい匂いを発するようになる。

 香春がクラスメイトの柳川に好奇の目で見られるようになったのは、サッカー部の大会が開かれる前の頃だった。
 今まで以上に嘉穂と香春の仲が親密なものになったことを感じとる人間は多い。
 単純に香春は嘉穂が人前でも憚らず大切にしてくれる雰囲気を見せてくれるのを喜んでいた。過度なスキンシップは相変わらずなかったが、さりげなく交わされる視線や声は、香春の気持ちを正直に表している。
 香春は笑うことが多くなったと自分でも感じているし、毎日に覇気がある。目はどうしても嘉穂を追いかけていたから、柳川の態度が変わったことには気付かなかった。

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やっと出た(゚∀゚)同級生。
 え、でなくていい…???
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待っていたから 16
2013-11-04-Mon  CATEGORY: 待っていたから
昨日、間違ってupしちゃったのがありますので、そちらもご注意ください。

R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


「いたぁぁぁぁぁっっっ」
 あまりのことに香春は大粒の涙を噴きあがらせて零した。
 逃げたい体は嘉穂の手によってしっかりと捕まえられている。
 腕が折れ、顔がシーツに伏せられた。何が起こったのか、咄嗟に分かるものではない。
…痛い、イタイ…、痛すぎる…っ。
「嘉穂、く…っ、ぃゃぁぁぁぁ」
 呼吸をすることすら苦しいのに、埋め尽くされる圧迫感で、何が喉からこぼれたのかも判別できなかった。
 我に返った嘉穂自身が、すぐに、スポンっと抜きだされる。
「香春? 香春っ? かわらっ?!」
 ぐったりとシーツの上に落ちた体を背後から抱きしめられて、心配する嘉穂の声がすぐ耳元でかけられた。
 香春は何かを答えられる余裕もなく、ボロボロと涙をこぼす。
 嘉穂の分身は抜き取られているはずなのに、まだ何かが詰まっているようだ。秘部がジンジンと疼いて、それから訳の分からない痒みが香春を苛んでいった。
 痛みとは違うものが確かに体の中にある。
「うぅぅっっ」
「香春っ、ごめんっ、香春っ!!」
 嘉穂が宥めるように香春の全身をさすってくれる。それでも逃げていかない痛みと痒みに襲われて、今まで以上にパニックに陥った。
 嘉穂の腕が強引にも香春の体をひっくり返して、正面から抱き締めてくれる。嘉穂の温かさを感じて呻きながらも香春は少しずつ意識をはっきりとさせることができてきた。

「嘉穂、くん…」
「香春、痛かったんだろ。ごめんっ、やっぱりやめれば良かった…っ」
 悔しがる嘉穂に、香春はそうじゃないと首を横に振った。
 望んだのは自分だって同じだ。嘉穂は先に説明してくれていた。
 どう言ったらいいのかも分からなくて、でも香春は体の変化を正直に吐露する。
「な、かが…、あつい…。かゆい、の…。擦って、ほしい、くらい…に…」
「香春?」
 これには嘉穂も何の事だか分からないようだった。
 香春は浅ましいと知りながら、足を擦り合わせて、痒みを逃そうとする。だが、到底上手くいくものではない。
…かゆい…。
 落ちつけば落ちつくほど、体内に宿るナニカに翻弄されてくる。
 嘉穂の指でこすられたことが『カイカン』だったから、嫌でもそれを求めてしまった。
 躊躇いがちに嘉穂が指を当てる。自然と奥へ飲み込んでいった。
 異物感があるのに、今はその刺激が心地よく嬉しい。
「嘉穂、くん…っ、あっ、も…っと…」
 怖くて苦しくて痛くて萎えたはずの性器は、何故か膨らんでいった。中を弄る手にもどうしても反応してしまう。
 獣みたいに、嘉穂を求める。
 焦りはあっても、香春の変化に嘉穂もドクンと滾らせたようだった。

「香春…?」
「あっ…、もぅ、いっかい、こすって…」
 それが何を意味するのか、嘉穂も分かったのだろうか。
 危惧し、慎重な態度に出て、それでも爆発させたい欲求がある。
「ゆっくりいくから…」
 先程と同じ勢いはしてはいけない…。
 丁寧なくらい、嘉穂はゆっくりと香春のまだ小さな蕾を滾るもので押しあけた。
 入れたい…。その欲求にはどうしても堪えられなかったらしい、
…痛いのに…、苦しいのに…。この気持ち良さは何なのだろう…。
「あっ、あっ、あっ、か、ほっ、く…んっっっ」
 決して萎えることのない嘉穂の熱棒が香春の中をかき回す。こすられる、それが酷く気持ち良い。
 香春も腰を揺すった。
 どこか、もっと敏感に反応する部分がある。そこに、欲しくてたまらない。
「香春っ、香春っ。ごめんっ」
 謝りながらも、本能には逆らえない何かを感じる。
「あぁぁぁっっっっ!」
 香春は自分も膨張させながら、奥から与えらる刺激に耐えられなくて、また嘉穂に分身を擦りつけるようにして白濁を放った。
 吐き出す瞬間、ぎゅーっと締めつけた奥に、嘉穂も息を止めた。
 揺すぶられていた体が、じっと大人しくなる。

 激しく呼吸する嘉穂の息遣いと、ドクドク唸る心臓、…そして体の奥でヒクつく脈動が香春の体に注がれた。
 嘉穂のものになったのだ…。
 苦しさよりも痛みよりも、充実感のほうが、強く、強く香春を包み込んだ。
 もう、誰にも渡さない…と激しく思う。嘉穂の全てを引き留めるためにある痛みなら、これまで燻った気持ちなんか、あっという間に吹っ飛んでいった。
 嘉穂のために悩ませた心が、一瞬にして消し飛ぶ。


 香春はそのあと、緊張と疲れと痺れによって、気を失ってしまったようだ。
 気がつくと、焦った嘉穂の声が聞こえてきた。
「ほらくんっ、香春が、あっついのっ」
『熱い? 嘉穂、おまえ、香春になにしたんだよっ?』
 まだ真っ暗な部屋がある。他に頼りようがなかった精神状態も垣間見えた。すぐそばで話をされているから穂波の声も聞こえた。更に奥から浮羽の『行ってあげた方がいいんじゃない?』と心配した声も…。
 香春は声の一つも上げられなかった。
 体を苛む痛みも勿論だったし、喉が枯れて、乾きすぎて声が出せない。
 瞼をどうにか押し上げた香春に気付いた嘉穂が、「香春っ?」と何度も呼ぶ。
 だから香春は、負担をかけたくなくて、フッと笑った。
『香春、生きているんだろうなっ?』
 電話の向こうで焦った穂波の声が、なんだか面白かった。

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マジで、息切れ起こした…。
中学生の勢いだけに任せたナニカが伝わったでしょうか…。
誰もが真剣勝負…。
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待っていたから 15
2013-11-03-Sun  CATEGORY: 待っていたから
間違えてUPしちゃった…。泣く.・゜゜・(/□\*)・゜゜・



R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


…我慢できない…。待てないってどういうことだろう…。
 香春は嘉穂の次の動きを待った。
 嘉穂の手が香春の手を引き寄せる。触れた灼熱の陰茎にドキリとしながら、嘉穂の手と一緒に握りこんだ。
「一回、イきたい…」
 嘉穂が希望し、体が覆いかぶさってきながら、またくちづけを受ける。
 先程香春は、あまりの気持ち良さに吐き出してしまったものがあったが、嘉穂は辛い状態でいるのだろうか。
 それが分かれば、香春もできるだけのことをしてあげたくなる。
「嘉穂、くんのも、舐めたほうがいいの…?」
 香春が尋ねると、大きく戸惑いを見せた。
「あ、いや、それは…。このままでいい…。…香春の手…、あったかくて気持ちいいから…」
 ゆっくりと扱き始める。嘉穂の手にまとわりついたローションのぬめりとは違う、嘉穂自身から零れてくる体液と混じって、滑りはよくなるばかりだ。
 嘉穂の大事な部分を握っている…。そこに羞恥はあるが、それよりも嘉穂の溶けていきそうな表情に気を取られる。
『気持ち良い』と嘉穂が言うのなら、このままでもいい…。
 扱く手が速められると、嘉穂は目を閉じてすぐに苦しそうに眉根を寄せた。嘉穂の腰も大きく揺れる。
「あっ、香春っ」
 そして、もっと熱い体液が嘉穂の先端から飛び出して、香春の腹の上に広がった。
 同時に嘉穂もぐったりと体を落としてくる。筋肉質な体が香春の上にかぶさって、早い心臓の動きと荒い息使いが響いてきた。
 重いけど、重くない…。
 満たされていく気持ちが上回る。
 まだ握ったままの灼熱は全く硬さを失わなかった。
 香春はもう少し触っていたくて、少し手を動かしたら、嘉穂に「うっ」と呻かれた。
「ま、待って、香春…。すっごい、カンジル…」
 慌てふためいた態度に、思わずクスっと笑みが浮かんでしまうのだが…。
 嘉穂のことを考えると、そのまま一ミリも手を動かせなくなった。
…感じるのか…。感じてくれているのか…。
 そう分かると胸がホッと安堵をついた。

 嘉穂はティッシュの箱を引き寄せて、汚れた箇所を拭き取ってくれる。
 それから不安げに香春の瞳を覗きこんできた。
「…まだ、…していい?」
 戸惑いがちに尋ねられて、何のことかと一瞬脳裏を過る。嘉穂の指先が奥の蕾を弄ったことですぐに理解ができた。
…香春の中に入りたがっている…。
 萎えようとしない嘉穂の性器を見ては、嘉穂の気持ちがダイレクトに伝わってきた。
「う、うん…。いいよ…」
 無意識に受け入れる言葉が零れていく。
 嘉穂も一度吐き出したことで、少しは冷静になれたのだろうか。
「今度はちゃんと着けるから…」
 そう言って、脇に放置されていたコンドームの封を切った。
 反り立ったモノに被せていく様子をじっと見てしまっていたら、「見ていないで…」と照れられる。慌てて視線を彷徨わせながら、香春にはつけなくていいのかと不思議になった。
 飛び出すものは同じだろうに…。
「嘉穂くん、僕は…?」
 疑問を投げかければ「香春はいい」と答えられる。
「中、汚しちゃいけないんだって。だから…。それとも香春、射れたい?」
「そ、そんなこと…」
 自分が嘉穂に対して何がしてあげられるのか分かりはしない。今は嘉穂に全てを任せてしまうのが最善だと思われる。
 小さく首を振ると、装着を終えた嘉穂が、「結構、キツイな…、これ…」と嘆いた。
…それは嘉穂のモノが大きいからじゃないだろうか…。
 ふと思ったけれど、そこは言わない。
 いや、改めてその大きさに驚いたというほうか。
 本当にこんなものが香春の中に入ってくるのだろうか。入るのだろうか…。入れるために、香春は小さい場所を大きくしておく必要があるのではないかとも思う。しかし、どうすればいいのか、これっぽっちも思い浮かばなかったけれど。

 嘉穂の体がまた覆いかぶさってくる。もう、今日何度目か分からないキスを贈られて、また香春はうっとりと酔った。
 胸の粒が嘉穂の手で擦られて、少し大きくなって硬くなっていく。
 ジンジンとして、痛みのようなものは体を痺れさせながら、下肢に繋がっていった。
 ピクンっと勃ってしまった分身に恥ずかしさが浮かぶが、嘉穂はそこまで気が回っていないらしい。
 何か夢中になったように、胸を弄り、腰を揺らめかせてくる。
 その弄っていた指が下へ下へと動いていき、隠れた場所をまた触る。
 ぬるぬるとしたローションは残されていたから、滑っていく指がクチュクチュと卑猥な音を立てた。
「あ…っ」
「やっぱり嫌?」
 もう一度最後の確認をされるように見つめられて、咄嗟に首を横に振る。
…嫌なわけがない…。
「僕、大丈夫…」
 答えたけれど、嘉穂はその負担を知るのだろう。香春の体を宥めるように抱きしめてくれた。
「痛いんだって…。最初はすごく痛いんだって…。だから絶対に無理しちゃだめだって言われたの…。俺、香春を泣かせるのはいやだよ…」
 福智は何を嘉穂に教えたのだろうか。
 そうやって脅えたらこの先、何も進まないと香春の方が思ってしまう。
 躊躇った嘉穂の肉茎に指が添えられる。
「嘉穂くんは僕の…。嘉穂くんが欲しいもの、全部あげるから…っ。僕を離さないでっ」
 どれだけ痛くて辛くても、半身を失うようなことはしたくない。
 小さな、そして大きな願いに嘉穂は答えてくれた。
 嘉穂は何回もローションを注ぎ足して、香春の体内に塗りこめていった。嘉穂の太い指が増やされることに窮屈な苦しみが生まれる。
 歯を食いしばっていると嘉穂が何度もくちづけてきて、そのたびにホッと吐息がこぼれた。やがて体の中がじわじわと熱くなる。少しばかり、痒みまで伴ってきた。嘉穂の指が擦ってくれることが気持ちいいくらいに…。
「香春、お尻、こっち向けて…」
「え?」
 嘉穂にうつ伏せになるよう言われて、おずおずと体の向きを変える。動物みたいな四つん這いの姿勢は恥ずかしかったが、腰を強く掴まれて灼熱を宛がわれたら、気持ちというものが霧散していった。
 蕾をこじ開ける。
 
 それは、痛み、というよりも、体を喰い尽される勢いだった。
 自分がこっぱみじんに吹き飛ばされてしまうような…。それほどの衝撃が貫く。
 嘉穂も、待てる理性なんて、持ち合わせていなくて、一気に差し込まれた。凄まじい痛みが全身に響く。 

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20話で終わるのかなぁ…。

祝2000記事です。良く書いたなぁ…。
確か1000の時が圭吾と孝朗だった気がするから、あ、ダブルデートだ。それ思うと、1000話ってかなり昔なのね。そっか。一年365日だもんね…。

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待っていたから 14
2013-11-03-Sun  CATEGORY: 待っていたから
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


 香春の震えを嘉穂も感じたのだろうか。動きが一瞬止まった。
『好き』…。その声に反応したようにも思えた。
「嘉穂くん…。好きだよ…」
 戸惑わせないようにもう一度囁いてみた。
 驚いたような、だけれど苦しそうな顔が見下ろしてくる。
 嘉穂は何を考えているのだろうか…。香春は分からなくて不安になって、また「嘉穂くん…」と呼びかけてしまう。
 温かな唇がまた降ってきた。
…キスって気持ちいい…。
 そう思わせてくれる、口腔内の蠢きが感じられる。

 嘉穂の手が、自分でも見たことのない場所を擦ってくる。
「ここ…。ここで、繋がるんだって…」
 体の中に誰かを受け入れることは、"特別"なことなのだとどこかで聞いた。
 今がその瞬間なら受け入れるべきだと思う。
 それでも嘉穂には戸惑いがあるのだろうか。ぎこちない動きはまた、香春までも不安にさせた。
 お互いに知らないことだらけだと、この時にも思う。
 もしかしたら、嘉穂はすでに、誰かと関係があったのかという不安は、このぎこちなさのもとで吹っ飛んでいった。分からないから、ためらうのだ。
 後孔の上を嘉穂の指がさする。
 小さくて窮屈な場所に、嘉穂のナニが打ち込まれるのだろうか。
 想像しただけで怖くもあったが、それで嘉穂の全てが手にいれられるのなら…。

 躊躇うことなどなかった。

「好きにして…」
 大人っぽいセリフを吐いた。嘉穂の好きに弄っていいと訴える。
 嘉穂はまたくちづけて、最後の躊躇いを振り払ったようだった。
「香春…。好きだよ…。誰よりも、大事にしたいんだ…」
 嘉穂の全ての思いだと香春は受け取った。それがどれだけ嬉しいものになるのか、嘉穂は知るのだろうか…。
 きつく抱きしめていた腕の力を解くと、スッと嘉穂の体が滑り落ちていく。
 汚れた場所であるはずなのに、小さな性器を嘉穂の口の中に収められた。
 ぬるりとした、とても温かい口腔内に全身が戦慄く。
「あ…っ、嘉穂く…んっ」
 じゅるっといやらしい音が響いてきた。
 気持ち良すぎて自分が分からなくなる。
「あ…、あぁ…」
 香春は分からない喘ぎを口から零す。
 その言葉までも拾うかのように、嘉穂は香春の滴を舌先で掬った。

 唇を離して、嘉穂が少しだけ香春から離れた。気持ち良さからも離されて、香春は「なに?」と動きを追ってしまう。
 どこに隠していたのだろうか。ベッドの下から、嘉穂は何かを引っ張り出してきた。
 一つはどこかで見たことがある、包み紙。もうひとつは母親が使う美容液のような容器だった。
「福智さんが、絶対使え…ってくれたの…」
 コンドームとローションは、大人だからこそ手に入れられるものなのだろうか。
 卑猥なことしか思い浮かばないそれぞれに顔を赤くしたが、香春のことを思って準備してくれたと分かれば照れは消えていった。
 今更、全身を曝け出しているのだから、羞恥心は違うのかもしれない。

 美容液に似た、ぬるりとしたものを嘉穂は掌に取り出した。
 福智に聞いたというのだから、その手順まで教えられたのだろう。今度、どんな顔をして福智に会えばいいのかと戸惑いも襲ったが、頼りになるお兄さんの印象は強くなるばかりだ。
 自分たちのことを蔑ろにされているのかと不満を持ったこともあったが、心の底では心配されていたと知る。だからこそ、教えられた、アレコレ。
 冷たい液体が体の奥に繋がる場所に付けられて、ビクッと震える。
 それに嘉穂も動きを止めた。
「いや?」
 拒絶されているのかと思われるのは本意ではなくて、首を横に振った。嘉穂の好きにしていいと言ったのは自分だ。覚悟くらいできている、と一層、足を開いてみた。

 液体に塗られた場所が、冷たかったはずなのにじんわりと温かくなっていく。嘉穂の指がきゅっきゅっとさすって、小さな入口をまさぐった。
「あっ」
 どうしたって声が漏れてしまって、香春は怖さから逃れるためもあって、枕に顔を埋める。
 汗ばんだ嘉穂が萎えかけた性器を舐めとった。
「いやだったらいやって言って…。香春に酷いことはしたくないんだ…」
 ずっと堪えていたものがこぼれ出す。こうなることが怖かったから、嘉穂は香春を避け続けた。それが分かれば怖がることなんてしたくない。
 怖いだなんて言えない…。
 香春は首をプルプルと振る。
「いやなんかじゃないよ…。分かんなくて…。でも僕、嘉穂くんのものになりたい…」
 勇気を出して口にした言葉は、しっかりと嘉穂の耳に届いている。
「香春…」
 嘉穂のドクドクとした剛棒が太腿の上で蠢いた。
 続いて「待てそうにない…」と呟かれた。
 何のことだと香春は見つめ上げる。
 強張った嘉穂の顔は見たことがなくて、何か失敗したのかと不安になった。しかし嘉穂は香春の頬に手を当てて、「我慢できない…」と、また言葉を重ねてきた。

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福智ぃぃぃっ。あんたって人は(義)弟に何を教えているのっっっっヽ(`Д´)ノ
保健体育の先生役もするのか…。
また兄(筑穂)は卒倒するよぉ。
穂波の時だって大変だったのにね…。→行ってみよう♪
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減ってるなぁ…。
2013-11-01-Fri  CATEGORY: 『想』―sou―
そろそろ年始の行動も視野に入れた11月です(←早すぎっ)

今月は粗大ごみの集荷(出張)があるので、またその後にいらない連休に入るので
どこに行くのだとか、何をするのだとか日々追われておりますが…。
調べるのは私の役目らしい…。

そうして過去記事を漁った私は、同金額なのにおまけの少なさに泣きたくなりました。

2011年

2013年夏

えーと、これは、買いに行かずにどこかに出かけろということでしょうか…。

でもね。もらえる品物があると思うと並ぶのだよ…。


那智「英人くん、もうチラシの準備に入るの?」
英人「うーん、まだ。この前、クリスマスケーキとお歳暮のチラシ作ってぇ」
一葉「こっちも希望者にクリスマスケーキ、予約受付するらしいよ(←売り上げる)」
成俊「尚治ってば、なんでも作っちゃうんだ~(←感心)」
日野「こーゆーとこで売り上げ取らないと…」(←臨時休業が多いので)
久志「タダ食いできるっていいなぁ」(←買う気、全くなし)


年末年始の予定を聞かれて、ふと思い浮かんだものです。
つか…。もう11月なのね…。
一年、あっという間だね。



あと、リクコメありがとうございます。
あんけーとのアレですけれど。
安住のもっと過去編とか(どんなオトコノコを虐めたのかぁ) 日生が「和紀くん」とか呼ぶようになった裏話編とか…。
ホント、読者様って色々な視点から見てくれるのですね。
絶対、私個人では思い浮かびませんよ~。
何が書けるか分かりませんが、ポチポチってしていってくださいな。


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待っていたから 12
2013-11-01-Fri  CATEGORY: 待っていたから
ちょっとですが性描写があります。閲覧にはご注意ください。


 香春は津屋崎家の風呂を借りた。ここ数年、なかったといっていい。しかし自分の家とは違った造りがあっても、幼い頃から嘉穂と入浴していた香春には、特に戸惑うこともなかった。体に染みついていた…というべきだろうか。
 今日は当然ながら、一人ずつの入浴で…。
 筑穂と福智がいない夜、珍しく母親が津屋崎家で夕飯を用意してくれた。筑穂が残していった食品があるから…と言い訳めいた言葉があったが、本当のところは、夜になってもお腹をすかせない配慮があったのだろう。嘉穂は自宅にいれば、遠慮することがない。
 香春は母親が先に帰宅する時、自宅に帰って来いと言われなかった。もともと津屋崎家と一緒で暗がりの中を歩かせてはくれない。穂波がいなくて嘉穂に「送れ」と頼むのも憚られることから、それは『泊まっていい』という合図だろう。
 勝手な解釈をしたが、夕食を食べ終わっても鳴ることのない携帯電話は、親の不安がないことを意味している。信じられていると言うべきか。何かあれば津屋崎家に迷惑がかかる。だから、ここから出ることは、ある意味、許されない。

 風呂から上がって、嘉穂の部屋に行った。まだ寝るには早い時間だが、広い居間にいる気にはなれない。そこには泊まるための布団もなかった。それは用意してくれる人がいないからなのだが…。
 小さい頃は一つの布団で並んで寝たものだ。今でもそうあってくれるのだろうか…。
 淡い期待が胸に湧いて、しかし、『インラン』だと思われたくないから平然と振る舞う。
「嘉穂くん、部屋が綺麗になった?」
 いつも以上に整理された部屋に見えたから素直に口にしてしまえば、肩を竦められた。
「香春まで言う? 片付けろってほらくんにも言われるし、にぃちゃんがこの前、『いる、いらない』の判別でほとんど捨てられたの」
 散らかっていたものたちは、兄の教育で選別され、スッキリとした現状に至ったらしい。
 ベッドの前の空いた場所に座る。以前は物をどかしてから座る場所を作ったのに、今日はすんなりと腰を下ろせた。
 嘉穂は「何かお菓子、持ってくる」とスッと部屋を出ていってしまう。
 香春は緊張しながらも綺麗にされた部屋を見回す。香春も母親に良く「片付けなさい」と言われる。嘉穂が来ると分かるから綺麗にしていたが、それは嘉穂も同じなのだろうか。
 今日のこの日のために…。待っていたような雰囲気を感じてしまうのは、自分の浅ましい考えだからなのか…。
 少しして嘉穂はポテトチップスと牛乳を持ってくる。トレーに乗せられたものは青い絨毯の上に直に置かれた。整理されたとはいえ、部屋にある小さなテーブルは物で埋め尽くされていた。今更それらをどかす気はないようだ。
 香春の隣に嘉穂は座る。ベッドに寄りかかるようにして…。座椅子の代わりになっている。
 香春は「いただきます」とグラスに注がれた牛乳を一口飲んで、乾いた喉を潤した。何を話したらいいのか分からない緊張感を解させる意味もあった。
 嘉穂を前にして、こんなに心が緊迫したことなどあっただろうか。そしてまた、嘉穂にこの緊張を悟られないためにも、"普通"に振る舞わなければいけないと思ってしまう。
 緊張は嘉穂にも伝わったのか、 躊躇ったような嘉穂からスッと腕が伸びてきた。

…触れてもらえる…。その瞬間がこらえようもない感激になる。

 ただ抱きしめられる、それだけなのかもしれない。
 でも違う熱が全身を包んでいった。今までとは全く違う熱…。
「香春…」
 掠れた声はいつもと違っていて、嘉穂の緊張まで伝わってくる。背中まで回された太い腕が、何かを確認するかのようにギュッと絡まれる。
 胸の奥が痛いのに、嬉しくて、弾みそうになる。
 嘉穂は香春のもの…。そう思うから香春も嘉穂の体に手を伸ばした。自分よりもずっと、すごく大きい体がある。
「嘉穂くん…」
 囁かれる声に返すように香春も嘉穂を呼んだ。抵抗する気など何もないと体で告げる。
 分かってくれたのか、嘉穂は顔を寄せてくる。何をするのかはすぐに悟れる。

 唇が温かくなった。チュッと小さな音がした。
 キスをするのは初めてではないが、気持ちが全然違っていた。
 まだ幼い頃から、「かわらはかほくんのおよめさんになるの」と周りに言いふらしていた頃。いつだって嘉穂を独占してきた。不安になっていた最近が、この瞬間にも吹き飛んでいく。
…もっと欲しい…。

 何でもいい。本音を言葉にして欲しいと願いが込められる。
 香春は離れていきそうな唇にまた寄った。「やましい」と言われてもしかたがないくらい、嘉穂を求めていた。
「こんな、俺…、嫌じゃない?」
 吸いついてくれた嘉穂が不安げに問うてくる。今更何を聞こうと言うのだろう。
 なんだって、全て嘉穂のものなのに…。
 告げられる全てが嘉穂の戸惑いだと気付いた。これまで躊躇った何かは香春に対してのもの…。
 嘉穂が避けたのは、こんな状況になりたくなかったから…。
「いやってなに?」
 逆に聞いてみる。
 香春のことを嫌わないでいてくれたらそれだけでいい。
 躊躇った嘉穂がいたが、正直に心の声を吐きだしてくれた。
「俺、変なんだ…。香春のことを思うと、ココが熱くなる…。こんなふうに、すぐ…」
 そっと手を引かれる。
 触れたトコロはまず、滅多に目にすることがない場所。一緒にお風呂に入って先に意識してしまったのは香春だったが、もしかして嘉穂も同様だったのだろうか。硬くて、熱を帯びた箇所はそそり立っていて、布地で隠れてはいたが明らかに普段とは違う。
「か、嘉穂くん…?」
 香春はもちろん動揺したが、それが自分を求めてのことだと分かれば、嫌悪感も何もなかった。
 香春も時々、股間が熱くなる時がある。濡れて恥ずかしくて父親にも言えなかったが、保健体育の時間で"精子がつくられる"授業を受けて、少しばかり納得した。まぁ、それはもっと以前のことだが。
 興奮する…。
 それが自分に対して…となったら、こちらが興奮した。
 次に待ち構えるもの。嘉穂が絶対的に自分のものになるということ。
 その"確信"が得られるのなら、嘉穂の求められるようにしたい。体の全部を差し出す意味が分かってくる。

「香春…。好きなんだ…。俺、いつ、香春に酷いことするかと思って近づけなかった…。香春と一緒に風呂に入った時、怖かったんだ。…香春、綺麗すぎて…」
「え…?」
 だから、接触を避けたのだという。
 筑穂に頼んで、絶対に泊まらせない状況も作ってきたのだという。
 香春が心の底から望んでいたことは、故意的に避けられたのだと言われたら落ち込みもしたが、この時を待ったのだと伝わると反対に嬉しくなった。
 そこまで求められること…。嬉しすぎて舞い上がる。

 母親は気付いていたのだろうか…。
 穂波も…。
 だからゆずられた、一晩…。

「ちくちゃんには絶対に内緒よ」
 イケナイ遊びを楽しむ前に母親は釘を刺していった。
 犯罪にならない限り、親はやってこない…。

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R いらなかった??? お子様のエチは書いていいのだろうか…(←すっごい気が引けているんですけれど…。私の中で最年少だよ。中学生……。中学二年生ってえっちなことに興味、持ち始めるのかなぁ。まぁ、嘉穂は兄がいるだけにねぇ。きっと福智あたりが『奪われる前に奪っとけ』とか言ったんだろうね。ちくちゃんに内緒で…。福智、何かネに持っていたりして…???)
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待っていたから 11
2013-10-31-Thu  CATEGORY: 待っていたから
 日々の繰り返しの中、どんどんと離れていく嘉穂の存在は、少ない時間でも嘉穂の機嫌を伺い、また自分の意見も言い、少ないながらもっと近づけたいと思い始める。
…もう、嘉穂は泊まってくれない…。
 どんどんと間をあけられているようだ。

 そんな時、筑穂と福智が"出張"になったのだと聞いた。それも一泊の…。
 絶対に帰ってこない状況に香春はどうしても嘉穂を一人、家に残すことを危惧する。それは筑穂にとっても同じことのようだった。
 別に嘉穂が誰かを家に連れ込むことはない。そう信じてはいても、どこかでハメを外したがる年頃。香春が嘉穂に触れたいと思うように、嘉穂も誰かにそういう感情を抱くのだろうか…。
 会社上のお付き合いがあり、上司から求められては我が儘も言えない状況がある、社会人としてのマナー(←?)も教えられた。
 時には不本意でありながらも、赴かなければならないこと…。そうやって人は、辛いことや苦しいことをこなさなければいけない。
 お給料をもらう、とは、とても大変なのだということ…。
 いつか自分もそうやって働いていかなければならない世界があること。嘉穂は、どんな道を歩むのだろう…。

 育ててもらっている身分の香春にはまだ想像もできない。同じように父親も働く姿を時々見せてくれたが、現実は他人事だった。その現場に行って、カッコイイと思ったかもしれないが、歳を追うごとに薄れていく。
 どうしても香春には、筑穂のほうが"上"に見えていたからだった。
 こんなことを父親が聞けば嘆くのだろうが、宿題をスラスラと答えてくれたところから、頭脳と地位の違いを感じ始めた。

 筑穂と福智がいないのなら、必然的に嘉穂がまた鞍手家に泊まってくれる…。
 淡い期待は次男の穂波によって打ち砕かれるものとなった。
 今日も嘉穂が鞍手家で夕飯まで過ごしたことに、迎えに来た穂波に母親がリビングまで上がらせた。
 一緒に遊び、嘉穂と一緒に鞍手家に預けられた過去がある慣れ親しんだ場所は穂波も同じで、何の抵抗もなく上がり込んでくる。
 母親として筑穂の労働状況を聞くには、嘉穂よりもずっと穂波のほうが頼りになった結果だった。筑穂と福智が不在になる日まで、あと2日ある。
 その日のことを問えば、穂波はすぐに口を尖らせた。
「兄貴、うるせぇし…」
 ポツリとした答えは、"嘉穂に外泊をさせるな"という意味を含んだ。同時に穂波も自宅待機を言い渡されている。
 穂波にしてみたら、それこそが不満だったのだろう。
 小さな不満を確実に母親は拾った。
「ちくちゃんが心配するのは、ほらくんがまだ成人していないからよ。色々な意味で、何かが起きた時に責められるのは"環境"なの。もしも犯罪になるようなことが起きたら、ほらくんだけに留まらず、家族だからって言われてくる。こんなことを言っては失礼だけれど…。世間の目って、結構冷たいの…」
 母親の言わんとすることは穂波の胸に直に届いていた。

…親がいない子だから…。

 きちんとした躾けがなっていないと罵る人間はどこにだっている。
 世間の厳しさを、言葉の裏に含ませていた。その厳しさは、穂波もこれまでにいたるところで受けていた。だから気にしていないはずだった。気にしないよう、筑穂が育ててくれた。
 だが、筑穂と嘉穂が絡んでくれば、思いは違ってくる。
 何より責められるのは、穂波からみても、社会的信用を築き上げた筑穂なのだろう。
 そうあってはいけない…。無意識のうちに、家族全員が"守り"の態勢になっている。未成年の穂波が問われることがなくても、筑穂はそうはいかない。分かるから筑穂に従う。
 嘉穂に外泊を許さなくなったのも、筑穂なりの考えがあるからなのか。
 そこのところは穂波も理解するのだろうか。だから、出張の時も、自宅にいて、二人を監視しあう状況にした。
 兄弟、それぞれ、道を外さないためにも…。

 しかし、本当の意味は違っている…。
 それを香春の母親は気付いていた。
「ほらくん。その日の面倒は全部、おばさんが引き受けてあげる。ちくちゃんが出ていった時から、ほらくんは自分の目指す道に進めばいい。あとの嘉穂くんの時間はおばさんの責任よ。こんな若い時から、弟の世話なんて背負いこむものじゃないわ」
「でも…」
 明るく朗らかに笑ってくれた人に穂波は次の句を告げられなかった。暗に含まされる言葉は、滅多にない保護者から解放された時間であって、そんなときこそ、羽を広げて楽しめというもの。
 先に犯罪行為の厳しさを告げたのは、決してそんな状況にならないようにと匂わせていた。
 兄を気遣う穂波だからこそ、信頼がある。
『息子と同じように全ての責任を負う』…。
 どこかで確実に、筑穂と穂波から、"弟の世話"から解放してくれていた。穂波が喜べる道を…。

 筑穂は穂波の勉学面で嘆いたかもしれないが、穂波という子は状況を読むには長けた子だった。兄からの教育、弟への指導。その狭間で自分の自由を手に入れ、弟にも気を配れる、感心できる次男。
 他人ちの子供まで面倒を見る負担とはいかがなものなのだろうか…と穂波は香春の母親を心配した。だがそこは、一人の子供を育てている母親ならではの強かさがある。彼女には彼女なりの、思うところがあるのだろう。
 若い穂波は母親の指示通りに受け入れ、動いた。甘えた…というのが正しい。もしもまだ津屋崎家に親が健在だったなら、生きてきた道は大きく異なっていたはずだ。
 穂波は、嘉穂と同じ"男"として、すでに状況を把握していたのかもしれない。
『ふたりきり』にしたら確実に動き出すもの。
 男として、"守らなければならない"人(もの)がいるのだということ。兄の背を見た嘉穂は、それに気付くのが早かった。
 不安になり続ける香春。…息子に何を教えたいのか…。

 隣で話を聞いていた嘉穂と香春は意味が分からないとキョトンとしていた。
 暗黙の了解は穂波と母親の間で築かれる。ここでかわされる言葉は穏やかそうでありながら、何か張り詰めたものを宿している。
 その全てをふるい落すように香春の母親は立ち上がって、「もう、おそくなっちゃったわね」と嘉穂の重い腰を上げさせた。
 帰宅が遅くなっては筑穂が心配する…とは、端々から感じられることであって、また、信頼を生むものになる。それを思うからこそ、素直に行動に移す。
 玄関で去り際、香春の母親が空の星を見上げるようにそっと呟いた。

「たまにはパパとふたりきりで見ましょうかねぇ」

 ここ最近、話題になるような天文ショーはないはずだと思った人は何人いたのだろうか…。
『ふたりきり』…。
 どれだけ託した思いだったのだろうか。

 筑穂と福智がいなくなった日、香春は嘉穂の家に居た。
 事前の相談通り、穂波は帰ってこなかった。


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また視点が変わってしまっておりますが…。
どうしても上手く状況を説明できない、おバカな作者でした…m(__)m
伝わっているのかなぁ…(香春並みに不安…)

あと、久し振りに脇にアンケートを貼りました。12月上旬の締め切りの予定です。
一年お付き合いくださいました方々に、少しばかりでもお礼をしたいと思います。
(出来れば全部…なんですけれど、無理だしね)
強制ではありませんが、つぶやきコメントでもいただけると想像しやすいです(←あぁ、お題っていうアレですね)
すっかり読者様の妄想にアイディアを頼っている…とかそんなこと言わないで…。
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待っていたから 10
2013-10-30-Wed  CATEGORY: 待っていたから
 香春と嘉穂が自宅に帰ったことに母親は驚いたようだが、勉強が終わったのだと伝えれば納得もしてくれた。
「お友達はどうしたの?」
「置いてきた」
「あ、いや…。なんか福智さんが『勉強したい奴には教えてやるから』って…」
 母親の現状確認に、香春は冷たい言葉を発するが、嘉穂はしっかりと状況を説明してくれる。
 それに感心した眼差しを浮かべるのは、とても筑穂に似ていて、途端に『一緒に勉強してきなさい』と言われるのではないかと脅えた。
 中学校に上がってから、何かと勉強にうるさくなった。どんどんと嘉穂と離れていく成績を心配するのは分かる。この先に待ち構える『高校受験』は大げさな言い方をすると人生を分けてくれる。
 夏から塾に通わせようというのも、"より良い"環境を求めてのことなのだろう。
 当然喜ばれしことなのだが、時間を拘束される危機感の方が香春には強い。
 とりあえず、嘉穂の家に戻れと言われなかったことに心がホッとしていた。

 香春は嘉穂の背中ばかりを追い掛けて育った。そのため、どこかおろそかになった部分があったことも否めない。それらは顕著に普段の成績に表れてくれている。常に教えてくれる人が家庭内にいる津屋崎家は、学問に疎い鞍手家とは雲泥の差があるのだと知らぬ間に刷り込まされていたが…。
 香春の父親は最終学歴が"高校卒業"となっている。母親も短大卒だ。何がどう違うのか分からないが、筑穂や福智と違って簡単に問題を解いてくれない現状は、確かに香春にも伝わっていた。もし兄姉(きょうだい)がいたとして、津屋崎家のように同じく教えてもらえることがあっただろうか…。
 だから香春が嘉穂の家に遊びに行くことは、小さい頃から"許されていた"ことだった。その影には、必ず宿題が片付けられることと、筑穂並みの頭脳を求められていたことがある。
 それを意識するよりも独占欲が働いた。幼い独占欲は、何よりも嘉穂を求めていたのだ。
…そう、今日のような、小さなイザコザの解決を優先にしてしまうほど…。
 何より香春が恐れていたのは、もちろん嘉穂が自分の知らない世界に飛び立ってしまうことだった。
 先を歩く人は、一番身近で、嘉穂の兄、穂波の存在がある。彼は飲食業の仕事に就きたいと言い張って、長兄の筑穂の希望ではない道を進んだ。もちろんそれだけの意思があったから、どんなことがあってもと言いきった背景がある。最終的には筑穂が折れていた。
 香春には何があるのだろうか…。まだ何も見えてこない。
 勉強の話をされるたびに、離されていく現実を知る。胸に燻っていくものは日々大きくなるが、まだ現実のものとして降ってはこなかった。
 八女の"勉強熱心"な存在が今、尚、危機感を強めてしまったのだろうか…。
 嘉穂がただ幼馴染としてそばにいてくれる時期は、そろそろ終焉を迎えるのかもしれない。
 昨夜、嘉穂が何かとこれまでと違う行動を取った態度がまた脳裏を過る。…いつまでも、子供のままではいられない…。


 その日を境に何より一番変わってしまったことは、次の機会から嘉穂が鞍手家に泊まらなくなったことだった。
 嘉穂は食事に来たとしても、すでに身を清めた状態で、鞍手家では風呂には入らない。確かに暑くなるこの頃、真っ先に汗を流したい気持ちは充分理解できている。鞍手家の手を煩わせたくない結果だということも…。
 夕ご飯を一緒にしても、「帰る」と嘉穂は言う。平日であれば当然のことだったが、週末の宿泊も筑穂からの連絡で必要がないと伝えられた。そうなれば、鞍手家から何かを言うこともできず、大きくは出られない。
 学校の中で八女が何かと動き出していることは一切聞かなかったから、少しだけ安堵もしていた。でも教室の壁に阻まれた世界は遠い。

 あの日、嘉穂と香春が福智の『勉強会』から逃げてしまった日、あとで福智に聞いたところ、八女はひたすら嘉穂の生活についてのことを聞いて帰ったそうだ。当然勉強など一つもしていない。
 その内容が何であったのか、どんな答えを言ったのかは、うまい具合にはぐらかされてしまった。香春の不安を絶対に知って、協力してくれる人だと思ったのに、肝心の部分では頼りにならない。香春はムスッとしたが、誰とて構ってはくれなかった。所詮、ただの『ガキのたわごと』なのだろう。
 津屋崎家を訪れれば、いつだって福智は不敵な笑みで迎え、帰りには筑穂が困惑気味に送りだしてくれる。最初の頃は事故を心配されているのかと思ったが、それもまた違うようだ。日が暮れれば嘉穂がついてきてくれた。嬉しいのに、義理のようで悲しい。
 まるで切り離されているようで不安だけが襲ってきた。嘉穂の地位に見合わないと思われ、すでに"幼馴染み"の領域を越えたと、見限られたのだろうか。
 津屋崎家は"学"に厳しい。自分は嘉穂にふさわしくないと、まるで宣告でもされているようだった。
 そんな中で、唯一の救いは、朝のお迎えと、放課後の逢瀬。これらは何も変わらなかった。
 サッカー部は大会に向けて、朝連も放課後の練習メニューも厳しくなっていったが、嘉穂は音を上げることなく張り切っていく。むしろ、水を得た魚だった。その姿は余計に凛々しく見えていくものになった。
 朝、筑穂は温かく出迎えてくれるし、放課後、時々香春の家で長居をしていると、筑穂か福智のどちらかがお礼を言いながら嘉穂の迎えにくることもある。
 学校の帰り、嘉穂が走り回るサッカー部の練習場の金網の外で待っていても、嘉穂の態度は変わらない。夏の大会でレギュラーになったから、下級生にもその人気は高まっていった。その中でも必ず嘉穂は香春に視線を向けてくれた。誰に言葉をかけられても軽い返事だけで、"あいさつ"するだけに留まっている。もちろんそこに八女の姿もあったが、扱いは"ただのクラスメイト"の域を越えていない。
 嘉穂と肩を並べて帰れることが、香春の中で優越感となって宿る。その仕草、態度だけが香春を"特別な存在"に押し上げてくれる。
 徐々に香春は、もっと嘉穂を独占したい欲求に見舞われ始めた。スキンシップを過度にとらない嘉穂と手をつないでみたいとか、いつかの日のようにキスをしてみたいだとか…。
 こんな自分は『インラン』なのだろうか…。胸の中に溜まっていく得も知れぬ不安感は、そばに居るはずなのに大きくなっていく一方だ。
 何か確たる証拠がほしいのに、いつの頃からか、並んで歩く距離まで間があいたような気がする。
 嘉穂の体温が、感じづらくなってきた…。
 それでももう一歩が踏み出せない。
 香春が何かを口走って、本当に嘉穂にウザイ奴と嫌われ、遠くに行ってしまったら…と、恐れるものが胸に蔓延(はびこ)った。
 無邪気に笑えなくなった、時の移ろいを肌で感じる。

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* あくまでも記述上のことで、学歴について何かをいう意味はありません。もしも不愉快になられた方がいらっしゃったならお詫び申し上げます。
私自身、そんなことより、生きていける人生の中、見方に重きを置いております。人それぞれ、感じたものが全ての糧だと思っておりますので…。
なかなか書ききれないところがありますが、お許しください。
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待っていたから 余談
2013-10-29-Tue  CATEGORY: 待っていたから
すみませんm(__)m

もうすでに詰まりました…。
学生物が、予想以上に自分の書けるものではないと思い始めてます。
というのも、学生事情を知らないんですよね…。
部活とか授業とか絡んでくると、そっちの調べ事が増えてしまって…。
ホント、大ウソを書きそうで怖いです。

読者様も 「あれ~?」 と思い始めている方、いるのではないでしょうか。
(ヘルプミー 中学生  の状態です。思春期、思い出せないな~ ←byきえちん)

でもでもでもっ。
筑穂にぃちゃんの手前、最終話まで持っていきます。(←誓っとこう。でないと崩れるから 笑)

私の思うところでは、20話まで引き延ばしたくないのですが…。
…え? すでに10話、越えた…?!?!?!?


ねこ
ちー様よりお借りしました。お持ち帰りは厳禁です。

もう、この二匹ブラザーズは、良い意味で刺激してくれます。

嘉穂と香春…。
こんな調子で育っていたんだよね。

少しずつすれ違い始めた二人ですが、いつかどこかで、こんな混じり合いを…(え(゚∇゚ ;)エッ!?)
(あ、添い寝ですよ、添い寝)



この"画"を鳥海と藤里で思われていた方、本当にごめんなさい。

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どわーっっっっっ。もう間違えた…汗汗汗汗 ぁぁぁぁぁ(←嘆く)
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待っていたから 9
2013-10-29-Tue  CATEGORY: 待っていたから
 福智と筑穂を前に宿題を仕上げ、ようやくおやつタイムとなる。筑穂が野菜ジュースをグラスに入れてくれて、二人は自分たちの部屋に引っ込んでしまった。
 自分たちの部屋、とはいっても、一階の奥の部屋だから、多少の話し声などは聞こえてしまう。
 嘉穂のために作ったのに、こうなっては八女に分けてやらないわけにもいかない。しかも更に長居をさせることになってしまった。
 香春は内心で舌打ちしながらも、豪快に食べてくれる嘉穂に笑顔を向ける。
「今日はいつもより、たまご、多めにしてみたんだよ」
「茹で卵がほんのりあったかい。それに大きい。これ、香春が作ったんだろ?」
「そうっ! 分かる?」
 嘉穂に言い当てられて、嬉しくて声が弾んだ。だけど急いで作ったので味が良くなかったのかと不安にもなった。
 たが嘉穂は香春を安心させるようにクスッと笑った。
「分かるよ。香春のお母さんが作るのって、もっと混ぜ混ぜ状態になってるじゃん」
 母親との違いをすんなりと口にされて、やはり出来具合が良くなかったのかと落ち込むと嘉穂は言葉を続けた。
「俺、こっちの方が好きだな。ゴロゴロ感があって食べごたえがあるっていうか。なんか、たくさん食べられている気がしてくる」
『好き』と言われては、それだけで舞いあがれる。嘉穂が褒めてくれることは何でも嬉しい。
「えへへ」と笑っては、きちんと頭の中に嘉穂の好みがインプットされた。
 ゴロゴロ感は急いでいたからと、単純に上手く潰せなかったからなのだが、その感じが良いと言われたなら、不器用なことも棚に上げられた。

香春は八女に視線をやり、またふふんっと笑う。母親の料理と違いが分かるほど、嘉穂は鞍手家に精通しているのだ。おまえの入り込む隙間はない。堂々とした自慢だった。
「八女くん、もう宿題、終わったんだから帰れば? あ、嘉穂くん、マンガ本忘れてきちゃった。またうちに来る?」
 別にマンガ本を読みたいと頼まれていたわけではないが、八女がここに居座るつもりなら、嘉穂を連れ去るのが得策だと思いついた。
 暗に八女に対して、勝手な行動をとってくれたおかげで、嘉穂のペースが乱れたのだと責める。いや、早く来てくれたおかげで、ヤキモキする時間がさっさと終わったと感謝するべきだろうか。起こされた恨みは確かにあるが。
 香春が八女に声をかけると、こちらも露骨に可愛く拗ねた態度をとり、「僕、追い出されちゃうの?」と嘉穂を伺い見た。そんな言い方をしたら、心優しい嘉穂が何かと声をかけるのはすぐに知れてくる。これ以上の長居はお断りしたい香春だ。
『追い出す』とは随分酷い言い方じゃないか? これでは香春が悪者になってしまうと頭を巡らせた。
 とりあえず、そんなことはないと嘉穂に伝えるべきだろう。
「誰も『追い出す』なんて言っていないじゃない。嘉穂くんはどうしたいの?」
 嘉穂の気持ちを確かめる意味もあって、香春は嘉穂の腕を掴んで尋ねた。もちろん、この手を離す気がないことが伝われば一番良いのだけれど。
 嘉穂は八女に向けた視線を香春に戻してくる。困ったように一度上を見上げた。何かを考えているのが分かって、即答されないことに香春は悲しくもなっていた。
「うー、んと…。どうするかな。家に居ると兄貴が勉強しろってうるさいし…」
 その返事にすかさず香春は飛びついた。
「じゃあ僕んちに来ていればいいじゃない。ちくちゃんだってきっとやることがあるよ。今日お休みだもん。いつも仕事で疲れているんだしさ」
 家にいたらやることが増えるだけだと嘉穂を促した。こちらは八女に対して津屋崎家は大変なのだと訴えるものでもある。
 それなのに八女は自分に都合が良いように解釈した。
「僕のうちでもいいよ。行き慣れた鞍手くんちじゃつまらないでしょ。たまには遊びに来てよ」
 八女も嘉穂の腕を掴むものだから、払いのけてやりたくなった。
 何が『つまらない』だ、と香春は眉間に皺が寄ってしまう。小さい時から嘉穂の好きなものばかりが集まった家なのだ。居心地が良いに決まっているから、毎日のように寄ってくれるはずだった。

 両腕を引っ張り合っているところに、筑穂と福智が出てきた。服を着替えていたところからこれから出かけるのだと知れる。
 それは困る、と咄嗟に香春は目を大きく開いた。
「おぉ。何してんの。嘉穂の取り合いか? モテる男はいいねぇ」
 一瞬驚いた表情をした福智も、すぐニマッと笑ってからかってきた。
 そのセリフに香春と八女はどちらからともなく、一度手を離す。一応保護者の前では気を使う。
「福智ってば何言ってんの。うちの家系だよ」
 筑穂が福智をたしなめ、ありえない、と口にする。それに対して福智は反論した。
「だからだろ。ここんちの良さは俺が良く知っている」
「僕もっ。僕も良く知っているよっ」
 香春も福智の言葉に続いて津屋崎家の良さを豪語すると、福智が「あぁ、香春もだな」と同意してくれた。
 福智の意見には百人力になれる。すかさず香春は立ち上がって福智の元に寄った。
 キョトンとしたのは全員だったが、そのまま福智に「ねぇねぇ、ふくちゃん…」と小声で話しかけて居間の外に出す。ドアを開けっ放しにしたのは、聞き耳を立てているであろう人たちのためと、いない間に余計な会話をされてもすぐに聞けるようにだった。
「香春?」
 嘉穂の声が背を追ってきたが、ちょっと待っててと視線で訴えた。
 大人しくついてきてくれた福智に、内緒話がしたいと言うように両手を自分の口の前で筒状にすると、分かってくれた福智が身を屈めてくる。
「あのね。嘉穂くん、うちに連れて行きたいの。だからちくちゃんと出かけないで」
 香春の申し出に福智は「なんで?」とやっぱり小声で問うてきた。
「八女くん、帰らないんだもん…」
 それを言うと、へぇぇと感心した表情を浮かべてから、ニッと笑ってくれた。どうやらそれだけで理解してくれたようだ。
 福智の手がポンと香春の頭上に乗る。
「おまえも苦労性だな。筑穂には内緒だぞ」
 筑穂は何かと鞍手家に気を使うところがあるのを承知しているから、また嘉穂を押し付けるようなことはしたがらないだろう。
 福智はすぐ居間に戻った。
「嘉穂、のんびり寛いでいないで、予習するぞ。今日は一日、三人でお勉強会。嬉しいだろ?」
「えーっ?! 冗談っ」
「は? 福智?」
 疑問に思ったのはもちろん筑穂もだ。
 香春もそうじゃないっと声を上げたくなった。三人で、なんてそれこそ冗談じゃない。
 解放されたと思っていた矢先にそれはない、と嘉穂が奇声をあげ、八女は居座れる理由ができたと喜んだ。
「福智さん、ありがとうございます」
 ご丁寧にも頭まで下げて、福智のご機嫌まで取ろうというのだろうか。
「ジョウ?」
「八女君は真面目だねぇ。やる気のある生徒はいいなぁ」
「いつから先生になったんだよ…」
 筑穂がボソッと呟いたが、影にはやる気がない嘉穂に対して嘆きも含まれていた。嘉穂の刺激になってくれるなら歓迎といったところだろうか。
「やだよ。せっかくの休みなのにぃ」
「ぼ、僕も…」
 嘉穂の言葉に香春も無意識に同意してしまえば、福智は「やる気無い奴は出ていってもいいぞ。俺も嫌だし。八女君だけ特別授業ってことで」と香春に返してくる。
 そこまで言われてハッとした。しっかり逃げ道を用意してくれている。
「嘉穂くん、うちに行っていよう。八女くん、勉強したいんだって。ほら、宿題もわざわざ聞きに来たくらいだし」
 香春は嘉穂に近づいて腕を引っ張った。
 驚いたのは八女だったが、今更後には引けない状況になってしまっている。
 嘉穂は一瞬の躊躇いがあったようだが、香春に急かされて腰を上げた。
「そっか。じゃあ、福智さん、宜しく」
「ちょっと嘉穂ぉ?!」
 筑穂の制止の声もトンネルしていく。チャンスを逃したらどんな小言が待っているのか、良く知る嘉穂だからこそだった。
 ぱぁっと笑った香春の腕を逆に嘉穂が引っ張った。
「さっさと逃げようぜ」
 香春は胸の中で大きな万歳をして、空っぽになったバスケットもその場に置いたまま、気が変わらないうちにと玄関に走り出した。
「嘉穂くんっ」
 八女の切羽詰まった声は、無視することにする。

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待っていたから 8
2013-10-28-Mon  CATEGORY: 待っていたから
 目覚まし時計をセットしていなかったのに、朝の9時に嘉穂の携帯電話が鳴り響いて目が覚めた。
「ん…。なに…?」
 香春が目を覚ますと、「にぃちゃんだ…」と呟いてから嘉穂は電話に出る。
 香春は寝ぼけ眼の状態で嘉穂の声を聞いていた。
「…はぁ? ……、っざけんなよ…っ。……、あーっ、もう、いいよっ。……、…分かったよ、帰る…」
 嘉穂は上体を起こすと、頭をポリポリとかきながら、ヤケになったように通話を終わらせると無造作に機械を投げた。
 帰る、という言葉に酷く反応してしまう。一気に脳が覚醒した。
「嘉穂、くん…?」
 香春が掠れた声を上げれば、「ごめん。起こしちゃったな…。ジョウ、もう来たんだって」と香春を気遣ってくれた。
 休みの日、のんびりと睡眠を貪るのはいつものことだから、嘉穂には"起こされた"印象が強いのだろう。
 端々に不機嫌さが表れてくる。
 別に香春が責められているわけではないが、嘉穂のそんな態度を見たら、落ちついてなんていられなくなった。
「もうっ? まだ朝ご飯も食べてないのにっ?」
「ん…。にぃちゃんが『約束していたなら待たせるな』って…」
 不本意ながら帰らなければならなくなった状況に、嘉穂の愚痴がこぼれる。
 こんな時間に押しかけてくる方が非常識だ、と香春は息巻いたが、嘉穂の動きは止まらない。
 急いで帰ろうとするのは、筑穂に言われたから、だけではなさそうな雰囲気が香春の不安にしていた気持ちに追いうちをかけてくる。
 八女のことを思うから、香春のことは二の次に回されてしまうのだろうか。
「ぼ、僕もっ。一緒に行くっ」
「香春はまだいいよ。お母さん、ご飯作っているだろ」
「じゃあ、嘉穂くんも…っ」
 蔑ろにされているわけではない。分かっていても邪険に扱われているように捉えてしまうのは悲しく、渦巻くものは嫉妬でしかなかった。
 何故にそんなに急いで帰ろうとするのだろうか。
 香春が『ご飯を食べてから…』と促しても、着替え始めた嘉穂は辞退してきた。
「にぃちゃんが早く帰ってこいって言ってるし。ジョウも居辛いだけだろうからさ」
 そんなの勝手に来るほうが悪いのに…っ。

 ムスゥっと顔を歪める香春のそばで、素早く着替えを済ませた嘉穂は、「じゃ、後で香春も来る?」と香春の予定を再確認した。
 嘉穂の家で一緒に勉強をする、と言いだしたのは香春だ。勉強をするしないはともかく、八女と嘉穂がふたりきりになるのだけはどうしたって阻止したい。
 香春は力強く頷いた。
「もちろんっ。…ちょっと待ってよ。僕もすぐ着替えるから…っ」
 慌ててベッドを降りたが、また「いいから」と制されてしまった。
 嘉穂は部屋を出ていこうとする。特に忘れ物を気にしないのは、家が近くすぎて困らないからという、普段通りの行動だった。
 香春は慌てて嘉穂の後を追った。
 階段を下りていくと、リビングには新聞を読んでいた、のんびりとした父親の姿がある。キッチンでは母親が「あら、早いわね」と何かの鍋をかきまわしていた。
 嘉穂がちょこんと頭を下げてから、「友達、来ちゃったから帰るね」と伝えると、母親は「え?」と疑問を表情に貼りつけながら、まだパジャマのままの香春と見比べた。
 どういう状況だ? と目が問うたが、それに答えられる余裕が今の香春にはない。
 ただ、昨夜の嘉穂の電話から、それなりに想像できることはあるのだろう。強く引き留めることはしなかった。
「そうなの? 今豚汁作っていたから、あとでちくちゃんにも持っていってあげるわね」
「僕、持っていくっ。この後、僕も嘉穂くんちに行くのっ」
 切羽詰まった様子の香春を見ては、母親も納得するところがあるのか、何も言ってはこなかった。
 ただ父親は、「邪魔しに行くんじゃないよ」とたしなめてくる。
 それには嘉穂が、「宿題のプリント、借りているんで…」と言いくるめてくれた。
 急いた様子で嘉穂は玄関に向かっていった。香春はどこまでも嘉穂の背中を追った。
「僕、すぐ行くよっ。行くからねっ」
「あまり慌てるなよ」
 拒絶はされていない…。
 事故に気を付けて…。そう言うように、靴を履き終わった嘉穂は香春の頭上に手を乗せてきた。
 すぐに離れていった手に淋しさを感じている暇はない。香春は玄関のドアが閉まるとともにまた階段を駆け上がった。
 とにかく、着替えて追いかけなきゃ…。 
 母親も何故か急いで、小鍋を出し始めている。

 香春が母親と一緒に津屋崎家に辿りつけたのは、それから30分も経ってからだった。
 話を聞いていた筑穂が快く出迎えてくれる。
 母親が豚汁が入った鍋と、香春が手にしていたたまごサンド入りのバスケットを見ては驚いてくれる。
「わざわざすみませんでした…」
「いいのよ。嘉穂くんの分もと思って作りすぎちゃったんだから」
「嘉穂くん、朝ご飯食べてないから、たまごサンドも作って来たんだよ」
「香春くんまで悪いね」
「嘉穂くんは?」
 すかさず香春が声をかけたところに、居間から「おまえら、分かれよ~」と嘆かわしい福智の声が響いてきた。
 嘉穂が自分の部屋に上げていない様子にはホッとしてしまう。あそこは香春だけが入って良い、神聖な場所だと常々思ってきた。香春だけが優先されたと強く感じられる行動。
 筑穂が「どうぞ、上がって」と促してくれて、香春は靴も整えずに小走りなっていった。その後を母親のため息が聞こえてきたが、今は礼儀正しく靴なんか揃えていられない。
 居間に飛び込むと、「おぉ、来た来た」と福智が声をかけてくれて、次に嘉穂が「よぉ」と軽く手を上げてくれて、…嘉穂の隣に座っていた八女は、傍から見ても分かるくらいムッとしていた。丸顔のあどけなさが歪んで見える。
 それを香春は無視して、嘉穂の反対隣りに座りこむ。
「嘉穂くん、たまごサンド作ったんだよ」
「ほんとっ?サンキュ!」
 八女の言葉を挟ませる隙を作らず、いつも以上に寄りそってはバスケットの中を開けてみせた。
「うまそうっ」と喜んでくれる顔を見ては、ふふんっと香春もニンマリ笑う。それから、嘉穂の好みは知っているのだと視線だけで八女を睨みつけた。
 福智まで「お、いいねぇ」と目を輝かせてくれた。しかし福智も甘くない。
 物欲しそうな眼差しの嘉穂の視線を遮ると、「おまえ、さっきお茶漬け流し込んだばっかりだろ」と呆れた。
「ハイ、その前に。この問題、解いてからな」
 指先でプリント問題を叩く。結局福智に教えてもらっている状況らしい。答えプリントはどこにいったのだろうか…。
 香春も目を向けると、何度解説されても理解できない問題にぶち当たっていた。

『A中学校では、一年生と二年生の人数の比が4:5で、三年生の人数は生徒全体の人数300人の五分の二である。一年生と二年生の人数を求めよ。』

「「「う…っ」」」
 この時ばかりは、三人そろって呻き声を上げてしまったものだ。

【数学の答えは続きに…↓↓↓】

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待っていたから 7
2013-10-27-Sun  CATEGORY: 待っていたから
 食事が終わってしばらくしてから、香春たちは自室へと引き上げた。嘉穂はいつもと変わらない態度で香春に接してくれるが、香春の胸には魚の骨が刺さったようにチクチクと痛みを届け続けた。
 我が儘を言ってしまったのではないだろうか…。香春の感情だけを押し付けてしまって、本心は嫌がられているのではないかと考えこんでしまう。
 嘉穂は感情表現が豊かなほうだが、肝心な部分を押し込めてしまうところがある。それは親を亡くしてから顕著に表れてきた。我慢するということを自然に学んできている。人に対して気遣いができるのも、そんな家庭事情が大きく関係している。
「香春、このマンガ、もうすぐ続きが発売だっけ?」
 部屋に入った嘉穂は、隅に追いやられた小さいテーブルの前に寄り、上に乗っていたマンガ本を手にした。6畳しかない部屋には、ベッドと勉強机、カラーボックスが二つ横に並んでいる。今は嘉穂が泊まるための布団がベッドの横に敷いてあるため、文字通り足の踏み場もない。
 嘉穂は布団の上に胡坐をかいて座る。
「うん。来週だったかな」
「また買うの?」
 嘉穂が見上げてくるので香春も隣に腰を下ろした。
「うん。これ、好きだもん」
 答えると途端にパァっと顔をほころばせた嘉穂がいた。
「ほんとっ?! じゃあ読み終わったら貸してよ」
「いいよ」
 マンガ本を買い続けるのは、嘉穂も好きだと知っているからで、ここでも一つの繋がりを持っていたい思いが溢れていた。
 嘉穂は必ず自分に借りに来てくれる…。だからやめるわけにはいかなかったのだ。

 香春は嘉穂がこのままマンガ本の読み返しに耽ってしまうのかと思った。そうなったら話しかけるのも憚られる。ほんの僅かの間だけ行動を追ったが、嘉穂はパラパラと本をめくっただけで閉じては布団の上に置いた。
「読まないの?」
「え? 別に後で借りるのでもいいし…。あ、持っていっちゃだめ?」
 伺うように見られては香春は首を横に振る。そんなこと、一度だって言ったことなどないのに。
「そんなことないよっ。いつでも嘉穂くんの好きな時に…っ」
「サンキュっ」
 香春に手を伸ばしてきては、香春の頭を撫でてくれる。大きな手が触れてくる感触が気持ちいい。燻る香春の気持ちを浄化してくれるようだ。
 少し顔を赤らめながら、尚もずっとこうしていたいという欲求に見舞われた。嘉穂が本当に求めるものとは何なのだろう。
 香春が去っていく手を名残惜しそうに見つめてしまうと、嘉穂が困ったように笑った。それから明らかに分かる故意的な動きで視線をどこかに彷徨わせる。その動きに抑えこんでいた不安が喉からこぼれた。
「嘉穂くん? どうしたの? 僕、へんなこと、言っちゃったりした?」
 すぐに嘉穂の視線は戻ってきたが、やはり戸惑いは見てとれる。
「そんなこと、べつに…。香春は何も言っていないじゃん」
「だって…」
 ぎこちない雰囲気に居たたまれなくなる。もっと何でも口にできた間柄だったはずなのに、少しずつ溝が広がっていくような錯覚が漂った。香春が一番恐怖とするものだ。
 香春が俯いてしまうと、また嘉穂の手が差し伸べられた。
「『だって』って何が? 俺のほうが何か言っちゃったから香春が気にするの?」
「そんなことないよっ」
 伸びてきた手は香春の手を包んでくれる。直に触れてくる肌の温もりに、ドクンと心臓が跳ねた。
 こんなふうに触るには期待したい思いが膨れ上がってくる。
「香春…」
 嘉穂は何か言いたげに一度言葉を飲みこんでから優しい眼差しを向けてくる。
 手はまた髪を梳いて、頬に触れた。
 小さい頃から何度も繰り返された、香春を宥める手段だった。香春が何かに脅える表情を見せた時、何かに気づいたように嘉穂は体に触れて守ってきてくれた。
 ぎこちなさを感じるのは嘉穂もなのだろうか。
 手の動きがいつも以上に滑らかではない動きをたどる。

「……、あ、あのさ。今日のプリント、明日貸してよ」
 嘉穂は開きかけた口を閉じ、話題を反らしてしまった。それもあまりにもわざとらしいくらいに。
 温もりも遠ざかっていく。
 嘉穂が求めるものが、八女のために使われるのだと知れると、素直に頷けるものにならなかった。回答プリントを嘉穂に見せるのは一向に構わなかったが、何のために必要とするのかが分かるだけに貸したくない。
 だからといってそう答えれば嘉穂は余計に香春を嫌ってしまいそうな気がする。
「プリント…。うん…。…明日、八女くんと勉強するの?」
 はぐらかされた話にも一応答えるしかない。誤魔化されて曖昧にされたくない先程の話題をもう一度振り返りたかったが、故意的にそらしたと分かるから更に抉るのは得策とは思えなかった。
 嘉穂はまた困った表情を浮かべた。
「そう…。一緒に勉強するっていうほどじゃないだろうけど。また福智さんに聞くのもなんだし…」
 答えプリントを見せて納得させようとするのか、煩わしい問題に時間をかけたくない態度が掠めた気がした。
 福智と筑穂が絡んでくれば、嫌でも長居させることになるから、それを避けたいように感じられて落ち込んだ気分はちょっとだけ浮上した。
 どんなことであれ、いてもたってもいられなくなるのは香春だ。すぐに嘉穂の腕に飛びつく。
「じゃあ、僕も行く。僕も復習する」
 自分のプリントなのだから、行方を追うのは当然の資格があっていいはずだ。
 後をついてまわることに嘉穂にうっとおしがられるかと思ったが、嘉穂はすぐに「いいよ」と応じてくれた。
 僅かだがホッと胸を撫で下ろす。
 だけど終始、嘉穂はよそよそしい態度を持ち続けていた。これだけは近日でも感じることはなかった…。
 突然、一体何が…?
 当たり障りのない話をして、そろそろ寝ようかと部屋の明かりを落とした。
 本当は昔のように一緒の布団で寝たかったが、シングルベッドに二人はきついだろうし、それは床に敷かれた布団でも同じことだった。
 もちろん、言いだせることではなかったけれど…。
 そばにいるのに、なんだか遠い…。
 もう泊まりに来てくれないのではないか…。不安は一晩中、香春を苛んでくれた。

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待っていたから 6
2013-10-26-Sat  CATEGORY: 待っていたから
「帰る…って…?」
 不安は如実に言葉になって嘉穂に問われる。香春の背を押すように眉間を寄せたのは母親だった。
「家に誰もいないんでしょ? ちくちゃん(長兄筑穂)も今日は遅くなるって言っていたし、ほらくん(二男穂波)もお泊りだって話よ。『よろしく』って言われたうちにだって責任があるんだから、どこで何をしているのか分からない状況は作れないわよ」
「家にいるだけだって…」
 疾しい行為はないと言いたいのか。筑穂だって『遅くなる』だけで、帰ってこないわけではない。言い訳は嘉穂にもあるようだが、すんなりと受け入れられないと母親は口をすっぱくした。これで何か問題が起きたら顔向けができない。ただでさえ、両親が若くして亡くなり、家族の存続に気をヤキモキとさせている筑穂がいる。
 香春は先程の電話が気になって仕方がなかった。
『明日』と嘉穂は言った。明日、嘉穂は八女と会うのだろう。まさかとは思うが、今日のこの後、津屋崎家に押しかけてくるとは思えないが、疑惑とはあらぬことまで想像させてくれる。
 嘉穂と八女が…。そう一度思ってしまったら思考は止まらない。
「八女くんと会うの? さっきそう話してたじゃないっ」
「なんでジョウが…。まぁ、明日うちに来るとは言ってたけど…」
「じゃあ明日帰ればいいじゃんっ。別に朝早くから来るわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど…」
 どうして言葉を濁してしまうのだろう。まるで避けられているような態度にますます疑惑が深まってしまう。
 幼馴染としての存在が、そろそろウザくなってしまったのか。何でも気軽に言いあえた空気が少しずつ濁り始めている。透明性がないことがこんなに不安を呼び込むことだとは…。
 香春の苛立ちを嘉穂も感じるのか口をつぐみ始めた。そして、「分かった」と話をまとめてしまった。誰の反論も買わない、物事を丸く収めようとする態度。兄弟の中で自然と培われてきた、"安全策"。たぶん筑穂の人の良さが染みている。
 そのことが余計に香春を苛(さいな)んでくる。
 もしかして、我が儘を言って、嘉穂を困らせたのではないか。このことから嫌われてしまうのではないか…。心は嘉穂の負担になりたくないと訴え、離れていかれることに脅える。

「嘉穂くん…」
「俺、まだ"子供"なのかな…」
 何かを悟ったような悲しそうな呟きに、香春は何も言えなくなった。困る存在だけは嫌だ。ずっと嫌われ続けるような立場は避けたい。
 母はため息をつきたい気持ちを飲みこんだ。いろいろある思春期をそれなりに気遣っているようだ。
「どうしてもって言うなら、パパが帰ってきたら送ってもらうから」
「ママっ?!」
「嘉穂くんだって勉強とかたくさん忙しいのよね。いつまでも香春の子守り、していられなくなるわよ」
 それはさりげなく、離れていく覚悟をしろと言われたのかもしれない。そんな気は全く起きなかったが。
 あくまでも夜道を一人では歩かせないというもの。母親の嘉穂の行動を肯定するような発言も追い打ちをかけてくる。 
 子守りってなんだ?! 不満の声は直に香春を襲った。いつまでたっても成長しない自分…。どんどんと置いていかれるような恐怖心。
 一緒の高校に通えるようになったら、また環境は変わるだろうか。嘉穂の成績の良さまで考えたら、一筋縄ではいかないのも徐々に気付き始めている。
 もう今後は続くことがなくなる現状を目の当たりにしては唇を噛む。悔しそうな香春を見たからなのか、嘉穂は安心させるように微笑んだ。
「子守りなんて思っていないよ。香春は俺の友達じゃん」
 同等に見てくれる気持ちは嬉しいが、それだけでは納まれない不安定な感情が溢れてくる。母親の言葉に対してささやかでも反論してくれても、すぐに喜べる状況にはならなかった。
『トモダチ』…。その程度なのかと…。
 もっと踏み込んだ、特別な存在にはなれていないのかと落ち込んでしまう。"特別"だと思っていたのは自分の独りよがりと言われてもおかしくない。
 何と言葉を返したらいいのか分からず、また俯き加減になる。
 嘉穂はきっと、香春の父の手を煩わせたくないから、大人に大人しく従うのだろう。

 ジュッと焦げる匂いを漂わせたホットプレートに、視線が向けられた。
「もう、ひっくり返すの?」
 まるで全ての悩み事を払拭するかのように、目の前のことに話題が変わる。うまくはぐらかされた気分は煙と共に消えてはくれないが、ただここに嘉穂がいてくれていることが、少しだけ香春を優位に立たせてくれた。
 ハッとしながらフライ返しを香春は握って、底の焼け具合を見る。
『男はまず胃袋から』…。そう教えてくれたのは母親だっただろうか。香春の父親はひとつとして母親に料理に対して文句を言ったことはない。それだけ"美味しい"ということなのか。毎日を彩り飾るものだからこそ、大事な部分なのだと母親は香春に教えてくれた。
 スポーツを好む嘉穂にとっては尚更、栄養面なども気をつけていかなければいけないこと。もちろん成長期にあるからなのだが。
 香春は促されてホットプレートに手を伸ばす。
「そろそろいいかも…」
 香春が答えると万遍の笑みが返ってくる。待ちわびた笑顔が燻る心をはじく。
 母親は逃げ道を塞ぐかのようにスッと姿を消して、香春の部屋に宿泊の準備を整えにいった。嘉穂の性格まで考えたら、人の手を煩わせた以上、今更『帰る』とは言わないだろう。それを確信して、動き出す母親もまた嘉穂を囲い込む。
「もういっこ。次は明太子だって」
「ちょっと辛いの、俺、好きだよ」
 香春が"まだゆっくり食べていって"と言う気持ちは少なからず、伝わるのだろうか。すぐにスルスルッと胃袋に消えてくれない食事が、今はありがたかった。遅くなればなるほど、嘉穂は帰りづらくなる。
 端っこに寄せてしまえば、もう一枚焼けるスペースがあることは知っていたが、今だけはそんな裏技は使いたくない。
 どんな手を使っても、嘉穂を留まらせたいとは卑怯な手になるのだろうか。
 美味しそうに嘉穂は食べてくれる。大事なものを囲むように…。
 その大事なものが香春だったら、いくらだって食べられていいのに…とは、もちろん口にされない。

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待っていたから 5
2013-10-25-Fri  CATEGORY: 待っていたから
 気まずさを抱えたのは自分だけだったのか、香春がリビングに戻っても嘉穂の態度は、香春にも母親への接し方も変わらない。
 ダイニングテーブルの上にはすでにホットプレートが用意されていて、あとは流して焼けばいいだけになっている。
 香春が入っていくとリビングに座っていた嘉穂が早速立ち上がってくる。それを見て母親も香春に声をかけた。
「香春、焼きそば、こっちで作っちゃうからね。あとで乗せるなり混ぜるなりすればいいでしょ」
「混ぜる…って、粉に混ぜるの?」
 母親の提案が分からずキョトンと問い返せば、「馬鹿言っているんじゃないわよ」と呆れらた。焼き上がったお好み焼きと一緒に…ということらしい。
 狭いホットプレートでいっぺんに作業をするのは無理がある。しかし胃袋は待ってくれない。特に食べっぷりの良い嘉穂を前にしたら、作っている時間よりも明らかに消化時間のほうが早い。
 ダイニングテーブルに嘉穂と並んで座る。
「香春が焼いてくれるって言うから待ってたんだ」
 嘉穂がにっこりと笑ってくれれば、それだけで先程までの鬱々とした気分が吹っ飛んでいく。
 香春にとって、嘉穂のためにできることがある、というのが何よりもやる気にさせてくれた。
 その心境も読んでくる母親だから、何事にも協力してくれて、料理に関しても次々と教えてくれるところがある。

 ワイワイと言いながら香春と嘉穂、ふたりで楽しい夕食時間を送っている時、リビングテーブルに置きっぱなしだった嘉穂の携帯電話が鳴った。流れるメロディから筑穂でも穂波でもないようで、嘉穂は首を傾げる。(パパはまだ帰宅していません。)
 一度席を立った嘉穂は相手を確かめた上で、そこで話し始めた。その姿を香春は黙ったままじっと見つめてしまう。口調と相手の呼び名から嘉穂のクラスメイトだと判断することができる。
「あぁ、ジョウ?……えー、今、香春んちにいるんだけど…」
 嘉穂が呼んだ相手は、昨年香春とも同級生だった人物だ。今年は香春は離れてしまったが、八女上陽(やめ じょうよう)は今年も嘉穂と同じクラスになっている。
 彼は入学したころは香春より少し大きいくらいだったが、さすがに成長期というのか、徐々に香春とは違った体格を纏い始めた。それでも童顔は相変わらずだったし、学年全体から見たら小柄な部類に入る。
『可愛い』ともてはやす人もいるくらいで、何かあればすぐに嘉穂を頼る光景はちょくちょく目にした。
 学校も終わったこんな時間に何の用だろうか…。嘉穂の人付き合いの良さを考慮すれば、別段不思議がることでもないのだが、香春としてはおもしろい出来事のはずがない。
 聞き洩らさないようにと耳はダンボになるし、視線は嘉穂の仕草をひとつも見逃さないように凝視してしまう。
「香春の家にいる」と堂々と発言してくれるところにささやかな安堵を覚え、また逆に邪魔をするなと嫉妬心も湧いてくる。
 嘉穂が困ったように言葉を濁らせるのが余計に気になるところだった。
「……わかんない…。……、そうだけど…。……無理だってぇ」
 途切れ途切れに聞こえてくる会話は何を話しているのだろう。八女の声が聞こえないので断片的な嘉穂の返事から想像するしかないのだが、どうにも嘉穂にとって歓迎できない内容に聞こえた。嘉穂の手が頭をポリポリとかく。この動きをする時は、本当に困っている時だ。堂々とした立ち振る舞いが多い分、目につく仕草でもある。
「嘉穂くん?」
 思わず香春が声をあげてしまえば、嘉穂がこちらを向いて、ちょっと待っててと言うように片手を上げて見せた。
「とにかく、明日でいいだろ?」
 その答え方にまた香春は目を大きく開けてしまう。
 明日、とは休日だ。今夜、香春の家に泊まっていくことになれば、当然のように明日も嘉穂と一緒に過ごせる淡い期待がはびこっていた。一週間、学校の、教室という厚い壁に阻まれた香春は、ろくに嘉穂と接触していない。休みの日くらい、溜まっていたアレコレの会話をしたい。公園に一緒に遊びに行くのだっていい。ボール蹴りはすぐにバテちゃうかもしれないが、元気に走り回る嘉穂を見ているだけだっていい。
 そうやってようやくやってきた休日に夢を抱いていたのに、たった一言で膨らんでいた風船は破られていく心境だった。
「か…」
 もう一度呼びかけようとした声は、「ああ、分かったよっ」と投げやりになる嘉穂の声にかき消された。
 もちろんそれが香春に向けられたものではないことぐらい判断はつくが、どういう形であれ、八女の要求に応える結果となったことだけは確かだ。

 嘉穂は携帯電話を切り、ふぅぅと大きな息を吐き出してから、香春の隣に戻ってくる。
「どうしたの?」
 疑問を胸にしまうことに耐えられず、即座に聞いてしまえば、嘉穂は肩を竦めた。
「今日のプリント。ジョウのやつ、やり始めたのはいいけど全然分からないから教えろって言ってきたの。俺だって分かんねーっつぅの」
 嘉穂が断っていながら食い下がるのは何故なのだろう。一抹の不安が駆け抜けていく。
 香春のクラスが先にプリントをもらっているのは周知の事実で、聞くのなら自分たちのクラス以外の人間ではないか? 確かに嘉穂の成績を考えれば、理解していると思われてもおかしくないが、確実性を狙ったら答えプリントをもらっている別クラスに頼るべきだろう。
 投げやりになる嘉穂は残っていたお好み焼きをパクリと咀嚼し、追加でテーブルにやってきていたボウルに視線を送っては、「もう一個、焼く?」と香春に聞いてきた。
 いわゆる"おかわり"だ。
 宿題のことは頭から追い払いたいのか、単に先に食欲を満たしたいのか、話題を反らされてはそれ以上の深追いもできなくなる。
 香春は頷いてボウルをたぐりよせ、空いたホットプレートの上に生地を流した。

 楽しかった雰囲気がまたもや陰りを帯びたように感じてしまった。
 嘉穂は八女との話がどんなことになったのか語ろうとはしない。『明日』に何があるというのだろう。またそれを聞いてもいいのだろうか…。
 不安とムッとする思いと、口うるさく尋ねまくって嘉穂にうっとおしがられたくない葛藤が胸の内で燻った。そのため、自然と口が閉じられてしまった。
 空気の微妙な変化に嘉穂だけでなくキッチンにいた母親も気付くのか、香春の代わりに「嘉穂くん、次は明太子入りでもいいかな?」と様子を伺ってきた。
 香春と嘉穂の間には焼きそばが半分になって残っているが、全てを嘉穂にあげたとしても、きっと足りないだろう。母親も心得たもので、二枚目を焼いている今でも『まだ食べる?』とは聞かない。
「あ、っと…、なんでもいいけど…」
 一瞬"遠慮"の文字が脳裏に走ったらしいが、結局は食欲に負けている嘉穂だった。嘉穂の返事を受け取っては、「ほーんと、嘉穂くんが来てくれると冷凍庫が片付いていいわぁ」と呑気な声を上げる。
 何でも混ぜてしまえ、とは主婦の創作意欲の行く末か…。
 母親が空いたボウルを引き取っては、また次の材料を入れてくる。それから「ちょっとお布団の用意、してくるわね」とその場を立ち去ろうとした。
 お風呂にも入った、ご飯も食べた、あとは寝るだけ…と、嘉穂が鞍手家に来れば特に変わることのない"日常"の会話だ。大概は食事を終えた後は、香春の部屋でマンガ本を読んだりして時間を潰す。
 母親も"泊まる"というからには、すでに筑穂の了解済みだと、誰もが思った。
 香春も嘉穂が泊まっていくのだと再確認できた瞬間だった。
 しかし嘉穂はすぐに、「あっ」と声を上げた。
「いや…、俺、やっぱ、今日は帰る…」
 少々言いだしづらそうであるものは母親を制止させる。同時に香春も「えっ?」と嘉穂の横顔を振り返ってしまった。
…帰る…?…どこに…?
 帰る場所なんて一つだけだと、あたりまえのことなのに、それすら疑問に感じてしまうのは、先程の電話で会話していた相手がいたから…。
 香春の隣で嘉穂はまた頭をポリポリとかいていた。

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待っていたから 4
2013-10-24-Thu  CATEGORY: 待っていたから
 脱衣所で嘉穂は躊躇いもなく衣類を脱ぎすてていく。決して広くはないこの空間では、手を広げたらぶつかってしまう。香春は嘉穂が脱ぎ終わるのを待ってしまった。
 嘉穂が下着一枚になってからようやく動かない香春に気付いて、「香春? 先入ってるけど…」と動かない香春を気にする。
「あ、うん…」
 ようやく服に手をかけた香春を見ては、嘉穂も最後の一枚を堂々と脱いで浴室のドアを開けた。
 チラリと見えてしまった嘉穂の下半身に、落ちつけたはずの心臓がまた高鳴った。自分のモノとは比較にならないくらい大きなイチモツが黒い茂みの中からぶら下がっていた。香春といえば産毛が生えたような状態だったし、ちんちくりんな性器がちょこんとおじぎをしている。
 こんなのを見たら嘉穂は、より一層子供だと思って呆れてしまうだろうか…。
 体格が違うのだから、ソコだって違ってあたりまえなのだが、同い年とは思えない差がある。他の人の成長具合なんて見たこともないが、香春は小さい頃から何も変化がない気がしてくる。
 数年前まで、それほど大きさなども変わらなかったはずなのに…。あまり意識して見ていたわけでも成長記録をつけていたわけでもないけれど…。
 嘉穂がシャワーを頭からかぶっている水音が響いてきた。続いて「香春?」と呼ぶ声も。
 モタモタしていたことを思い出しては、抵抗があっても今更逃げられない状況に大きなため息がこぼれてしまった。
「あ、うん…」
 それでもなかなか脱ぎ切らない香春に、バッと浴室のドアが開けられる。髪から滴を垂らし、引き締まった筋肉の上を水滴が流れ落ちた姿で嘉穂が不思議そうにこちらを見ていた。
「なにしてんの?」
「べ、べつに…。あの、狭いかな…と思って…」
 どこに視線を向けたらいいのか分からなくなって足元に落とせば、嘉穂はさも何もないように「交代で沈めばいいじゃん」と言い放ってくれた。
 浴室のドアをいつまでも開けっ放しにするわけにもいかず、香春も戸惑いつつ、衣類を脱いだ。
…どんなふうに見られているのだろう…。
 顔を上げられず、そばにあったタオルを掴んでは体の前に当てて一歩を踏み出した。香春が入ってくるスペースを空けてくれながら、嘉穂は自宅から持ってきたボディタオルを勢いよく泡立てて体を洗い始めてしまう。
 香春が全身を濡らし、ようやく洗おうかという頃、豪快に洗っていた嘉穂はもう泡を洗い流そうという段階に入っていた。
 嘉穂にシャワーを渡して、香春は壁を向いて肌にスポンジを這わせた。
 自分のことに夢中になるこの無言の時間が、なんとも居辛さを漂わせてくれる。だがそれもきっと香春だけのことで、嘉穂は何とも思っていないのだろう。

「香春ぁ、そんなちっこいスポンジで洗えるの? 背中洗ってやろうか?」
 突然の申し出にはビクンと体が跳ねあがった。
 香春は泡立ちが良いのでスポンジを愛用していた。嘉穂から見たら手が届きにくいと捉えられたのだろうか。
 親切心はありがたいが、この状況下では素直に喜べるものではない。途端に緊張が全身を包む。
「え、い、いいよ…。嘉穂くん、もうお風呂、入ったら…?」
 香春が振り返っても嘉穂は一歩も動かず、それどころか「いいから」とスポンジを奪われてしまった。
「あっ」
「香春って小さいよな…。やっぱ、親の遺伝なのかな」
 香春の抵抗など全く意に介していない。香春は心もとなく、置いておいたタオルを咄嗟に掴んで前身を覆い隠した。
 嘉穂は項から背中を円を描くように洗っていく。動きはかなりダイナミックで、手が大きくスライドする。
 嘉穂が言う"小さい"はもちろん体格のことなのだが、大事な部分のことまで言われているようでシュンと俯いた。父親のソレをはっきりと見た記憶はないが、『遺伝』と言われたら、父は今現在でも嘉穂と変わらないのではないかと思えてくる。香春の母親が言ったように、身長ならすでに嘉穂のほうが高い。たぶん筋肉量も…。
 嘉穂の父親も生前は年齢の割にかなりしっかりしていたと脳裏に浮かんだ。確か、香春の両親より一回りほど年上だったはずだ。小さい頃は、あのがっしり感が羨ましく思えたものだ。
「か、嘉穂くんのお父さんも大きかったよね…」
「…あぁ…、……デカかったのかな…」
 嘉穂の口調がしんみりした気がして、ハッとする。今では思い出の中の人でしかない…。
 小さかった頃の自分たちから見たら確かに大きかった。成長した今、それは比べることができない。嘉穂が筑穂の身長を抜いたように、いつか父親も追い越し…、…その時『大きい』と言えただろうか…。
 親がいなくて嬉しいはずなんかないんだ…。迂闊なことを口にしてしまったと、香春は余計に動揺した。
 普段は明るくて元気な嘉穂だって、心に傷を負っていないはずがない。その傷を抉ってしまった…。
「ご、ごめん、嘉穂くん…」
「なに、謝ってんの?」
 香春がすぐに詫びれば、嘉穂は何のこと?とはぐらかしてしまう。それに香春は何も答えられず、手早く洗う嘉穂の動きを大人しく受け入れるしかなくなる。
 本当に僅かな時間だったはずなのに、互いに言葉を発しない時間がとても長く感じられた。 

 結局、膝を抱えるようにして二人一緒に浴槽に浸かったために、ざばーんっと勢いよくお湯が溢れてしまった。
 そんなくだらないことでも、気分を払拭するかのように笑いあった。笑えたことで、重苦しい空気がお湯と一緒に流れていってくれたようだ。
「なんか、温泉に行ったみたい。香春のお母さんに『お湯がない』って怒られちゃうかな」
「足し湯機能にしておけばママにばれないよ」
 嘉穂を安心させたくて香春も微笑む。
「昔、良く水、足し過ぎて『水風呂じゃないっ』って呆れられたよな」
「しょうがないよ。あの頃は熱かったんだもん」
 普通に会話ができるようになって良かったと思う。
 そして香春はつい『ママ』と呼んでしまったことを恥ずかしく感じた。
 嘉穂が筑穂のことを『にぃちゃん』から『兄貴』というようになったのと同じように、香春も親の呼び方を変えようとしていた。だけどそう簡単に変えられるはずもなく、特に嘉穂が相手だと意識することも減る。
 嘉穂が気付かないでいてくれることにホッともする。お互い様で、すんなりと聞き流せる雰囲気が変な恥ずかしさを吹き飛ばしてくれた。
…こうしてずっと、同じ思い出を共有していけたらいいのに…。

 だけど会話がどこかよそよそしい感じもする。無理に明るく振る舞っているような印象がそこはかとなくある。
 話している内容も、香春に向けてくれる態度も何一つおかしなところはないはずなのに、微妙なぎこちなさが空気を震わせていた。戸惑いがあるような、少し控え目になっているような…。 
 やはり、嘉穂の親の話をしてしまったのが悪かったのだろうか…。表には出さず、胸の中で泣いていてもおかしくなかった。
 どれだけしっかりしているとは言っても、香春と歳は変わらないのだから。

 他愛のない会話が続いて少しすると、嘉穂が「先に出る」と言いだした。
「う、うん…」
 嘉穂はまたもやどこも隠さずに立ち上がってしまった。視界に入れてしまう恥ずかしさと、後ろめたい気分も相まって香春は膝を抱えたまま俯き続けた。
 ザバーンとまた大きく波ができた。嘉穂がいなくなった分、水量も減っている。
 流れたお湯は、もしかしたら泣くことができなくなった嘉穂の涙なのだろうかと、香春は自分の軽率な発言を後悔していた。

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待っていたから 3
2013-10-23-Wed  CATEGORY: 待っていたから
 嘉穂は一度自宅に帰って着替えてくる。
 香春の家の前で「じゃあ、またね」と見送った。走って帰る後ろ姿を見ていると、慌てているようで心配にもなるが、逆にすぐに戻ってきてくれると思えて心が躍った。
 玄関を入り、母親に嘉穂の家の状況を伝えると、やはりすでに連絡は届いていたようだ。
「香春、今日の夕ご飯、お好み焼きでもする?」
「いいけど…。嘉穂くん、それだけじゃ足りないと思うよ」
 体格が違えば食欲も違う。香春は比較的小食なほうだが、嘉穂はといえば底なしの胃袋を持っているような旺盛さがある。少なからず食費がかかってくることに、筑穂はいくらかの食費を母親に渡していたようだが、母親は「塾代」だと言って受け取りを渋っていた。筑穂と福智が家庭教師さながらに勉強を教えてくれるので、これまで香春と嘉穂は塾通いはしていない。だけど、それもこの夏までだと、どちらの家庭も思っているところがある。
 受験を前にして、教えるにも限界がある、のと、筑穂たちだって仕事があるのだから、いつまでも頼ってはいられない。
 現実問題は如実に香春たちに降り注いでくる。進学する学校は、一緒になれるのだろうか…。

 母親の提案に香春が首を傾げると、承知済みの母親は「焼きそばもあるし。あ、冷凍ご飯がたまってきちゃったからそばめしでも作っちゃうか」と色々と思考を巡らせ始めた。この家は、バクバクと気持ち良く消化してくれる人間がいないので、母親もやりがいがないらしい。嘉穂と穂波がやってきた頃は、いろんな意味で腕をふるってくれたものだ。
 最近は…、香春がやりたがるのが分かるのか、香春でもできる料理に挑戦させてくれるようになった。
 お好み焼きや焼きそばだったら、テーブルの上にホットプレートを出してきて、嘉穂と一緒に作れるところも利点だ。
 香春が作ったものを、「美味しい」と言って食べてくれることは何よりも嬉しい。
 嘉穂が兄たちだけではなく、香春にも目を向けてほしい願いもあって、嘉穂のためにと花嫁修業(?)を今から始めていた。レパートリーも随分増えた。
 鞍手家と津屋崎家で一緒に食事をすることもあって、そのたびに香春は嘉穂の好きな味を知っていく。母親と筑穂が密に連絡を取ってくれて、香春でも作りやすいように母親がアレンジしてくれたりもしていた。知らずのうちに香春は、津屋崎家の味を受け継ぐのだと息巻いていた。

 香春が母親の提案に頷くと、「じゃあ下準備だけしてしまいましょうかね」と野菜やら肉やらと材料の確認に向かっていった。
 嘉穂が着替えたり、宿泊の準備をしたりしても、30分もかからずに戻ってくるのは知れている。
 香春も制服を脱いで部屋着になってくると、すかさず「香春~。お風呂沸かしちゃってぇ」と声がかかった。
 部活後、埃まみれになっているだろうし、夕飯までの時間を有意義に使わせようとは母親なりの気遣いでもある。少しでもやることができたなら、空腹も気がまぎれるだろう。
 香春が浴室の準備をし、キッチンに戻っては母親の横に並ぶ。母親は香春が何をしたいのか、すでに理解していたからスッと場所を空けてくれる。
「まずキャベツ、千切りにしちゃって」
 四分の一に切ったキャベツの塊と『簡単千切り器』を渡されて、香春も慣れたようにスライスし始めた。
 こうして母親から色々と料理を教えてもらっている。嘉穂が食べてくれると思えるから、香春も俄然やる気になれた。

 そうこうするうちに玄関のチャイムが鳴って、嘉穂が来たことを知らせてくれる。
 調理道具を放って、真っ先に香春は出迎えた。
「おじゃましまーす」
 筑穂は嘉穂のことを、挨拶ができない、と良く嘆くが、いつも見ている香春は、そんなことはないと声を大にして言いたい。
 今日も家中に響くような大きな声を上げて、奥から母親が「いらっしゃーい」と返事をした。
「嘉穂くん、今日はお好み焼きなんだって」
「わーぁ。香春んちのお好み焼きって、ふわふわしてて、俺、好きっ」
 ご飯の話をすれば途端に輝きだす嘉穂の顔があって、香春も思わず嬉しくなった。
「今ね、キャベツ切っていたところなの」
「香春が?指、切るんじゃね?」
「もうっ。そんなドジなことしないよっ」
 からかわれては不貞腐れて、また宥めるように嘉穂の大きな手が香春の頭上を撫でた。昔からのさりげない仕草も、今の香春では一つ一つが大事に思える。嘉穂は決してスキンシップが激しいほうではない。友達を小突いたりはするが、敏感な部分には触れてこようとはしない。頬や髪に手を伸ばすのは、知る限り香春だけのはずだ。
 嘉穂が持ったいつものバッグを目にしては、詰まっているであろう着替えなどがあることに安堵する。

 リビングに顔を出し、キッチンにいる母親とも挨拶を交わす。母親は腰を落ちつける前にバスルームを促した。
「嘉穂くん、お風呂沸いているから入ってきちゃって。まだごはんは準備段階なのよ」
「え、でも…。…香春は?」
 声に答えてから隣に立つ香春を見下ろしてくる。来た早々、人の家の風呂場を使うのは抵抗があるのだろうか。もう何度も繰り返されてきた"日常"であるのに…。
「僕、…まだだけど…」
「じゃあ、俺、香春の後でいいよ。先になんて…」
 見渡せば一番風呂になってしまうことになるのは嫌でも知れること。いつの頃からか、嘉穂はこうして周りを気遣うようにもなっていた。ちょっと前なら意識することもなく飛び込んでいたというのに…。
 些細なことで、少しずつ開いていく距離感を感じてしまい、昔のままではいられないと現実として教えられているようだ。それはチクチクと香春を苛んでくるものになった。
 嘉穂が遠慮するのを母親が口を挟んでくる。
「一緒に入っちゃいなさい、って言いたいところだけど、さすがにもう狭いわよね。嘉穂くん、うちのパパより大きいもの…」
 母親の何気ない『一緒に』という言葉にドキリとしたのは香春だけだろうか。
 小さい頃から一緒の入浴も何度も繰り返されてきた。母親にとっても嘉穂の体は見慣れたものになるのかもしれないくらい。
 もちろん小学の高学年になってからは、親の前で平気で裸になるようなことはなくなっていたけれど。男兄弟の嘉穂はちょっとだけ"恥らい"というものが鈍いらしい。
 香春も意識し始めたのは中学校に上がってからだ。色々な意味でどんどんと成長していく。意識するということも改めて知り始める。
「別に俺は構わないけど…」
 嘉穂のあっけらかんとした言葉に心臓を跳ねあがらせたのはもちろん香春だった。
 幼い頃から繰り返された行動に、嘉穂には羞恥心というものは存在しないのだろうか。香春一人が、特別な目で、またいやらしさも混じらせて嘉穂を見ているようで、それが知られたら軽蔑されそうな危機感も襲ってくる。
 少しずつ何かが変わり始めている自分たち…。
「ぼ、僕…」
 やっぱり狭いよ、とか、ご飯の支度が途中で…とか、いろいろと言い訳が脳内を巡るが声になるには至らない。
「嘉穂くんがいいなら香春も入っちゃいなさい」
 すかさず母親は嘉穂の同意が得られたのなら躊躇することもなく香春にたたみかけた。男同士、母親にしてみたら、いつまでも変わらない二人なのだろうが…。
 キッチンでは香春がどいた分のスペースを悠々と動き回っている母親がいて、香春が戻っても邪魔になるだけだと悟れる。母親にしてみれば、嘉穂と一緒にバスルームへ追い出せる都合の良い展開となっていた。
 決定事項となってしまい、また嘉穂からも「じゃ、行こ」と腕を掴まれて廊下に出るよう視線を向けられたら抗うことなど出来るはずがなかった。
 香春は着替えを取るために、嘉穂は香春の部屋に荷物を置くために、揃って階段を昇りだす。
 意識したら余計に気になりだす。それこそ、この前まで普通に接していられたはずなのに…。
 香春は必死で心臓のバクバク音を鎮めようと努力していた。

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待っていたから 2
2013-10-22-Tue  CATEGORY: 待っていたから
 香春が教室に入るとクラスメイトの柳川門司(やながわ もじ)が寄ってくる。この男も嘉穂までとはいかなくても大きい部類に入る。
「おはよ。鞍手、数学のプリント問題、全部解けた?」
 一時限目にいきなりやってくる数学の時間。周りを見渡せば机を囲んでプリント用紙を取り出している人たちがいる。
 回答を写している者、確認し合っている者と様々だ。テストではないからあまり身構える必要はなくても、みんなの前で恥をかきたくない精神は予防策を講じる。大半の人間が間違えてくれたら、それだけで安堵してしまうものだ。
「一応…」
 そういう香春も実は嘉穂に教えてもらったところがある。正確には嘉穂の家族にだが。クラスが同じだったときは出される宿題も一緒だったから分かりやすかったのだが、クラスが離れてからは授業の進み具合が前後する部分が出てくる。授業が終わったところを復習として出されたプリント内容は首を傾げることも多くなった。
 だけどそこは嘉穂の予習も兼ねて、筑穂と、津屋崎家の居候飯塚福智(いいづか ふくち)が面倒みてくれたりする。福智は最近、筑穂の恋人として引っ越ししてきた人物で、筑穂の同僚として働き、香春のこともやっぱり弟と同じように見てくれていた。

 「なになに、見せろよ~」
 柳川は早速答えを求めてきた。無い物ねだりをする子供のように見えて、香春は内心でため息をついていた。こんなとき、どうしても嘉穂と比べてしまう自分がいる。
 しかし、香春は回答用紙を取り出すのを躊躇った。昨日の問題は応用編だったようで、教えてくれた福智も「ひねってあるなぁ」とため息をこぼしていた。それだけ難しいということなのだろう。今現在答え合わせをしているクラスメイトの姿も納得できるものがあった。
 香春は発した言葉通り、一応全部解いてある。正解かどうかは分からないが、細かく解説しながら進めてくれた答えが間違っているとは思えない。香春が一人で解けないことは周知の事実だろうし、もし間違えていた時、津屋崎家の恥を晒すような気がしてしまった。
 公然と『間違えていた』とは言われたくない。
「えー、でも、難しかったから…」
「また津屋崎んちの兄貴に教えてもらったんじゃないの?てっきり泣きついたんだと思っていたけど…」
 泣きついた…とは酷い言い方だと思う。確かに当たっているのだから返す言葉もない。香春が無言でいることで、状況は見破られたのか、柳川は「ねぇねぇ」としつこい。…本当にしつこい。嘉穂だったらここまで食い下がるようなことはせず、スマートに引くのに…。
 香春は今更でも、「一生懸命考えたもん」と付け加えてみたが、全く信じられていないのは一目瞭然だった。
 ほとんど奪われる形で、プリントは柳川だけでなく、クラス内を巡ってしまった。感嘆の声を上げる者、あからさまにため息をついて自身の誤答を確認する者、意味も分からなく丸写しするものと様々だ。
 この行為が先生の目に止まらなければいいのに…と願ったところで、結果はすぐに皆の知れることとなる。回答と解説の書かれたプリントを渡され、自己で採点し、解答用紙のほうは一度教師に回収された。
 即座に書き直す人もいるようだが、その辺は教師も大目に見ているようだし、だいいち動きでバレている。あとはもらった解説プリントで再復習しろということなのだろう。
 もちろん、正解者は香春だけではなく、きちんと自力で解いた人だっているのだから、何もおかしな話ではない。ただ、現実問題として、香春には『宿題はできてもテストはイマイチ』という評価がすっかり根付いている。
 この日も、本当の意味で全問正解した人はクラスの半分にも満たなかったようだ。正解者はどれも成績上位の人間で誰しも納得している。
 教師の視点から見たら、写したのは香春と捉えられていてもおかしくなかった。

 昔からどこか要領が悪い香春だった。
 嘉穂が筑穂と穂波の間をひょいひょいっとかわしてしまうところも、香春はいつもつまずいた。そのたびに嘉穂が手を差し伸べてくれて、同じ時間を過ごすことができた。お菓子の奪い合いから、先生の話を良く聞いていなくて揃って忘れ物をした時の言い訳にいたるまで…。
 別に教師に直接言われたわけではないし、級友も責めてはこないけれど、はびこっていく空気というのは感じてしまう。嘉穂が隣にいた時は感じることがなかったもので、それだけいつまでも頼りっぱなしと言っているようなものだ。
 香春と嘉穂の持つ雰囲気が徐々に変わり始めたことも、周りの人にこれまでと同じではない印象を与える。
 大人の階段を昇り始めた人と、変わり映えのしない香春。置いていかれる不安は常に襲ってきた。
 嘉穂のそばにいる存在と皆に知られて、また態度で教えるのはいいが、金魚のフンとは違うのだと言いたい。嘉穂は優しいから、断われないだけだ、とは思われたくない。そんなふうに捉えられたら嘉穂との間に隙間ができて、誰かが潜り込んできそうだから…。

 嘉穂の部活終了の時間を待って、香春と肩を並べて帰路につく。空は夜の帳を落とし始めた。暗くなり始めても、隣に嘉穂がいてくれると思うと不思議と安心感が漂う。
 この日の帰り、嘉穂も同じプリントの問題が出されたと話し出した。この話はすでに学年内では交わされている話題で、早速香春のクラスの生徒に駈けよった生徒もいる。嘉穂は香春と一緒にプリント用紙を眺めていたのだから当然知っていた。
「昨日福智さんの説明、聞いたけど、もう頭から消えてるよ~」
 嘉穂も難しさに嘆いている。でも嘉穂のことだから、なんだかんだ言いながら理解しているのだろうと微笑んだ。
「嘉穂くんなら大丈夫だよ。それにもう一回、教えてくれるって」
 面倒見が良いのは筑穂だけではなく、同居人も然り。これまでだって、見捨てることなく理解できるまで何度も丁寧に繰り返してくれた。だから香春も授業に置いていかれることなく付いていけている。
 そんな話をしながら歩き進めていると嘉穂の携帯電話が鳴った。最近では携帯する人も増えてきていたが、嘉穂は小学生の時から、…正確には親が亡くなってから持たされていたものだ。ついこの前、香春も親に買ってもらったものがある。同じ機種の先には、やはりお揃いの、指先よりも小さな球がついたストラップがぶる下がっている。クリスマスに嘉穂がプレゼントしてくれたものだ。

ストラップ

 メールが入ったらしく、携帯電話を眺めた嘉穂は「ふーん」とすぐに閉じた。
 香春が「どうしたの?」と首を傾げると、いつもと変わらない返事がきた。でもその表情はどこか憂いを含んでいるように見えた。少し強がっているような声も…。
「にぃちゃんたち、残業だって」
 嘉穂はたまに筑穂のことを『にぃちゃん』と呼ぶ。昔の呼び名だ。意識せずに出るのは、話相手が香春だからだとは承知していた。気を許している証拠で、そんなところでも香春は喜んでしまう。
 だからこの時、香春は嘉穂の僅かな表情の変化よりも、嘉穂が一番身近にいてくれていると思える態度が嬉しくて不思議がらなかった。

 筑穂と福智は同じ会社に勤めているので、揃って残業になることはしょっちゅうだった。嘉穂も大きくなったし、穂波もいるから、と香春の家で過ごす時間は減ってきているが、いつの頃からか穂波は香春の家に寄り付かなくなった。香春の家どころか自宅にもあまり居つかないようだ。
 香春は嘉穂が遊びに来てくれるのが嬉しかったから穂波のことはあまり気にかけず、そしていないからこそ、ずっと家にいるよう頼み込んでしまう。最近は香春の母親も、近所なのに「泊まっていけばいい」と嘉穂を促すようになっていて、特に週末の日は先に筑穂に連絡を取っているほどだった。暗くなってから歩かせるのは危険だ、とは、交通事故に敏感になっている筑穂の心情を気遣っているものでもある。夜道を歩くのは大人だって危ない。ましてや今は、穂波もいない…とは、とってつけたような理由だった。
 週末の今日、もしかしたら予想できていたことかもしれない。
「そうなの?じゃあ、今日はうちでごはんだね」
 香春も決まりきったことのように声をあげる。若干嬉しさが込められたのは否めない。働いてくれている筑穂たちには申し訳ないけれど、少しでも帰ってくる時間が遅かったらいいのに、とは単純な思考の行く末だ。
 筑穂から嘉穂に連絡が入る時は同時に香春の母親にも詫びの連絡が行っているので晩ご飯の用意はされているはず。これは昔から変わらない。年を重ねるごとに、生活環境は変わっていくのかもしれないが、いつまでも続いたらいいのにと願わずにいられない。
 まず津屋崎家から離れていった穂波を見ているから、少しの心配事として香春の中に巣食い始めていた。

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待っていたから 1
2013-10-21-Mon  CATEGORY: 待っていたから
 目覚まし時計が鳴り響く音で鞍手香春(くらて かわら)は目を覚ました。中学校に上がってから一年も経てば、母親に起こされることも減った。
 まだ小学生だった時は、なかなかすんなりとは起きられなくて、母親の手を煩わせたものだが、もう中学生になったのだからと、気分を一新させた。変わらないことは、香春が近所のとある家に迎えに行くという日課。
 そのことがあったから、香春は寝坊だけはしたくなかった。
 香春が行かなくても、幼馴染の津屋崎嘉穂(つやざき かほ)は遅刻することはないとは思うが、いつ誰にこの立場を乗っ取られるかと思うといてもたってもいられない。嘉穂の隣には絶対に自分がいるのだと、無言で皆に教えている意味がある。
 嘉穂は小さい頃から成長が早かった。保育園の時は小学生に間違えられたし、小学生の時は集団登校の中でも背の高い部類に入った。もちろん、中学校に上がった今でも同じことで、しょっちゅう高校生に間違えられている。
 あくまでも"外見"は…なのだが。
 それに比べて香春はいつまでたっても小学生のようだ。クリクリとした大きな目が余計に幼さを強調してしまう。元気に走り回る嘉穂は動いた分だけ筋肉も成長していると言わんばかりだが、その動きについていけない香春は細っこいままだった。
 比例したように嘉穂の人気も高い。
 中学校に上がったばかりの頃は嘉穂の兄、筑穂(ちくほ)と背が並ぶか、というくらいだったが、一年でグンと伸びた。平均身長より頭一つは違うのでどこにいても目立つ。どこからでも見える顔立ちがまた整っているもので、嫌でも目を惹く。頭が良い筑穂の影響か、勉強もできたし、誰に対しても優しい気持ちをもっているから、人受けがとても良い。人気度は上がる一方だ。
 運が良いことに、香春が住んでいる住宅団地の中には、同学年の子供が他にいなかったので、言葉が話せないうちから仲良くさせてもらえていた。
 そのおかげで、誰よりも嘉穂に近い存在だったし、嘉穂も香春のことを気にかけてくれるところがある。もちろん香春にとって何よりも優越感を与えてくれる。
 二人の間に隙間を作って他人に入りこまれるのはいただけない。そのために香春は自分の存在をアピールし、周りの人に"近づくな"オーラを撒き散らしていた。
 
"朝のお迎え"もそのひとつ。
 中学校に上がってから集団登校はなくなってしまったので、また部活をする生徒もいて、通学時間はマチマチになる。
 嘉穂は小さい頃からサッカーをしていたこともあって当然のごとく、サッカー部に入部した。香春は自分に向いていないことが分かっているから、そちらは追いかけることはしなかった。週に二回、調べた結果を報告しあう『地域歴史クラブ』に入っている。たまに"校外調査"に出かけることもあったが、サッカー部の練習が終わるまでには戻ってこられるので選んだ…とは内緒の話だ。
 サッカー部の朝練は毎日ではないし、あったとしてもすごく早い時間ではないので、香春も一緒に通学することができた。朝から元気に走り回る嘉穂の姿が見られるのも嬉しい出来事だ。
 
 香春は時間に余裕をもって家を出る。住宅団地内にある生活道路を一本挟んだ向こうに嘉穂の家があって、玄関のチャイムを鳴らすと、長男である筑穂が出迎えてくれた。
 少し前までは嘉穂の母親が姿を見せていたが、突然の交通事故で、父と母をいっぺんに天国に見送ってしまった。その日から、親代わりをつとめる筑穂が、一家の大黒柱となって頑張っている。筑穂と嘉穂は15歳も離れているため、どちらかというと香春の両親と歳が近い。5歳上の二番目の兄、穂波(ほなみ)もいたが、やっぱり部活が忙しかった彼と顔を合わせることは最近あまりなくなっていた。
 どちらかといえば、筑穂よりも穂波のほうが年が近いために香春も昔はよく一緒に遊んだものだ。その穂波は、今年高校を卒業して、調理師学校に通い出している。

穂波・香春・嘉穂
イラストの版権はくるみ様にあります。お持ち帰りはお断りいたします。

 今では兄弟の中で一番背が小さくなってしまった筑穂だが、大人にしては可愛い部類に入る外見の割に、意外と性格がキツイのは、暴れん坊の弟ふたりがいたからだとか。
「おはようございます」
 香春がちょこんと頭を下げて挨拶をすると、筑穂がニッコリと笑いつつも、困った表情を浮かべた。
「いつもありがとう。まったく、嘉穂ってば毎日毎日…ブツブツ…」
 困った顔は呆れでもあり、なかなか支度が整わない嘉穂に向かっての愚痴も含まれていた。
 でも香春と筑穂が玄関先で束の間の雑談をしているうちに、階段を数段飛ばしで降りてくる嘉穂がいて、少しでも早く、という気持ちが伝わってくるようで、それがまた香春には嬉しい行動でもあった。
「よぉっ」
「嘉穂っ。きちんと挨拶しろっていっつも言っているだろっ」
 筑穂の怒鳴り声が響くのもいつものことで、咎められた嘉穂は「うっせ~ぇ」と文句をぶつけている。
 けど、本気で言っているわけではないのも香春はすでに知るところ。香春はその光景だけでもほのぼのした印象を感じて笑顔になってしまうのだ。
 制服のワイシャツの裾は飛び出したまま。ブレザーも鞄と一緒に片手で持たれている格好は、まだすぐに外には行けないことを表していた。それを見て、やっぱり筑穂が「身だしなみっ」と声を荒げる。
 一人っ子の香春はこうした日常がないので、少しだけ羨ましくなることがあった。でも普段から穂波と筑穂は香春を温かく見守ってくれているのを知っているから、兄弟が欲しいと思ったことはない。

 靴を履く前に鞄とブレザーを筑穂に持たせた嘉穂はその場で身支度を整える。整える、と言ってもボタンをきちんと留めていなかったり、ネクタイもポケットの中だったりで、また筑穂の小言を食らうのだが…。着崩した格好すら嘉穂なら似合ってしまうのだから不思議だ。
「行ってきます」と二人で玄関を出ると、筑穂も道路まで出てきて周りを確認して見送ってくれる。
 自分たちの両親が交通事故にあった出来事は、とても深く胸に刻まれているようだった。きっとそれは嘉穂にとっても同じだと思う。
 香春はいつも嘉穂を守ってあげようと思っている。身体の大きさからいったら逆の立場なのかもしれないが、周りに目を光らせることくらい、誰にだってできることだ。こうやって並んで歩いていれば、車の動きを確認できる。
 嘉穂はいつだって道路側を歩いてくれるから…。

 学校までは歩いて20分ほど。二年生になってクラスは分かれてしまったけれど、行きも帰りも共に過ごしているところから他の友達も何かと気付いているものはあるのだろう。不穏な動きは見当たらない。
 それもまた香春の一つの安堵だった。
 先に香春の教室を通る。教室の前で嘉穂が片手を上げる。
「じゃ、またな」
「うん」
 帰りの約束を毎日残してくれることに安心する。
 去っていく嘉穂の背中を見送りながら、次々と声をかける友人たちを羨ましく思う。同時にカッコイイな、と頬を緩めた。
 最近嘉穂の態度が変わったと色々なところで感じる。香春に対しての変化はほとんど見受けられないが、友達に対しては昔からのあどけなさが薄れていった。
 そのことも嘉穂を大人っぽく見せる点で、密かに憧れの対象にされている。自分たちとは違う"大人っぽさ"はどうしたって格好良く映る。
 誰からも注目される人は、一日の最初と最後、必ず自分がいると自惚れていた。
 香春にも声をかけてくる友達はいる。そんな香春を見て、嘉穂も同じ気持ちを持ってくれているのだと信じたい。
 香春は去年のクリスマスにお揃いの携帯のストラップを渡されたことと、触れるだけだったけれど、嘉穂からキスをされたことを、大事に胸にしまって毎日を過ごしていた。



筑穂と福智のお話はこちら→『待っているよ』
穂波と浮羽のお話はこちら→『待たせるけれど』

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またもやスピンオフ…。
リクエストをいただいて、すんなりと浮かんだのがこちらでした。
『待っているよ』から少し時間が経っている時期になりますね。
中学二年生になった春…ってところでしょうか。
学生物は書いたことがほとんどないので先行きが不安ですが…。
行き詰ったらSSにでも逃げて繋いでいこうと思います(←)
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津屋崎家のある一日 3
2013-10-19-Sat  CATEGORY: 待っているよ
ふたりだけの世界、とはやはり気分を落ちつかせてくれる。それは会社帰りの行為でも充分感じていたことだけれど、どちらかといえば、欲求を吐きだす目的が強かった。
休日の昼間にのんびりする、なんて、いつぶり以来だろうと、振り返ってしまうところが少し悲しい成人男性だ。
筑穂と福智はベッドの中で性欲を満たし、腹が減ったと言っては食事サービスを利用して、また部屋でゴロゴロしだした。
"個室"という空間を存分に味わった。
「これ、結構、いいかも…」
筑穂がポツリ呟いたら、当然のごとく嬉々とする福智だった。
元来、筑穂は自ら「ホテルに寄っていこう」などとは口が裂けても言わない。
会社帰りだって、福智が穂波たちに先手を打って『残業』と連絡してしまうから、仕方なく同伴するといった態度だ。
帰宅時間が気になればそう、ゆっくりと過ごすこともできない。
"残業"だって言える時間はせいぜい数時間だろう。
それが休日の昼間のお出掛け、ともなれば時間に融通がきく。
遊び友達がいない弟たちではなく、それぞれ好きに過ごしているのは嫌でも目に浮かんでくること。どんな遊びをしているのかは、この際目を瞑って…。(←穂波に限定する)
出かけたとしても、目的があるのならともかく、無意味に街中をウロウロしていても疲れるだけだ。その点、こうした部屋の中に潜ってしまえば、人目を気にせず過ごすことができる。
「だろだろーっ」
福智がニンマリと笑って筑穂に抱きつけば、「月一でっ」と外出制限が出された。
さすがに毎週毎週と家にいないのは気が引ける…とは、長男としての役どころなのか…。

そして、まだ陽が高いうちに表に出る…というのも嫌な緊張感を持たせることだと知ったのだが…。

家に帰る前に、やっぱり何かを買っていこうという話になって、それに一週間分の食材も確保しなければ、とスーパーに立ち寄ることにした。
二人で分担して荷物を持てるところも良い点だ。
「福智、重い?」
スーパーのレジ袋を両手に提げた福智を、隣の筑穂が気遣う。
夕方のタイムセールにぶち当たって、つい買いすぎた。ちょうど今夜のおかずになりそうな総菜が割引されたこともあって、人数分を考えてはつい多くなってしまう。
スーパーのカートを借りて帰れないか…と思ったくらいで、もちろん、そんなサービスはされるはずがなく、人力で運ぶしかない。
「まぁ、これくらい良いけど。俺が筑穂に協力できることなんて、これくらいしかないからな」
「そんなことないよ。福智にはホント、…いっぱい感謝しているし…」
謙遜して言う福智に思わず異論を唱えるものの、本音を改めて伝えるのは恥ずかしくて、つい俯いて、声も尻すぼみになってしまう。
どこの誰が、何が悲しくてこぶつきの家で一緒に住んでくれるというのか…。
いつも筑穂のことだけでなく、弟のことも考えてくれることに、どんなに感謝して、また自分も助けられているかと思う。
福智がいなかったら、こんな息抜きをするような時間を取ることもできずにいたかもしれない…。
筑穂が足元を見下ろすことに、「ほらほら、人にぶつかるから。俺、すぐにかばってやれないし」と両手かふさがっていることを強調されてしまう。
人通りは多くて、家路を急ぐ人もいて、他人にまで目が向かない。
筑穂は片手に持った袋を一度持ちかえてから、福智の片腕に手を伸ばす。それから一つの袋を中心にして、ふたつある持ち手の片方を手にした。
その姿に福智は目を丸くする。
「ちくほ~っ。可愛すぎっ。ねぇねぇ、もう一回"休憩"していかない?」
「馬鹿言ってんな~っ」
ただでえ、体は心地よい疲労感に包まれているというのに…。

さっさと帰るっ! と福智を促した。
すっかり日が暮れてから辿りついた家には、温かな明かりが灯っており、知らずにホッとしていることに気付く。
玄関を開ければ賑やかな声と、美味しそうな香りに出迎えられた。
「「ただいま~」」
「あ、にぃちゃんたち、帰って来た~っ」
最初に大声を上げたのは嘉穂だ。
続いて香春の母親の「おかえりなさ~い」と甲高い声が壁の向こうから響く。
こんなふうに出迎えられたのも、いつぶりか…。
香春の母親は、津屋崎家に関しては言葉もなく勝手にいじくりまわしてくれるところがある。
男暮らしに全く必要がなさそうな気兼ねなど持ち合わせてもおらず、その大らかさには筑穂も幾度も助けられてきた。
居間の座卓にはカセットコンロが二台用意されていて、上に乗せられた大きな土鍋が野菜たっぷり肉たっぷりの光景を繰り広げていた。
すでに火は点けられていたが、まだ仕上がりまでには至っていないようだ。
台所で香春の母親がやはり大きな鍋で何かを茹でていた。
「ありがとうございます。なんだかみんなやってもらっちゃってすみませんでした」
「あら、いいのよ~。それより、見て見て~。香春と嘉穂くんが作ったうどん。ほら、艶艶でしょー」
そう言って見せてくれた先には、先に茹であがった第一陣がザルに上げられている。これを煮込みにしようというのだろう。
見るからに不揃いな太さと長さ、また性質上そうなってしまうのかどうか分からない縮れ方をした麺が鎮座していた。
香春の母親は、これまた嬉々とした様子で自慢げに語ってくれる。
子供だけでなく、母親としても"初体験"は楽しめたようだ。
覗きこんだ福智が、「へぇ、本当に簡単に出来ちゃうもんなんだぁ」と妙に感心していた。
まぁ、福智が実体験しているとはとても思えないものであるのは確かだ。
弟の作品には、兄としても誇りに思える品に仕上がっている。

「嘉穂っ。火傷するから、あまり手を出すなっ」
「早く食べたいんだよね」
居間からは穂波と浮羽の、弟を見守る声が聞こえてきた。
嘉穂が弄りたがるのは好奇心と、大半は空腹を訴えてのことだろう。
それが分かったように香春の母親は、「とりあえず全員揃ったから席についちゃいましょう」と筑穂たちに目配せを送ってきた。
鍋はまだでも、何かしら口にいれるものがあれば静かになるだろう…と。
筑穂も買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながら、福智は総菜を皿に取り出す。

食を囲む席が、5人の家族から兄弟だけの3人になり、一人の住人を迎えて、また繋がっていく違う家族に巡り合い賑やかになる。
この賑やかさが懐かしく、また嬉しく、家の空気と人の心を温めてくれた。
…良い休日だな…。
筑穂は少々潤みそうになる瞳を瞬きをすることで誤魔化し、また直後には食べざかりの弟を制する役目に変わっていた。

筑穂「嘉穂~っ。みんなが食べるんだからかきまわさないのっ」
嘉穂「だって、肉~っ」
香春「嘉穂くん、僕の分も食べていいよ」(イチャイチャ)
福智「さっき、特売で買った肉があったじゃん。穂波、持ってこいよ」(たまには豪華に奮発してやろう)
穂波「なんで俺が…」
福智「…(だって筑穂、お疲れだし。おまえ、無断外泊しただろ。 ←心の声)…」
浮羽「あ、僕が持ってくるよ」
穂波「いいよ、浮羽さん、お客さんなんだから座ってて」(イチャイチャ)
穂波「…(クソッ。テメーだってさっきまで兄貴に何してたんだよっ。 ←心の声)…」
福智「…筑穂…、たまには『あ~ん』とかしてくれても…」
筑穂「(////)黙って食えっ ピシッ! (*ー"ー)ノ☆)゚ロ゚)ノ グハッ!!」

香春母「…そういえば、パパ、呼ぶの忘れてたわ…」

香春父「[家] ゴハンマダカナ…φ(_ _。)・・・イジイジ」

―完― (←分かりやすいようにこの文字を入れることにした(゚∀゚))

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くだらないお話にお付き合い、ありがとうございました。
途中で止まる可能性ですが、お待たせした嘉穂と香春の恋の物語を週明けよりUPしたいと思います。
(なにせ、学生モノを書くのは久し振り…っていうか、ないので…。私が書くと初々しさが皆無になっている…汗)
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津屋崎家のある一日 2
2013-10-18-Fri  CATEGORY: 待っているよ
福智にうまく言いくるめられて家の外に連れ出された感じはあったものの、筑穂にとっても外出は嫌なものではない。
どうしても家事に追われて終わってしまう休日になりがちで、弟たちの手を焼かずに過ごせるとは気分転換になる。
ただし、行き先にもよる…。

筑穂は目の前の建物を視界に入れて、足が止まった。
「ふ、ふくち…」
否が応でも声が裏返ってしまう。同時にポッと顔が火照り、逆に背中を冷たいものが流れた。
夜とは違って、ギラギラしたネオンこそないが、その一角はラブホテル街で有名なエリアだった。
いかがわしい雰囲気がそこはかとなく漂う。爽やかな昼間の太陽が、余計に居心地の悪さを運んでくる。
「福智…」
もう一度留めようと筑穂は声を上げるが、福智は気にした様子もなく、筑穂の腕を引っ張った。
福智には、こんなところで言い争いをする気は毛頭無く、それよりも体を使って愛情を確かめあいたい気持ちが強い。
何のために色々と知恵を絞って、自由時間をもぎ取ったと思っているのだ。
「筑穂、いいじゃん。家じゃ、いつあいつら帰ってくるか分からないしさ」
「だからって、今何時だと思ってるのっ?!」
そこがどういう場所か、筑穂だって知りすぎるくらい知っている。
普段であれば、"残業"といって会社帰りにたびたび利用させてもらっているところだから…。
…たびたび、じゃない。たまに、だ…。
筑穂は内心で一人ブツブツ言葉を呟いた。
即座に脳裏に浮かんだ福智との絡みあいが、筑穂をますます動揺させる。
夜だって家に帰る時には後ろめたさが生まれるのに…。
それだって帰宅時間が遅く、穂波も嘉穂も自室に籠ってしまう時間帯だから、顔を合わせずに済んでいる。
さすがに、香春の親まで呼んでしまう手配を整えた今日は、落ちついていられるはずがないだろう。
人に夕食の準備をさせておきながら、自分たちは何をしていたのか、聞かれたって答えられるはずがない。
だいたい、どんな顔をして会えばいいのだ?!
「部屋に入っちゃえば時間なんて関係ないじゃん。ここだったら誰にも邪魔されない」
「そーゆー問題じゃないよっ」
「いーからいーから。こんなところで揉めて『痴話喧嘩?』って注目浴びたくないだろ?」
そう言われて思わず周りをキョロキョロと見回してしまう。
どこかのホテルから出てきたのか、それともこれから向かうのか、顔を俯けたカップルがちらほらと見受けられて…、反対に堂々としすぎるくらいの人たちが行き交っている"日常"があった。
興味本位で他人に視線を向けるあからさまな人はいないかもしれないが、誰にだって怪しまれるこの場所は長居したいところではない。
またうまく丸めこまれて、グイグイと引っ張られてエントランスをくぐることとなった。

見慣れたタッチパネルは、こんな時間(お昼前)なのに、結構な数が『使用中』と『準備中』で明かりが消えていた。
誰に会うかも分からないと、この時は緊張が走ってどうしても慣れることがない。
「どの部屋にする?」
「どこでもっ!」
のんびり選択するほど空室はないだろっ。さっさと選んでほしくて筑穂は足元に視線を落とした。
ピッと音がして、カードキーが出てくる。唯一、従業員の誰一人にも出会わないことが救いだ。
部屋に辿りついて中に入ると、体に入っていた力がスーッと抜けていく。
途端に「筑穂~」と福智が筑穂に抱きついてきた。
甘えたそうな声を聞いては、「ちょっと待て~っ」と両手で突っぱねる。
夜来た時だって即物的な行動には出ないのに…。
今が"昼間"だということがどうしても胸に引っかかっているのか、筑穂は気持ちを落ちつけようと、ベッド脇に置かれたソファに腰を下ろそうとした。
その動きを福智に止められる。
「掃除で疲れちゃった?先にお風呂、入る?」
「そーゆーことじゃなくてっ」
…まだ、"そんな雰囲気"になれない…。
戸惑う筑穂が分かるのか、福智も無理強いせず、一旦は引き下がってくれた。

部屋はどこか異国のリゾート地を思わせる装飾が施されていた。全体的に青と白を基調としており、壁紙にはイルカの模様が描かれている。ソファやテーブルなども、ラタン家具でまとめられており、"プチ旅行"にでも来た気分にさせてくれる空間だと思った。
腰を落ち着けては、「はぁぁぁ」と一際大きなため息がこぼれた。
「もう…、福智ってばぁ…」
無言でいるのもなんだか気まずくて剝れて見せれば、「まぁ、いいじゃん。息抜きってことで」とまた軽くあしらわれてしまう。
家事に追われている…とは筑穂自身感じていることで、時々福智にも弟の面倒を見させてしまっているのは申し訳ないと思っている。
福智がふたりきりになりたいと駄々をこねるのも当然の感情だと理解できていた。
「それにしても…。昼間なのに結構利用客っているんだね…」
筑穂が感心したように呟くと、「世の中、色々な人がいるからな。休みで起床後、ゆっくりしたいヤツもいるだろうし、隠れるにはちょうどいいってしけこむヤツもいるだろうし」と見てきたようなことを言う。
言われてみれば確かに、事情は人それぞれで、いわば『お助けアイテム』のひとつに入れられていてもおかしくない。
実際自分たちがそうなのだから…。
そして福智のセリフに、改めて福智の願望が込められているように聞き取れた。
"休みの朝はゆっくり過ごしたい"…。
家にいて、肩身の狭い思いをさせているのかと頭をよぎったら、今日の強引な行動も咎められるものではないと思えてくるのだった。
ふたりだけで旅行に行くっていうのもまだ憚られる部分が大きいから、このテーマのある部屋は福智の言うとおり、"気分転換"にはもってこいなのかもしれない。
そこに付いてまわる"体のお付き合い"は、まぁ、ともかく…。
筑穂だって良いお年頃の成人男性だ。快楽を知った体は、時に疼いて解放を求める。
福智だけを責めることはできない。
観念したように筑穂が福智の肩にもたれかかると、拒まない筑穂に安心したのか、「筑穂…」と甘さをたっぷり含んだくちづけが降りてきた。
啄ばまれた体は、教えられた快楽を求めて燻り始める。
火がつくのはすぐだ。
欲しいものは欲しい…。
そんな時、時間帯は関係ないのかもしれない。
特にこの空間が時間を忘れさせてくれるのか。
筑穂は徐々に自らの思考をぼやけさせていった。

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本当は一話完結のはずだったんですけれど、いただいたコメントを読んだら、もしかして続きがあると思われている?! と勝手に自惚れて、急遽続きを書きました。
次回で終了といきたい、ですねぇ。
寝る前にちょこちょこっと書いただけなので…。
レス、ちょっとお待ちください m(__)m
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津屋崎家のある一日
2013-10-17-Thu  CATEGORY: 待っているよ
番外SS…になるのかしら…?


津屋崎筑穂(つやざき ちくほ)は休日に自力で掃除機をかける。普段はお掃除ロボットを適当に動かしていた。
なかなか細かいところまでは行き届かない。
筑穂「それ、もちあげて」
福智「はいよ」
休日とはいえゴロゴロしていることは許されない同居人は、散らかっている座布団やら衣類を取り除き、筑穂が素早く清掃しやすいように協力していた。
週末、弟二人は、もっともらしい理由をつけて外泊することが多くなっている。
帰宅するのは大概昼前で…。
できることなら福智は、家族の目の隙をぬって寝具の中でイチャコラしたいのだが、筑穂の「帰ってくる前に終わらせないとっ」と意気揚々としたセリフと行動に阻まれる。
家族を大事にする筑穂の気持ちは分からなくはないけれど…。
本日、二男穂波の朝帰りを知ったのは目が覚めた後だ。
さっさと連絡しやがれっ、と福智は心の中で叫んでいた。
いつ、帰ってくるとも分からない人を前に、自粛した一夜がある。

福智「なぁなぁ。あいつらにもやらせるべきじゃない?」
筑穂「自分の部屋はやらせているよ」
福智「だからさぁ、こっちも…」
筑穂「穂波は衛生面にやたらうるさくなったし、嘉穂は"ルンルン(自動お掃除ロボット)"に頼りっぱなしだし。…福智、ちゃんとやらないと穂波に追いだされるよ」
食品を扱う仕事を目指す人間は、いままでのいい加減さがやたらと目につくようになってきたようだ。
成長は嬉しいが、どこか違う…。
筑穂が張り合うのは兄としてのプライドがあるのだろう。
穂波は下の弟、嘉穂が脱ぎ散らかした服など、洗ったばっかりなのに、しまわれていないだけで問答なしで洗濯機に突っ込んでくれる。
嘉穂がしまい直さないのが悪いのだが、何度言っても、マセガキは放り出したままにする。
穂波はその上で家中の清掃に入るのだから、福智としては大歓迎なところがあっても、筑穂にしてみたら、弟にやらせていると後ろめたさに襲われるらしい。
だから帰宅前に、せめての努力を見せつけるかのように、筑穂は動き出すのだ。
福智とて、追い出されるのは本意ではない。
それより、穂波をどう筑穂に近づけないか…と算段してしまう。
穂波が何でもやりたがるのは、筑穂の存在があるからで、今まで苦労をかけた恩返しのような気持ちも混じっている。
また、福智にも恩を売る形で、うまく筑穂を言いくるめてもらって、外出許可を得ようとする。

それぞれが下心ありでやりとりしているのは、傍から見ていて、楽しくもあるのだが、本当のところが筑穂にばれたら後で何を言われることか…。
後ろめたさがあるのはこちらも同じこと。
とりあえず、筑穂のご機嫌とりに向かう。

福智「今夜はさ。みんなで鍋でもするか」
筑穂「鍋?なんで?」
福智「好き好きに材料入れて、好きな時に取って食えるじゃん。冷蔵庫にしなびそうな白菜が転がってたし」
単に調理に時間をかけたくない福智だ。そして自分たちで作ることで食への大事さも学ばせられる。
筑穂「手抜きしているって言われないかな」
福智「鍋、馬鹿にすんなっ。野菜たっぷり栄養満点だぞ」
筑穂「そうか…。じゃあ、うどんでも買ってこようかな」
福智「ちょっと待ってて」
自分の意見にのってくれた筑穂に、また買い出しは面倒だ、と思った福智はすぐさま電話を手にとった。

福智「あ、福智です~。嘉穂のやつ、まだ寝ているんですか~?」
筑穂がどこだ?と悩む間もなく、そこが鞍手家だと即座に理解する。
すっかり鞍手家に福智も馴染んでしまって、年の近い母親と平然と話をする。
福智「あの~、暇つぶしに楽しんで作れそうなものがあるんで、もうしばらくそちらで遊ばせてもらえませんかね。……あ、うどんです。手打ちうどん。家でも結構簡単に作れる方法がのったHPがあるんですよ。それで今夜、鍋にしようってね……」

子供が飽きずに遊んでくれるのなら、親も興味を惹かれるのだろうか。
即、香春の母親は協力してくれることになった。
『あらまぁ、世の中には手抜きができるように色々披露されているのね~。コシのあるうどんが作れそうだわ~』
福智が速攻で送ったものを眺めながら、香春ママは感嘆の声を上げたらしい。
足踏み作業はサッカーで鍛える嘉穂の得意技かもしれない。
『うちからもお鍋、持っていってあげるから~。みんなで食べましょうね』

これで、夕食の準備は、香春ママに任せることができた、とほくそ笑んだ福智だった。
人数なんて今更増えたところで問題はない。
家を綺麗にしたお礼くらい、体で払ってもらってもいいだろう。

あとは穂波だ、とまた福智は電話をかける。
「穂波、実習、しっかりしてこい。現役職人の技術を学ぶのは大事だろ」
『福智さん、なんか企んでるの?』
「テメーが無断外泊するからだろっ。いい気になってんなっ、ガキっ! 俺と筑穂は朝から家の掃除をしたの。これから"休憩"に入るから」
『……。せめて家の外に行っててよ…』

福智は内心で、物分かりの良い賢い(義)弟を誇りに思っていた。
俄然、清掃にも身が入る。
「筑穂~。さっさと終わりにしちゃおうぜぇ♪」
楽しい休日の始まりだった。

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バトンで遊んでみた 2
2013-10-16-Wed  CATEGORY: 原色の誘惑
みなさま、ご無沙汰しております。
次のお話も、チロチロッと書き進めてはいるのですが…。
もうしばらくお待ちください。

で、暇つぶし(←)に、またバトンを拾ってきました。

【飲み物バトン】だそうです。
今回は双子に登場願いました。


今回は飲み物バトンです!飲み物についてのいろいろ…教えてください!

Q1よく飲み物を飲む方?
A1.
由良「そうだね。飲むほうだと思うよ」
由利「うん、飲むね アレトカコレトカ(/^-^(^ ^*)o ヒソヒソ」

Q2一番好きな飲み物は?
A2.
由良「カフェラテ~♪」
由利「ダージリンかな」

Q3嫌いな飲み物は?
A3.
由良「苦い薬」
由利「…それって飲み物なの?」

Q4自動販売機でよくかってしまう飲み物は?
A4.
由良「なんだろう。炭酸飲料?」
由利「採れたて、出来たて、泡がしゅわしゅわーって出てくるところがいいよね」
雄・萩「「…開栓してないからってこと??…」」

Q5ご飯を食べるときは何を飲む?
A5.
由良由利「「お茶!! それか水」」
雄・萩「「…さすが双子…。同じ環境で育ってきた結果だな…」」
由良由利「「料理の味がぼやけちゃうんだよね~」」(*´・ω・)(・ω・`*)ね~

Q6コーヒーと紅茶どっちが好き?
A6.
由良「コーヒーだね」
由利「僕は紅茶」

Q7健康の為に飲んでる飲み物ってある?
A7.
由良由利「「牛乳~」」
萩生「…あ、健康のためだったのか…」
雄和「何、納得しているの?」
萩生「冷蔵庫の中で品切れおこすと買いに行かされるの…」
雄和「健康のためなら行くべきだな」

Q8スポーツの後は、どんな飲み物を飲見たい?
A8.
由良「そんなの、スポーツ飲料でしょう」
由利「そうそう」(頷き合う)
由良「で、疲れた身体は運んでもらうんだよね」
萩生「…王子、馬の用意が…」
由良「え、できない? おまえが馬になれ~っ!!ヽ(`Д´)ノ」

Q9まだ飲んだことないけど一度飲んでみたいものは?
A9.
由良由利「「ポッ(*゚.゚)(゚.゚*)ポッ」」
萩生「なんだー、そのアイコンタクトは~~~っ!!」
雄和「……聞くな…。…ってことはおまえもまだ飲ませたことはないのか…(←妙に感心している)」

Q10昔好きだったけどもうなくなってしまった飲み物は?
A10.
由良由利「「……、お母さんのおっぱい????」」
雄・萩「「……………」」(←ふたりいっぺんに吸いついている姿を妄想中)

Q11お味噌汁や、スープは、飲み物?おかず?
A11.
由良由利「「おかずだよね~」」
萩生「そう、具をいっぱい入れろってうるさいの…」
雄和「由利はご飯にかけたりパンを浸けたりしてるなぁ」


以上です。
生活が垣間見えましたでしょうか。
双子たちの生活なんてどうでも良いことの読者様だと思いますが…。
好みはあっても、基本的な部分は一緒なのかもしれませんね。

更新ないのに、ポチパチしていただいてありがとうございます。
早いうちにUPしていけたらいいです。

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陽炎―かげろう― 6 (完)
2013-10-13-Sun  CATEGORY: 新しい家族
 周防が口にする食事の量が減ったと最初に感じたのは清音だった。毎日見ている姿に変化を見つけるのはなかなか難しい。時がひらいて再会したというのなら、もっとはっきりと分かったことかもしれない。
 和紀と日生は隣の部屋に引っ越しをした。引っ越したと言える距離はもちろんないし、寝るだけに帰っている部屋ともいえた。周防の存在があり、また清音の手間を増やしたくない配慮から三隅家の暮らしは元の家に集中している。
 以前は周防に付いていた和紀も、周防との行動が別になっていくと、いろいろな面で"時差"が出る。
 この日も、和紀と日生を先に送りだし、周防は食後のお茶をのんびり啜っていた。
「清音さん、今日はもしかしたら早くに帰れるかもしれない」
「あら、そうなんですか。ではいつもよりおつまみを多く作っておきましょうかね」
 周防の晩酌の時間が早まれば飲んでいる時間も長くなる。つまむ量も増えるだろうと清音は頭を巡らせた。
「そんなにいいよ。まぁ、残せばいつも和紀と日生が消化してしまうから困るものではないが」
 周防はあたりまえのように答えたが、清音は妙なひっかかりを覚えた。何が、とはっきりと言葉にはできない漠然としたものが胸の内に湧きおこる。普段と何ら変わりのない会話の中に違和感を感じるが、それを口にはしなかった。

 朝出ていった時間が通常よりも遅ければ、帰宅時間は普段では考えられないほど早かった。日生が家事をこなせるようになってから、清音が三隅家にいる間に帰宅したなど、片手で数えられるだろうと訝しがった。嫌な予感というのは無情にも当たるものだ。
 さすがにこの時間から晩酌はありえない。
 周防は難しい話があると言うように、清音をいつもの席に促した。
「悪いね。…水を一杯、もらえるかな」
 まるで乾ききった喉を潤すかのように、清音が差し出したグラスの水を、周防は一気に飲み干す。そして大きな息を吐きだした。
 テーブルの上に肘をついて、指を合わせた上に顎を乗せる。どこから話そうか…、あからさまに悩ましげな姿を見せることもこれまでなかったことだ。
 少しの時間を置いてから、周防が重い口を開いた。
「悪性腫瘍が見つかった…。早いうちに手術を…と…」
「え…?」
 清音は咄嗟に言葉の意味が飲み込めず、幾度も周防の言葉を反芻させた。呆然と、顔を俯ける周防の姿をただ目で見つめ続ける。
 長くて深いため息が周防から幾度も漏れた。
「今日、はっきりと診断結果が出た。手術をしても一時しのぎにしかならない。まだ和紀にも言っていないんだ。いずれ言うつもりではいるが、先に清音さんには知っておいてもらいたくてね…」
 何故にその選択に至ったのか、それすらも頭が回らない。赤の他人が最初に知るべき内容ではないだろうと過るばかりだ。
 今こそ、取り乱したらいけない。一番冷静にならなければいけない立場だと、自らを奮い立たせる。この家の何もかもを見てきたからこそ…。
 妹と思っていた人を看取り、傷ついた心を互いに慰め合い、支え合ってきた。周防から漂わされるものは、赤の他人ではなく『家族』だということ。それを感じ取れれば、信頼されていることも改めて伝わってくる。
「三隅さん…」
 胸に湧き起こるものは、悔しさか、嬉しさか…。

 周防は今現在考えていることを全て清音に打ち明けた。
 まずは日生の籍を変えること。曖昧にしてきたことははっきりと決めておいた方がいい。いつか、いずれ…。そんな悠長なことは言っていられなくなった。
 持っている資産の名義変更も含まれた。先に収める税金が分かれば支払っておいてやれる。その一つに、清音が住んでいる部屋のことも上げられた。周防から清音に渡せるものはこれくらいしかないと自嘲する。
 もちろん目を剥いたのは清音で、「何を馬鹿なことを…」と言葉を詰まらせた。
 素直に清音が受け取るはずはないことくらい周防だって分かっている。それでも長い人生を縛りつけてしまった後悔は常に胸にあった。
 周防が亡くなった妻と出会わなければ、彼女も命を縮めることはなかっただろうし、清音も別の場所で好きに生きられたはずだ。残りの人生がどれくらいあるのかは誰にも分からないが、困ることがないように最低限のものは保証したかった。
「それと…、貴女を解雇したい…」
 二人の子を育ててくれた上に、看護まではさせられなかった。
 この先、周防は長い闘病生活に入るだろう。この家にいる限り、清音からは言いだしづらい、言いださない件をこちらから引導を渡してやるのは周防の役目だと思い至った。
「三隅さん…、そんなこと…」
 清音の声が震えている。気丈に振る舞おうとする姿は、あの時から変わっていない。無理をさせてしまう。容易に想像できるから今から引き離してしまいたいのだ。

 周防が言いたいことなど、清音には手に取るように分かる。自分よりも他人に重きを置く人だから、自分のことで迷惑はかけたくないのだろう。
『家族』と伝えた上で、そんなことを口にするなど、そちらのほうがよっぽど残酷だと清音は首を横に振った。
 他人でも想うことの喜びも苦しみも味わって、自分が存在することの意味を知る。ずっと尽くしてきた嬉しさを、またこんな時に悲しさを覚えるのは、気持ちがあるからこそだ。
 簡単に取り上げないでほしい…。
「そんなことをされたら…、不当解雇だと罵りますよ…。ここまで一緒に来たんです。明日なんて分からない日々をずっと繋いできたんです…。無理をさせるとお考えなら、もっと早くにその決断を下していたのではないですか? 日生さんを引き取った時も、和紀さんが引っ越した時でも。いつだって言う機会はあったはず…。そう言わなかったのは三隅さんの中に、希望する気持ちがあったからでしょう? あの時と同じでいいです。決め付けるのではなく、聞いてください。私は私の意思で、この家に残るかどうかを決めます。本当にお払い箱になった時は、こんな我が儘は言いませんから…」
 清音は涙声になるのも構わずに、一気に話し続けた。
 周防がこれまでに選択肢を設けていたのは、心のどこかに"そばにいてほしい"という感情があったからで、清音の選択を耳にしては安堵していたのを知っている。
 きっと今も同じ気持ちでいる。押し付けることはできないから、遠回しな言い方で『できることなら』という意味を含ませていた。素直に気持ちを表せない人に付いてやれるのは自分しかいないと自惚れるのは、培った月日があるからだろうか。
 人は生まれた瞬間から確実に死へと向かって歩み出す。死期は誰にも分からずとも、清音は周防のその時まで共にいられることを喜ぼうと思った。自分が先に逝ってしまったら、誰が周防の世話を焼けるのだと。
 こんなにも人を思いやれる人が何故…と思わずにはいられない。
 和紀と日生を守るためにがむしゃらに動き続けた身体を、どうして神は労ってくれないのだろうか。蝕むのであれば自分の体にしてほしかったのに…。
 佳人薄命…とは誰が言った言葉か…。

 周防も清音が話すことをじっくりと聴き入る。
 心の奥にあるのは、弱った体から生まれる甘えなのだろう。言いきられては返す言葉もない。たぶん、清音の言う通りだ。
…そばにいる…。その言葉を待っていた…。
 あぁ、そうだ。清音には見透かされ、隠し事などできないと悟ったのはいつの日だったか…。
 清音はエプロンの端で涙をぬぐった。周防も目頭を押さえた。
『運命共同体』はまだこの先の人生を共にしていく…。

 突然の事態にもすぐに対応ができるように、周防は終いを迎える前にと動き出した。
 母親に次いで父親の死を前に、和紀も動揺は見せたものの、堂々とした立ち振る舞いは、さすがに周防の息子だと思わせる部分があった。
 隣に日生がいたから、余計に…。
 人は誰かを守るために、鬼にも菩薩にもなる。周防の気持ちはこうして受け継がれていく。
 術後の経過が順調であれば、病気を表にみせない過ごし方を繰り広げる。それらはかつてと変わらない生活ぶり。
 苦楽を分かち合った存在は、夫婦とも友人ともまた違っている。
 どんな状態になろうと、周防も清音もお互いを尊重し合い、最期まで人生を謳歌した。
 生きてきた人生は長いもののようで、見る人によってはあっけなく、儚く散ってしまう。密度の違う空気が合わさって見せる陽炎は、周防と清音がいたからこそ見られた光景だろう。それもまた、瞬く間に消え去る。


 周防が旅立ったのち、残された遺品の整理をしていた和紀は、一通の書簡を手にした。
 すでに財産分与など、必要とされる手続きを片付けてしまった周防は、遺言などというものは残していない。
 一見、ただの手紙にも見えたそれを開封した時、決して外に出されることのなかった父の思いを感じた気がして、堪えようのない涙を零した。
 人を大事に守り、愛するということは、ここまで深いものなのだろうか…。
 決して押し付けることはせず、そばで見守り続ける。

『もし油谷清音が生涯独身を貫いた時、彼女の意思を伺った上で、私と同じ墓に彼女の骨を埋葬してほしい』
 周防と、妹と、一緒に眠れる場所を、残していた。
『家族』という繋がりを…。

―完―
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まずはお詫びを…。
BL要素、全くない、ただの背後事情を綴ったことをお許しください。

どうしようか悩むことが多かった裏話でした。
でもなんでしょうね。書きたかったこと、とでもいうのでしょうか。
私個人的に思い入れのある作品なので、いろいろと思い浮かぶことが多いのです。
あの頃は何かに追われるように書いてしまったからこそ、あー、あれも書きたかった、こういう気持ちがあった…等々。浮かぶ浮かぶ(苦笑)
薄っぺらだった作品(骨)に今更SS(肉付け)書くな、って言われそうですね…。
え?! 肉にもなっていないって? (じゃぁ、皮かな…)
とにかく、お付き合い、ありがとうございました。

なんか、出し切った感があるので、しばらく腑抜けになるかと思います。
またお題でももらおうかな(←)
ようやく『秋』になるかしら。
皆さま、体調には充分お気を付けくださいね。
それでは、またお会いできますように。m(__)mアリガト

あとがきもどき→別宅
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陽炎―かげろう― 5
2013-10-12-Sat  CATEGORY: 新しい家族
 和紀と日生の関係は膠着状態が続いたが、最初に日生を手に入れた真庭奈義(まにわ なぎ)が介入したことで一転する。
 日生は彼の元から周防に引き取られて三隅家に渡った。その時に日生が背負っていた借金は、周防がすべて支払い終えているが、日生に知らされることはなかった。
 どこで日生についての噂を手に入れたのか、取り戻そうとしたことが転機につながった。奈義とすれば完全に裏目に出た形だ。ヤクザながら汚い手はいくらだって使ってくるが、騙しきれなかったのは奈義の甘さというか、お頭(つむ)の弱さというか…。放っておけない脆さも含んだ人間だった。
 奈義とは友人だったが、息子たちまで関わらせたくないと、周防は厳しく言い詰める。奈義の影響力は無限大だ。噂一つで潰されかねない。
 日生を使って稼ぎたかったのか、それとも単に手に入れたかったのか…。
 周防は自分が目にした子供をずっと気にかけ続ける性格だ。日生を間に挟むことで周防との繋がりを強くしたかったのかもしれないが、そう思考が回ること自体がどこまで単純で馬鹿なのだろうと思わせるだけになる。
 日生自ら奈義の元に戻ると声を上げるように、と差し向けた言葉も、周防と和紀の手で捻り潰された。そして和紀は日生を完全に囲い込んだ。
『恩があると思うなら和紀のために尽くせ』…という言葉を使って…。

 どんな形であれ、再び和紀が日生に目を向けたことを日生自身が喜んでいるのを周防は感じとり、酷いと分かりながら安堵していた。
 今現在日生が抱く思いとは、過去にあったふれあいの延長で、『守ってもらえる』と無意識に働く安心感なのだろう。
 心の隙間を埋めるように、これまでもずっと周防は日生との会話を怠らなかった。端々に和紀が何故に日生に冷たく当たるのか、その言い訳も含めて…。それは専ら仕事の話になってしまったが。
 そのことが、少なからず功を奏してくれればいい。日生の受け止め方が和らいでくれたら…と願いをこめた。
 和紀は相変わらず、皆の前で一定の距離を置いた態度を取り続ける。時々垣間見える愛情の溢れ方を目の当たりにしては、また周防と清音も顔を合わせるのだった。
 表向きだけかもしれないが、その一瞬に、昔の穏やかな空気が流れるのを肌で感じて、二人も明るい声を上げる。

 日生が和紀に見合うようにと大学への進学を薦め、入学を済ませると、心なしか肩の荷が少しだけ下りたような気がした。少なからず、日生の意思で…と感じられる部分があったからだ。日生から和紀に寄りそっていってもらえたならと願わずにはいられないことだった。
 堅苦しい空気の中でも順調に進んでいると安堵するのも束の間、またもや奈義の登場で事態は暗転した。
 奈義と日生の接触は、学校内に良からぬ噂を蔓延させ、日生は休学に追いこまれた。行く手を阻まれる行為に対する苛立ちといったら半端なものではない。周防は奈義に掴みかかり、二度と和紀と日生に関わらないようにと灸を据えた。
 和紀と日生を守るために、自分はどんな手段も使うだろう、と周防は内心で息巻く。たとえ自分の身を滅ぼしたとしても…。

 ある日の夜、周防はまた清音と話をする時間をとった。日生が成長してしまってからは、夜の時間まで拘束はしていない。日生を自立させる意味もあったから、できることはできるだけ日生にやってもらおうと相談した結果だ。日生も人を頼らずに過ごせることは負担を減らせていると思えたから励めるのだろう。
 周防と清音の話し合いの場所はいつもダイニングテーブルだった。
「日生を会社に連れていくことにしたから」
 話を切り出した周防に、清音は少々驚きを見せる。
「会社…ですか…」
「家で勉強をさせていてもいいが、結果を見せる場所がない。気分転換も必要だろう。いつ復学するかも分からないから、その前に少しずつ社内を見せておこうと思ってね」
 驚いても周防の真意を知れば清音は納得する。
 会社とは、いつか日生が身を置く場所になる。そのために何が必要になるのか、体で感じさせるのは悪いことではない。
「そうですね。実際に働く現場を見せたら、また意欲が湧くかもしれませんし…」
「清音さんも少しのんびりとしてください。ずっと我が家のことにかかりきりにさせてしまった…」
 もちろん辞めさせる意味はない。子育てを終えた主婦が自分の趣味にいそしむように、好きに過ごしてほしいと周防なりの言葉だった。
 日生は今や、家事一つできない子供ではなくなっている。朝から晩までの動きは、清音と共に過ごしたから身に付いているものでもあった。
 学問に本格的に向き合わないのなら、日生にも時間ができる。
 周防が穏やかな笑みを浮かべると清音もコロコロと笑顔で返す。意味を取り違えることはない。
「そんな。充分好き勝手に過ごさせてもらっていますよ。…でも日生さんがこちらにいらっしゃらないのならつまらなくなってしまいますね。……そうだわ。英会話教室にでも通おうかしら」
「英会話? どうせなら旅行にでも行ってくればいいのに」
 英会話なんて、幼い日生と一緒にDVDを見ていた時代があるのだから理解している部分もあるだろうと首を傾げれば、やっぱり笑い飛ばされた。
「日生さんの頭脳と私のピーマン並みの脳を一緒にしないでくださいな。覚えられる量は違いすぎるんですよ」
「空洞が大きいほど詰め込める量がたくさんあると思うけれどね」
「ピーマンの肉詰めですか? 私の場合、肉汁が流れ切ってスカスカな状態でしょうね」
 良い味など残せない…。
 そんな冗談を言い合う。日頃悩まされる問題から僅かでも離れられる雑談で、こちらも気分転換をはかっていた。
 きっと周防の気遣いを感じとる部分もあるのだろう。清音は次々と新しいカルチャー教室に興味を示し、時間を有効に使っていく。その姿を見れば、拘束し続けた清音に対して恩返しができている気になれた。

 それぞれが自分の時間を持ち、しかしながらきちんと繋がっている絆を感じとる日が流れていく。
 朝は当たり前のように清音が全員を見送り出してくれたし、帰宅すれば埃一つないような家に出迎えられる。清音の姿はなくとも、端々に存在感は漂ってくる。
 たまに清音は友達と一泊、二泊程度の旅行に出かけた。行きの荷物よりも帰りの荷物のほうが多いのは誰にでも言えることだが、持ち込まれる土産の量に全員が絶句する。
「だってねぇ。見るごとに日生さんに似合いそうとか、和紀さんの口に合いそうとか思っちゃうんですよ。ご飯もとても美味しくてね。みなさんで食べたかったわぁ」
「それって清音さん、自分で全然楽しんでいないんじゃないの?」
 和紀がもらった土産を手に問えば、日生も「どこが見どころだったの?」と続き、清音は「えーとですね…」と考える仕草を見せて呆れさせた。
 楽しい声が響けば全員から笑顔がこぼれた。悩みなど吹き飛ばしてしまう明るさが家中に溢れる。
 なかなか進展しない家庭事情がこの瞬間だけは吹き飛んでいた。

 燻り続ける和紀を知る。見えない愛情に不安を抱く日生がいる。
 ふたりの間にある薄くて大きな壁が崩壊した時、家に流れる風も変わった。明らかに分かる、『昔の風景』はまた微笑ましさを運んできた。
 穏やかな時間は誰しも愛し愛される権利があることを伝える。誰よりも、脅えることなく過ごして良いと日生に伝わってほしかった。全ては和紀に直結していくことだから…。
 周防と清音が努力した結果が報われたと思えた時で、影ながら和紀と日生の幸せを喜んだものだった。
「そろそろ隠居生活の準備でもするかなぁ」
「ですから早すぎですよ。まだまだ三隅さんにはがんばってもらわないと。和紀さんはいつだって日生さんのことで手いっぱいになりますからね」
 清音が揶揄すれば周防も頷き、苦笑に変わる。嬉しさを滲ませた"にがわらい"だ。
「たまには清音さんと慰安旅行にでも行くか…」
 これまでの労いとして、またこれからも継続されそうな苦労を思い浮かべては、お互いに行使できる権利だろうと周防が提案すると清音はただ笑って見せただけだ。
 本気か冗談か…。
 清音はその気持ちだけで充分ありがたいと感謝していた。 周防がいなければ味わうことのないドキドキハラハラとした人生を送ってこられた。ドラマの中に自分が居られたことはかけがえのない思い出として胸に刻まれる。
 和紀と日生の幸せな顔を見ては、背負った十字架の重みが消えていった。 

 だけど幸せは長くは続かなかった…。

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次回最終話になります。
あ、そうだ。すでにコメント欄をお読みの方はご存知かと思いますが、こんなのも書いてあるので宜しければ楽しんでください。→
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